File2 入部
授業終了のチャイムが鳴り響いた。

最近、この学校のチャイム音にも慣れたような気がする。

そして、決まってこのタイミングに朝人が俺のところに走ってやってくるようになっていた。

「なんだお前 そんなニヤニヤしちゃって」

いつもテンションが高い奴だが、今日は一段と気分が乗っている様子だ。

何故かと問いただせば、今日は部活の紹介らしい。

もうそんな時期かと思っていると、校内放送が入り今から体育館で部紹介をするとのことだ。

俺と朝人が体育館に向かうと、かなり盛り上がっており、新一年生は友達と何処に入るのかなどと会話をしていた。

「そういえば 俊助は何処に入る?」

「あー……まだ決まってないな」

そういえばこの学校は、最低一年間は部活に参加しなくてはいけないということを思い出した。

さて、何処に入ろうか。朝人は多分野球部に入ると思うし、でも俺は野球部とかそういうめんどうなのは嫌だしな。

色々考えこんでいると、朝人が頭をポンポン叩いてきた。

「じゃあ 俺と一緒で野球部ってのはどうよ! ぜってー楽しいぜ!」

「あぁ…まぁ……」

俺は言葉を濁し、朝人の元を離れ、名簿順に整列をした。

生徒達の会話も徐々に減っていき、少し経って完全に静かになったところで部紹介が始まった。

「これから部紹介を始めます 最初に運動部からの紹介です」

生徒会のアナウンスと共に、体育館の入り口から運動部の各キャプテンが壇上に上がっていく。

それぞれユニフォームや使用する道具などを身につけていた。

「では 野球部の部紹介をお願いします」

「はい!」

図太い声が響き渡る。頭は坊主、焼けた肌、俊助はピンときた。

こりゃ朝の練習もあって、放課後の練習とか絶対日が落ちてもあるかなと。

案の定、俊助の思っている通りにかなりのハードスケジュールなことが判明。

野球部の部紹介が終わり、次々と紹介されていく。

中には一発芸もするものもおり、体育館内は笑いに包まれる場面もあった。

「運動部の皆さんありがとうございました 続いては文化部の紹介です」

運動部のキャプテンたちが壇上を降り、次に登ってきたのは文化部のキャプテン。

そこにどうみても場違いな感じな奴が一人いた。

「着ぐるみ?」

「なんだあれ?どこの部活なんだ?」

どの生徒も着ぐるみに注目していた。

俺も若干気にはなったが、どうせ適当な部活なのだろうと思っていた。

生徒達がガヤガヤとなっている中、文化部の紹介が始まった。

「では 吹奏楽部からお願いします」

楽器を見せたり、少し吹いて見せたりして、生徒の反応をうかがったりしていた。

運動部とは違い、盛り上がりにはかけたが、真面目にやっているのはしっかりと伝わっていた。

「ではこれで部紹介を終わります」

生徒会が席を立とうとした時、着ぐるみが動き出した。

生徒会のマイクを奪い取り、頭の部分をはずした。



「ちょっとまだ あたし達の紹介が終わってないわよ!
 おっと失礼……あたし達は探偵部という一風変わった部活をしています
 内容は日々の生活の中で不思議に思ったことなどを調べて発表することです
 実績は3年前に起こった”少女殺害事件”の犯人を特定したことです
 少しでも興味がある人は探偵部に是非入ってください!お願いします!」

そう言って頭の部分を拾い、素早く体育館から姿を消した。

ものの1分の出来事だった。

生徒達は呆然としていて、生徒会の人も取り乱していた。

ちょっとした騒動があったものの無事に部紹介は終了し、生徒達はそれぞれの教室に戻っていった。

「少女殺害事件……」

教室に戻ってから俊助は考えごとをしていた。

あの探偵部のキャプテンの言っていた”少女殺害事件”

