File3 課題
授業後、宮田と俺は、探偵部の前でじっと待っていた。

朝人はというと、野球部の練習が休みの場合や暇な時に来る予定になっている。

外のグラウンドからかすかに聞こえる球児の声はもしかしたら朝人かもしれない。

窓の外を見つめながら、俺は宮田に背を向けていた。

「ねぇ……川田君って本当は野球部に入りたかったんじゃないの?」

宮田はいきなり俺に話しかけてきた。

しかも内容が内容なだけに、ちょっと反応しづらい。

「いや……別に入りたいなんて思ってないよ」

「ふーん……ならいいんだけど」

そこで会話は途切れた。涼しい風が吹きつけ部屋の中に桜が入ってくる。

宮田はそれを拾ってはじっと見つめていた。

「桜って本当に綺麗だよね……なんでこんなにも美しいのかなぁ」

宮田は窓の外へ桜の花びらを放り投げた。

花びらはひらひらと地面に向かって落ちていく。

そして最後は地面に着地し、風でどこかへ飛ばされてしまった。

「松村先輩まだかなぁ?」

宮田はくるりと方向転換をし、部室のドアをじっと見つめる。

すると中からドアがいきなり開いた。

「ん?君達は……あぁ……松村先輩から聞いてるよ 入って……」

めがねをした少し髪の長い男子がこちらに声をかけてきた。

どうやらこの人が昨日、松村先輩が言っていた 2年生の男子なのだろう。

俺は宮田の後に続いて中に入る。

昨日とは違って既に電気もついていて内装もよく分かる。

今気づいたのだが、パソコンが2台ある。

その一つに2年生の男子は座り、喋りだした。

「僕は2年生の元木一成 一応探偵部の副部長をしてる……」

「えっと……よろしくお願いします」

2人は元木先輩に挨拶をし、そこらへんに空いている席に座った。

「まだ松村先輩が来なさそうだから……質問とかがあったら……答えるけど」

「あっ……それならありますよ! ちょっとアホらしいかもしれませんが……
 そもそも何故探偵部があるんですか?」

「あぁ……普通はその質問するよね……じゃあ答えようかな」

元木先輩はキーボードに何かを入力しマウスでクリックした。

数秒後、こちらにディスプレイを見えるようにまげて説明しだした。

「探偵部って言うのは作られてまだ5年ほどしか経っていないんだ……
 設立前は”ミリテリー研究会”といって、サークルみたいな感じで活動をしていたわけなんだけど
 ある日、ここら辺で事件が起こってね……それを捜査しているうちに警察より早く犯人を見つけてしまった
 っていう……なんとも信じられない話なんだけど」

淡々としゃべっていき、当時のサークルメンバーの写真やら、活動日誌などを織り交ぜながら説明をする。

「その成果を認められて、探偵部というのができたのはいいけど……その解決した人は受験やら
 就職やらでやめてしまって……今はこの通り 部ができたころは30人ぐらいいたらしいけど……」

