* 第11章  古の森 *
古の森は遥か昔からあり 研究者の調査だと3000年前から存在するらしい。

ここ数年くらいから古の森には一定魔法能力者が入れない結界が突如現れた。

多分この結界は水の精霊達が張ったのであろうと言われている。

研究者達は何度も古の森に足を運んだが一度も水の精霊とは出会うことはなかった。


「先生まだですか?」

龍が息を切らしながらアスベル先生に言う。

「もうそろそろ結界が張ってある場所につくと思うから………」

と先生が一歩前に進んだ瞬間 いきなり何かに弾かれて体ごと吹っ飛ばされてしまった。

「せ……先生!」

3人は先生の元へ駆け寄ると アスベル先生は既に立ち上がっておりなんだか考え事をしている

「ふぅ……危なかった…でもこの前の時よりも結界が広くなっている」

アスベル先生は自分の体を叩く(はたく)と3人の顔をじっと見つめた。

「もう僕はここから先に行くことができない……」

「そ そんな……」

早苗が不安そうな感じでアスベル先生に言った。

「そうだ 万が一に備えてこれを君達にあげるから……」

ポケットに手を突っ込み そこから顔を覗かせたのは3個の小さな“木の実”だった。

見た感じはどんぐり程度の大きさで色は緑 どう見たって万が一に使えそうな物ではない。

「その木の実は一体? もしかして非常食?」

龍はその“木の実”を手に取ってじーっと見ていると里奈が突然喋りだした。

「その木の実は“木枯らしの実”て言って魔薬を作るために必要な材料なの
 それは攻撃用でもあってその木の実を物や人に向けて投げるとその速さで実が砕けて風がおきるの」

