茸の舞姫

泉鏡花


もくさん、これ、なあに?・・・・・・」
 と小兒こどもくと、眞赤まつかはなさきでゝ、
綺麗きれい衣服べゞだよう。」
 これ又餘またあまりになさけない。町内ちやうない杢若もくわかどのは、古筵ふるむしろ兩端りやうはしへ、さゝぐるみ青竹あをだけてゝ、なはわたしたのに、いくつも蜘蛛くも引搦ひつからませて、商賣あきなひをはじめた。まじ/\とひかへた、が、うしたはなさきあかいのだからこそけれ、くちばしくろからすだと、そのまゝのながれ灌頂くわんちやう。で、お宗旨しうしちがひ神杜じんじや境内けいだいがくふるびた鳥居とりゐかたはらに、裕福ゆうふく仕舞しもた土藏どざう羽目はめいた背後うしろにして、あき祭禮まつりに、日南ひなたみせしてる。
 るのであらう、商人あきんどと一しよに、のほんとかまへて、れたそらの、うすくもるのだから。

 あめは、いまでも埋火うづみびなべけてあたゝめながら、あめぼう麻殼あさがらぢくいてる、にぎやかな祭禮さいれいでも、びたものゝ、おいち豆捻まめねぢ薄荷はくかたうなぞは、おばあさんが白髪しらが手拭てぬぐひいてあきなふ。なんでもひなの小父をぢさんは、こん筒袖つゝそで突張つゝぱらかして懷手ふところで默然もくねんたるのみ。景氣けいきいのは、蜜垂みつたらしぢや/\と、菖蒲あやめ團子だんご附燒つけやきを、はた/\とあふいでばるゝ。・・・・・・毎年まいとしかほみせ馴染なじみ連中れんぢう場末ばすゑからきは商人あきんど丹波たんば鬼灯ほゝづきうみ酸漿ほゝづき手水てうづばちわきおほきな百日紅さるすべりした風船ふうせんんやなどと、よきところぢんいたが、鳥居とりゐそとのは、まぐれにやまからた、ものうりで。ーー

 るのはくだものるゐもゝおそい。ちひさななしつぶ林檎りんごくりなまのまゝ・・・・・・うでたのは、甘藷さつまいもとゝもにみせちがふ・・・・・・。 奥州あうしうへんとはことかはつて、加越かゑつのあのへん朱實あけびほとんどない。こゝにはやしごとるものは、くろむらさきやま葡萄ぶだうあをやま茱萸ぐみを、つるのまゝ、えだのまゝ、甘澁あましぶくて、すつぱことたぬきせて、うさぎひさうな珍味ちんみである。

 のおなじみせが、むしろまい、三げんぶり。笠被かさきをんな二人ふたりならんで、片端かたはし頬被ほゝかぶりした馬士まごのやうな親仁おやぢ一人ひとり。で、一ぱうはしところに、くだん杢若もくわかが、なは蜘蛛くもけて罷出まかりでた。

「これ、なにさあ。」
うつくしい衣服べゞぢやがはんかね。」とはなをひこつかす。

 幾歳いくつる・・・・・・もく年紀としわからない。小兒こどもときから大人おとなのやうで、大人おとなになつても小兒こどもひとしい。かれは、元來ぐわんらいまちに、立派りつぱ玄關げんくわんみがいた醫師いしやのうちの、書生しよせいけん小使こづかひ、とふが、それほどのようにはつまい、たゞ大食おほぐひの食客ゐさふらふ

 世間せけんていにも、容體ようだいにも、せてもはかまとあるところを、毎々まい/\薄汚うすよごれたしま前垂まへだれめてたのは食溢くひこぼしがはげしいからでーーごろひとに、やしきよそのものにつた。醫師いしやふのは、町内ちやうない小兒こども記憶きおくに、もうなりの年輩ねんぱいだつたが、いろしろい、ゆびほそうつくしいひとで、ひどく權高けんだかな、くせをんなのやうに、くちくのがやさしかつた。・・・・・・細君さいくんは、あかがほよこぶとりのかたひろおほ圓髷まるまげめじりさがつて、あぶらぎつたほゝへ、う・・・・・・何時いつでもばら/\とおくれげてた。下婢おさんから成上なりあがつたともふし、めかけなほしたのだともふ。まこと新造しんぞは、ひとづきあひはもとよりのことかど背戸せど姿すがたせず、座敷ざしきらうとまでもないが、おくまつたところ籠切こもりきりの、長年ながねん狂女きやうぢよであつた。ーーで、赤鼻あかはなは、章魚たことも河童かつぱともつかぬ御難ごなんなのだから、待遇あつかひ態度なりふりも、河原かはらすなからひろつてたやうなていであつたが、じつ前妻ぜんさい狂女きやうぢよがまうけた、實子じつしで、しか長男ちやうなんで、うまれたてへんなのが、やゝそだつてからもへんなため、それにしてくるつた、新造しんぞは、以前いぜんくにがらうむすめとか、それはうつくしいひとであつたとふ・・・・・・

