「特殊一班『同期の忍びに限り正体をばらしても良い』許可証大当たりー!」 「・・・は?」 口を開けて唖然とした表情を見せたのは三秒。 それでも、周囲から見る彼の印象としてはかなり稀な事で。 貰う物だけ貰って、すぐさまくじ引きの結果を見て楽しんでいた火影にそれを突きつけた。 「なんです、これ」 「そのまんまだよ。よかったじゃないか」 何言ってんだこのばばあおばさん。 久しぶりに自分の感情で殺意が沸いた『暗部限定くじ引き大会』のひとコマ。そのなかにひとつだけ 守るって決めたのよ。 氷のような家の中で育った私に、少しでも心を砕いてくれたあなたたちを。 だから、我侭だけど。 どんな手段を使っても、誰が刃を向けても、戦って見せる。 私があなたたちの盾になる。 もうすこしだけ、だから、このままで。 私の世界を壊す人は、許さないんだから。 集合時、近づいて来る複数の気配に気がついて、僅かに腰を浮かせた。 上忍は気付いていない。 幸い休憩時間だから、適当な理由をつけて。 いや、影分身で素早く入れ替わればいい。 そう思って、膝を立てた時だった。 左腕を軽く引かれて、小さい声で耳打ちされたのは。 「三秒以内に返事しなかったら肯定とみなすから。 ナルトが、キバやシノ大切なんでしょ?だったら僕達の仲間になりなよ、ヒナタ」 穏やかな声。 けれど、その内容が理解できない。 発しているのは。 「チョウジ、君?」 別の方向からカウントが聞こえる。 反射的に視線を向ければ、隣り合って唇の端をあげている。 もうすぐ玩具が手に入るような、純粋な子どもの笑み。 けれど、異質だった。 ぞくり、と我知らず身震いする。 声が一を紡いだ。 クスクスと子どもが三人、笑う。 呆然としていれば、引っ張られて真ん中に入れられて、まるで四人が仲間であったかのような位置で。 困惑を宿した瞳で右を見れば桃色の少女が。 「せーんせ」 「んー?どうしたのサクラー」 「私達、先生の無能っぷりにはほとほと呆れましたv」 ザックリ。 いつもの笑顔のままカカシが凍る。 「つーわけで、今から掃除してくるんで、その後どうするか決めてくれな。 イノ、アスマ、多分お前らが一番理解あると思うから。後ヨロシク」 「うすうす気付いててたとは思うけどさ、僕達四人暗部なんだー」 晴れやかに笑って、チョウジがヒナタに同意を求めた。 呆然としていたヒナタの顔に、表情が戻る。 しかし、もう遅い。 チョウジはもう『四人』と明言してしまった。 何で彼らが自分の事情を知っているのかなんて、今はどうでもいい。 壊れてしまった。 世界が、私の世界が。 それもまだ内側に入っている方の人間によって。 どうして? どうして、こんなことに。 「早く行かないと来ちまうぜ、ヒナタ」 「・・・後で落とし前つけてもらうわよっ」 おーこわ、と呟かれて。 それでも彼らを守り、閉じ込める結界を張るのを忘れずに。 近づいてくる気配に目を眇めて、獲物を構えた。 「面は、いらないわね」 「必要ないも何も、もうカミングアウトしまくってんじゃないの」 「ヒナタってやっぱりそう言う口調だったんだー。シカマル大当たり」 「あっちも当たりで、めんどくせーんだけど」 二十人と、カブト。 あぁ、サスケ狙いかとチョウジが笑った。 ナルト狙いかもよ、とサクラが冗談半分に言う。 瞬間に、ヒナタの怒気が激しくなって、殺気が周囲を渦巻いた。 「狙いはだーれ?カブトさん」 「・・・邪魔をするなら殺すよ」 「冗談っ。それより気をつけたほうがいいんじゃないか? 殺されるの、あんたかもよ」 まるで芝居のようだ。 普段では考えられないほど、おちゃらけた感じで両手を広げたシカマルに、 カブトが眉を顰める前に、周囲の二十人の忍の半分以上が。 「な、に・・・」 いっせいに倒れた。 サクラの手がしっかり握っている刀は、濡れていて。 グルグルと回っている鎖を握るチョウジが回すのをやめれば、野球ボールサイズの鉄製がおちてきた。 