ディスプレイを元に戻し、マウスをクリックすると、パソコンの電源が消える音がした。

一瞬、静かになったと思いきやドアが勢いよく開いた。

我らの部長、松村先輩の登場だ。

「おお!みんな来るの早いじゃない!」

「先輩が遅いだけですよ……終礼後何十分経っていると思っているんです?」

元木先輩は、壁にかかっている時計を指差し、松村先輩をじっと見た。

「あれ?あれれ? まぁいいじゃないの!一年生の子も来ているし……早速新学期初の部活を始めましょう!」

松村先輩はカバンからいろいろなものを机の上に広げた。

電子辞書、推理小説、意味のわからない小さな像、筆記用具、その他諸々。

「まずは……一年生に課題ね!」

「課題!?」

松村先輩は、ノートに鉛筆で何かを書き、俺と宮田に見せるように渡した。

「”血で染まるピアノの謎を解け!”……って何がなんだか分からないんですが」

「うーん……真っ赤なピアノってことね!」

「いやいや……それは違うから」

宮田がまた変なことを言い出し、それを真っ向から否定していた俺を見て、松村先輩は笑っていた。

「いいコンビじゃない!早速解決してきて頂戴!」

「で…でもこれだけじゃ 何が何だかさっぱり分からないんですけど」

「そういうのは人に聞けばいいじゃないの!うちは探偵部なんだから」

しぶしぶ俺は了承し、はしゃぐ宮田と共に部室を出た。

さて、どうしようか……まずは人にこの噂が本当なのか確かめないと。

俺と宮田はそれぞれ分かれて捜査を開始することに。

やっぱり、一番聞きやすいといえば同じクラスの奴だよな。

と言ってもまだそこまで仲いい奴いないし、そうだ!朝人に聞いてみることにするか。

俺は下駄箱に行き、外履きに替えて、野球部の練習場に向かった。

「あー……あのー」

フェンス越しに、部員に声をかけてみる。

一人が反応してくれて朝人を呼ぶようにお願いしてみると、すんなりと承諾してくれた。

「おい!森山!なんか友達が呼んでるぞ!」

「うッス」

朝人はフェンスを出て、こちら側に姿を現した。

体操服は土で汚れていて、頬からは汗がにじみ出ていた。

「おう!俊助どうしたんだ?」

「えっと……探偵部で課題が出たんだけど協力してくれないか?」

「課題?……結構本格的なんだな もちろんいいぜ!」

俺は朝人に課題の内容を伝えると、腕を組んで考え始めた。

そして何かを思い出したかのように、指パッチンをした。

「そういや 先輩がその噂してたな……別館棟2階の音楽室のピアノが赤く染まるとか」

「ありがとう……練習中邪魔して悪かったな」

「いや……別にいつでも聞きに来いよ!」

「ああ」

朝人はフェンスの中に入っていき、俺は野球場を後にした。

まさかあいつから結構いいヒントを引き出せるとは思いもしなかった。

そういえば、宮田の方はどうなっているのだろうか?