 或秋あるあきなかば、ゆふべより、だい雷雨らいうのあとが暴風雨あらしつた、よるの四つどき時過じすぎとおもころすさまじい電光でんくわうなかを、ひぐらしくやうな、うらさみしい、えた、とほる、をんなこゑで、キイ/\とわらふのが、あたかうへくもなかつたふやうに大空おほぞらたかひゞいて、まちを二三、四五たびかぜ吹廻ふきまはされて往來ゆききしたことがある・・・・・・通魔とほりまがするとおそれて、老若らうにやく呼吸いきをひそめたが、あとでくと、ばん齋木さいき醫師いしせい)の新造しんぞうち抜出ぬけだし、町内ちやうない彷徨さまよつて、つかてた身體からだを、やしろ鳥居とりゐはしらに、黒髪くろかみさつみだしたきぬうろこの、はだへゆきの、電光いなびかり眞蒼まつさをなのが、たきをなすあめたれつゝ、あやしきうをのやうに身震みふるひしてねたのを、追手おつてつけて、醫師いしやうちへかつぎんだ。もなくひつぎふ四方張はうばりまないたせてかれてしまつた。齋木さいき新造しんぞは、人魚にんぎよつた、あの暴風雨あらしは、北海ほくかいはまから、うしほむかひにたのだとつたーー

 翌月よくげつ急病きふびやう齋木さいき國手こくしゆつた。あとは散々ちり/゛\である。代診だいしん養子やうし取立とりたてゝあつたのが、成上なりあがりの肥滿女ふとつちよと、家藏いへくらつて行方ゆくへれず、・・・・・・下男げなん下女げぢよ藥局やくきよくともがらまで。勝手かつてつかりの、ふくろふ枯葉かれはり/゛\ばら/\。・・・・・・藥臭くすりくささびしいやしきは、ふゆ賣家うりいへふだられた。しんとした暮方くれがた、・・・・・・空地あきち水溜みづたまりまち用心ようじんみづにしてある掃溜はきだめごみ棄場すてばに、れたやなぎ夕霜ゆふしもに、あかはなを、うすぼんやりと、提灯ちやうちんごとくぶらげてつてたのは、屋根やねからちたか、杢若もくわかどの。・・・・・・おやに、杢介もくすけとも杢藏もくざうともづけはしない。て、典醫てんいであつた、かれのお祖父ぢいさんがえらんだので、本名ほんみやう杢之丞もくのじようださうである。
  
ーーときに、鳥居とりゐ引返ひきかへさう。








 こゝに、杢若もくわかあやしげなる蜘蛛くもひろげてる、鳥居とりゐむかうのすみ以前いぜん醫師いしややしき裏門うらもんのあつたところに、むかしばん太郎たらうつて、町内ちやうないはし使人つかひとき非時ひじ振廻ふれまはり、香奠かうでんがへしのくばり歩行あるき、あき夜番よばんふゆ雪掻ゆきかき手傳てつだひなどした親仁おやぢんだ・・・・・・なか立腐たちぐさりの長屋ながやて、掘立ほつたて小屋ごやていなのが一棟ひとむねある。
 町中まちぢうが、杢若もくわか其處そこれて、やくたないははなしほかで、寄合よりあひもちで、ざつ扶持ふちをしてくのであつた。

もくさん、何處どこから仕入しいれてたよ。」
えんしたか、廂合ひあはひかな。」  蜘蛛くもて、通掛とほりかゝりのものが、苦笑にがわらひしながら、こゑけると、・・・・・・
ちがひます。」
 とはなぐるみあたまつて、
さと、、からぢや、はゝん。」と、ぽんとはならすやうな咳拂せきばらひをする。此奴こいつ取澄とりすまして如何いかにも高慢かうまんで、翁寂おきなさびる。あらそはれぬのは、お祖父ぢいさんの典醫てんいから、ちゝ典養てんやう相傳さうでんして、みやくつて、ト小指こゆびねたとき容體ようだいすこしもかはらぬ。

 杢若もくわかが、さと、、ふのは、やま村里むらざとさと意味いみでない。ちうをすればさとよりはやまで、あらはせば故郷ふるさとる・・・・・・實家さとる。

 八九年前ねんぜん晩春ばんしゆんころおな境内けいだいで、小兒こどもあつまつてたこげてあそんでたーー杢若もくわかはちおほきい坊主ばうずあたまで、だれよりもぐんいて、のほんとたかいのに、そのげるたこいとをしんで、一番低ばんひくく、やまうへまつそらきりこずゑとあるなかに、わづか百日紅さるすべりえだとすれ/\なところつた。

 大風おほかぜい、大風おほかぜい。
   小風こかぜは、可厭いや可厭いや・・・・・・

 をさな同士どうし威勢ゐせいよくうたなかに、杢若もくわかたゞ一人ひとりさむさうな懷手ふところで絲卷いとまき懷中ふところ差込さしこんだまゝ、うたにはむず/\とえりつて、かぶりつて、そして面打つらうつておのたこに、合點がつてん々々/\をしてせてた。

・・・・・・にもかゝはらず、からすさわ逢魔あふまときさつおろしたかぜいのに、杢若もくわかひくたこが、ふところ絲卷いとまきをくるりとそらくと、キリ/\といとつて、ひとぼしさつれた。

たよう。」
天狗てんぐつたあ。」
 ワッとおびえて、小兒こどもたちの逃散にげちなかを、團栗どんぐりころがるやうに杢若もくわかくろくなつて、たこかげ何處どこまでも追掛おつかけた、ときから、行方ゆくへれず。

