* 第16章  操り人形*
プルボルス火山での戦いは かれこれ一時間が経過していた。

まだ5割しか力を出してないと余裕をかましていた姉妹だったが

実はもう大きな術を1、2発打てるくらいであった。

「この術で精霊共々滅びなさい……」

力を振り絞りカナンは杖を上空に向け 何かを唱え始める。

「なんか嫌な予感がするわ」

早苗が身を震わせて言う。

「うん…」

龍はゴクリと唾を飲み込む。

「禁魔法はね 命を削ることによって莫大な力が手に入るの こんな風に……」

カナンは腕を捲し上げて杖をグイッと腕に押し込む。

「カナン……あんたまさか…」

その行動にルナンが動揺する。

「ごめんね…ルナン……もうこの方法しかないかなぁって……」

「でもそれを唱えたら カナン…あんた……」

言葉に詰まるルナン それにニッコリと笑いうなずくカナン。

「分かったわ……もう止めないわ…」

ルナンは震えた声でうつむきながら言った。

その光景が龍の目にはなんだか悲しく見えた。

そうしてカナンに別れを告げたルナンは小高い岩の天辺に移動をし一時体機。

「闇の精霊よ 我ら禁魔法者に新たなる力を……」

腕からは大量の血がただれて カナンの両目が真っ赤に染まる。そして痙攣をし始めた。

「な…何がどうなってるわけ!?」

「どうって……」

そこにディアが口をはさむ。

「あやつ死ぬ気で我らを滅ぼそうとしている……」

「えっ!?」

「あれは 闇の精霊に自らの血を明け渡し その代わりに闇の精霊の力をもらうという恐ろしい術だ」

それを聞いて息をのむ3人 一方カナンは荒い息遣いをしながらこちらをギロリと睨んでいる。

すると突然カナンは人が変わったように狂い始めた。

「アハッアハハハハハハッ 闇のお力をありがとうございます これでこれで…」

あたかも瞬間移動をしたかのようにカナンは4人の目の前に現れる。

「やっぱり精霊って邪魔よね…アハッ」

カナンの杖の先からどす黒い霧状の物が噴出す。

「スモグ・リーン……」

静かにカナンは唱えた。

その途端 ブワッと辺りが黒煙に包まれる。

3人は強化呪文「ディル・シルド」を唱えて防御体制に入る。

しかしディアだけは3人の前に立ちカナンを待ち受ける。

「アハハッ 精霊さん一人だ やったー……すっごいチャーンス」

口からよだれを垂らしながらカナンは不自然に笑う。

「………ボルブリズ!」

ディアは咄嗟に唱えたが 術は不発。

「ブハハハッ あんたも知っていると思うけど……術を放つ度に召喚術者の体力が減っているんだよ?」

カナンの言うとおり召喚術の一番の欠点は 召喚術者の体力 それによって精霊達の行動の範囲も変わってくるのである。

「くっ……」

チラリとディアは早苗の方をみるとハァハァと息が荒い。

ディアもこうなるとは分かっていたが 自らが3人の盾になるしか方法はないと思っていた。

「本当に残念ね このブス女が 主だなんて…キャハハハ」

カナンが高笑いをしていると一人の少女がこちらに向かって歩いてくる。

「ブス女……ですって? それは聞き捨てならないわ……」

防御呪文を自ら解除し ディアの前に早苗が立ちはだかる。

「あらぁ? あんたわざわざ私に殺されにきたの? クスクス」

「殺される前に あんたを倒すわ……」

グッと杖を握り締めて早苗はカナンに言い放った。

カナンはその言葉にニヤリと笑みを浮かべて血だらけの杖をこちらに向ける。

「キャハハハハハ ハハッ あたしの杖がね あんたの血を欲しがってみるみたい……」

ゆらゆら とゆれながらカナンはブツブツと呪文を唱え始める。

「フレイム・ハート…」

そう唱えると 杖からどす黒い炎が噴出し こちらに向かってくる。

「早苗! 防御呪文を唱えろ」

「うん……」

ディアの言うとおり 早苗は防御呪文を唱える。

「キャハハハ……そんな薄い盾じゃ……10秒も持たない……」

必死に攻撃に耐える早苗 その隙にディアがカナンの後ろにまわる。

「ブス女素直に諦めなさい もう終わりなんだから……」

「いや お前が終わりだ」

「えっ……!?」

カナンがその声の方向を見るとディアが杖を向けて呪文を唱えている。

「なっ……!まさかブス女を囮として……」

その言葉に耳をかさず ディアはカナンを見つめている。

「ディル・ボルズ!」