ヒナタは、無常にも扇についた血をはらうように、閉じる。 シカマルもサクラと背中合わせになって、洗濯物の水気を取るように布をパンッと広げうった。 「ヒナタ、説明は後の人殺ってから」 「良い条件だと思うよ」 「――――私は、私の世界に害をなすものを許さないだけよ」 ゆびさきが、頬に触れた。 怪我をしたほうの頬だ。 『これ、効くんだって』と金髪が言った。 『絆創膏っ』と犬を連れてる本人自身も幾つか見えたそれを手の甲に張られ。 おちたものを拾い集めて『大丈夫か?』と気遣ってくれたサングラスの。 手を伸ばしてたけど、その手は三つあったから、顔を見合わせてそのうち二人が引っ込めた。 一番体格のいい子どもが、そんな二人に笑いながら手を引いてくれた。 心配の声とともに、土ぼこりを払ってくれる子どもは二人。 ふいに泣きたくなったあの瞬間。 あの人たちは覚えていないかもしれないけれど。 いいえ、きっと覚えていない。 些細な事だったし、小さな日常のひとコマ。 それでも、嬉しかったんだ。 私は。 逃げた、と言うか逃がしたと言うか。 カブトに止めを刺そうとしたら、三人がかりで止められた。 残る不満をぶつける相手は、決まっている。 「全部説明してくれるんでしょ?」 「おー、馬鹿らしくて笑っちまうけどな」 「悪い話じゃないのよ」 「正体ばらされて悪いも何もあると思うの? 暗部は、正体を知られてはいけないのよ」 それも大体馬鹿な話よね。 サクラが印を組んで、遺体を焼却する。 轟々と燃え盛る炎は今のヒナタの感情のようだ。 視線を結界のほうへ向ければ、びくり、と揺れる肩が。 フッと自嘲気味に笑い、ヒナタがゆっくりと歩を進めた。 他の三人はあくまで傍観。 拒絶されようが、何とも思わないってこと? 唇を噛んで、数歩離れたところで拳を握り締めた。 「あ、の・・・」 勝手な事だってわかってた。 自己満足だってことも、もう十分に思っていた。 だから、覚悟は出来ている。 「あの、今までだましててごめんな「「すっげー!」」・・・は?」 「つか暗部!?そこの四人全員?」 「ちょっとー、なんで黙ってたのよー!」 「・・・暗部は、正体を知られたらいけないんだろう。 俺達の事、どうするつもりだ?」 サスケの言葉に、ハタ、と三人以外の人間が顔を見合わせる。 記憶消去か、存在を消すか。 「いや、だからこれあるから大丈夫だって」 ヒラヒラとシカマルが見せるのは、一枚の紙。 一番上に大きく『同期の忍びに限り正体をばらしても良いよ』とかかれている。 全員が口をあんぐりと開けた。 「へー、それが現物なのね」 「五代目も変なの商品にするよねー」 「さっすがシカマル!籤運いいわー」 「・・・あのさ、正体ばれたからってついでにとかそんなこと思わずにもうちょっと自粛しよう、サクラ」 シカマルの左腕にしがみついて、ベッと舌を出すサクラ。 ナルトが口をあんぐりと開けて、サスケが目を見開いた。 あれ?と首をかしげたのはイノだ。 「サクラー・・・あんた」 「イノ、悪いけどシカマルは渡さないわよ」 「いや、ちが・・・」 「サスケ君のこと?生憎、男は顔じゃないわ。 女放って突っ走って自滅するような馬鹿な男は嫌いなの」 「・・・僕、ヒナタが入ってくれて凄い嬉しいなー」 詐欺でも何でも、いつもこんな状態だから。 チョウジが沈んでいるサスケを眺めて、涙を拭く真似をした。 本当にもう一人仲間が増えてとても嬉しい。 「私も女の子が増えて嬉しいわ、これからよろしく、ヒナタ」 「ちょ・・・だって、私まだ了承してな「大丈夫、書類は全部偽造するから、シカマルが」 「面倒ごとは全部俺なんだよなー・・・」 遠い目をしているシカマルは置いといて。 チョウジとサクラは『イエー!』と喜びのハイタッチを交わしている。 良い御身分じゃないのコンチクショウ。 「それに、あの紙は一班限定なの。ヒナタはいつも単独だったでしょ?」 