 五日目かめのおなじ晩方ばんがたに、ほねばかりのたこげて、矢張やつぱ鳥居とりゐぎは茫乎ぼんやりつてた。天狗てんぐさらはれたとことである。

 それから時々とき/゛\、三、五かくおほとき半月はんつきくらゐ、つきに一あるひは三つきに二ほどづゝ、人間にんげんかいなくるのが例年れいねんで、いつか、のあはれなはゝうしたときも、杢若もくわかまちにはなかつたのであつた。

何處どこつてござつたの。」
 まち老人らうじんふのにこたへて、
實家さとへだよう。」
 と、それふのである。まちからは、あはひ大川おほかはひとへだてた、やまからやまへ、峰續みねつゞきを分入わけいるに相違さうゐない、むのは其處そこだとふから。

「お實家さと何處どこぢや。ひとさつしやる。」
實家さとことかねえ、はゝん。」

 スポンとせんく、くだんせきばらひひとつすると、これと同時どうじに、はなとがり、まゆ引釣ひつゝり、ひたひしわくびれるかとへこむや、まなこひかる。・・・・・・り、したなめらかあかくなつて、滔々たう/\として辨舌べんぜつするどく、不思議ふしぎ魔界まかい消息せうそくもらすーーこれをいたものは、おやたちも、祖父おほぢ祖母おほばも、まごなどにはけつしてはなさなかつた。

 をさないものが、なま意氣いき直接ぢか打撞ぶつかことがある。
もくやい、實家さと何處どこだ。」
實家さとことかい、はゝん。」
 や、もうせきばらひで、小父をぢさんのお醫師いしやさんの、膚觸はだざはりのやはらかい、ひやりとしたで、脈所みやくどころをぎうとにぎられたほど、悚然ぞつとするのに、たちまはなとがり、まゆ逆立さかだち、ひたひしわが、びり/\とうごめいて血走ちばしる。・・・・・・

 ところか、これにおびえて、ワツとげる。
實家さとはな。」
 と背後うしろから、おほはれかゝつて、小兒こどもには小山こやまごとつてる。
御免ごめんなさい。」
「きやつ!」

 ときかぎつては、杢若もくわかみゝうごくとふーーうそけ。









 うみまたみづうみへ、信心しん/\投網とあみさつつて、みづひかるもの、かゞやくものゝ、佛像ぶつざう名劍めいけんたとつても、れないさきには、にち日當につたううなつた、こめりやうにつき三じよう、とふのだから、かくごと杢若もくわかばん太郎たらう小屋ごやたゞぼうとしてきてるだけでは、なかをさまらぬ。

 入費にふひは、町中まちぢう持合もちあひとしたところで、なか白癡はくちでーーたとひそれが、實家さとときたましひ入替いれかはるとはへーーなか狂人きちがひであるものを、肝心かんじんもと用心ようじんなんとする。・・・・・・炭團たどん埋火うづみびほだしばいてけむりげずとも、大切たいせつことである。

 方便はうべんことには、杢若もくわか切凧きれたこの一けんで、やま實家さとつて以來いらいいまかつ火食くわしよくをしない。おほくは果物くだものゑさとする。松葉まつばめば、しひなんぞまでも頬張ほゝばる。うりかは西瓜すゐくわたね差支さしつかへぬ。もゝくりかきだい得意とくいで、からすとびは、むしや/\といてなますだし、蝸牛蟲まひ/\つぶろやなめくぢは刺身さしみあつかふ。はる若草わかくさなづな茅花つばな、つく/\しのお精進しやうじん・・・・・・かぶかじる。牛蒡ごばう人參にんじんたてくはへる。

 の、あきまたいつも、食通しよくつうだい得意とくい、とふものは、實時みどきなり、みのごろ實家さと土産みやげきじ山鳥やまどり小雀こがら山雀やまがら、四十がらいろどりの色羽いろばねを、ばら/\とつじき、ひさしらす。たゞ魚類ぎよるゐいたつては、金魚きんぎよ目高めだかけつしてはぬ。

 もつと得意とくいなのは、もひときのこで、らぬ、可恐おそろしい、故郷ふろさと蜂谷みねたにの、蓬々おどろ/\しいくさびらも、かはづゝみのあんころもちぼた/\とこぼすがごとく、たもとえりあふれさして、山野さんや珍味ちんみかせたまへる殿樣とのさまが、これにばかりは、つゆのやうなよだれをたらし、
牛肉ぎうにくのひれや、人間にんげんむすめより、柔々やは/\としてあぶらしたゝる・・・・・・甘味うまいぞのツ。」
 はすさまじい。

 が、きのこたしな所爲せゐだらうとひとつた、まだ杢若もくわか不思議ふしぎなのは、日南ひなたでは、影形かげかたちうすぼやけて、かげでは、よごれたどろ/\のきもの縞目しまめ判明はつきりする。・・・・・・くわしくへば、ひるかげ法師ぼふして、よるあきらかなのであつた。

 却説さてみせならべた、やま茱萸ぐみやま葡萄ぶだうごときは、老舗しにせにはあま資本しほんかゝらなぎて、おそらくおあしるまいとかんがへたらしい。で、せいばいるものは。

なんだい、こりや!」
うつくしい衣服べゞぢやがい。」

 氏子うぢこあきれもしないかほして、これはひもせず、もらひもしないで、となり小遣こづかひして、えだつるげるのを、じろ/\と流眄ながしめして、伯樂はくらくなし、とソレあを天井てんじやういて、えへら/\と嘲笑あざわらふ・・・・・・