ディアの杖から勢いよく大型の炎が噴出す カナンは攻撃をやめ防御呪文を唱える。

「ディル・シルド───」

しかし その時 カナンの杖が不自然に割れて砕け散った。

「な…ど…どういう…こ…と……」

その隙にディアの放った術はカナンを包み込む。

「ギャアアアア……」

カナンは奇声を発しながらその場でもがき苦しんでいる。

「キャハハハ……これは何かの間違いよ……あたしはきっと夢を見ているんだわ そうよ そうに違いないわ」

そう言っている間にもカナンの体さらには顔がだんだん溶けていく。

「アハッ……あたしの負けかな……ウフフ」

ブツブツ言いながらカナンは早苗に近づいてくる。

「最後にいいこと教えてあげる……闇の精霊の復活はもうすぐなの……」

もう人間の原型がないほどの 醜い姿となったカナンはその言葉を最後にドサリと倒れた。

「ちょっ……まだあんたに聞きたいことがいっぱい…」

早苗がカナンに話しかけたが もう既にカナンは跡形もなく消えていた。

ようやく黒煙がなくなり ルナンは状況を確認するために急いで下に降りる。

それと同時に 龍と里奈も防御呪文を解除し早苗の方に向かう。

「カナンは何処にいったの……」

「死んだわ……」

少し悲しそうに早苗は答えた。

そのことを聞いてルナンは体が身震いして早苗に言い放つ。

「な…なんでよ…なんでカナンを殺したのよ!!」

ルナンの言葉に早苗は答えようとはしない。

「許さない………許さないから」

ルナンの体がまた小刻みに震える そして杖を早苗とディアに向ける。

「今のあなたはもう攻撃する力もないはず……」

不適な笑みを浮かべながらルナンは杖を振りかざす。

「カナンの仇を……」

するとそこに後ろから龍と里奈が走りこんできてルナンに飛び掛り抑える。

「ぐっ……!!」

「はぁはぁ……どうやら間に合った?」

龍はルナンの腕を押さえながら早苗に言う。

「もう少しであたし死にそうだったんだからねっ!」

目を擦りながら早苗は龍に言い返した。

「とりあえず この人の両腕 両足を固定して…話はそれから…」

里奈は自らのローブを引きちぎりルナンの両腕・両足に巻きつける。

その素早さに龍と早苗は口をあんぐりしながらただ見つめていた。

「ふぅ…これでいろいろ話が聞けそうね」

額の汗をローブで拭うとハッと気づいたかのように立ち上がった。

「アッ いけない…いつもの癖が…」

「いつもの癖……?」

「アハハハ なんでもないのなんでも……」

不自然に里奈は笑い早苗のほうを見る。

「里奈 あんたドコでこんな技術を……」

「まーまー 気にしない気にしない ね?」

「まぁそんなことは後からでも聞けるし 今はルナンからいろいろ聞き出さなきゃ」

龍が本来の目的を2人に言う コクリと2人は頷き 問いただそうとした瞬間

ルナンは魔法で瞬時にローブを焼き3人に向かって術を放つ。

3人は咄嗟に滑り込んでなんとか術は防いだものの ルナンをまんまと解放してしまった。

「アハハハッ そんな弱い縛り方じゃ私をとらえることなんか不可能よ」

杖をこちらに向けて力を溜め込むルナン。龍は今までにない危機を肌で感じる。

「カナン見てて……私が今こいつらを殺すから」

ルナンの目が血走る そして両手で杖を持ち術を放つ。

「ディルエムル・ボル……」

そこでルナンの動きが止まった。

「うあぁ……あ…あぁ」

ルナンが苦しそうな声を出す。

そして3人はルナンとはまた違った魔気を感じる。

「誰かそこにいるの!?」

早苗が声を上げると 岩陰から人影が見える

「お疲れ様です ルナンさん」



軽佻な口調でタキシードを着た男が4人の前に姿を現した。

「おま…えは……クリス……」

ルナンが大きな声でその男の名前を呼ぶ。

「これはこれは ルナンさん もう少しでこのクズ共を殺せたのに残念です」

「残念って……どういう……ことよ!」

「単刀直入に申し上げますと ルナンさんの仕事はもう終わったんです」

「終わった……ですって!?」

ルナンが必死に体をじたばたするが体が動かない。

その様子を気にもしないでクリスは話を進める。

「要するにルナンさんは用済みなんです」

ニコリとクリスはルナンに微笑み 杖を振りかざす。

「さて僕の操り人形さん お疲れ様でした」

「操り人形……ですって…!? あんた最初からそのつもりで…!?」

