File4 聞き込み
高校最初の定期テストが終わった頃、俺ら探偵部はあの一件以来特に目新しい事件もなかった。

あえて言えば、同じクラスの女子の体操服がなくなったのを解決したくらいだろうか。

まぁその犯人が女子だったというのが最も意外なことだったが。

「あのー部長さん……何か事件とかないですか?」

宮田がシャーペンを額に押し付けながら言った。

額にシャーペンの跡がわずかに付いてしまっているなんて言えない。

いや言ったところで何か変わることもない。

「うーん……今は特にないわねぇ。でも事件というのは突然起こるものよ
 だからこうしていつでも対応できるように毎日来てるってわけ!」

「でもいつもここに来ては、先輩達と雑談しているだけじゃ部活という感じがしませんよね」

図星をつかれたかのように部長の肩が、微かにビクついた。

元木先輩はというと、冷静にその状況を観察しながらパソコン画面と睨めっこをしている。

部室内に嫌な雰囲気が流れ出す。俺もなんだか眠気が出てきてこのままだと本当に寝てしまいそうだ。

なんとか体を起こし宮田のところへ駆け寄ってみると、なんだか右手が非常に速く動いているではないか!

もしかしてテストが終わったのに勉強をしているのか?

ますます何をしているのか気になり、ついには宮田の前まで来てしまった。

だが俺のことにも気づかず、宮田は瞬きもせず、紙になにやら書いていた。

「おい……お前何やってんだ?」

「……」

「おーい!」

「えっ?」

宮田はようやく気づき、俺と顔を見合わせる。

瞬きを数回しニコリと笑った。

「この絵が見たいの?」

「は?」

自慢げに宮田は自分が描いた絵を俺の顔が隠れるくらいの距離につきつけた。



なんといっていいのだろか……この絵は。

別に下手糞とまではいかないが、なんだか不思議な感じがする。

これも電波の力なのだろうか。 俺には到底理解できない。

「おお……いいんじゃないのか?」

「本当に!? よかった〜!いつも友達には”変な絵”って言われてたから
 初めて褒めてくれてすごくうれしい だからね……これあげちゃう!」

紙に”まどか”と自分のサインを書き記し、二つ折りにしては俺のポケットに入れた。

いや……こんなの貰っても特にうれしくはないのだが、ここで断ってしまったら

少しかわいそうだと思い、笑顔を返してもらっておくことにした。

「未解決な事件ならありますよ」

突然、さっきまで無言だった元木先輩の口が開いた。

ちょっと深刻そうな顔をして、こちらに見えるようにパソコンのディスプレイを傾けた。

“4月20日 深夜0時過ぎに 冨良野市 片桐町で20代前半の大学生が
血を流しているのが発見された。
警察側は状況から判断し、殺人と位置づけているが捜査は難航している模様。
切り口からみて凶器になったと思われるのは、ナイフや包丁。
しかし肝心の凶器は未だ見つかっていない。”

「あっそれって一ヶ月前くらいに起きた事件ですよね?」

「そうだね……この程度の事件ならすぐにでも犯人が見つかると思ったんだけど
 何も進展していないようだし……まぁこれを取り上げた一番の理由は犯行現場が近いということなんだけどね」

元木先輩はネットで検索した情報を印刷し、俺達一人ひとりに先ほどよりも細かい情報を与えた。

“被害者の名前は 相沢誠二(22)同県内の私立大学に通っていた
自宅は片桐町で 親と同居中
人付き合いも良く 特に問題はなかった様子”

というような内容が記述されていた。

特に気になる点もないし、第一印象としては”普通の殺人事件”。

もう数ヶ月もしてしまえば、犯人も見つかるのではないか?と思った。

「うーん……」

部長は顎に手を当てながら、何か考え事をしていた。

このシンプルな情報に何か引っかかるところがあったのか?