 わらひが、日南ひなたて、蜘蛛くもかげになるから、とりくちばしけたか、ねこ欠伸あくびをしたやうに、人間離にんげんばなれをして、わらひ意味いみさないで、ぱくりとる・・・・・・

 とふもので、むしろならべて、かさかむつてすわつた、やま茱萸ぐみやま葡萄ぶだうをんなどもが、くだんのぼやけさ加減かげんなんとなくさそはれて、姿すがたも、又何またどうやら太陽いろ朧々おぼろ/\としてえる。
 あをそら薄雲うすぐもよ。

 ひとかたちが、うしたきりなかうすいと、可怪あやしや、かすれて、あからさまにはえないはずの、しごいてからめたもついとの、蜘蛛くも幻影まぼろしが、幻影まぼろしが。

 眞綿まわたをスイとつたほどに判然はんぜんえるのに、薄紅うすべにてふ淺黄あさぎてふ青白あをじろてふ黄色きいろてふ金絲きんし銀絲ぎんしぎは草葉くさば螟蛉かげろふ金龜こがねむしはへの、蒼蝿あをばへ赤蠅あかはへ
 はねばかりあきせみひぐらしきやう帷子かたびら、いろ/\のむし死骸しがいながら引毟ひんむしつてたらしい。それ艶々つや/\いろる。

 あれよ、蜘蛛くもに、ちら/\と水銀すゐぎんつたたまのやうなつゆがきらめく・・・・・・  そられたのに。ーー








 これには仔細しさいがある。
 かみ氏子うぢこ數々かず/\まちに、やがて、あやかしのあらうとてかーーとしあき祭禮まつりかぎつて、見馴みなれない商人あきうどが、めうな、かはつたものをつた。
 みや入口いりくちに、あたらしいいし鳥居とりゐまへつた、しろのぼりしたみせして、其處そこひさぐは何等なんらのものぞ。

 河豚ふぐかはみづ鐵砲でつばう
 あしぢくに、黒斑くろぶちかは小袋こぶくろいたのを、にぎつてはなす、と、スポイト仕掛しかけで、つゝみづほとばしる。
 ふぐおほし、又壮またさかんぜんのぼくにで、魚市うをいちふにもおよばず、市内しないいたところ魚屋さかなやみせに、はるると、あやしうをひさがないところはない。
 が、をかしな賣方うりかた一頭ひとつ々々/\を、あのひればんだ、黒斑くろぶちなのを、ずぼんと裏返うらがへしに、どろりと脂切あぶらぎつて、ぬら/\としろはら仰向あをむけてならべてく。

 もし唯二たゞふたならばうものなら、切落きりおとして生々なま/\しいをんな乳房ちぷさだ。・・・・・・しか眞中まんなかに、ヅキリと疱丁はうちやうれたところが、パクリと赤黒あかぐろくちいて、西施せいしはら裂目さけめさらす・・・・・・

 なかから、ずる/\と引出ひきだした、長々なが/\とある百腸ひやくひろを、かして、つかねて、ぬる/\とかさねて、白腸しろわた黄腸きわたとなへてる。・・・・・・あまつさへ、あか親仁おやぢや、襤褸ぼろ半纏ばんてん漢等をのこらぞくにーー穢太ゑた腸拾わたひろひが、出刀でば庖丁ゞうちやうしやかまへて、はらわた切賣きりうりする。

 て、食通しよくつうごときは、これにくらぶれば處女しよぢよぜんであらう。
 えうするに、まちひとは、こぞつて、手足てあしのない、をんなしろ胴中どうなか筒切つゝぎりにしてふらしい。

 かはみづ鐵砲でつぱう小兒こどもあらそつて買競かひきそつて、なまぐさいのをいとひなく、參詣さんけい群集ぐんじゆすきては、シユツ。

打上うちあげ!」
流星りうせい!」
 と花火はなびまねて、縦横たてよこや十文字もんじ
 いや、すきどころか、くだん杢若もくわかをばあなどつて、蜘蛛くもみせつた。
 白玉しらたまつゆはこれである。
 つゆちりばむばかり、蜘蛛くも色籠いろこめて、いで膚寒はださむゆふべんぬ。やまからおろしかぜぢん
 はや篝火かゞりびよるにこそ。










 ふえも、太鼓たいこえて、たゞ手洗たらしみづおとしんとして夜更よふく。みや境内けいだいに、きざはしかたから、カタン/\、三ツ四ツ七ツ足駄あしだ高響たかひゞき

 脊丈せたけのはどもおもはるゝ、あの百日紅さるすべりえだに、眞黒まつくろたて烏帽子ゑぼし鈍色にぶいろまじへた練衣ねりぎぬに、水色みづいろのさしぬきした神官しんくわん姿すがたたい社殿しやでん雪洞ぼんぼりかげとゞかぬ、暗夜やみなかあらはれたのが、やゝかゞみなりにこしひねつて、百日紅さるすべりこずゑのぞいた、きり朦朧もうろううつつて、ほんのりと薄紅うすくれなゐしたのは、其處そこ焚落たきおとした篝火かゞりび殘餘なごりである。