「ええ そうですよ 初めからそのつもりだったんです 君はカナンと違って優秀でしたから……

少しは活躍する場を提供してあげたんですよ ありがたく思ってください」

「……クリス……あなた最低ね」

震えた声でルナン言う。

「最低ですか……禁魔法者はそうでなくちゃ生きていけませんよ あっそうそう ちなみに

 カナンさんの杖を壊したのは僕ですからね」

再び微笑みながらクリスは言う。

そのことを聞いてルナンの表情が変わる。

「……今あんたを一番殺したいわ……」

「言いたいことはそれだけですか? こちらも時間配分というのがあるのでそろそろ終わりにしましょう」

「ちょっと待てよ!」

龍がクリスの杖をつかむ しかし足はもうガクガクである。

こんなの相手にしたら自分は死ぬとわかっていながらもこの不条理な話をほっとけないのだ。

「おやおや 僕にたてつくのですか? 君も分かっているだろうに……僕に勝てないぐらい」

ルナンに向けていた杖を 龍に向かって突き立てる。

「ちょっと邪魔なんで黙っててもらえますか? あとそこのお二人さんも」

さっきは違い 暗い口調でクリスは言う。

「レント・ボイス……」

クリスがそう唱えると3人の口が強制的に閉まる。

「……@+%&#$」

必死に3人は口をあけようとするがどうにもできない。

「これで僕を邪魔する者はいなくなった……それでは ルナンさん さようなら……」

クリスの杖から半透明の糸が飛び出す そしてそれがルナンのあらゆるところに付着する。

「あ……いや……やめて……」

するとルナンの腕が勝手に動き出す。

そして杖を持ち替えて自らの心臓部分に突き当てる。

「いや………」

涙を流しながらルナンは抵抗しようとするがクリスの糸の術は強力で解除することができない。

「そうだ…さっきの術で死んでもらおうかな」

思いついたようにクリスは言い 術を唱える。

「ディルエムル・ボルス……」

「───────ッ!!」

それはまるで風船が破裂するかのようだった。

一瞬でルナンの胴体は木っ端微塵になりあたりに肉片がボトッボトッと時間差で落ちてくる。

その光景を目の当たりにしていた3人は絶望していた 自分達も次にこうなってしまうのかと。

しかしクリスはそうはしなかった 3人にかけた術を解除し 改めて自己紹介をする。

「遅くなったようだね……もう分かってると思うけど 僕はクリス 禁魔法者さ」

「………あんたどういうことよ 大切な仲間でしょ? なんで殺したわけ!?」

「ふぅ……人の話しも聞かない……本当に君達は愚か過ぎる……仲間なんて必要ないんですよ ただの群がっている糞共だ」

そして何を思ったのかクリスは里奈の肩に手を載せると 小声で里奈に話しかける。

「今日から君が僕の新しい操り人形さ……」

「どういうこ……………はい その通りです……」

純粋な目は虚ろな目に変化し 里奈はまるで生気を失ったかのようだった。

「お前 里奈に何をした 今すぐその場から離れろ!」

龍が杖をクリスに向けながら問いただす。 しかしクリスは含み笑いをして答える。

「え? 里奈さんがね 僕の仲間になってくれるって言ってくれたのですよ」

「は? あんた何いってんの? そんなこと里奈が言うわけないじゃない!」

早苗が里奈の目を見つめる。

時間差でゆっくりと里奈の口が開く。

「私はクリス様について……いくの」

まるでお経を読んでいるかのような口調で里奈は言う。

「クリス様ですって!? 里奈あんたどうしちゃったのよ!」

「おい 里奈……お前クリスに何をされたんだよ」

二人が里奈の肩をさする。

「彼方達 邪魔……消えてよ」

里奈が杖を2人に向けて 術を唱える。

「里奈……冗談よね……」

「おい……里奈……お前どうしちゃったんだよ」

「ディル・ブリス」

何の迷いもなく里奈は2人に向けて術を放った。

あまりのショックに二人は防御呪文をかける余裕もない

術の衝撃で数十メートル飛ばされ 岩陰にぶつかり意識を失った。

「よくやりました 里奈さん……さぁ僕たちのところへいきましょう」

「はい…クリス様」

里奈はクリスの放った術に包み込まれ2人はその場から消えた。

この後龍と早苗が目覚めるのは数時間先のことであった。

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