* 第20章  闇の精霊*
ここは地図にはのっていない場所  そこには大きな塔が立っている。

そうこの塔こそ 禁魔法者の本拠地なのだ。

周囲には木々が生い茂り 人の気配もなく静かなところである。

そんな場所に 禁魔法者が続々と塔の中に入っていく。

「そろそろ 闇の精霊の復活みたいじゃないか」

「そうみたいだな この時をどれほど待ち望んだことか」

禁魔法者たちは口々にうれしさの言葉を発している。

そして禁魔法者の前に門番が現れ大きな声で呼びかける。

「これから闇の精霊復活の儀式を行う 幹部のみここから先に入ることが許されている」

「はぁ? てめぇ何いってんの!?」

「これは──様の命令です」

「んなこと 知ったことかよ!」

一人の男の禁魔法者が門番に向かって術を放つ。

「ディル・ボルズ!」

炎の球体はものすごいスピードで門番に向かって放たれたが すんなりとよけられた。

「お引き取りください……」

今度は門番の体から黒い煙が出てその男を包み込む。

「ふんっ! こんなもん消し飛ばして……───!」

「もう遅い…… お前は私の術にはまっている」

「なっ なんだとっ!?」

その男は体の異変に気づいたがもう遅かった。

なんとその黒い煙は 男の体を吸収し始めているのである。

「なんだ これはっ!? ────どうなってやがる───!」

「どうもなっていませんよ  ただ罰を受けるだけです」

「あっ──あぁっ────!」

「愚かな……」

男の体は黒い煙によって侵食され跡形もなく消えた。



「外が騒がしいですね……」

門番の立っている奥の部屋では クリスと里奈 そして禁魔法者幹部が数名いた。

「なぁに どうせクズ共が力を得にきただけだろ?」

坊主頭の男が地面にツバを吐き イライラしながら言う。

「ところでさぁ あのお方はどこにいるのぉ? そろそろ儀式の時間じゃないのぉ?」



ツインテールの女性が欠伸をしながら退屈そうに言う。

「コレウスは少し黙っていろ お前がしゃべると雰囲気が乱れる」

「なぁにぃ その言い方わぁ なんかあんたの口調って気に障るよねぇ」

「フンッ お前の口調の方がよっぽと気に障る……」

「あーもー あたし怒っちゃったかもぉ……」

「殺るか? コレウス」

二人が身構えたとき あのお方が突然姿を現し仲介する。

その場の空気が一変する。

「今はそんなことをしている場合ではないぞ コレウス ソイル」

この男の強制力のある声はどんな禁魔法者でもさからう事はできない。

声だけではなく 力も強大であり もっとも禁魔法者の中ではトップの存在だ。

「ご…ごめんなさい……マティス様」

この男はマティスと呼ばれているのではなく そう呼ばせている。

本当は違う名前であるが 外部に知れ渡らないようにそうしている。

「………」

「全員そろったな クリス早速準備に取り掛かれ!」

「はい 仰せのとおり……」

クリスはアリスストーンを身に着けた里奈を鉄格子に貼り付けにする。

その後 コレウスとソイルが禁魔法の呪文を里奈の周りに描く。

「一応 これで準備は整いました  マティス様」

「よくやった……もうすぐわれら禁魔法者はこの世の支配者になれるわけだ」

「そうだぁねぇ……全部あたしたちのものに」

「皆さん 定位置についてください マティス様の号令と合図に禁魔法術をアリスストーンにむけて放ってください」

無言でうなずき 禁魔法幹部らは アリスストーンの方向に体を向ける。

そのことを確認したマティスはブツブツと意味のわからない言葉を発し始めた。

「δζημπεψξΦΩ────今ここに 闇の精霊よ 降りたまえ!」

そう唱えると里奈の体が宙に浮き その呪文と反発するかのようにアリスストーンが白く輝く。

「いまだ……放てっ!」

マティスの合図と同時に 禁魔法幹部はアリスストーンに向かって術を放つ。

「プラント・インセクティボス!」

「ラバーズ・フィスト!」

「ポイズ・エクスプロージョン!」

