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武器街のエシバから離れて3日――― ルゥとシェリル、ヒースの3人は、エシバから崖をに沿って歩き、次の街・シュイノールに向かって歩いていた。 「あーもうダメ!!――なぁ休もうぜ、ルゥ!!」 ヒースは地面にどかっと座りこんでしまった。先を歩いていたルゥとシェリルはヒースを見た。2人の表情には「またか・・・」と表に出ていて、ルゥは大きくため息をついて、シェリルはヒースに向かって手を差し出している。 「そんなワガママ言わないで下さいよ。休まずに行けば、今日中にシュイノールに着いてゆっくり出来るんですよ?ねっ!」 だが、このパーティの最年長はそっぽを向いたまま、まともに話を聞こうとしない。 「夜になると、フィリオがやって来るが、いいか?」 ルゥはあえてぼそっとこぼしたが、それを耳ざとくヒースは聞きつけてあからさまに嫌そうな顔をした。 そう、フィリオは野生ではない鷹で、もともとは人間で、訳あって鷹の姿をしている。鷹の姿をしていると言うことで、鷹の習性なのか、夜行性で、日が沈むとルゥのところにやってくる。 ヒースは非常にフィリオとの相性が悪い。ヒース自身としてはフィリオとの接触は避けたいところだったりする。 「う〜・・・ それを言われるとなぁ・・・」 「なら、早く行きましょうよ!」 一人、先に進もうと元気なのは――シェリルだった。 ――そりゃ、お前は早くラサに行きたいだけだろうが!と毒づきたかったが、それはぐっとこらえることにした。 「わーったよ。シュイノールに行けばいいんだな」 ヒースはようやく立ち上がり、パンパンッと服についた埃を払った。 「さっ、行きましょうっvv」 シェリルはにこにこと笑っていった。 ルゥは、無表情に空を見上げている。微動だにせずに空のほうを見ている。 「行くぞ、ルゥ」 そうヒースの声を掛けられて、ようやく空を見上げていた顔をヒースたちに向けた。 「――ああ」 「もうすぐ、雨が降る・・・」 ルゥは足を止めて空を見上げ、ぽつりと言った。 ここはシュイノールから2時間ほど離れたところ―― 「でも、もう少しだから大丈夫じゃないか?」 一度決めてしまったことなので、シュイノールになんとしても行きたい、ヒースは言った。 「半刻もしないうちに降り出す。ここの天気については聞いたことはあるか?」 「天気ぃ?なんだよ、そんなことが重要なことなんか?」 「あ!! そうです、ここの天気は変化が激しくて、特に雨はすごいんです!」 シュイノールの天気は崩れやすく、他の地に比べると程度がひどい。 雨などは他の地域が小雨程度だったとしても、シュイノールでは大雨に近いものになる。ひどいときは他は晴れているのに、シュイノールだけが洪水になったりするほどで、局地的にひどい天気な都市で有名だ。 こういった原因は大陸を覆う結界のほぼ中央にあり、中央には結界の柱となる土地が無かったせいで、シュイノールの上空は結界が薄れている、とささやかれているのだが、本当のことは分からない。 「じゃあ、俺たちが今日中に着くように歩いてきたのは"水の泡"ってか?」 おいおい、そりゃねーだろうがよ・・・とヒースはがっくりと肩を落とした。 シェリルはかばんを下ろし、地面に座り込んだ。かばんの中から、いろいろと出していく。 ルゥはしばらく空を見て、何かをつぶやき、シェリルの座っている近くに荷物を置いた。 「仕方ないでしょ、ヒースさん。・・・・・・というより、ヒースさんがフィリオさんの機嫌を悪くするようなことを口にしなければいいんですよ」 そう口を動かしながら、まだシェリルはかばんの中からものを出している。 ――って言ってよぉ、と口答えしたかったが、あまりにも大人気ないことをすべきでないと悟ったのか、ヒースはぐっとこらえた。 「近くに洞窟があるらしい。そこで今日は休むぞ」 2人の会話には混ざらずに、あたりを見回していたルゥが言った。 「ここらへんに洞窟がある"らしい"ってのは?」 確かな話し方でないルゥの言葉に、ヒースは尋ねた。 「さっきまでこの近くの動植物に聞いてみた。ただ、やつらは行動範囲が極端に広いやつらと極端に狭いやつらに分かれているからな。どっちの言う距離も信用は出来ない、ついでに正確な位置を覚えているわけではないんだ。人間とは違って正直に物事を話すのに・・・。 まあ、もともとやつらは天気なんて気にしない連中だからな。