當世たうせい女装ぢよさうぱん

泉鏡花


            明治二十八年十月


 こゝにづ一美人びじんありと假定かていせよ、一だいをんなしるしたる、(年紀としは十五より十八まで、當世たうせいがほすこまるく、いろ薄花うすはなざくらにしておもて道具だうぐの四つ不足ふそくなくそろひて、ほそきをこのまず、眉濃まゆこく、はなあひだせはしからず次第しだいだかに、口小くちちひさく、齒並はならびあら/\としてしろく、耳長みゝながみあつて縁淺ふちあさく、はなれてまで見透みすき、ひたひはわざとならず自然しぜんえどまり、首筋くびすぢ立伸たちのびておくれなしの後髮おくれがみゆびはたよわくながみあつて爪薄つめうすく、あしは八もんさだめ、親指おやゆびかへつてうらすきて、胴間どうのあひだつねひとよりながく、こししまりて肉置にくおきたくましからず、尻付しりつきゆたかに、物腰ものごし衣裳いしやうつきよく姿すがた位備くらゐそなはり、心立こゝろだておとなしくをんなさだまりし藝優げいすぐれて、よろづくらからず、黒子ほくろ一もき)・・・・曲線きよくせんりてりたちたる一物體ぶつたいありとして、こゝろみにかれ盛装せいさうして吾人ごじんまみゆるまでの順序じゆんじよおもへ、彼女かのじよまさ沐浴もくよくして、その天然てんねん麗質れいしつたまごときをみがくにも物品しなものえうするなり、いはく
 手拭てぬぐひ垢擦あかすりすみ(ほうの)、輕石かるいしぬか石鹸シヤボン糸瓜へちま

 これを七ツ道具だうぐとしてべつうぐひすふん烏瓜からすうりとこれを糠袋ぬかぶくろしてもちう、しかのち化粧けしやうすべし。

白粉おしろいべに

 の二品ふたしなあり、べつ白粉おしろいしたといふものあり。さて頭髪かみには種類しゆるいおほし、一々枚擧まいきよいとまあらず、いま本式ほんしきもちゐるものを

島田しまだ丸髷まるわげ

 の二しゆとして、これをむすぶに必要ひつえうなるは、髷形わげがたかもじとなり。かもじにたぼみの小枕こまくらあり。びんみの、よこみの、かけみの、かもじ、横毛よこげといふあり、ばらといふあり。かた御殿ごてんがた,お初形はつがた歌舞伎かぶきがた、などありとるべし。つぎにはくしなり、差櫛さしぐし梳櫛すきぐし洗櫛あらひぐし中櫛なかくし鬢掻びんかき毛筋けすぢぼう、いづれもそのくべからず。また、鬢附びんつけ梳油すきあぶら水油みづあぶらとこの三しゆあぶら必要ひつえうなり。根懸ねがけ手絡てがらあり。元結もとゆひあり、しろ元結もとゆひくろ元結もとゆひやつこ元結もとゆひ金柑きんかん元結もとゆひいろ元結もとゆひきん元結もとゆひぶん元結もとゆひ,などみな其類そのるゐなり。かうがいかんざしふもさらなり、向指むかうざし針打はりうち鬢挾びんばさみ髱挾たぼばさみ當節たうせつまた前髪まへがみどめといふもの出來できたり。

 かく島田しまだなり、丸髷まるまげなり、よきにしたがひて出來できあがればちて、まづ、湯具ゆぐまとふ、これを二ぬのといひ腰布こしぬのといひおんな言葉ことばもじといふ、たゞ湯卷ゆまきこんずべからず、湯卷ゆまきべつそのものあるなり。それよりはだ襦袢じゆばん、そのうえ襦袢じゆばんるもの、どうよりうへ襦袢じゆばんにてこしからした蹴出けだしになる、上下じやうげはせてなが襦袢じゆばんなり。これに半襟はんえりかざりをく、さて其上そのうへ下着したぎ胴着どうぎて、合着あひぎきてばんうへはずともつて上着うはぎなり。おびした下〆したじめと、なほ腰帶こしおびといふものあり。また帶上おびあげ帶留おびどめとおまけにしごきといふものあり。細腰ほそごしまとふものかぞふればおびをはじめとして、下紐したひもいたるまでおよそ七すぢとはおどろくべく、これでもけるからめうなものなり。

