第4章:ラサ魔法庁

(1)

一行はラサへと向かう唯一の港町・トレアに到着した。
トレアから海路で約一日、ラサの玄関口・ニレーア港へ向かう。
ニレーアまでは魔法使いでなくても入ることが出来る。しかし、そこから先は魔法使いであるか否かを判別する結界があり、魔法使いであればニレーアから先の町へ向かうことが出来る。
そして、魔法使いではないと判断されたものは結界に触れた途端に弾き飛ばされる仕組みになっている。

トレア港で、ルゥたちはシェリルと共にニレーアへ船で向かう。
ルゥは、トレアで別れるつもりだったのだが、トレアに入った途端に自分たちを尾行しているものたちに気づいた。
このままシェリルと別れて陸続きの道を歩くとすればどこかで戦わなくてはならない。
船に乗ってしまえば、無駄な体力を消耗せずに船から落とすだけで追っ手から逃れると思ったからだった。

尾行されていることはフィリオもキースも表情には出さないが、気づいているらしい。
いつものように振る舞い、乗船料を払いに窓口に向かった。
「あ、見習いさんなら乗船料は要らないですよ」
4人分の用意をしていたが、魔法使いに対する待遇は破格だった。どんなに金を積んでも泊まることの出来ない豪奢な部屋にタダで泊まれる。
これは、唯一レニーアとの運行をしている港特有のことだ。
なにせ、対岸の客は魔法使いだけといっても差支えがない。
しかも、金持ちの上客だ。乗船代くらい払わなくても他の品物で儲けられるんだろう。
シェリルは恐縮していたが、今後こんなことがこの港町では日常茶飯事なのだ。何も恐縮することはない。
「見習いさんは要らなくても、お供の一般人にはお金は取るのね」
フィリオがどんなに皮肉を言っても、乗船料金を受け取る男は笑顔で返すだけだ。
「まあいいじゃないですか。早く船に乗りましょうよ!わたし、こんな大きな船に乗るの、初めてなんですよ!」
シェリルの態度は、いつも通りに明るく、いや、いつも以上にはしゃいでいた。


乗船してからしばらく経ってから、船がトレアを出港した。
ルゥ、キース、フィリオがトレアから感じていた追っ手もどうやら乗り込んでいることは間違いなかった。
3人はシェリルを魔法使い専用の部屋に送り届けてから、自分たちの部屋に向かって歩いていた。
「・・・ねえ、気づいていると思うけど、あちらさまってどちらさまなのかしら?」
フィリオが急に不機嫌そうな表情をしてつぶやいた。
「さあね。俺はお前らと会ってから、他のやつらと面倒なことはしてないぜ」
キースは両腕を上げて、両手を頭の後ろに組んで伸びをした。
「ついてきたのはトレアからだ」
「誰かに恨み・・・っていうのは、この3人じゃ皆恨まれる要素あるものね」
誰って特定できないことで、「敵」の正体が分からないままなのだ。
「一番、恨みを買ってるのはフィリオだろ?」
「失礼ね!恨みは買ってないわよ!それにわたしは世間では死んだって噂が流れてるのよ。
 もし、わたしの姿を見て、物珍しさでついてきても、さすがに船まで乗らないでしょ」
「まあそれもそうだよな・・・」
結局、キースも同じく「敵」の正体に心当たりがなかった。

「もしかしたらオレか、可能性は少ないがシェリルかもしれない」
3人の中で一番後ろを歩いていたルゥは、2人が口に出さなかった可能性を口にした。その言葉に、キースとフィリオは驚いて振り返る。
「何のために?」
「どうして?」
2人の口から同時に発せられた言葉は、言葉は違うが同じ意味だった。
「オレは、魔法庁に目を付けられている可能性がある。
 ふだん感じたことはないが、魔法庁の認めがなく勝手に魔法を操っているからな。目を付けないほうが逆におかしいと思う。
 あとは、シェリル。
 自分の師匠から離れてしまって、まだ見習いということで、どこからか情報が入って捜索という名目でつけている可能性もある」
単純に分析した結果を淡々とルゥは話す。

「ま、そうしたらどっちにしろ、魔法庁の連中ってことになるな」
キースが話し終わると同時に部屋の前に着いた。鍵を開け、中に入る。
「どっちにしろ、見られる側のこっちは余計にいらつくわ」
扉を開けた途端、正面に見えたベッドに向かってフィリオは、自分の持っていた荷物を放り投げた。その衝撃で、ベッドからはホコリが舞った。
「仕方ないな。おそらくニレーアまでの監視の人間だろう。ルゥかシェリルなら、ニレーアで別れることになるからどっちに張り付いた「ホコリ」なのか、分かるんじゃないか?」
キースは、ホコリを気にせずに中に入りながら言う。

「それまで一日も監視されてるなんて、気が狂いそうよ。
 わたし、明日の朝まで我慢できるか分からないわ。最悪でも、脅しかけちゃうかもしれないわ」
それほどまでに、戦士の感覚は研ぎ澄まされている。
その感覚でいうと「あからさまで、ど素人の尾行でイライラする」というレベルのものだ。
通常の人間では気づく者とそうでない者がいるが、それでも今回尾行監視をしている人間は一般人でも感づくくらいの「素人並み」ということらしい。


まずは、監視役の人間がどう動くかにある。
いったい何のためにニレーアから尾行しているのかを。

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