* 第23章  根城*
「さぁ……こいつらを食べちゃって!」

コレウスが呼びかけると 瓦礫の後ろから大きな物体が姿を現した。

2人を見ると奇声を発し いきなり襲い掛かる。

「一体何なんだ この巨大植物は!?」

攻撃をかわした アスベル先生はコレウスに問う。

「ん? この植物は……古の森に生えている”ハエクイソウ”なんだよぉ」

「ハエクイソウ…でも……どうしてこんな巨大になっているんだ!?」

「それは闇の力を使ったからだよぉ マティス様が特別な薬をくれたんだよぉ」

コレウスは巨大植物の頭の部分に飛び乗り 誰かと会話しているそぶりをしている。

時々 頷いては笑ったりしている。

「私のペットが早く食べたいだってさ……だからおとなくししてほしい だってさ」

「それはお断りだわ」

渚先生はハエクイソウの後ろに素早く回り術を唱える。

「植物自身が動きが鈍いのなら……ディル・ボルズ!」

渚先生の推測どおり ハエクイソウに見事当たり体部分に大きな穴を開けることに成功。

しかしながら すぐに再生をし ハエクイソウは渚先生を睨み付ける。

「もう怒っちゃう だってさ……死ぬよあんた」

「たかが植物に負けるつもりはないわ!」

渚先生はハエクイソウに飛び乗り 杖を下に向けて術を唱えようとした時

足元から蔓(ツル)が沸き 下半身を強く締め上げる。

さらには上半身までも蔓によって巻きつけられ 杖が音を立てて地面に落ちた。

「渚先生っ!」

アスベル先生が声をかけても 渚先生は反応しない。

「まずは前菜ね」

コレウスがそう言うと 渚先生を巻きつけている蔓がさらに増加にほのかに青白く光る。

「あっ……うぅっ……っ!」

青白い光は どうやら渚先生の生命力を奪っているように伺える。

渚先生は悶え苦しみ目に涙を浮かべていた。

「あー…この人おいしくないってさ……あたしのペットの好みじゃないみたい」

コレウスはハエクイソウから飛び降り 着地しアスベル先生を見てニヤリと笑う。

「あなたの方が栄養がありそう……」

ハエクイソウは生命力を奪った渚先生を地面に叩きつけ こんどはアスベル先生に襲い掛かる。

「僕はこんな怪物の餌になる気はありませんよ」

アスベル先生は 黄金色の小さな羽根を1枚取り出し ハエクイソウに投げつける。

「ダズリ・フィサイン!」

小さな羽根は粉々に散り その粉が針と化し ハエクイソウのあらゆる場所に突き刺さる。

ハエクイソウは苦しい声を発し 体を左右に揺らしている。

「ちょっと……あんたぁ一体何したのよぉ!」

「知らないんですか? これは魔薬の一種ですよ
本当は危篤寸前の人を楽に死なせるための薬なんですが こういう使い方もあるんですよ」

突き刺さった金色に輝く針はハエクイソウの蔓を腐敗させた。

「フンッ 何度やっても無駄よ わたしのペットには再生能力があるんだからね」

ハエクイソウは力を入れ 腐敗した場所を治そうとするができない。

その腐敗は徐々に広がり とうとう完全に枯れて粉々に散っていった。

「あたしのペットが……マティス様にもらったペットが……」

コレウスはその場に座り込み涙を地面にこぼしていた。

「殺す……」

「……?」

「お前を殺す……殺す!」

再び立ち上がり アスベル先生をギロリと睨み付けたコレウスは爆発寸前だった。

アスベル先生の反応も見ぬまま 杖を取り出し聞いたこともないような呪文をブツブツと唱える。

「ラベンダー・ローズ……」

アスベル先生は反射的に防御呪文を唱え 薔薇の蕾のついた蔓をはじく。

「これの術にはまだ秘密があるのぉ……」

「秘密……!?」

「特別にあなたにだけ教えてあげるわっ!」

コレウスが叫ぶと 薔薇の蕾が次々と咲き緑色だった蔓が赤色に変色していく。

それは見事な色彩で思わず口をあんぐりと開けてしまうほど……。

「……っ なんだこの匂いは!?」