「でもそれが万が一に役立つの?」

「あんたどんくさいわねぇ そんなの決まってるじゃない あたし達が危なくなったときに
 使うに決まってるでしょ ほら 目くらましみたいな役目よ」

ふーんと言って龍は早苗と里奈に1個ずつ木枯らしの実を渡して自分のはポケットにしまった。

「それじゃあ みんな頑張ってね 僕はここで待機してるから何かあったらその木の実を使うように」

「はい 先生!」

「おっと重要な事を言い忘れたよ…契約するときはコントラクトと言って自分の杖と相手の手を合わせると成立するから」

「はい 分かりました!」

「じゃあ いってらっしゃい」

3人は先生に手を振り結界の中に入るとすぐに景色が変わり始めた。

同時に先生の姿が見えなくなった。 どうやらここはもう古の森らしい。

不意に吹き付ける冷たい風 その風に揺られる木々の音 何か起きそうな気配がしてならない。

「なんか怖いなぁ」

龍の手先が小刻みに震えている。

「あんた 足手まといにならないようにしなよ」

早苗が手加減なしで肘打ちを龍の頬に食らわす。

「いってぇ……ところで水の精霊って何処にいるんだ?」

片手で頬を押さえながら龍は里奈に尋ねた。

「たしか水の精霊って湖に住んでいるっていう話を聞いたことが………」

その続きを言いかけた里奈は何かの音を感じとり話を中断した。

最初は草木が揺れてる音だと思ったがどうやら何かが草木を揺らしているようだ。

その音はやがて大きくなり草むらの中から勢いよく何かが飛び出してきた。

「わっ!」

いきなり出てきた何かに龍はしりもちをついてしまった。

「痛っ……」

龍が尻を撫でながら起き上がると そこにはなんと“黒川 彰”が3人をじっと見ていた。

いつもの怖い感じはなく どちらかというとおびえている感じがする。

そして黒川が3人の元へ逃げるように駆け寄りこう言った。

「俺は殺される……」

黒川は何度も3人に向かって言った。 目は血走っており片手からは血が滴れおちている。

これはただ事ではないと思い龍は黒川に事情を聞くことにした。

「一体何があったの!?」

「そうよ なんかやばい感じだし 何があったのか答えなさいよ」

「殺されるんだ 俺は……殺されるんだ! あはははは」

龍と早苗の質問には答えずに黒川は大声で笑いながら3人を通り過ぎていった。

里奈はふと振り向くと笑いながら走っている黒川のふくらはぎに見たことある模様が描かれているのがかすかに見えたが気のせいだと思い2人には言わなかった。

「何のあいつ 頭どうかしちゃったのかしら」

早苗がため息をつきながら言った。 「もしかしたらこれは黒川が俺らをからかっているとか……」

「にしても演技している感じじゃなさそうだったよね……」

里奈は黒川の異常なほどの焦り そして殺されるという言葉を連呼していたこと少し前に体験したのと似ている点が多いことに気づいた そう魔法街の時である。

そのことも2人に話そうかと思ったが 今話すときっと契約どころではないと思い 里奈は黙っていた。

3人はどんどん森の奥へと進むと 小さな湖が姿を現した。 そこの周りだけが霧で覆われていて何かありそうな雰囲気をかもしだしている。

「いかにもここに水の精霊がいますって感じね」

「にしても綺麗な水だな」

龍はしゃがんでそっと湖の中に手を入れると自分の背後に冷たい何かを感じる。

「また 早苗か? ほんといたずら好きだなぁ!」

そう言って振り向くとそこには 綺麗な女性が龍の肩に手を載せている。

早苗と里奈も突然現れた女性に困惑気味である。

「お前達 古の森に何用だ」



冷たい口調でその女性は龍に向かって言った。

「俺達はただ水の精霊と契約しに来ただけなんですけど……」

それを聞いてその女性はいきなり高笑いをした 同士に龍の肩から手を離し身構えた。

「その水の精霊というのは私だ」

「え!?」

「嘘でしょ!? この人が精霊なの!?」

「でもアスベル先生から見せてもらった本と似てるかも…」

里奈がポケットから杖を取り出し水の精霊に向けて言った。

龍も早苗もそれに続き杖を取り出し構えた。

「じゃあ水の精霊さん あたし達と契約しなさいよ」

早苗がいつもの口調で水の精霊に向かって言う。

だが若干 手が震えているのが龍には分かった。

「私に勝てたら契約してあげよう」

水の精霊が両手を広げると一気に場の空気が冷たくなり まるで冬みたいな寒さを感じる。

吐く息も次第に白くなり 木々が凍り始めた。

「何これ!? 周りがどんどん凍っていく」

早苗がさっきよりも強く杖を握り言った。

とりあえず3人はまず固まって行動することに専念した。

「オル・ブリズ」

つぶやくような感じで水の精霊は3人に向かって先制攻撃を仕掛けてきた。

アスベル先生とは比べ物にならないくらいの無数の氷の破片は3人を追いかけるように迫ってきた。

「右によけて!」

