* 第21章  誤解*
「もう里奈さんを取り返すのは諦めました……」

クリスは吹っ切れたように 笑い こちらに向かって歩いてくる。

「早苗……今のうちに里奈と一緒に学校に戻るんだ」

「あんた何いって……」

「龍と俺が時間を稼ぐから そのうちにジャラールで戻るケロ」

「二人とも何いって……」

早苗が戸惑っているとクリスがニヤニヤする。

「何を話しているのですか?」

クリスは杖をこちらに向けて微笑む。

「早苗 わかったな?」

「わ……分かったわよ! そうすればいいんでしょ? どうせどんなに言ってもあんたは 絶対意見を変えないだろうし」

早苗は里奈の腕を掴み 術を唱え始める。

「そういうことですか……僕から逃げようとしているのですか……でもそれは叶わないこと」

クリスは早苗の目の前に瞬間移動をし杖を奪い取ろうとする。

「っく……なかなか力があるようですね」

「ふんっ……力強さだとあたしの方が上かもよ」

「何だとっ!?」

ニヤリと笑い早苗はクリスの右足を思いっきり蹴り上げる。

「っぐは!」

クリスは右足を押さえその場にもだえ苦しむ。

「……っ どうして僕の邪魔をするのでしょうか? 何故? どうして?」

意味不明なことをいい クリスはタキシードの埃を払い むくりと起き上がる。

「ディルエルム・ボルズ!」

不意にクリスは術を唱え 再び早苗と里奈のところへ走りこむ。

「そうはさせない!」

クリスの目の前に 龍とカイスが立ちはだかる。

「ディルエルム・シルド!」

龍の唱えた防除呪文はさきほどのクリスの放った術を上手く防御し相殺する。

「これは想定内のこと……」

さらにクリスは杖から 半透明の糸らしきものを出し 龍の体に付着させる。

「体がっ!?」

「どうしたケロ!?」

「フフフフ……引っかかりましたね さぁ君は僕の操り人形となりました」

「フン……この術はもう見破ったケロ!」

「何っ!?」 カイスの紅い指輪が輝き始める。

「オルズ!」

小さな火の粉は龍に付着した半透明の糸を燃やす。

「くそっ……」

クリスは一度像の上に上り体制を整える。

「早く ジャラールを唱えるケロ!」

「わ…分かったわ!」

カイスの呼びかけに 早苗は再び里奈の手を掴み術を唱える。

「ジャラール!」

そう唱えると里奈と早苗の姿が透け始める。

「絶対負けんじゃないわよ……約束だからね……」

早苗は涙を流しながら龍たちに向けてニコリと笑う。

ようやく早苗のところに龍とケロ助が着いたときには2人とも既に姿を消していた。

クリスはその光景をじっと見つめていた。

無表情でなぜか悲しそうに見える。

「もう僕の計画がめちゃくちゃです……」

像を降りて クリスはうつむきながら言った。

「アリスストーン……ミサに必要な物……お願いだから邪魔しないでくれないか?」

「ミサちゃんとアリスストーンが関係あるケロ?」

「マティス様が言ってくれた……アリスストーンを手に入れたあかつきには ミサを生き返らせてくれるって」

「で…でも 一度死んだ者が生き返るだなんてありえない 実体がそこにあるのなら例外だけど……」

「クリス……そのマティスってやつに 騙されているケロ! 目を覚ますケロ!」

「黙れ!」

クリスの大きな声に2人はビクリと体を震わせる。

「この人殺しが……」

その一言にケロ助は愕然とする 力がすっと抜けていく感覚を覚える。

「ち…違うケロ……あれは俺じゃないケロ」

「そんな言い訳 昔にも聞いたな……」

ジリジリとカイスに詰め寄るクリス。

「やっぱりあのときに殺すべきだった……」

クリスはカイスの首を掴み 強く締め付ける。

「やめろっ!」

龍は思いっきりクリスに向かって突進する。

「邪魔だ…… オル・ボルズ!」

「っぐは……」

「龍……っげほ」

龍はクリスの術で吹っ飛ばされ像に打ち付けられる。

「カイス……」

だんだん龍のまぶたが重くなっていく 同時に頭がぼーっとしていく。

次第に龍の意識は遠のいてしまった。

「さぁ カイス……死んで償ってもらいましょうか」

クリスはカイスを遠くに投げる。

そして素早く 杖をカイスに向け術を唱える。

「オルズ…オルズ…オルズ……オルズ!」

カイスは像にぶち当たり 何度も何度もクリスの技を受ける。

力を出せば跳ね返すこともできるのだが カイスはそうすることができなかった。

今抵抗をすれば確実に殺されると……。

さらにクリスはぐったりとなったカイスを殴り倒す。 カイスの体から血が出てもなお クリスはやめなかった。

「どうして……どうして君はミサを殺した? 答えろカイス!」

足でカイスの体を グリグリと踏みつけながらクリスは問う。

しかしカイスは答えなかった なぜならカイスは現にミサを殺していないからだ。

その間にもカイスはいかにして クリスに本当のことを信じてもらうのか考えていた。

「答えないのですか? なら仕方がないですね」

杖をカイスの体に当て術を唱える。

「デストラクション!」

この術を聞いて もうカイスは死んだと思っていた。

でもまだ死に切れない訳があるがクリスは一向に信じてくれない。

カイスの目からは涙が自然とあふれ 小さな水溜りを作り出す。

「ディル・サンダ!」

何者かが放った術が先ほどの術をいとも簡単に相殺する そればかりかクリスにも感電し多少ダメージを与えた。

「僕の邪魔をする愚か者は……誰ですか?」

「私の名は レキア 雷の精霊だ」

「雷の精霊が僕に何の用ですか? 邪魔はしないでください」