ただ、洞窟がこの辺にあるとは分かっている、というだけの話だ。悪いが、細かい位置まではここからではわからない。自分たちで歩いて探さないとな・・・」 そう言って自分が置いた荷物を取った。ヒースはまぁ、休める場所があればいいか、とつぶやいて立ち上がった。 「シェリル、行こうぜ」 自分のかばんからたくさんの物を引っ張り出し、広げてしまったシェリルはあわててかばんに突っ込んでいく。 ・・・・・・が。 あわてすぎてものを突っ込み、勢いよく立ち上がったが、同時に中身がまた飛び出してしまった。またそれをかがんで取ろうとすると、今度はかばんの中身がすべて地面にぶちまかれた。 「おいおいおいおい・・・・・」 「・・・・・・」 その姿をすべて見ていた2人からは深いため息が漏れた。 「そんなにあわてなくても俺たちはどこにも行かねえし、雨だってまだ降らねえから・・・」 だから落ち着け、とあたふたするシェリルにヒースは言った。 「で、でもぉ〜」 情けない表情を見せたシェリルに、ルゥは思い切り深いため息をついたあと、 「お前ら、オレの後ろに来い」 と、散らばる小物から2人を遠ざけた。 「――――!」 何かわからない呪文を、シェリルの散らかしたものに向けて唱えた。すると物は一つに集まり、まとまって小さくなった。かなり重たそうな本やどうでもいいような小物までがすべて手のひらに乗るほどの大きさのカプセルに押し込まれた。そのカプセルは空中に浮かび、シェリルの目の前まで飛び、シェリルが手を差し出すと、そこのカプセルが落ちた。 「もう時間がない。あと少しすれば雨が降るぞ」 ルゥは、シェリルが手のひらにあったものをかばんにしまうのを見て、歩き始めた。 「今の魔法・・・」 「え?何、シェリル」 すでに歩き出してしまったルゥの背中を見て、さっきのルゥが発動させた魔法を思い出していた。 「ルゥさんて、何者なんでしょうか?」 「10年前の記憶がない、魔法使い、なんじゃねーの?」 「いえ、魔法使いではないはずなんです。魔法学校の話はされないし、魔法使いなら必ず証明できるものがあるんですよ。例えば、わたしのように赤いローブを着ているものは"見習い"とか・・・」 「そんなの、記憶のない10年以上も前になくしたとか、そんな感じじゃないのか?」 「10年前って言ったらルゥさんはまだ7歳ですよ、魔法学校に入れるかどうかの年齢です」 「あ、そっか。・・・それで?」 「さっきの呪文なんですが、あれは複数の呪文を合わせているものなんです。呪文は聞き取れませんでしたが、少なくとも3つは合成しています。集める、まとめる、小さくする、飛ばす・・・。こんな合成ができるのは学校を主席で卒業するくらいか、何年も練習しないとあんなに完全で綺麗な合成魔法を発動させるのは無理です」 「じゃあ、天才じゃねぇの?」 ――なんであなたはそうも楽天的なんですか、という言葉を飲み込んで、その代わりにシェリルはため息をついた。 「天才・・・翼人種だから・・・ですか?」 「まあ・・・あいつは翼人だし、もともと魔法の潜在能力がすぐれてる訳だろ?」 「まあ、そうなんですが」 シェリルはここで口を閉ざした。 「翼人種でもなんでも魔法を発動するにはこの大陸の魔法協会の許可が必要なんですよ」 「遺伝してて、親がいなくて、記憶がなくて、ってことだから、あいつ自身そういうことは知らねえだろ、普通・・・」 「それもそうなんですが、でも翼人種は」 体の成長が遅い、しかし知識を吸収する力は人間の倍もあるんですよ、と続けた。 「・・・それって"差別"だろ?」 ヒースは自分よりも小さなシェリルを見下ろした。その眼には冷たさを含んでいた。 「あ、そうですよね。・・・でも、翼人種のことを知っておくことは必要です。・・・・・・やはり、人間というものには"偏見"がありますよね。捨て去ることはできないみたいですね」 ふぅーっと深く息を吐いた。 「仕方ないと思うよ、俺は。しかし、ルゥの魔法・・・っつーの?あいつは相当力を持ってるとは、魔法の使えない俺でもそう思うからさ」 ヒースは少し表情を和らげて言った。 「あ、それからさ、ラサであいつのことを調べればいいんだよ!登録してあるなら本当の名前と年も分かるじゃねえか!」 「ああ、そうですね!なんで気付かなかったんでしょう!」 シェリルはぱっと明るくなった。 「じゃ、はやくラサに着けるといいですね!さっ!ルゥさんに置いていかれちゃいますよ!」 シェリルは今までの暗さはなんだったのかと思えるほどの変わりようだった。 |