いや……ただ単に、この事件には面白みがないと思って却下するかしないかで迷っているのか。

「やっぱり変ね」

部長はみんなの顔色を伺いながら言った。

「変ってどういうことですか?」

宮田がそう言うと、部長はバッグから眼鏡を取り出しかけた。

何故、このタイミングで眼鏡をかけたのかは分からないが、そこを追求するのはやめておこう。

まずは何が変なのかを聞かなくては……。

「普通なら何処が刺されたか、書かれているはずよね……それがないってことは
 警察が隠しているとしか思えなくて、それかもっと別に理由があるのかしら」

「うーん、どうなんでしょうか……あまり大事にはしたくないという警察の判断かもしれませんし」

「とりあえず、この事件は興味深いわね! これでいきましょう」

部長の一声で俺ら探偵部は、この事件について調べることになった。

とは言ったものの、ネットでの情報には限界があり、やはり現場に行って聞き込みをした方がいい。

日曜日なのにもかかわらず探偵部一同は、隣町の片桐町に向かうことになった。

俺は約束された時間通りに学校に到着すると、既にみんなは俺がくるのを待っているかのようだった。

ちなみに、朝人もその中にいた。

元木先輩とまだ会ったばかりなのに、かなり打ち解けている様子だった。

そのスキルが、朝人の誇れるものなのだが本人は自覚していないらしい。

「そういえば、朝人は今日野球部の活動あるんじゃなかった?」

「あぁ、今日は監督がいないからって休みになったんだ」

朝人は、買ってきたジュースを取り出し、飲みながら言った。

気温は5月初めなのにもかかわらず暑く、今年は異常気象らしい。

道行く人は軽装で、朝人に至ってはタンクトップを着ている。

「よし! 揃ったわね……早速片桐町にいきましょう」

部長は自転車に乗り、こちらを向いてニコリと笑った。

それに準じて俺らも自転車に乗り、一向は片桐町へ。

片桐町は、俊助の住んでいる富良野町の隣町で商業施設が発展しているところだ。

昔ながらの商店街もあれば、駅近くには若者向けの店が立ち並んでいる。

今後も、土地開発がされるとのことで結構活気がある。

まず、俊助達は30分かけて現場近くのレストランに行くことにした。

時間はまだ昼前だったが、朝人が”腹減った”とうるさいのでひとまずこの形をとることに。

「俺ここのオムライスランチが大好きなんだよな」

「……じゃあ俺もそれで」

それぞれ自分の食べたいメニューを頼み、注文したものがくると、みんなかぶりついていた。

朝人だけでなく、みんなもお腹すいていたのか。

まぁ、30分も自転車を漕げば、腹も減るかな。

冷静な態度で周りの状況を見ている俺だったが、口の中は卵と米でいっぱい。

いわゆるハムスターがひまわりの種を頬張っている感じだ。

「これを食べたらすぐに聞き込み開始だから、みんな覚悟しといてね」

「ふぃわかひまひぃた(分かりました)」

部長は、カバンから地図を取り出すと、赤ペンを取り出し、何箇所も丸をつけていく。

「えーと、5人いるから2人と3人で分かれて調べることにしましょう」

部長は俺の顔をじっと見ていった。

もしかしてこれは部長と俺という組み合わせを狙っているのだろうか。

俺は見つめる部長の目を逸らさずにはいられなかった。

あんな近くで見られたら、誰だって逸らしたくなるはずだ。

「うふふ……じゃあ、あたしは川合君とタッグを組むことにするわ!」

「まさか……松村部長それが狙いだったのでは?」

元木先輩が鋭く突っ込みを入れたが、部長はそれを無視して俺の手をいきなり握った。

何故か顔が熱くなる。今日の気温も暑いことながら、俺の顔は沸騰していた。

今までこんな風に握られたことなんてないし、ましては女と……。

「ねぇ……駄目?」

この言葉に俺は撃沈した。

自然と口が”はい”と答えていた。

食事を済ませた俺達は、部長が丸をつけた場所に向かうことになった。

しかし、俺と部長、男女が1組、これはある意味デートみたいな感じに思える。

一方、朝人と元木先輩そして宮田は和気藹々とした感じで目的の場所へと向かっていく。

あの三人、一見凸凹に見えるが案外いいかもしれない。

天然が一人、電波が一人、それを上手くまとめるのが一人……。

俺と部長が目的地に着くと、商店街の裏通りといったところか、人の数も少なく、交通量も少ない。

このような静かな場所で犯行をするにはうってつけといっても過言ではない。

「ここら辺が犯行現場ね」

部長は地図を折りたたみ、ある場所を指さした。

そこには、白いチョークでうっすらと色々な文字が描かれている。

多分これは、警察が色々と調べた形跡に違いない。

俺と部長は、その周辺の家々に当時の状況を聞くことにした。

「あのぉ……すいません 突然お邪魔してすいませんが……一ヶ月前に起きた事件についてなんですが」

「はい?あなた方は警察の方ではないですよね?一体どのような関係で?」

「えっと……冨良野高校の探偵部の者で……この事件について色々と調べているんです」

「あぁ 昔警察の事件でも解決できなかったのを……」

家主は、何やら考え込んだ。

そのまま少し黙りこんだかと思えば、何かを決心したかのように口を開いた。

「あのね……この事件の第一発見者がいるの。その人に聞いてみるといいじゃないかしら
 名前は大平学(おおひらまなぶ)さんでこの道の突き当たりに住んでいる人よ。何かいい手がかりがつかめるかもしれないわ」