 あかりで、しろえり烏帽子ゑぼしひも縹花はないろなのがほのかにえる。澁紙しぶがみしたかほくろ痘痕あばたちりばしたやうで、とんがつたひかりかみはげ、眉薄まゆうすく、頬骨ほゝぼねつた、顔容かほかたちないでも、夜露よつゆばかりあめのないのに、たか足駄あしだおとわかる、本田ほんだ摂理せつりまをす、みや杜司しやしで・・・・・・草履ざうりたか足駄あしだほかは、下駄げた穿かないお神官かんぬし

 小兒こども社殿しやでんあそとき摺違すれちがつてとほつても、じろりと一睨ひとにらみをくれるばかり。あつて容易たやすくちかぬ。それを可恐こはくはおもはぬが、杜司しやしの一に、時丸ときまるふのがあつて、おなじ惡戯いたづらざかりであるから、或時あるとき大勢おほぜいいくさごつこの、ばんあたつて、一時丸ときまるうまつた、しつ! つたやつがある。・・・・・・で、回廊くわいらうつた。

 大喝だいかつせい太鼓たいこかはけたおとして、
無禮ぶれいもの!」
 社務しやむしよとらごと猛然まうぜんとしてあらはれたのは摂理せつり大人うしで。

どう!」とわめくと、一時丸ときまる襟首えりくびを、長袖ながそでのまゝ引掴ひツつかみ、だんさかしま引落ひきおとし、ずる/\と廣前ひろまへを、いし大鉢おほばちもとつかつて、いきなり衣帶いたいいではだかにすると、天窓あたまから柄杓ひしやくびせた。

しほて、しほて。」
 しほどころぢやない、百日紅さるすべりまへにした、社務しやむしよべつ住居すまひから、よち/\、ゐしきよこつて、ふとつた色白いろじろおほ圓髷まるまげが、夢中むちうけてて、一みづ垢離ごりめようとして、たてはやるのを、仰向あをむけに、ドンと蹴倒けたふいて、
けがれものが、退しされ。ーーしほて、しほてい。」

 いや、小兒こどもひとすくみ。
 あのかほ一目ひとめちゞあがる・・・・・・   
 が、大人おとな道徳だうとくふはそぐはぬ。博學はくがく深識しんしきじゆ花咲はなさきり烏帽子ゑぼしは、大宮おほみやびと風情ふぜいがある。

を、ようしめせよ、おきるぞよ。」
 と烏帽子ゑぼし下向したむけに、住居すまひこゑけて、したしなのとき
あめうぢや・・・・・・くもつたぞ。」と、と、そできながら、紅白こうはくはたのひら/\する、小松こまつ大松おほまつのあたりをた。

「あの、大旗おほはたれてはらぬが、りもせまいかな。」
 となかつぶやき/\、さつ卷袖まきそでしやくげつゝ、唯恁とかう、いし鳥居とりゐ彼方かなたなる、たか帆柱ほばしらごと旗棹はたざをそらあふぎながら、カタリ/\と足駄あしだんで、なゝめに鳥居とりゐちかづくと、! はな提灯ちやうちん眞赤まつかさるつら飴屋あめやけんいぬらぬに、杢若もくわかあきらかにみせつて、くらがりに、のほんとしてる。

 馬鹿ばか拍手かしはでつた。
御前ごぜんさま。」
もくか。」
「ひゝゝひゝ。」
なにをしてる。」
すこしもれませんわい。」
馬鹿ばかが。」
 と夜陰やいんに、ひと洞穴ほらけるやうなからびたこゑ大音だいおんで、
なにるや。」
うつくしい衣服べゞだがなう。」
なに?」

 やみ見透みすかすやうにすると、ものゝしづかさ、まつぷんとする。










 鼠色ねずみいろ石持こくもちくろはかま穿いた宮奴みやつこが、百日紅さるすべりしたかげごとうづくまつて、びしやツ/\と、手桶てをけ片手かたてに、はうきみづつのがえる、と・・・・・・其處そこへーー

 あれ/\なんぢや、ばゞばゞばゞ、とあかく、かなでいたちうて、しろい四かくあかりとほる、三人影ひとかげ、六ぽん草鞋わらぢあし
 ともしび一つに附着くつゝきつて、スツと鳥居とりゐくゞつてたのは、三にんひとしく山伏やまぶししなり白衣びやくえ白布しろぬの顱卷はちまきしたが、おもてこそは異形いぎやうなれ。丹塗にぬり天狗てんぐに、緑青ろくしやういろ般若はんにやと、面白つらしろはななるきつねである。とも、妖怪えうくわい變化へんげとも、もしこれ通魔とほりまなら、あのをしめす宮奴みやつこ氣絶きぜつをしないでこらへるものか。で、般若はんにやは、一ちやうをのげ、天狗てんぐ注連しめひたる半弓はんきう取添とりそへ、きつねこし一口ひとふり太刀たちく。

 なか荒縄あらなはふといので、笈摺おひずるめかいて、ともしたかく行燈あんどんになつたのは天狗てんぐである。が、これは、いさましきをとこ獅子しゝまひなまめかしきをんな祇園ぎをん囃子ばやしなどにひとしく、とくつてねり歩行あるく、まつり催物もよほしものの一つで、意味いみわからぬ、(やしこばゞ)ととなふるわか連中れんぢうのすさみである。それ、こしにさげ、おびにさした、法螺ほらかひ横笛よこぶえ拍子ひやうしあはせて、