次々と放たれる術により アリスストーンの輝きは段々失われていく。

その数分後にはまったくの輝くもなくし 逆に黒い石に変わっていた。

「よくやった……お前たちは少し離れていろ」

マティスの言われた通りに 禁魔法者幹部らは 部屋の端に腰をかける。

「δζημπεψξΦΩδζημπεψξΦΩδζημπεψξΦΩ……」

マティスの周りに黒い呪文が浮かび上がる。

里奈の周りにもそれと似たような呪文も浮き上がる。

そして共鳴するかのように黒い光が文字からあふれ出る。

「われら禁魔法の源 闇の精霊…… 今ここに降りたまえ!」

マティスの声と共に文字が輝きだし アリスストーンから黒い光が飛び出す。

その光は地面に当てられ大きな穴を作り出す。

「やっと我を復活するものが現れたか……」

凍りつくかのような冷たい言葉が穴の中から聞こえる。

同時に穴の中から大きな鎌を持った長髪の女の人が現れ マティスの手にキスをした。

「我の名は アノス……」

「俺はマティス 是非アノス様に協力してほしいのです……」

「ふむ…… 我らの目的は一緒……力を貸さないわけがない」

アノスは マティスの手の甲に傷をつける。

その傷口から出る 血をアノスは舐めた。

「これでお前と私は一心同体……」

アノスはニヤリと笑うとマティスに吸収されるかのように消えていった。

しばし ──はその場で呆然としていた。

他の禁魔法幹部らも じっと様子を伺っている。

「アハハハハハッ」

突然 マティスは笑い出すと いきなり壁に向かって呪文をぶつける。

マティスの放った術は壁に大きな空洞を生み出し すごい破壊力。

「これはすごい……アノス様 なんとお礼を申し上げてよいのやら……」

マティスは自分の力に浸っている この力さえあれば世界を簡単に動かせるとまでも思っているようだ。

「ソイル……雑魚共に知らせるがいい 闇の精霊が復活したことを」

「分かりました」

「あと クリスは予定通りの任務をこなせ 残りは俺と一緒に来い」

「はい」

それぞれの幹部はマティスの指示通りに動く。

「では里奈さん 私と一緒に最後の任務をこなしましょう……」

グッタリした里奈を担いで クリスは奥の部屋へと姿を消した。



午後6時  ミルケルドの塔

龍と早苗 そしてケロ助は塔の最上階にいた。

太陽も西に沈み 月が空に浮かんでいる。

中は部屋というよりホールに近い構造で天井は はるか高くにある。

ところどころに大きな像がそびえ立ち 今にも動きそうな雰囲気。

「アスベル先生のおかげで近くまで飛ばしてもらったけど……」

「こんなところに本当にクリス そして雷の精霊なんかいるのかな……」

「まだいる気配はしないケロ……」

2人と1匹はあたりを見渡し クリスが来るのを待つ。

すると後ろの扉から何者かが現れた。

「何かくるケロ」

「私だよ……ケロ助君」

その声にケロ助は聞き覚えがあった。

「里奈ケロ?」

「そうだよ……みんなに会いにきたの」

里奈はニコリと笑みを浮かべながらこちらの方に近づいてくる。

龍はいてもたってもいられなくなり 里奈の元へ走り出す。

「本当に里奈なんだよね? ずっと会いたかった」

涙を浮かべながら龍はいきなり里奈を抱きしめる。

「うん……龍君 会いたかった……」

「里奈……」

「私 龍君にお願い事があるの 聞いてくれる?」

「うん ちゃんと聞くよ」

「それはね ……龍君のアリスストーンが欲しいの……」

「えっ?」

「お願い……どうしても必要なの」

里奈は龍に気づかれないようにポケットから杖を取り出してゆっくりと背中に杖を当てる。

そのことにいち早く気づいた早苗は大声で龍に向かって叫ぶ。

「龍──! 早くそこから離れて!」

「えっ!?」

「もう遅いよ……アリスストーンは私のもの」

里奈は龍の腕をすり抜けて 距離を置く。

その手には龍のアリスストーンが握りしめられていた。

「やったわ……これでクリス様に褒められる でもまだあなた達を排除しないと……」