俺は、下駄箱に戻ると宮田が手を振っていた。

「川田君!いい情報はいったよ」

「俺もいい情報手にいれたよ」

宮田は俺にメモ帳の切れ端を見せた。

本館棟2階音楽室 夜8時ごろにそれを見た生徒がいた 天井から血がにじんでいた。

これはすごい情報ではないか!? それに比べて俺は……。

「川田君はどんな情報を手に入れたの?」

「あー宮田と同じかな」

とりあえず俺らは一旦、探偵部に戻ることにした。

中では松村先輩と元木先輩が机でぼーっとしていた。

「おかえりー!進展はしたかな?」

「まぁ……一応」

「んじゃ……松村先輩今日のところは終わりにしませんか?僕達は特にやることありませんし」

元木先輩はカバンに筆記用具を詰めながらいった。

松村先輩もそれに同意し、部室の電気を消して全員部屋からでた。

「期限は明日までってことでよろしく!んじゃ!」

「えっー!」

松村先輩と元木先輩は俺と宮田を部室の前に置いていき、さっさと行ってしまった。

明日までってことは、つまり今日にも解決しないといけないってことじゃないか。

宮田が集めてくれた情報だと、午後8時ごろに本館棟2階音楽室で目撃ってあるが……

もしかしたらガセネタかもしれないし、一体どうするべきなのか。

「とりあえず午後8時まで音楽室で待つっていうのはどう?」

「えっ!?」

流石電波少女 考えることが人とは並外れている。

だが、宮田の言うとおりそうするしか直に噂を確認する手立てがない。

俺はこいつの意見にかけてみることにした。

もちろん……期待なんかしていない。

「音楽室の鍵は……」

俺と宮田は音楽室の前に着いた。

いつもなら鍵でしまっているはずなのに、今日はどうしてか開いていた。

「あいている……」

「とりあえず入ろうか」

中に入ると、窓も開いていてカーテンが風に吹かれていた。

日も段々傾いていて夕焼けが綺麗だ。

「あと……3時間弱もあるけど」

「どうしようかな……そうだピアノ弾いてあげようか!」

「いや……どっちでもいいけど」

そんな俺の言葉を無視して、宮田はピアノを開けて椅子に座った。

こうしてみると、なんだか弾けそうな雰囲気が漂っている。

自分からピアノを弾くってことは、自信があるって証拠だ。

俺は少し期待し、空いている席に座り聞くことにした。

「じゃあ弾きます」

宮田は鍵盤に手を添えてゆっくりと弾き始めた。

曲は分からなかったが、すごく気分の良くなる曲調だ。

気分がよくなりすぎてまぶたが重くなる。

俺は次第に意識を失ってしまった。

「おーい!川田君起きて!」

背中を叩かれ、俺は驚くように立ち上がった。同時に椅子が転げ落ちた。

空は真っ暗、カーテンはおとなしくなっていて、部屋の電気は消されていた。

「もう8時前なんだけど……でもちょうどよかったかも」

「ちょうどいい?」

あぁ忘れていた。俺がここにいるのは松村先輩から出された課題を解決するためにいるんだった。

目的を思い出し、俺は8時になるのを待った。

「もうそろそろ8時……」

携帯で時刻をちまちま確認しながら、俺と宮田はじっとしていた。

そして8時がやってきた。

携帯のツールで設定していたバイブが鳴り出す。

俺は設定を解除し、天井の壁をじっと見つめた。

特に変わった様子はない。

まさか……ガセだったのか!? そんなことが脳裏をよぎった時に宮田が悲鳴を上げた。

「川田君……あ……あれ!」

もう一度天井に目を移すと、赤い何かが染み出していて、一滴また一滴とピアノの上に落ちていくではないか。

まさかこの噂は本当だったのか!という感動と同時に恐怖が沸いてくる。

足がガクガクと震えだし、その場から離れたくても動けない。

「電気……つけないと!」

俺はよろよろした歩調で音楽室の電気を全てつけた。

やはり赤い液体はピアノの上にポタリと落ち続けている。

「あれ?」

宮田が首をかしげた。

何か引っかかることがあるらしくピアノに付着した赤い液体をじっと見ては手にとっていた。

「なーんだ……これ絵の具じゃない ビックリした」

「絵の具?」

俺も赤い液体を触って臭いをかいでみた。

独特の絵の具の香りがし、すぐに手から顔を離した。

「なんだよ!絵の具かい でもなんで天井から絵の具なんて……」

「分かった!ちょうどこの上の階は美術部の部室」

俺と宮田は急いで美術室の鍵を職員室から借り、ドアを開けた。

中は暗く電気をつけると、一人の男の人がぐっすりと眠っていた。横には赤いペンキがぶちまけられていた。

「あのー起きて下さい」

俺はその男の人を起こすと、ビックリした様子で手に持っていた筆を両手でしっかりと握りだした。

「あ…あれ? 君達は……?」

「探偵部の部員です」

男の人の顔を見て宮田はふと思い出した。

この人うちの美術の先生だということを。

「なんだ……美術の先生だったんですね てっきり不審者だと」

「あははは……実は来週に展覧会に出品しなきゃいけない作品があってね
 あまりにもサイズがでかいからこうして学校でしか作業ができなくて
 こうしてよく眠っちゃうことがあるんだ」

「大体この後は予想がつきます……寝相が悪くて足でペンキを蹴ってしまってぶちまけてしまった
 それが地面にしみこんで2階の天井から垂れていたと」

「君の言うとおり……だから作業がひと段落したら2階に行って天井のしみを白いペンキで塗って補正してたんだ。」

「それを居残りしていた子が目撃して赤いペンキを血だと勘違いした」

俺の推理は完璧だった。宮田も頷き、この噂は美術の先生が原因だということが分かった。

ついでに携帯電話のカメラで証拠写真をとることもしておいた。

これにて課題は解決!俺は自信を持って明日松村先輩に報告できるわけだ。

俺と宮田は美術の先生と共に後片付けをして、正門を出た。

時刻はもう9時を回っており、月の光と街頭の光しかない。

「じゃあ 川田君また明日ね!」

「あぁ またな!」

宮田と別れて俺は自転車を一生懸命漕ぎ、家に着いた。

このあと親に叱られたというのは言わなくてもわかることだ。



次の日の授業後、宮田と俺は探偵部の部室にいた。

松村先輩と元木先輩は証拠画像とメモ帳をじっと見つめていた。

「はい!ご苦労様……よく頑張ったわね」

「一年生にしては……すごいと……思うよ」

「やった!」

「やったね 川田君」

俺はガッツポーズを自然としていて、それを自分で気づいたときはすごく恥ずかしかった。

「川田君……探偵部って楽しいでしょ?」

「そうですね ちょっとやる気が沸いてきました」

素直にそう思ったことを口に出してみた。

事件を解決するってこんなにも気持ちのいいことなんだ!と初めて思った。

宮田はというと終始ニコニコしっぱなしだった。

あれほどうれしい顔を見るのは、初めてだ。

「今日の部活はここまでね……次部活は3日後にするわ」

「何か予定でも入っているんですか?」

「実はミステリー愛好家のメンバーで週末お泊りすることになってるの!」

「そ……そうですか」

週末俺は、早く学校の宿題を済ませて家でテレビを見ていた。

「何にもやってないな」

適当にチャンネルを切り替えていると、なんだか見たことのある景色が映っていたのでそのチャンネルで止めた。

音量を上げてみると、どうやら事件があったようだ。

“昨日の深夜0時過ぎに 冨良野市 片桐町で20代前半の大学生が血を流して倒れているのを……”

「片桐町ってお隣じゃないか……家から自転車で20分もすればいける距離だな」

俺は他人事のように振る舞い、テレビを消して自分の部屋で昼寝をすることにした。



この小さな事柄が後に大きな事に発展していくとは、誰も予想することができなかった。

2style.net