* 第12章  兄弟と姉妹 *
里奈が水の精霊と契約した同時刻 黒川彰は死に物狂いで走っていた。

「はぁはぁ……やっと学校に着いたぜ」

息を切らしながら黒川はアルケノス魔法学校に帰ってくるやいなや背中を誰かに叩かれた。

「うわっ!」

「うわっじゃないよぉ お兄ちゃん…。 今まで何処に行ってたの?」

そう言ってじっと黒川の顔を見たのは 黒川の妹の彩加だった。

「どこって別に何処にいってようが俺の勝手だろ?」

黒川はいつもよりきつい口調で彩加に言い放つとスタスタと寮の方に向かって歩き出した。

「待ってよ! お兄ちゃん!」

彩加は黒川の腕を掴むと ぐいっとこっちの方に引っ張った。

するとそのとき遠くの方から何かが聞こえた。

「黒川彰 あなたは存在してはならない……」

「だから死んでよ……」

と誰かの声が廊下内に響いた。

「あ? 今なんて言ったか?」

「え? あたし何もいってないよ はやく寮のところまで行こっ!」

「あ…あぁ」

黒川は彩加にあったせいなのかどうかはわからないが さっきまでの焦りがなくなったような気がした。

何故黒川は古の森にいたのか それは単なる冒険ではなく目的があったからだ。

前の授業で水の精霊の浄化の力はなんでも治せるというのを聞いたからである。

実は彩加は昔から持病を患っていて なんとかしてあげたいと思いたどり着いたのが精霊との契約であった。

それで水の精霊と契約しようと古の森に入ったのはよかったがある集団を目撃してしまったのである。

それは黒いローブを着た数人の禁魔法使いだった。

なにやら儀式を行っているようでボス的存在の人が誰だか 黒川には直ぐに分かった。

いそいで黒川は茂みに身を隠したが禁魔法使いはお手の物 直ぐに黒川に追跡用の禁魔法をかけたのである。

それで黒川は必死で学校まで走ってきたのである。
満面の笑みで彩加は黒川に問う。

「あー…まぁそこそこだな」

あいまいな言葉を彩加に返す。

寮に向けて さらに廊下を歩いていると後ろから追いかけるようにして複数の足音が聞こえてきた。

誰だ? と思い黒川はふと後ろを振り向くと 古の森で見かけた二人の少女がにこりと笑いながら二人に近づいてきた。

「お前は……」

黒川は警戒するように一歩下がる。
「ウフフフ こんにちは 黒川彰」

全く背丈も顔も同じような二人が同時に黒川に向けて喋った。
「いや…知らない」

彩加はぎゅっと黒川の袖を掴むと隠れるようにして後ろに下がった。

「私は ルナン」

「あたしは カナン」

丁寧な口調で挨拶をした姉妹はクスクス笑った そして急に表情がこわばりつぶやいた。

「あなたは見てしまった あのお方を… そして私達が禁魔法術者ってことも」

「だから口封じのために死んでもらうしかないの……」

「えっ? どういうことだよ!?」
「彩加! 逃げろ!!!」

「きゃっ!」 黒川はドンッと彩加の体を押すと すぐに杖を取り出し姉妹よりも先に呪文を唱えた。

「オルズ!」

杖の先から出た炎はルナンに向かったが いとも簡単に避けられてしまった。

「駄目だよ そんな初期呪文じゃ…ねー?」

「そうだよねー… やっぱりこのくらいの術はしないと……」

ルナンとカナンは杖に力を入れると邪悪な雰囲気が二人を包んだ。

「彩加! はやく逃げろって言っただろ!!」

「でも お兄ちゃんを放っておけないし…」

涙ぐんだ声で彩加はボソボソと言った。

「あれれ まだ逃げてなかったの?」

「あーぁ せっかくチャンスあげたのに 残念だわ」

ルナンは杖を両手で持つとブツブツとつぶやき始めた。

「やべぇ…彩加 走るぞ!」

「えっ!?」

「早くしろ!!」

流石の黒川もやばい攻撃がくると思い 彩加を連れて力の限り走り出した。

「逃げても無駄 手に入れた禁魔法の力を見せてあげる」

「ルナン 早くこいつらを殺っちゃってよ…」

カナンが退屈そうに言う。

「バニシュ・レイ!」

ルナンの杖から 球体の輝く光が作りだされ それを手に取ったルナンはニヤリと笑った。

「身動きできなくしてあげるから…」

その光り輝く球体は意識を持ったように彩加を狙いだした。