蕾だった花が咲き 薔薇からは甘い匂いが発せられ フロア全体を包む。

段々まぶたが重くなり コレウスが2重にも3重にも重なって見える。

「心地のいい匂いでしょ? ほーら気持ちよくなってきたね」

「まさか……眠気をさそ……う」

アスベル先生の体の力が抜け 同時に防御呪文もかき消される。

寝音を立てその場に倒れこんでしまった。

「本当に憎らしい奴らだよねぇ……どうしてマティス様の邪魔をするのか 不思議で仕方ないわ
 マティス様はこの世界をいい方向に変えようとしているのに……。」

コレウスはアスベル先生の額に杖をつけ とどめの呪文を唱えようとした瞬間

何者かに両腕を掴まれた。

「あんた達のやっていることはおかしいわよ 人を殺しておいてそれが正しいと思っているわけ?」

「ッフ……やっぱ あんたは先にとどめを刺しておくべきだったかもぉ」

コレウスの両腕を捕まえていたのは なんと倒れていたはずの渚先生だった。

「魔薬を持っておいてよかったわ……私にとどめを刺さなかったのは確かに誤算だったかもね」

「誤算ですって?……大丈夫だよ……今からでも遅くない」

コレウスは渚先生の手を振りほどこうとするが上手く力が入らない。

「っく……力が入らないっ!」

「終わりよ……ディル・サンダ!」

「きゃぁあああ──ッ!」

凄まじい電撃はコレウスの体全体を突きぬける。

体からは煙が噴出し 肌を黒く焦がす。

「あたしは……間違ってない……禁魔魔法者はこの腐った世界を救う 救世主なんだから……。」

目から涙を流しながらコレウスは聞こえないくらい小さな声で言った。

「マティス様……」

コレウスは静かに目を閉じ 息を引き取った。

何故か顔は穏やかでまるで眠っているようにも見えた。

渚先生はそっとコレウスに触れようとした瞬間 何処からともなく風が吹き

コレウスの体が粉々になり 風と共に消えていった。

「この魔薬……一時的に体力を回復するのはいいけど副作用があ………る」

渚先生はその場に倒れこんだ。

代わってアスベル先生がようやく目を覚まし 渚先生を担いで保健室へと向かっていった。



──アルケノス学校 正門前──
「いつまで 隠れているつもりかしら……」

早苗はもどかしさを感じ 一歩前に出ようとした時 ふいにしたから黒いローブに身を包んだ男が姿を現した。

先ほどの禁魔法者とは違い 威圧感を感じる。

「クフフフ……こんにちは……僕の憎き者達よ」

「あなたは一体誰なの!?」

「見た感じ……そこに隠れている禁魔法者とは明らかに力の差があるわね」

「準備が整ったことだし……僕達の城へと案内してあげようか」

黒いローブの男はニヤリと笑い 手を差し出す。

早苗は振り払い みんなをかばうかのように手を広げる。

「あんたの罠には引っかからないわよっ!」

「罠……これを見ても罠だと言えますでしょうか?」

黒いローブの男の後ろから 手錠の掛かった一人の男の子が姿を現した。

それは4人にとっては衝撃的だった。

その正体は アルケノス魔法学校一年の 加藤 健一であった。

最初のころ失踪して以来 数ヶ月ぶりの再会。

顔はやつれ 服はよごれ 髪の毛は伸び放題……。

見るからに衰弱しているように伺える。

龍はいてもたってもいられず 健一に触れようと近寄ると 黒いローブの男にはじかれた。

「こいつを助けたくば 4人共々僕についてくるがいい」

男は杖を取り出し 上下に振ると 次元が引き裂かれ 異空間への入り口が生み出された。

人一人 はいれるぐらいのスペースで中は真っ暗で何も見えない。

「僕は先にいっている……本当にこいつがどうなってもいいのなら 来なくてもいいのだがな」

男は吐きすて 乱暴に健一を引きずり異空間へと消えていった。

異空間の入り口に残された4人は論争の真っ最中であった。

これは罠ではないか? 成り代わりの術で健一に化けているのではないか?