里奈の頬に怪しい文字が浮かび上がる。

その印は紛れもなく禁魔法者を表すものだった。

「どういうことよ……まさか里奈は……」

「嘘だろ?」

「嘘じゃないよ……私はもうあなた達の仲間じゃないの」

里奈は高らかに笑う 首にアリスストーンをつけようとした瞬間 一匹にカエルがそれを奪う。

「アリスストーン 奪還ケロ」

ケロ助は急いで龍達の元に戻り 龍にアリスストーンを返す。

「こしゃくな カエルが……殺してやるわ」

里奈は杖をこちらに向ける。

「私の本当の力を見せてあげる」

杖から冷気が溢れ出す。

「ディムエルム・ブリズ……」

そう唱えると里奈の周りが一気に凍りだす。

一瞬にしてホール全体が氷で包まれた。

さらに無数の巨大な氷が龍達に向かって放たれる。

「ばらばらに行動したほうがいいケロ 固まっていると余計危険だケロ」

「そうね…じゃあ2人とも少し我慢しなさいよ」

「我慢?」

「オルズ!」

「ちょっ…早苗……」

龍とケロ助は早苗の術により軽く吹っ飛ばされた。

術を放ったあと早苗は体制を整えて像のところに身を隠して術を回避する。

龍とケロ助も他の像に隠れて なんとか術を回避する。

巨大な氷は壁に激突し 粉々になった氷が頭上から降り注ぐ。

「隙を見て 里奈にホリジストをかけるケロ」

「そんなことくらい知ってるよ でもこの状態じゃどうしようも……」

実はこの戦いの数時間前に アスベル先生に龍は魔法街で手に入れた本を見せていた。

アスベル先生は見た瞬間 驚き 校長先生を呼び出してブツブツと呟いていた。

少したった後に 龍に返されて 一言告げられた。

“この書にかかれている呪文をマスターすれば里奈を救える”

それを聞いて 早苗にこのことを教え その後に部屋に戻り練習していた。

まだ一度も成功してはいないが なんとなく掴めたような気はしていた。

「これで隠れたつもりなのかな?」

凍ったフロアを歩きながら里奈はぼやく。

「何処にいるかってこと…わかるよ……冷気が教えてくれるの」

里奈はクスクス笑い 一つの像の前でピタリと足を止めた。

その像の後ろには龍とケロ助が もたれかけるように座っていた。

里奈の予想は的中だった。

「逃げなくていいの? 龍君」

「里奈こそ逃げなくてもいいのかい?」

「どういうことよ……」

「オル・ボルズ!」

龍は像に向かって術を放つ 氷は一気に溶かされ蒸気が里奈の視界を奪う。

「前が見えない……」

里奈はしどろもどろになる。

「いまだケロ!」

ケロ助の合図と共に 龍が里奈を思いっきり突き倒す。

その衝撃で里奈は気を失った。

「里奈 元通りにしてあげるから……」

龍は思いを込めてホリジストの書かれた本を取り出し呪文を唱える。

早苗も像から姿を現し龍を見守る。

「我はアリスストーンに選ばれし者なり 今この者の呪いを解きたまえ!」

龍の杖と本が光り輝く。

「ホリジスト!」

一気に光が込み上げ 里奈の体に委託される。

その光に苦しむかのように禁魔法の印が黒く光りだす。

「やめろ……やめろぉぉぉ!」

里奈の目が開き 口から怪しい生物が逃げるように出てきた。

「オルズ!」

早苗は術を唱え その生物を燃やした。

するとたちまち印の力は消え 禁魔法の印も消えた。

「やったわ……これで里奈は元通りになったわけね」

「うん……」

「喜ぶのは早いと思いますが……」

残された像の上に座っている男が言う。

「クリス……やっときたな」

「せっかく里奈をつかってアリスストーンを手に入れようとしたのに……」

「作戦通りに行かなくて残念だったわね」

「本当に残念だったよ……予定変更するしかないようだ」

クリスは像から降り 被っている帽子を投げ捨てる。

「君たちを殺してからアリスストーンを奪うことにするよ」

杖を取り出し クリスはニコリと笑った。

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