「言うなら、四人で一班なのに今まで三人で行動してきた俺たちどうなるんだ」 「よく言うよね。ヒナタが入るから大丈夫だろうって言ってたのどこの誰」 「ねぇちょっと待ってってば!私が暗部だって知ってて――――」 「下忍になった時かしら。書類をちょっと拝借して、ね?」 「って言うかもう決定。強制。これも――――」 始めから手の平で踊っていたのか、自分は。 彼らの、思い通り。 ブワッと怒気があふれ出る。 屈辱と言う言葉しか頭に浮かばず、けれど絶対的な敗北感が反抗を許さない。 「名前、登録したから。白夜さん?」 名前が四つ、書類に刻まれ。 そのうちに自分の暗部名がはっきりと。 「つかさー、もうちょっと『来るな』とか言われると思ってたんだけど、俺」 「あ、私もー」 「命の恩人に暴言吐くような躾されてねぇっての!」 「そうよっ、何でそんなこと言わなきゃいけないのよー」 「ずるいとはおもったがな」 「大変だったんだろー」 「うーわー、お前ら超オカシー」 「「「何で」」」 何はともあれ、正体はばらしていいと言われたものの、 他の人には言うなと言うことは説明した。 というか、担当上忍はいいのだろうかと言うチョウジの質問には、脅しお願いで無事解決。 まぁ、ばれたからといって下忍を辞めるわけでもないし。 そういったサクラの視線が、沈黙しているヒナタに向く。 「ヒナター?」 「・・・」 拒絶はなく、すんなり受け入れられて。 嬉しいけど、複雑で。 「じゃー、明日から修行なー」 「「「「目指せ上忍目指せ暗部ー」」」」 「倒せ悪の秘密結社ー」 「「「「「打倒暁打倒大蛇丸ー」」」」 「変態なんかふっとばせー」 「「「変態なんかぶっ飛ばせー」」」 一部里内の忍も標的に含まれているが、誰も気にはしていない。 「というわけで五代目にも報告しなきゃな」 「・・・なんて?」 「『白夜である日向ヒナタを班長に、同期の下忍を全員特殊一班で扱きあげます』って・・・」 バキッ! 何かが折れる音に、視線が集る。 シカマルが頬を引きつらせ、折れた鉄製であろう扇の残骸を凝視している。 サクラが頭をかいて、チョウジが『からかいすぎ』と溜息をついた。 『ちょっと待て、お前も同罪』と後ろでキバとナルトにツッコミを入れられるも、軽く流して。 「勝手に――――」 外側からは壊されないはずの世界が内側から壊されて。 守るべき者は、そうでなくなり――――いや。 彼らが強くなるのは喜ばしいことだけれど。 何故だか、納得いかない。 一段と息を多く吸った少女が、殺気無く三人をギッと目を吊り上げて睨みつけた。 「勝手に進めないでっ!!」 精一杯の叫びにもかかわらず、『無理ー』と三つの声が否定を示す。 ぐらり、と視界が揺れて、確実に自分の中の世界が壊れていった。 ―――――あぁ。 「どうしてこんなことにっ!」 「さーなー・・・」 「あの三人に目をつけられたときが、お終いだったんだろう」 一年もすれば同じ班員も立派に暗部として活動している今日の夜。 今の今まで地獄を見てきた一年間。 三人の『暗部限定くじ引き大会』の商品の最終活用方法目的を聞かされた後、 ヒナタの思うとおり本当に手の平で踊ってたという事を全員が理解して。 その日のうちに闇討ち計画が提案されたのは言うまでも無かろう。 当然のごとくそれが潰されたのも。 「次のくじ引き大会に『班解散許可書』か『上司の弱みを握れる』みたいな物リクエストしとかなくちゃ」 呟くヒナタの目は真剣だった。 そうして、その望みが潰されるのも、言うまでも無いだろう。 ヒナタさん犠牲者話。 あれ、ヒナタさん冷酷って感じだったんですけどいつのまにこんな。 って言うか単独行動って話じゃなかったんですけど。 もうちょっとこうコッテリとした・・・コッテリとした・・・・おぉ(嘆 企画参加ありがとうございました。 これからもよろしくお願いします。 2007・1・8 『Parsley』笹莱多重