何故言う気になったのか?と尋ねると、この事件はどうやら普通の殺人事件ではないらしいとの事だ。

それは俺達探偵部でも疑っていたが、それが本当のことであれば、これは難解の事件に思える。

「情報をくださりありがとうございます」

「いえいえ……警察もこの事件は既に捜査打ち切りになっていたし……」

家主に頭を下げて、俺達は大平学という人物を訪ねることにした。

大体この手の事件は身内関係が多いのだが、状況から見て身内犯ではなさそうだし

一番考えられるのは通り魔、さらに言うと、第一発見者が怪しいのは当然である。

「こんにちは、冨良野高校の探偵部の者ですが、数ヶ月の前の事件についてお聞きしたいのです」

するとすぐに玄関が開き、家主”大平学”が姿を現した。

年齢的には60代後半、とてもやさしいそうな感じがする。

俺達はすんなりと家に招き入れられ、お茶と和菓子で持て成された。

「えっと……」

緊張して口ごもると大平さんが、先に喋りだした。

「わしは事件当時の夜、いや深夜だったかな、ふと喉が渇いて近くの自動販売機に行こうとしたのじゃ。
するとな、一人の男が数メートル前を歩いていたのじゃ。
こんな深夜で一人、この通りで何をしているのかなと思えば、誰かと電話をしているようだったのじゃ。
それはそれで特に気にもしなかったのだが、いきなりその男は携帯を落としたのじゃ。
何かあったのかと思い、声をかけようとしたら、黒い物体がわしの後から飛び出してきて
男の上半身を真っ二つに切り裂いたのじゃ。ありゃ人間がやったとは思えん。」

大平さんは体を震わせながら、当時の状況を俺達に話してくれた。

「このことを警察に話しても、誰も信じてくれないし、逆にわしが痴呆だと言われとる」

確かにこの人の意見を普通の人間だと、ただの戯言にしか聞こえないであろう。

もちろん、俺もこんな馬鹿げた話を信じるわけない。

多分、深夜だったから暗くてよく分からなかったであろう。

「しかし……真っ二つってニュースでもそんなことを言っていませんでしたよ?」

「そりゃお前さん……それを報道されたら警察はたまったもんじゃなかのう。
 それくらい分かるであろう」

「そうよ。上半身が切断だなんて報道陣につたえたらそれこそ大事件に発展するに違いないわ。
 それで警察は色々と面倒なことになるし、周辺住民に不安感を与えてしまうわ。
 簡単に言えば、大事にしたくないのよ」

部長はいつもの表情とは違い、真剣そのものだった。

大平さんが、話していることをつねにメモに取っていたし、はたから見れば、事情聴取をしているようにも見えないことはない。

しかしながら、大平さんの話すことには証拠が一切ない。

さらに言えば、この事件は発生してから数ヶ月も経っているし、信憑性も薄いのも確かだ。

「大平さん、情報の方ありがとうございました。探偵部にお任せください!」

部長は立ち上がり、大平さんと握手をし、俺も流れ的に握手をしてその家を出た。

「部長、こんなすんなりと話してくださると思いませんでしたよ」

「やっぱり、未解決のまま事件が過ぎ去っていくのが嫌なのかしら……
 早く犯人が捕まって不安を解消したい。というのもありうるわね」

その後、俺らは何件が家々を訪ね、当時の事件について聞いてまわった。

時は刻々と過ぎ去り、携帯電話で副部長らと連絡を取り、学校に戻ることにした。

「遅いぞ〜!」

探偵部のドアを開けると、朝人が待ちくたびれた様子で俺らを迎えた。

「ごめんごめん……電話の後も聞き込みしてたら遅くなっちゃった」

「いえいえ、別に構いませんよ」

「うん!私達、それほど待ってなかったし」

部長は空いている席に鞄を置き、メモ帳を取り出し、部員に集合を呼びかけた。

「じゃあ、早速今日収穫した情報を発表しましょうか!」

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