* 第26章  別れ*
健一は体を震わせ 手に汗握っている。

「健一……アリスストーンは手に入ったのか?」

「いえ……まだです」

俯き加減で健一は言った。 黒いローブの男は冷ややかな目で見つめ 今度はこちらに向かって話しかけてきた。

「お前 ホリジストを使えるってことは……その石はアリスストーンに間違いはないってことか」

「……。」

黒いローブの問いに龍は答えなかった。

答えようと思っても あの男の魔気の圧力で声に出なかったからだ。

「健一…… お前は俺の作戦を台無しにした よってお前に罰を与えるしかないな」BR>
「罰!?」

健一は急に恐ろしくなり背を向け 逃げようとした。

しかし黒いローブの男の術によって金縛りに遭い その場に倒れた。

「やめてください……お願いです なんでもしますから……」

その場で土下座し何度も謝ったのだが 黒いローブの男は健一の頭をわざと踏む。

「仕方ないな 顔を上げろ……もう一度だけチャンスを与えてやる」

「本当ですか!?」

「あぁ……本当だとも……なんでもしてくれるみたいだしな」

健一の服を掴み上げ 禁魔法の印のあるところに手をかぶせる。

「それはまさか……」

「なんでもするっていったよな!?」

「それをしたら俺は……俺は」

今からやろうとすることに健一はすごく怯えていた。

龍達は固唾を呑んでその状況を見ていた。

黒いローブの男は怪しい言葉を復唱すると 健一の周りに黒い呪文が浮かび上がった。

それを見てますます怯える健一。

一体何が起こるのか 龍たちには全く見当もつかない。

「アウェイク!」

「───!」

腕の禁魔法の印が黒色から赤色へと変化し 健一の体も同時に赤色に染まっていく。

「あぁ──!」

健一はもがき苦しみ 手足をジタバタさせる。

龍はすぐにでも駆けつけたかったのだが 既に周りには見えない結界が張ってあり近づけない。

そして完全に健一の体が赤色に染まると 先ほどまでとは打って変わり 静かになった。

ただ口をパクパクさせていて 不気味だ。

「一体 健一に何をしたんだ!?」

ようやく声を出すことができた龍は 黒いローブの男に言う。

「君と対等に戦えるようにしただけ……」

顔が隠れていてあまりよくは分からないが口元がにやけているのが伺えた。

「さぁ……アリスストーンを手に入れてくるんだ 健一」

「了解」

感情のない言葉で返事をした健一は スクッと立ち上がり 髪をいじくる。

「龍のアリスストーンはマティス様のもの」

何度も同じことを言いながら 健一はこちらに走りこんできた。

「どうすればいいの!?」

「とりあえず 健一君の出方を見なきゃ対応できないわ」

「これを試すしかないかな」

龍がポケットから取り出したのは 古の森に行くときにアスベル先生からもらった“木枯らしの実”