   やしこばゞ、うばゞ、
   うば、うば、うばゞ。
  ひとせや、
   はまだたぬ。
    あれ、あのやまに、ひとえるぞ。
    やしこばゞ、うばゞ、
    うば、うば、うばゞ。

・・・・・・とうたふ、たゞそれだけを繰返くりかへしながら、をはぎ、をのはし、太刀たちをかざして、あごからあたまなりに、くびひとつぐるりとつて、かはる/゛\にゆるふ。舞果まひはてるとはなさきゆびてゝ、臨兵りんぺい闘者とうしや云々うんぬんと九る。一たい惡魔あくまはら趣意しゆいだとふが、うやら夜陰やいん業體げふていは、魑魅ちみ魍魎まうりやうるゐを、呼出よびだまねまねせるに髣髴はうふつとして、じつは、希有けふに、あやしく不氣味ぶきみなものである。

 しかやうがおそい。渠等かれらやしろ抜裏ぬけうらの、くらがりざかとて、あなのやうななかけて此處こゝあらはれたが、坂下さかした大川おほかはひとつ、はしむかうへすと、やま屏風びやうぶめぐらした、翠帳すゐちやう紅閨こうけいちまたがある。おなじときまつりだから、よひから、のき格子かうしさき練廻ねりまはつて、こゝにときおくれたのであらう。が、あれ、何處どこともなくおとして、雨雲あまぐも一際ひときはくろく、おほいなる蜘蛛くもにじんだやうな、みね天狗てんぐまつじやう燈明とうみやうひとが、地獄ぢごくひとぼしごとゆるにつけても、うやら三たい通魔とほりまめく。
 渠等かれらは、すつととほしなに、じゆ神官しんかん姿すがたて、だまつて、あはせたやうに、おと草鞋わらぢめた。

 行燈あんどんで、からんだいろ/\のむしは、空蝉うつせみうすもの柳條目しまめえた。ひとりむしよりも鮮明あざやかである。
 たゞ異形いぎやう山伏やまぶしの、天狗てんぐ般若はんにやきつねえた。が、一際ひときはいろは、杢若もくわかはなさきで、
「えらうつくしい衣服べゞぢやろがな。」
 とうごめかいてつたところは、青竹あをだけほんわたしたにつけても、魔道まだうける七夕たなばた貸小袖かしこそでおもむきである。

 じゆ摂理せつり太夫たいふは、くろ痘痕あばたしわゆがめて、苦笑にがわらひして、
白癡たはけが。いまにはじめぬことぢやが、これ衣類いるゐともせい・・・・・・何處どこ棒杭ぼうぐひこれるよ。あまりのことゆゑたづねるが、おのれとても、氏子うぢこ一人ひとりぢや、くのも、氏神うぢがみさまの、」
 とおごそかそでしやくてゝ、 
恐多おそれおほいが、思召おぼしめしぢやとおもへ。だれが、るよ、白癡たはけ蜘蛛くもを。」

綺麗きれいなうわか婦人をなごぢやい。」
なに。」
綺麗きれいわか婦人をなごは、お姫樣ひめさまぢやろがい、のお姫樣ひめさまさつしやるよ。」
天井てんじやうか、えんしたか、そんなものが何處どこる?」
 とじゆ又苦またにがかほ










 杢若もくわかむしろうへから、古綿ふるわたくはへたやうなくちびる仰向あをむけにらして、
「あんなことつて、じゆ位樣ゐさま天井てんじやうえんしたにお姫樣ひめさまるものかよ。」
 馬鹿ばかにしないもんだ、と抵抗はむかひづらかつたが、
わかつたことを、くさなかるでないかね・・・・・・」
 果然はたしてことこれである。

うぢやらう、くさなかうて、そんなものがるものか。あゝ、んとふ、どんなむしぢやい。」
「あれ、むしだとよう、じゆ位樣ゐさま、えらい博識ものしり神主かんぬしさまがよ。お姫樣ひめさまきのこだものをや。・・・・・・むしだとよう、あはゝ、あはゝ。」と、火食くわしよくせぬやつしろさ、べろんとしたあかこと

きのこだと・・・・・・これ、白癡たはけくものはないが、あま不便ふびんぢや。氏神うぢがみさまのおたづねだとおもへ。きのこ婦人をんなか、おのれのには。」
紅茸べにたけふだあね、薄紅うすあかうて、しろうて、うつくし綺麗ぎれい婦人をんなよ。あれ、らつしやんねえがな、此位このくらゐことをや。」

 じゆは、白癡ばか毒氣どくきけるがごとく、しやくまはして、二つ三つ這奴しやつはなさきはらひながら、
「ふん、で、の、おのれがをなごは、蜘蛛くもかぶつて草原くさはらるぢやな。」
とき裸體はだかだよ。」
「む、きのこはな。」
きとつても裸體はだかだになう。ーー
 粧飾めかときに、うつすらと裸體はだかたからものゝうつくし衣服きものだよ。これは・・・・・・」

「うむ、てんめぐみ洪大こうだいぢや。きのこにもさて、るものをおさづけなさるぢやな。」
ちがふよ。ーーお姫樣ひめさまの、めしものをてーー侍女こしもとふだよ。」
なんぢや、侍女こしもととは。」
矢張やつぱり、はあ、眞白まつしろはだ薄紅うすあかのさした紅茸べにたけだあね。おなじものでもくらゐちがふだ。人間にんげんに、神主かんぬしさま飴屋あめやもあると同一おなじでな。・・・・・・じゆ位樣ゐさまなにらつしやらねえ。あはゝ、松茸まつたけなんぞはしやう御前ごぜんさまだ。にしきしとねで、のほんとして、お姫樣ひめさまながめてるだ。」