彩加も逃げながら杖を取り出し呪文を唱えた。

「ブリズ!」

無数の氷の破片は見事に球体に命中したが特に変化がなく 逆に球体に術が吸い込まれている感じがした。

「アハハハハ 逃げても無駄なのに 本当に馬鹿な兄妹だわ」

「ほんとだよね しかも初期呪文で何ができるの?って感じ」

ルナンとカナンは逃げ惑う二人を指差し笑っていた。

そんなことも知らない二人は必死で逃げていた。 球体は先ほどよりも大きくそしてスピードが上がっていた。

「きゃっ!」

不意に彩加は段差でつまずいてしまった そして球体が彩加の目の前で停止した。

「お兄ちゃん……」

「そこを動くな! 今そっちに行くからじっとしているんだぞ!」

「う…うん」

黒川が静かに彩加のところに行こうとしたときに ルナンとカナンが黒川の前に立ちはだかった。

「術ってね 思いが強ければ強いほど威力が増すらしいよ」

突然 意味不明なことをいいだしたルナンはニコリと笑った。

「だからね 今から実験しようと思うの」

カナンがルナンの後づけをする。

「妹を失ったらあなたの力がどのようになるかってこと…」

「ルナン 御託はいいから早く実験しようよ」

「ええ…早く実験結果をあのお方にも伝えたいしね」

そしてクスクス笑い 二人をじっと見た。

「オル・ボルズ!」

いきなり黒川が姉妹に向かって術を放った。 ルナンはすばやくよけたが カナンは遅れて被弾した。

「きゃあああぁぁあ!!」

「カナン!!」

カナンは倒れはしなかったが左右にふらふら体が揺れていた。

「よくもあたしの顔に傷を……ルナン! 早く殺してよ」

「ええ…言われなくても殺すよ カナン」

その言葉に黒川は素早く彩加に目を移すと既にうつ伏せになっていた。

「お兄ちゃん…動けないの…助けて…」

「彩加!」

さっきの球体も消えていて彩加の身に何かが起こっていることは確かである。

いそいで黒川は彩加のところに向かおうとしたがカナンに腕を掴まれた。

「駄目だよ動いちゃ……動いたら死ぬよ」

「くっ……!」

カナンの杖は黒川の心臓部分に触れていた。

「じゃあ いくよ カナン」

「早くして ルナン……」

「プロード・デス…」

ルナンとそう唱えると彩加の体が輝き始めた ただ輝いただけではなく周囲から煙が出ていた。

「お兄ちゃん…体が…熱いよ…熱い…助けて…」

衣服からも煙が出始めてやがて溶け出した。

「彩加!! 彩加あぁぁぁぁあ!」

「いやぁぁぁぁぁぁあああああ!!」

ドンッという乾いた音が廊下に響き 周りが煙で覆われた。

「どうなってるんだ 彩加は……?」

周囲をぐるぐる見渡しながら彩加の姿を必死に見つけ出そうとしたが煙で見つけられない。

「その子の腕ってこんな感じだった?」



ルナンが煙の中から姿を現し 黒川にポイッ何かを投げた。

それは紛れもなく 彩加の右腕だった。

「彩……加…」

黒川はそれを拾うと目から涙が溢れ出た。

「どう? あんたの妹 木っ端微塵になっちゃったね!」

カナンがさっきよりも腕をぐっと力をいれるとニヤニヤしながら言った。

「悔しいでしょ? 黒川彰… その思いを私たちにぶつけてみてよ」

「おまえら……ふざけんじゃねーぞ!!!」

黒川はバッとカナンの手を振り切って杖を構えた。

「ディル・ボルズ!!」

巨大きな炎が二人に襲う しかし二人は術を唱える様子もなく平然としていた。

「実験成功ね カナン」

「ええ 早くあのお方に報告したいわ でもその前にこの男を始末しないと……」

二人は一緒に一つの杖を持ち 唱えた。

「タウストバーン」

その炎は黒川の唱えたディル・ボルスをあっさりと打ち消しさらに 黒川を焼き尽くした。

「うあぁぁぁぁぁぁあああ!!」

黒川は膝から崩れ落ち身動き一つしなくなった。

「じゃあ いきましょ カナン」

「まぁ退屈しのぎにはなったわ」

そう言って二人は姿を消した。

焼け焦げた一人の青年と 木っ端微塵となった死体だけを残して………。

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