旅電車  
 
 
 
かたたん かたたん


闇の中


一定のリズムでくり返される。


かたたん かたたん


かすかな振動。


思考が途切れていく。


かたたん かたたん


どこまでも どこまでも


 

         * * *
 
 
「どちらまで往かれるのですか?」
茜色の陽が、閑散とした車内に差している。
何処で乗ってきたのであろう、隣に人が居た。
「さあ」
読んでいた本に栞を挟んだ。ぱたんと乾いた音が静かな空間に響く。
「どちらからいらしたのですか?」
隣人がまた問うてくる。
「さあ」
同じ言葉を返した。
「おかしなお人」
細い頤に白い指を宛い、隣人はくすくすと笑った。
気が付けば電車はスピイドを落としていた。
きぃと言う金属が擦れる音。
がったんと大きく傾ぎ、電車は止まる。
ホォムに何人かが降りていった。
再び動き出した車内に、乗客は二人しか居なかった。
「何を読んでいたのですか?」
笑いを収めた隣人が、細い指で膝に乗った本を指す。
「つまらない物ですよ」
カヴァアの掛かったそれを鞄に仕舞い込む。
隣人は前を向いた。
暫くすると、黒い瞳がすっと細くなり、長い睫が白い頬に影を落とす。
やがて、小さな息遣い。
赤く染まる車内で、隣人だけが切り取られていた。
窓の外を、景色が流れて行く。
それは、小川であり、畑であり、民家であった。
踏切に差し掛かる頃、駅に着くアナウンスが流れた。
「もし」
寝ている隣人に、声をかける。
もう一度、今度は細い肩を揺すってみたが、返事はなかった。
電車は駅に着き、降りる者も乗る者も居ないまま、また動き出した。
外が暗くなり、車内に橙色の灯りが点る。
ふと見ると、隣人の手には切符が握られている。
どうやら次の駅まで降りるようだった。

かたたん かたたん

揺れる振動に身を任せ、手持ち無沙汰に中吊り広告に目を向ける。
どこかの寺に安置された仏像の写真。
ゆったりと目を瞑り、口の端をほんの少し持ち上げて。
全ての罪を許すとばかりに、それは慈悲の表情を湛えていた。
それに魅入っていると、また、駅に着くというアナウンス。
「もし」
隣人に声をかける。
「もし、もうすぐ着きますよ」
さして大きくもない声が、車内に響く。
たった二人だけの車内。
隣人は、ようやく長い睫を震わせる。
「もうすぐ駅ですが」
二、三度瞬きをくり返し、ああ、とうっすら笑う。
「随分と、寝てしまったようです。御足労をお掛け致しました」
「いえ、手元の切符が見えたもので」
「有難うございました」
白い指が、ほつれた黒髪を耳の後ろへとそっとあげた。
ブレェキがかかり、やがて、偶然出会った二人は、当然のように別の目的地に向けて歩きだす。
網棚から大儀そうに荷物を取り、隣人はゆっくりと歩きだす。
電車の扉が開く。
細い肩がゆっくりと振り返り、深々と会釈をした。
こちらもそれを返すと、ほんのりと色付いた唇がそっと開いた。
「ごきげんよう。良い旅を」
微笑む顔は、あの慈悲を湛えた仏像と、同じものであった。
「ごきげんよう」
人通りのない駅に、彼の人は降りていく。
微かな風が吹き、電車の扉が閉まった。
電車は何事もなかったかのように動き出す。
ただ一人の客を乗せて――。

 

 

         * * *
 
 
 
かたたん かたたん


どこまでも いつまでも


続いていく。


かたたん かたたん


それぞれの旅の終わりまで。


かたたん かたたん


トンネルを抜けると


星空が広がっていた。
 
 
 
 
                 (終)
 
    □ □ □ □ □ □ □
 
    妙に縦長なのはご愛敬…。見にくくてすみません。
    特に深い意味はないと思われる小説。
    起承転結の起すらないのでは…。
    何かの詩…なんかどっかで出会った二人が挨拶して離れていくって言う感じの。
    それがもとです。記憶の片隅にあったものなんで、覚えてないんですが。
    少しでも古い感じが出ていれば、満足です。

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