「あんたそんなものよく持ってたわね」

「えへへ」

「照れてる場合じゃないわよ……早くそれを使いなさいよっ!」

早苗が焦っているのにも無理はない もうすぐそこには健一が迫ってきているからだ。

「アリスストーン……莫大な力……我らの物!」

健一は獣のような目でこちらを睨みつけ 龍の首元狙って飛び込んできた。

「木枯らしの実よ 疾風を巻き起こせ!」

龍は実を弾き飛ばすと 何処からともなく強く冷たい風が起き 健一の行く手を阻む。

だが健一は空気抵抗を受けているにもかかわらず どんどんこちらに近づき

龍の首元を狙い噛み付いてきた。

「アリスストーン……マティス様の物」

龍は咄嗟によけたが 魔法着の一部が剥ぎ取られた。

健一は余韻に残った風で転がり 体制を整える。

「クハハハハ……元仲間だけあって 手も足もでないな」

黒いローブの男は笑い 悠々と見ている。

「いっておくがもう 健一は自我を失っている……つまり俺の命令で動いているんだよ」

「そんな……それじゃあ健一はもう」

「フフフ……せいぜい足掻くがいいさ いけ! 健一!」

掛け声と共に 再び健一は四足歩行で全力疾走してくる。

もう里奈も早苗も 攻撃するしか方法は残されていないと感じていた。

でも龍は違った。 どうにかして健一を救おうと悩み苦しんでいた。

「どうにかして救えないのか でもホリジストはもう駄目だし……」

「龍君 危ないっ!」

里奈が龍の手をとり 飛び込む。

間一髪のところで健一の攻撃を避けたのだ。

「龍君の気持ちは分かるけど もうあれは龍君の知っている健一君じゃないの……」

何時にもまして里奈は真剣な顔で龍に言う。

龍は俯き加減で頷き 何かを決意したように拳を握り締め杖を健一に向ける。

「健一の心の叫びが俺には聞こえるよ……だから解放してあげるよ」

ポタポタと大きな粒が地面を少し濡らし 左手で頬を流れる涙を拭う。

「龍君だけじゃなくて 私にも聞こえるよ……健一君が助けを求めてるって」

「あたしだって……聞こえてる 健一が助けてほしいって」

龍は目を閉じ 健一と少ない時を過ごしたことを思い出す。

勉強を教えてくれたり 慰めてくれたり 一緒に馬鹿騒ぎしたり……

健一が禁魔法の道に走ってしまったのは 自分のせいという責任も同時に感じていた。

「もっと健一と一緒にいていればよかった……ごめん」

健一の爪が伸び 髪の毛は逆立ち 牙ができ 完全に獣と化しながら龍に襲いかかる。

「ディル・シルド──!」

里奈の防御魔法で健一の攻撃を防げれたのだが 爪の攻撃の衝撃波で里奈は飛ばされた。

「っく──!」

「里奈──!」

続きを言おうと思ったが龍の声はそこで途切れ その場に固まっていた。

龍の左腕には既にもう片方の健一の爪が突き刺さっており 指先を伝って地面にポタポタと血が落ちていた。

「龍──!」

早苗は龍のところに駆けようとすると黒いローブの男に邪魔をされる。

「きゃあ──!」

壁に打ち付けられ 早苗は一瞬気を失いそうになったが 体が思うように動かない。

健一は突き刺した爪を素早く抜き 今度は首元に刺そうとすると龍は健一の腕を強く握り締める。

「知ってるよ いつも夜中まで勉強していたこと…… 毎日実技の練習をしていたこと
 健一は学年の中で……いや 魔法界の中で一番努力していたんじゃないかな
俺にとって健一は憧れだったよ……」

龍は再び涙をボロボロと流し 健一の目をじっと見つめる。

すると健一の目から赤い涙が溢れだし 龍の血と交じり合う。

「龍……」

赤い体が元の色に戻ろうとした瞬間 黒いローブの男が動き出した。

「終わりだな……」

黒いローブの男が健一に向かって 術を放つ。

「!」

「健一!」

健一の体がパズルのピースのように空気に溶けはじめる。

「龍……ごめん……本当にごめん」

完全に正気を取り戻した健一は ただひたすら龍に謝り続けた。

「いいんだよ……俺は本当の健一に会えただけでうれしかった」

「ハハハ……僕も元気でいるみんなに会えてうれしかったよ」

龍が健一の手をとろうしたが 既になくなっていて 下半身はもう何も残っていなかった。

「僕はもうすぐこの世から消える……そして今までしてきたことを懺悔しなくちゃいけない」

「健一……」

「ん?」

「また会えるよね?」

その言葉に健一はニコリと笑って返した。

「絶対 健一のこと忘れないから……絶対に」

「僕も忘れない……龍のこと 早苗のこと 里奈のこと」

龍は健一の頬から流れる涙を触り 笑顔を返す。

「短い間だったけどありがとう……いろいろ迷惑をかけてごめんね」

「そんなこと言われたら 涙が止まらないよ……」

「泣くなって……」

いきなり健一の表情が曇り始めた 龍はそれに動揺しする。

「もう時間がやってきたみたいだ……さようなら 龍…」

「健一! 待って!」



龍が再び呼ぶが 健一の姿はもうそこにはなかった。

ただ自分の血が滴ると音だけしかしない。

龍は酷く虚無感に襲われた 心がポッカリと空いた感じだ。

その場に跪き 髪の毛を掻きはじめる。

「楽しかったよ……久々にいいのが見れたよ」

黒いローブの男はお腹をかかえて笑う。

人が死んでいったのに 笑うのは人間が思うことでない。

こいつの頭は狂っていると龍は思った。

「許せない……」

龍は手を握り締め 左手を押さえながら立ち上がる。

「俺はただ アリスストーンが手に入ればいいだけのことなんだよ
 それ以外はどうだっていい……最初からこうなるってことも少しは予想できたしな」

「お前は最低だ……最低だよ!」

龍のアリスストーンがいきなり光りだす。

思いがアリスストーンを動かしたのかどうかは定かではないが すごいオーラを感じる。

龍は何も持たず素手で黒いローブの男に殴りかかる。

「魔法使いともあろう奴が 素手で俺にたてつこうというのか!?」

向かってくる龍に なんども魔法攻撃を当てるのだが 素早く避けられてしまう。

「どうなっている!? こんなことが……」

「うおぉ───!」

「!」

龍の拳は黒いローブの男の頬を直撃 その勢いでローブの一部が脱げ落ちる。

このチャンスを逃すまいと 早苗もなんとか起き上がり加担をする。

「ディムエルム・ボルズ!」

「ディムエルム・ブリズ!」

早苗が放った術の後ろから 今度は氷の術が放たれた。

その術を放ったのは 里奈であった。

「クソッ!」

男は体制を整えようとするが それ以前に自分の顔が龍達にばれてしまったことに動揺していた。

2つの術は交じり合い 融合術へと姿を変える。

男は主室に防御呪文を唱え 直撃をさけようと試みるがいとも簡単に破られ 術は右腕に直撃した。

「里奈! 早苗!」

龍は 2人の元に行き 泣きながら先ほど起こったことを伝える。

でも2人は龍とか違い 泣かなかった。 いや 泣く余裕さえなかった。

「貴様ら……」

禍々しいオーラが塔を揺るがし 上から小さな石が降り注ぐ。

「俺はマティス……禁魔放者の頂点に君臨するもの」

「お前は……」

その顔に何故か 龍は身に覚えがあった。

青い髪の毛 眉の下にある古傷 目の下のホクロ。

昔よりも怖い感じはしたが 間違いなくあの人だった。

「修斗?」

半分期待 半分不安を込めながら龍はマティスに問いかける。

「修斗か……懐かしい響きだな」

「じゃあまさか……」

「そうだよ龍……俺は 早川修斗 お前の兄貴だ」

「そんな……修斗」

衝撃の一言に早苗 里奈 そしてそれ以上に龍が驚いた。

「お前のその面 何時見てもむかつくだよ
そもそも何故お前がアリスストーンに選ばれたんだ? どうしてだ?
これは何かの間違いに決まっているんだよ……相応しいのはこの俺のはずなんだよ!」

修斗は ローブを脱ぎ捨て こちらに術を放ってきた。

アリスストーンを巡る最後の決戦が始まった────

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