 さておびつれば、足袋たび穿はく下駄げた穿く。こま下駄げた穿かぬさきわすれたる物多ものおほくあり、すなはち、紙入かみいれ手拭てぬぐひ銀貨ぎんくわいれ手提てさげ革鞄かばんあふぎとなり。まだ/\時計とけい指環ゆびはもある。なくてはならざる匂袋にほひぶくろ、これをわすれてなるものか。頭巾づきんかぶつて肩掛かたかけける、あめ道行みちゆき合羽がつぱじやからかさをさすなるべし。これにて禮服れいふく着用ちやくよう立派りつぱ婦人ふじん一人ひとりまへ装飾さうしよくひんなり、衣服いふくなり、はた穿物はきものなり、携帶けいたいひんなり、かねくれば際限さいげんあらず、以上いじやう列記れつきしたるものを、はじめをはり取揃とりそろへむか、いくらやすつもつてても・・・・やつぱりすこやすからず、男子をとこはだか百貫ひやくくわんにて、をんなところが、千両せんりやう々々/\

 羽織はおり半纏はんてんあるひ前垂まへだれ被布ひふなんどといふのゝ此外このほかになほおほけれどいづれも本式ほんしきのものにあらず、べつかうわかちてもつ禮服れいふくとともに詳記しやうきすべし。

肌着はだぎ

 もつとはだしたしききぬなり、すうきん盛装せいさうをなすものおほくは肌着はだぎ綿布めんぷもちふ、べつそでもなし、うらはもとよりなり、えうするにこれ一ぺん汗取あせとりぎず。

はん襦袢じゆばん

 肌着はだぎうへちやくす、いろきぬるゐこのみによりていろ/\あらむ。そで友染いうぜんか、縮緬ちりめんか、いづれどうとはことなるをもちう、うらなききぬなり。

なが襦袢じゆばん

 はん襦袢じゆばんうえく、いはゆる蹴出けだしの全身ぜんしんなり。衣服いふくうち、これをもつと派手はでなるものとす、縮緬ぢりめん友染ゆうぜんとう、やゝふけたる婦人ふじんにてもなほひそかにこのはなやかななるをけて思出おもひでとするなり。蓮歩れんぽうつ裾捌すそさばきにはら/\とこぼるゝ風情ふぜいけだはなのながめにぎたり。紅裙こうくんじやくたましひつゝむいくばくぞや。

蹴出けだし

 これ當世たうせい腰巻こしまきなり。はだ蹴出けだしることなるが、ひとにはえぬところにて、しか端物はもの高價こうかなるをえうするより經濟けいざいじやう襦袢じゆばんりやくしてはん襦袢しゆばんとし、こしよりしたに、蹴出けだしまとひて、これをなが襦袢じゆばんごとけの略服りやくふくなりとす、おもて友染ゆうぜんぞめ縮緬ぢりめんなどをもちうらには紅絹もみ甲斐かひとうあはす、すなはち一まいにて、幾種いくしゆはん襦袢じゆばん繼合つぎあはすことを、なほかつなが襦袢じゆばんことしろはぎにて蹴出けだすをるなり、はん襦袢じゆばん繼合つぎあはすためにひもけたり、もしひもけざるには、ずりおちざるためにつよきれその引纏ひきまと部分ぶぶんぐ。

半襟はんえり

 襦袢じゆばんえりべつにまたこれをく、三まいがさね外部ぐわいぶにあらはるゝ服装ふくそうにして、はば一しゆ襟飾えりかざりなり。もつと色合いろあひ模樣もやう人々ひと/゛\このみる、金糸きんしにてひたるあり、縮緬ちりめん綾子りんずとうもちふ。べつ不斷ふだん着物ぎものおよ半纏はんてんくるもの、おなじく半襟はんえりふ。これにはくろ繻子じゆす繻子じゆすたう繻子じゆす繻子じゆす織姫おりひめ南京なんきんくろじやう天鵝絨びろうどなど種々しゆ/゛\あり。