「ッフ 邪魔かどうかはこれを試せばわかること」

レキアはクリスの元へいくと おでこに人差し指をあてて目を閉じる。

クリスは避けようと動こうとするがさっきの感電により体が動かない。

「お前に真実を見せてやろう……」

レキアの指先から光が放出しクリスの脳に直接何かが委託される そうミサが殺された時のことである。

クリスの目の前にあのときの映像が映し出される。

ミサがホットドックを食べているところ カイスがトイレに行くところ 再試験を受けているところ

そして……マティスがカイスに成り代わるところ……。

クリスはそれを見て 信じられなかった いや信じたくもなかった。

「まさか……ミサを殺したのはマティス様……!?」

頭を抱えながらクリスはうずくまる。

その間に意識を取り戻した龍が重い体を起こす。

「少し前に聞いたんだけど あの紅の指輪は昔君があげた物だよね? 包帯は友情の証としてカイスにあげたんだよね?
 じゃあなんでカイスは今もそれを身に着けていると思う? 今も君を親友としてみているからだよ……」

「それは……」

そのあとの言葉につまるクリス あの映像を見てしまった以上クリスはよく分からなくなっていた。

どっちが嘘でどっちが真実なのを……。

ついで雷の精霊は龍のところに来てお辞儀をする。

「我は雷の精霊 レキア……私の力が必要なのだろう?」

「はい……」

龍は杖をレキアに向けて術を唱える。

「コントラクト!」

レキアは龍の頭を撫で 小さな声で よろしく といい杖に吸収されていった。

「これで……三精霊が揃った……あっカイス」

龍は急いでカイスのところに向かう。
カイスは自力で立ち上がり よろよろとした足取りでクリスのところに向かう。

「ごめん……僕は間違っていたようだ……カイスに申し訳ないことをした」

クリスは目に涙を浮かべながらカイス謝る。

「いいケロ……誤解がとけたからもういいケロ クリスが泣くなんてキャラじゃないケロ」

「でも もう僕の生命はのこり少ないみたいだよ……とても残念だ」

「どういうことケロ!?」

そのことが理解できないカイス。

「もう出てきてもいいんじゃないか? ソイル……」

クリスがそういうと おくから一人の坊主男が姿を現す。

「あーあ……さすがクリスだな……気配消してたつもりだったのによ」

ソイルはツバを吐き出し 長細い剣を取り出しクリスに向ける。

「もう分かってるよな……」

「分かってますよ……どうせ僕を消しにきたのでしょう?」

「フンッ……まぁお前も不幸だよな……マティスに騙されて無駄な時間をすごしてしまった」

「全くだよ……」

「っつーことでクリス おめぇはもう用済みだから消えてもらうぜ」

クリスは無言でうなずく。

「フリオス・エッジ!」

ソイルは剣を大きく振り回す すると空気の刃が無数に飛び交う。

それがクリスに襲い掛かる。

「カイス……もうちょっと早く誤解が解ければ僕は正当な道を歩んでいたかもしれません」

「クリス……」

カイスと龍はクリスを助けようとしたが もう体力の限界で対抗できる術を放つことができない状況だった。

このままクリスが死んでいくのを見ているしかなかった。

ソイルが放った空気の刃はクリスのタキシードを無残に切りつける。

「クリス──!」

「僕の仇をとってください……カイス……」

最後の刃がクリスの腹を貫通し その場にドサリと倒れた。

「仕事終了っと…… 今回はアリスストーンを奪うのはやめにしてやるよ まぁこんな会ったときは
クリスみたいに ズタボロにしてやるからよ」

ソイルは2人に背を向けて塔の階段を下りていく。

急いで龍とカイスはクリスのところに向かう。

「クリス……」

クリスの目は閉じられ 何故か晴れやかな表情をしている。

「こんなところで寝てたら風邪引くケロ……さあおきるケロ」

カイスは涙をクリスの頬にポタポタと落としながら言う。

「目を覚ますケロ……クリス……お願いケロ」

体を揺さぶっても一向にクリスは起きようとはしない。

するとクリスの体が段々朽ち果てていく。

これが禁魔法に手を出した最後なのであろうか クリスは一つ残らず消えていき何も残らなかった……。

「龍……学校に戻ろうか」

カイスの口調に龍は戸惑った。

「カイス……お前」

言いかけた途端 カイスの体が光を帯び 輝きはじめる。



クリスのかけた変化の術が解けた瞬間だった。

「人間に戻ってる……」

カイスは自らの手をじっと見て言う。

しかしそれと同時に 一つ分かることがある。

それは クリスが完全に死んだことをあらわすことであった。

「クリスの仇は俺が絶対とってやる……」

カイスは紅の指輪をぎゅっと握り締めて誓う。

同時に カイスの力が抜け ドサリとその場に倒れた。

と思ったら 寝音を立ててすやすやと眠っている。

気持ちよさそうに寝ているカイスを見ていた龍も釣られて眠たくなり 一緒にその場で寝てしまった。

「あらあら……龍もケロ助君もこんなところで寝たら風邪引くわよ……」

黒いローブに身を包んだ女の人が突然姿を現し心配そうに二人を見つめる。

「仕方がないわね……学校まで飛ばしましょうか」

女の人は杖を取り出し術を唱えると 二人はアルケノス学校に飛ばされた。

「三精霊も揃ったことだし……少しは希望が見えてきたかしらね」

女の人は再び術を唱え すばやく姿を消した。

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