だまれ! 白癡たはけ!・・・・・・と、此樣こんなものぢや。」
 とじゆは、山伏やまぶしどもを、じろ/\と横目よこめけつゝ、過言くわごんしつするしめして、
「で、で、衣服きものうぢやい。」
「はゝんーー姫樣ひいさまのおめしものてーー侍女こしもとふと、くろところへ、黄色きいろ紅條あかすぢしまつた女郎ぢよらう蜘蛛ぐもえたやつが、兩手りやうてで、へい、金銀きんぎん珠玉しゆぎよくだや、それを、織込おりこんだ、透通すきとほにしきさゝげて、赤棟蛇やまかゞしふだね、えるほのほのやうなへびうろこへ、馬乘うまのりにつて、谷底たにそこからけてると、蜘蛛くもひかればへびひかる。」
 と物語ものがたる。きみ所謂いはゆる實家さと話柄こととて、喋舌しやべ杢若もくわかひかる。と、くろ痘痕あばたまなこかゞやき、天狗てんぐ般若はんにや白狐しろぎつねの、六箇むつ眼玉めだまかツる。

「まだりないで、あかりをーーあかりを、とほそこゑしてふと、つちからもけば、大木たいぼくみきにもつたはる、つち蜘蛛ぐもだ、朽木くちきだ、山蛭やまひるだ、おれ實家さと祭禮おまつりあを萬燈まんどう紫色むらさきいろそろひの提灯ちやうちん、さいかちいばらあか山車だしだ。」
 とふ・・・・・・ながらつた、やま葡萄ぶだうやま茱萸ぐみ夜露よつゆけた風情ふぜいにも、深山みやまさまおもはるゝ。

何時いつでもおれは、いたとき勝手かつてにふらりと實家さとくだが、今度こんどやまからむかひがたよ。祭禮まつりいてだ。あひだよひ大雨おほあめのどツとゝつたさり、あの用心ようじんいけ水溜みづたまりところとほると、掃溜はきだめまへに、まるかさくろいものが蹲踞しやがんでたがね、おれると、ぬうとつて、すぽん/\と歩行あるして、くもそこつきのある、どしやぶりなかでな、時々とき/゛\、のほん、と立停たちどまつてはおれはうをふりいていするだ。あたまからずぼりとくろやつで、かほわかんねえだが、此方こつちびさうにするから、其後そのあとへついてくと、いし鳥居とりゐからまがつてはひつて、此方こつちるとえなくつたーー

 おらうちはひらうとおもふと、むかうの百日紅さるすべりしたつてる・・・・・・」

 したかたを、じゆ見返みかへつたとき、もう其處そこに、宮奴みやつこかげはなかつた。
 手洗たらしおと途絶とだえて、時雨しぐれのやうな川瀬かはせひゞく。・・・・・・








のまんまえたがなう。おやしろさく横手よこてを、さかはうつたらしいで、あとへ、すた/\。さか下口おりくちくと、おどかしやがらい、畜生ちくしやうめが。おれそでなかから、しわびた、いぼ/\のあるあをかほしてわらつた。ーーやま祭禮まつりで、おむかひだーーとよう。・・・・・・此奴こやつはよ、でかきのこで、釣鐘つりがねだけうて、たゝくとガーンとおとのする、甲羅こふら親仁おやぢよ。・・・・・・巫山戯ふざけぢゞいが、おどかしやがつて、あたまをコンとお見舞みまひまをさうとおもつたりや、もう、すつこけて、さか中途ちうとかしした雨宿あまやどりとましてけつかる。

 川端かはばたくと、うつすらとつきたよ。大川おほかははいつもよりはゞひろい、きりばうとしてうみたやうだ。ながうへ眞中まんなかへな、小船こぶねが一そう。ーー先刻さつきこゝでつてつたをんなのやうな、まるかさきた、しろをんな二人ふたりつて、川下かはしもからながれぎやくおよいでとほる、ぐぢやねえ。底蛇そこへびうて、かはへびふねツけてそこわたるだもの。船頭せんどうなんか、るものかい、はゝん。」
 と高慢かうまんわらかたで、
ふねからよ、しろまねくだね。くろ親仁おやぢおれおぶつて、ざぶ/\とながわたつて、ふねつた。二人ふたり婦人をんなは、しば附着くツつけてられたつけ、どくうて川下かはしもながされたのがげてたゞね。

 ずつと川上かはかみくと、其處等そこらにごらぬ。山奥やまおくはうあかるつきだ。眞蒼まつさをはげしながれが、しろさつわかれると、おほきへびむかひにた、でないとふねが、もううへ小蛇こへびちからうごかんでな。そこ背負しよつて、一まはりまはつて、船首みよしへ、鎌首かまくびもたげておよぐ、龍頭りうとうふねふだとよ。おれ殿樣とのさまだ。・・・・・・