下着したぎ

 三まいがさねとき衣地きぬぢなににても三まいみなとゝのふべきをもちふ。たゞの下着したぎは、八ぢやう糸織いとおり更紗さらさ縮緬ちりめんめしとう人々ひと/゛\このみにる、うら本緋ほんひ新緋しんひとうなり。

合着あひぎ

 これも下着したぎ大差たいさなし、ただ下着したぎも一たい上着うはぎよりやゝ派手はでなるをもちゐるなり。

上着うはぎ

 きぬほとん枚舉まいきよいとまあらず。四をり/\、年齡ねんれい身分みぶんなどにより人々ひと/゛\このみあらむ、編者へんじやあへくわんせざるなり。

比翼ひよく

 一たいまいがさねには上着うはぎ合着あひぎもはた下着したぎみな別々べつ/゛\にすべきなれども、細身さいしん柳腰りうやうひと形態けいたいふうにもへざらむ、さまでに襲着かさねぎしてころ/\見惡みにくからむをおそれ、すそ袖口そでぐちえりとのみ二まいかさねて、どうはたゞ一まいになし、もつて三まいがさねあはせ、したとの兼用けんようつるなり、これを比翼ひよくといふ。はなは外形がいけいをてらふところ卑怯ひけふなる手段しゆだんごとくなれども比翼ひよくといへばそれにてとほり、われもやましからず、ひとゆるすなり。

腰帶こしおび

 衣服いふくを、はおれるのちすそながきを引上ひきあげて一はゞ縮緬ちりめんにてこしめ、しかのち衣紋えもんなほし、胸襟きようきんとゝのふ、このときもちゐるを腰帶こしおびといふ、勿論もちろん外形ぐわいけいにあらはれざるところいろ紅白こうはくひとこのみる、価價あたひひくきはめりんすもあり。

下緊したじめ

 腰帶こしおびしめてふくらみたるむねきぬした推下おしさげたるのちちゝしたむすぶもの下緊したじめなり、品類ひんるゐ大抵たいていおなじ、これもそとにはえざるなり近頃ちがごろ花柳はなやぎ艷姐えんそ經濟けいざいじやう腰帶こしおびとこの下緊したじめとをりやくして一すぢにて兼用かねもちふ、すなはちこしむすびたるきれあまりたゞちに引上ひきあげておび下緊したじめにしたるなり。其腰そのこしおびとのあひだにときいろ縮緬ちりめんなど下緊したじめのちらりとゆるところすこぶ意氣いきなりとふものあり。

おび

 一すんむしにも五たましひはゞすんにしてながさしやくばかりなるもの、これけだおんなたましひなり。さてもたましひおほきさよ。蜿蜒えんえんとして衣桁えかうかゝところあたか異體いたいにして奇紋きもんある一でう長蛇ちやうだごとく、繻珍しゆちん西陣にしじん絲錦いとにしき綾織あやおり繻珍しゆちん綾錦あやにしき純子どんす琥珀こはく蝦夷えぞにしきたう繻子じゆす繻子じゆす南京なんきん繻子じゆす織姫おりひめ繻子じゆすあり繻子じゆすあり。婦人ふじんかたくこれを胸間きようかんまとうてしか解難ときがたしとせず、一たい品質ひんしつあつくしてはゞひろさがゆえ到底とうていいとむすぶがごとく、しつかりとするものにあらねば、このずりおちざるがために、

帶揚おびあげ

 をもちふ、其背そのせおいおびをおさふるところわたれ、守護まもりれなどす。縮緬ちりめんるいをくけたるなり。またたゞしごきたるものありといふ。引廻ひきまはしてまへにてむすび、これをおび推込おしこみてほのかにそのたんをあらはす、きぬおびとに照應せうおうする色合いろあひなるものまた一だんおもむきあるなり。