里奈が二人の背中を ドンッ と押した。

「うわっ!」

「里奈!!」

早苗は里奈の手をぐいっと引っ張りなんとか最初の攻撃をよけることができた。

かわした無数の破片は木々に突き刺さりその衝撃で木がなぎ倒されるほどの威力。

「次の攻撃でお前達は死ぬ」

水の精霊は両手を上に上げて何かを呟いている。

「さっきよりも数段上の術を使ってきそう」

里奈は2人に向かってコソコソ話をした。 それに2人は黙って頷くと3人は杖の先を重ねて身構えた。

「さあ 死ぬがいい!! ディル・アクリス!!」

水の精霊の手の平から勢いよく水が飛び出してきた しかし普通の水ではなく意志を持っている水であった。

「二人ともいいわね せーのっ!」

「ディル・シルド!」

そう唱えると杖の先から透明の円形が龍達の周りを囲った。

これこそ強化呪文である。

強化呪文とは同じ術を複数の人が同時に唱えると発生するのである。

なんでもできるわけではなく気持ちが通じ合ったときにしか成功しない難しい技。

「やった! 成功だ!」

龍から笑みがこぼれたのもつかの間 その水は形を変えて龍のようになるとその盾(ディル・シルド)を 突き破り3人を襲った。

「もう終わりか」

水の精霊はつまらなさそうな感じで言った。

強力な術は3人を吹き飛ばし龍と早苗は木々に打ち付けられその衝撃で気を失ってしまった。

里奈だけはさいわい草が生えているところに吹っ飛ばされたおかげでなんとか意識を取り戻した。

「うぅ……」

里奈は力を振り絞り立ち上がると後ろに水の精霊が立っていた。

「まだやるのか」

「当然です 私達にはどうしても助けたい子がいるの」

いつもとは違う口調で里奈は水の精霊を睨みつけた。

「ほぉ くだらんな 他の者を心配するよりもまずは自分の心配をした方がいいぞ」

再び水の精霊は両手を上げてまた何かを呟いている。

「……お願いアリスストーン 力を貸して!」

おもむろに里奈はアリスストーンを手にとり祈った。

「まさかそれがアリスストーンだと? 冗談がうますぎるな それとも気でも狂ったのか」

余裕の表情を浮かべている水の精霊はニヤリと笑った。

すると突然アリスストーンがほのかに光だし里奈はそれをぎゅっと手に握った。

「それが何であれ どのみちこれで終わりだ」

「お願い! 私に力を!」

「ディル・アクリス!!」

先ほど強化呪文を破るほど術がさっきよりも威力を増して里奈を襲う。

しかし里奈のアリスストーンはほのかに光っているだけで何も起ころうとはしなかった。

涙を流しながらも懸命に里奈はアリスストーンに願った。

「もう駄目なの? アリスストーン答えてよ!」

「もう諦めるがいいさ」

「え……?」

するとそのことに答えるかのようにアリスストーンは光り輝いた。

そしてディル・アクリスを跳ね返しそのまま水の精霊に向かっていった。

「な…跳ね返しただと!?」

水の精霊は避けようとしたが何故か足が動かない。

「うぅ……ぐはっ!」

ディル・アクリスは水の精霊の体を貫通して霧状と化した。

「なかなかやるな……いいだろうお前と契約をしてやろうではないか」

水の精霊はにっこりと笑い さっきまでの怖い感じが嘘のようだ。

周りの木々もいつの間にか元通りになっており 龍も早苗も木にもたれかかる様に座っていた。

「本当ですか!?」

驚いた表情をし急いで杖を取り出した。

「私の気が変わらぬ内に契約したほうがいいぞ」

「あ…そういえばあなたの名前を聞いてなかったけど…」

「私の名は アリア お前は確か 里奈は呼ばれていたな」

「はい よろしく アリアさん」

「こちらこそよろしく 里奈」

里奈はアリアに握手した。

「ではいきますね」

里奈はアスベル先生に言われた通りに杖を水の精霊の手に向けて唱えた。

「コントラクト!」

アリアの体が透け始め里奈の杖に吸い込まれていく。

「私の力が必要な時に呼びなさい 里奈」

「うん」

やがて完全に杖に吸い込まれると急に里奈の力が抜けた。

「やっと終わったみたい……あ! 龍君と早苗は!?」

フラフラした足取りで二人の元に駆けつくと茂みの中からアスベル先生が出てきた。

「あ…アスベル先生!」

「どうやら契約がうまくいったようですね やはり結界は水の精霊が張っていたものだったんですね」

「それよりも 龍君と早苗が……」

「大丈夫です 見たところ気絶をしているだけみたいですから」

「よ…よかった……」

里奈はよほどの疲れで すやすやと眠ってしまった アスベル先生はニコリと笑うと里奈の頭を撫でた。

「よく頑張りました では学校に戻りましょうか」

アスベル先生は杖を取り出し唱えた。

「ジャラール!」

4人の姿が徐々に消えた。 そして古の森はいつもの静けさに戻ったのであった。

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