 大巖おほいはきしくと、鎌首かまくびで、親仁おやぢあたまをドンとたゝいて、(おさきへ。)だつてよ、べろりとあかしたしてわらつてたにかくれた。山路やまぢはぞろ/\とみな、お祭禮まつりきのこだね。坊主ぼんさま尼樣あまさままじつてよ、あま大勢おほぜい、びしよ/\びしよ/\としめつたところを、坊主ぼんさまは、すた/\すた/\かわいたつちく。濕地しめぢたけ木茸きくらげ針茸はりたけ革茸かうたけ羊肚茸ゐぐち白茸しろたけ、やあ、一ぱいだ一ぱいだ。」
 とむしろうへひざきざんで、うれしさうに、ニヤ/\して、
初茸はつたけなんか、おや孝行かう/\で、夜遊よあそびはいたしません、ゆびくはへてるだよ。・・・・・・さあ、お姫樣ひめさまをどりがはじまる。」
 と、くびよこつてたゝいて、
「お姫樣ひめさま一人ひとりではない。侍女こしもとは千にんだ。女郎ぢよらう蜘蛛ぐもへびつちや、ぞろ/\ぞろ/\みん衣裳いしやうつてると、すつといて、そでひらく。すそかすと、紅玉ルビイちゝき、緑玉エメラルドもゝうつる、金剛石ダイヤモンドかたかゞやく。薄紅うすあかかげあを隈取くまどり、水晶すゐしやうのやうな可愛かはい珊瑚さんごたまくちびるよ。そろつて、すつ、はらりと、すつ、そでをば、すそをば、あをなびかし、むらさきさつさばく、薄紅うすべにひるがへす。

 ふえきこえる、つゞみる。ひゆうら、ひゆうら、ツテン、テン、おひやら、ひゆうい、チテン、テン、ひやあら/\、トテン、テン。」
 くるわのしらべか、松風まつかぜか、ひゆうら、ひゆうら、ツテン、テン。あらず、天狗てんぐ囃子はやしであらう、杢若もくわかこゑはるか呼交よびかはす。

うたは、やしこばゞのうたなんだよ、ひゆうら/\、ツテン、テン、

   やしこばゞ、うばゞ、
   うば、うば、うばゞ、
  ひとつくれや・・・・・・」
 と、うたふにれて、囃子はやしれて、すこしづゝ手足てあししなした、三個みつ這個この山伏やまぶしが、こしれ、かため、くびつて、踊出をどりだす。太刀たちをの弓矢ゆみやもつかず、手足てあしのこなしは、しなやかなものである。

 じゆが、くびまはいて、しやくつて、ゐしきまはいた。
 二ほんのぼりはた/\とひるがへり、虚空こくうおと天狗風てんぐかぜ
 蜘蛛くもむし晃々きら/\かゞやいて、鏘然しやうぜん珠玉たまひゞきあり。

幾千金いくらですか。」
 般若はんにや山伏やまぶしいた。こゑえんなまめかしいのを、神官しんくわんあやしんだが、やがて三にんとも假装かさういで、はだかにして縷無ゐなゆきはだあらはすのをると、いづれも、・・・・・・血色けつしよくうつくしき、肌理きめこまかなる婦人をんなである。
ぜにではないよ、みんはだかれば一たんづゝる。」
 あたひはれたとき杢若もくわか蜘蛛くもして、つたからであつた。

 裸體らたいに、かづいて、大旗おほはたしたく三にん姿すがたは、神官しんくわんに、に、紅玉ルビ碧玉エメラルド金剛石ダイヤモンド眞珠しんじゆ珊瑚さんごほしごとちりばめた羅綾らりようごとえたのである。

 神官しんくわんたか足駄あしだで、よろ/\とつて、鳥居とりゐはひると、住居すまひかず、きざはしをあがつて拝殿はいでんはひつた。が、がくした高麗かうらいべりのたゝみすみに、人形にんぎやうのやうにつて坐睡ゐねむりをしてた、十四にはかま巫女みこを、いきなり、引立ひきたてゝ、はかまがせ、きぬいだ。・・・・・・巫女みこは、當年たうねんはつつかへたので、うされるのがおきてだとおもつて自由じいうつたさうである。

 宮奴みやつこ仰天ぎやうてんした、馬顔うまがほの、せた、貧相ひんさう中年ちうねんもので、かねどもりであつた。
じゆじゆじゆじゆじゆ、七位樣ゐさま何事なにごと!」

 しやくで、びしやりとむねつて、
退すさりをらうぞ。」
 で、むしんだ蜘蛛くもを、巫女みこかしらかざしたのである。

 かつて、山神さんじんやしろ奉行ぶぎやうしたときうしとき參詣まゐりたに蹴込けこんだり、とつた、だい權威けんゐ摂理せつり太夫たいふは、これから發狂はつきやうした。
ーーすでに、くるわ藝妓げいこにんが、あるまじき、あやしき假装かさうをして内證ないしようつた、とふのが、尋常たゞごとではない。
 十かず、町内ちやうないむすめ一人ひとり白晝はくちう素裸すはだかつて格子かうしからけてた。かどから手招てまねきする杢若もくわかの、あの、寶玉はうぎよくにしきしいのであつた。あまりのことに、これはおやさへ組留くみとめられず、あれ/\とに、ばん太郎たらう飛込とびこんだ。

 町々まち/\から、やがて、木蓮もくれんるやうに、幾人いくたりとなくをんな舞込まひこむ。
ーーよる小屋こやると、おなじやうな姿すがたが、しろ陽炎かげろふごとく、杢若もくわかはな取卷とりまいてるのであつた。




            【完】












2style.net