帶留おびどめ

 帶揚おびあげむすびておびをしめたるのちおびむすびめのしたとほして引廻ひきまはし、まへにておびはゞなかばにむ、これもひもにてむすぶあり、パチンにてむるあり。この金具かなぐのみにても、貴重きちやうなるものは百くきんえうす、平打ひらうちなるあり、丸打まるうちなるあり、ゴムいれあり、菖浦しやうぶおりあり、くはしくは流行りうかういてるべし。

扱帶しごき

帶留おびとめうへになほ一でう縮緬ちりめんむすぶ。ぐるりとまはしてゆるくわきにてむすぶもの、これを扱帶しごきといふなり。おほくは桃割もゝわれ唐人たうじんまげ時代じだいもちふ。島田しまだ丸髷まるまげ大抵たいてい帶留おびどめのみにてますなり、いろ人々ひと/゛\このみる。

浴衣ゆかた

 浴衣ゆかた雜巾あがり略稱りやくしようのみ。あみしてあがりたるのちまとふゆゑにしかづく。いま木綿もめん單衣ひとへをゆかたといふも、つりま湯上ゆあがりのきぬといふことなり。

湯卷ゆまき

 奉仕御湯殿おゆどのにつかへたてまつる之人のひと所着衣也つくるところのきぬなり白絹也しろきぬなり侍中じちう群要ぐんえうえたりとか。貞丈ていぢやう雜記ざつきに、さするにつねきぬうへしろ生絹ききぬを、湯卷ゆまきともいまきともいふなり。こはしたゝりびてぬらすをふせぐべきためのなり、とあり。ぞく婦人ふじんこしまとところ

湯具ゆぐ

 といふものを湯卷ゆまきといふはたがへりとぞ。いま湯具ゆぐいにしへ下裳したも代用だいようしたる下部かぶおほふのなり。嬉遊きいう笑覽せうらんに、湯具ゆぐといふは、男女なんによともに前陰ぜんいんあらはしてることはもとなきことにてかなら下帶したおびをかきかへてるゆゑ湯具ゆぐといふ。いにしへをんなは、下賎げせんなるも袴着はかまきたれば、下裳したもさへなくたゞ肌着はだぎひもにてむすびたり。これこそ下帶したおびといふなりけれ。伊勢いせ物語ものがたりに「二人ふたりしてむすびしひも一人ひとりして相見あひみるまではかじとぞおもふ。」おもふに下裳したも小兒せうに附紐つけひもごと肌着はだぎけたるひもなるべし。あるひいましたじめといふもののごとむすびたるものならむか。應永おうえいきたる日高ひだかがは卷物まのものには、をんなはだかにていま湯具ゆぐめくものをけてかはらんとするところうつせり、おそらくこれ下裳したもなるべし、とおなじしよゆ。湯具ゆぐひもつけることはむかしは色里いろざとになかりしとぞ。西鶴さいかくむな算用ざんように(湯具ゆぐ木紅きべにの二まいかさね)と云々しか/゛\あはせてつくりたるものありしとえたり。ともかくも湯具ゆぐ湯卷ゆまき全然ぜん/\別物べつものなりとるべし。むらさき式部しきぶ日記につきに、ゆまきすがた、あにこしにまとふにぬののみをもつてしたる美人びじんならむや。

襦袢じゆばん

 源氏げんじまくらの草子さうしなどに、かざみといへるもの汗衫かざみくはすなはちいまの襦袢じゆばんなり。汗取あせとり帷子かたびらとおなじき種類しゆるゐにしてたゞちにはだつくなり。いま人々ひと/゛\もちうるは半衣はんいにして袖口そでぐちく、婦人ふじん はまたなが襦袢じゆばんあり。

犢鼻褌ふどし

 木綿もめんぬのしやくまとうて腰部えうぶおほふもの、これを犢鼻褌ふどしふ。越中えつちう、もつこうとうはまたすこしくことなれり。長崎ながさき日光くつくわうへんにて、はこべといひ、奥州あうしうにてへこしといふも、こはたゞ名稱めいしようことなれるのみ。また、たふさぎといふよしは、にてまへふさすべきを、のかはりにぬのにておほふゆゑにいふなりとぞ。(うでもいゝ。)





                  【完】







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