しかしながら 一つ明らかなのは 禁魔法者のアジトへと行くことができること

仮に行ったとして 場所を特定すれば応援も呼ぶことも可能だし こちらとしては結構有利なのは確か。

「もう行くしかないわね……」

「うん……」

4人は覚悟を決めて異空間の入り口へと飛び込んでいった。

中はまぶしすぎるほどの光があふれ 思わず4人は目を閉じてしまった。

やがて光は段々失われ 目が開けられるほどの明るさになる。

最初に目を開けた早苗はここが何処なのか全くわからなかった。

周りには龍と里奈 そしてカイスがうずくまっていて自分だけはたったままだった。

「ちょっと……起きて!」

早苗はみんなを揺さぶり起こした。

「ここは……?」

龍は目をこすりながら周りの景色をみて言う。

「何処なのかはわかりませんが……アジトはすぐそこだってことは分かるな」

カイスの指す方向を見ると 大きなそして長細い塔が木々の隙間から見える。

4人は一刻も早く健一を助けるべく禁魔法者の塔に急ぐ。

向かっていくうちに段々と 城の全体像が見え その大きさを瞬く間に感じる。

城の入り口は鉄の扉で 人の力では開きそうにもない。

しかし 4人が扉の前に到着すると自然と扉が開き 城の中へと誘っている。

「中を確認するためにも 俺が先に……」

先にカイスが扉の中に入り 中の構造を調べる。

反対側に階段があり 2階へとつながっていると予想される。

「誰もいないみたいだな……おーい お前たちも入ってきてもいいよ」

カイスが3人に呼びかけ 中に入ると 勢いよく扉が閉まる。

「ようこそ 俺たち禁魔法のアジトへ」

階段から一人の男が姿を現す。

それはミルケルドの塔でクリスを殺した ソイルであった。

カイスはソイルを見ると 人が変わったように睨み付ける。

「おいおい そんなに睨むなって……」

ソイルはクスクスと笑い 両手に剣を構える。

「4:1でも大歓迎だけどよ やっぱお前と1:1の勝負をしてみたいわけだわ」

「望むところだ……」

「決まりだな……」

ソイルは3人に向かって 素早く針を投げつける。

「っう……」

「なんなのこれ!?」

針の刺さった部分が急激にあつくなり 3人はその場に倒れこむ。

「一体 彼らに何をしたんだ!」

「普通の1:1じゃあ つまらないから……時間制限をかけることにするんだよ
 30分以内に俺を倒すことができればお前の勝ち その時は解毒剤もちゃんと渡してやるよ
まぁ俺が負けるだなんて 奇跡が起こらない限りありえないけどな」

ソイルはカイスに3人分の解毒剤を見せ 再び懐に戻す。

「もし……30分以内に俺を倒すことができなければ 大事なお友達は……」

「それ以上言うな 時間の無駄だ」

カイスは力強く足を踏み出し 杖を構え術を唱える。

「ディル・ボルズ!」

「おいおい……正面から突っ込んでくるとは単純なヤツだな」

カイスの放った術はソイルを飲み込む。

そしてそのまま壁に激突し あたりに粉塵が舞う。

「今ので倒せたとでも思ったのか?」

ソイルは唾を吐き カイスに向かって走りこんでくる。

その速さは異常でソイルの動きを捉えることができない。

「何処にいるんだ……!?」

カイスはぐるぐるとあたりを見渡すが ソイルの姿を見つけることができない。

「ここだよ 馬鹿が……」

カイスが上を向くとソイルが剣を突きたて一直線にこちらに落ちてくる。

「死ね! カスが」

ソイルは手に持っていた剣をカイスに向けて投げ飛ばす。

「っぐ……あぁっ!」

剣はカイスの左腕を貫通し ドクドクと血が滴れ落ちる。

血に塗れた左腕を右手で支え なんとか体制を整えるがあまりの出血にその場に座り込む。

着地したソイルはカイスの血で染まった剣を地面から引き抜き それをペロリと舐めた。

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