たしかあれは警察でも捜査が難航していて、お手上げ状態だったのを数人の学生が解決した、

というのはテレビで見たことはある。まさかそれがこの学校の探偵部だったのには驚きだ。

「考えごとか? 野球部に入ろうとか思ってるとか?」

「いや……俺はもう野球はやらないよ いろいろとめんどうだからな」

「えーマジかよ 俊助と一緒に野球ができると思ったのにな」

朝人は残念なそうな顔をした。

「まぁ見てまわるだけなら一緒でもいいよ」

ちょっとストレートすぎたかなと思い、急いでフォローをした。

「よーし!じゃあ終わったら見に行こうぜ!」

さっきまでの顔が嘘のように変わる。

本当にこいつは単純だ。まぁそれが朝人のいいところかもしれないが……。

いつもより遅い終礼だったが、生徒達のテンションは保たれたままだった。

部活動をしている場所のプリントを配布され、部活見学の時間が始まった。

「まずはやっぱり野球部だ!」

朝人は俺の腕を掴みながら廊下を車のように走りぬけ、野球部の練習場所に向かった。

既にたくさんの生徒達が見に来ており、中には中学で県大会まで行った子までいた。

「おお!やってるやってる!」

朝人はジャンプをしフェンスから野球部の光景を見ようと必死だ。

俺も背伸びをし、野球部の練習風景を見る。

ちょうどそのときはバッティング練習をしているところで、大きな背たけの人が打ち上げた瞬間だった。

「おっ?こっちくるぞ!」

「やべぇ!」

ボールは見学側に飛んでくるや否や、朝人の顔面を直撃した。

「いってー!」

公式ボールは堅くて危険だが、どうやら鼻血は出ていないようだし、そこまでひどくはなっていないようだ。

俺は顔面から落ちたボールを拾うと、部員がフェンスから出てきてこちらに向かってきた。

「あーすまねー」

「いや…別にいいッスけど」

俺は朝人にボールを渡し、それを部員に渡した。

「あれ?お前森山じゃね?」

「え? あ! 上田先輩!?」

上田先輩 俺の中学の時の野球部のキャプテンだった人だ。

誰にでも優しくて、よく一年生の指導などもした いい先輩だ。

まさかこの学校に入学していたとは思わなかった。

しかも、中学とあまり変わってないようだし……強いて言えば少し背が高くなったくらいだろうか。

「森山!川田! お前ら……体験練習とかしないか?」

「やりますよー!」

「俺は……」

多分ここで踏み入れたら、野球部に入らされるのは確実だ。

俺は決めたんだ。もう野球はやらないと。

俺は朝人とは逆の進行方向に進む。

朝人はこっちを向いて、お前も来いよ!みたいな目をしていたが、気にせず俺はその場を立ち去った。

才能のある奴は本当にうらやましいほどだ。やればできるなんて言うけど、やってもできないことも多々あるに決まっている。

朝人を置いていき、俺は落ち込みながら廊下をゆっくりと歩いた。

全ての物が荒んで見える。賑わっている声も俺を卑下している声に聞こえてしまう。

ネカティブ思考になるフィルタが目に取り付けられた感じだ。

まぁいいさ 適当な部活にでも入って幽霊部員になればいいことだ。

俺は逃げる理由を見出し、自分のクラスの下駄箱に向かおうとした。

もう帰ろう。家に帰って学校から出た課題でもやろう。

「おい!俊助!」

突然後ろから声がした。先ほど置いていった朝人だった。

「なんでお前こんなところにいるんだよ 野球部の体験練習じゃなかったのか?」

「あーそれはまた今度ってことにしたんだ! 俊助一人だけ残しちゃ可哀相だしな!」

朝人は俺の肩を掴み、満面の笑みを浮かべてこちらを見た。

「つーことで 見学の続きしよーぜ!」

「いや……俺は今から帰ろうかと」

「まぁまぁ……そういわずに!」

無理やり俺のカバンを取り上げ、2Fの階段を素早く上っていく朝人。

「おい!待てよ!」

俺もムキになり、朝人の後を追う。

あいつあんなにも足速かったか? いや……おれが遅くなっただけなのか?

あっという間に朝人を見失った俺は、冷静になろうと深呼吸をした。

こういう場合は近くでこちらの様子を伺っているに違いない。

例えばこの突き当たりの角とかでじっと見てそうだ。

俺は静かにそして物音を立てずに、角のところまで辿りつき、タイミングを見計らって飛び出した。

「見つけたぞ!」

「俊助!?」

ビックリして朝人はその場にしりもちを着く。

俺は素早くカバンを朝人の手から奪いとった。

「ごめん……こうでもしないと俊助一緒に回ってくれないと思ってさ」

「分かったよ 帰るのはやめにして部活の見学の続きってことでいいよ もう……」

「おう!」

俺と朝人は歩き出し3Fへと足を運ぶ。

だが少し雰囲気が違うというか、物静かな感じがする。

さっきまでの賑わった声が嘘のように聞こえないのだ。

「ここには……どの部活が活動しているのか」

俺はプリントを取り出し、確認をする。

「探偵部か……」

とりあえずこの場にいても仕方が無いので、プリントに書かれた探偵部の場所に向かった俺達は唖然とした。

「これは……」

どうみても物置でしか使われていないような部屋。

外から見てもそのようなイメージを想像させるということは、一体中はどうなっているのか。

しばし、俺と朝人は考え込み、ぐるぐると部屋の入り口を行ったり来たりしていた。

どうしようか……。このままドアを開くか、それとも引き返すか。

「なぁ朝人 ちょっとこの部活怪しいし……他のところにいこうぜ」

「それは同意だな!」

俺と朝人が3Fの階段を下りようとした時、探偵部のドアがものすごい音を立てて開いた。

ビックリして振り返ると、部紹介で着ぐるみをしていた人がこっちに向かって走ってきたではないか。

普通ならば、逃げ切れるわけなのだが、彼女の気迫がすごかったのか俺の足は動かなかった。

それは朝人も同様だった。

彼女は俺と朝人の目の前で止まり、こちらの顔をじっと見つめる。

無言で頷き、腕を掴み、俺達は探偵部に引きずり込まれてしまった。

「ちょ……ちょっと!」

「な……なんだ!?」

「2名様はいりまーす!」

それと同時に薄暗かった室内が急に明るくなる。

あまりの眩しさで一瞬目を手で覆ってしまうほどだ。

「ここに来たってことはもちろん入部希望者だよね?ね?」

「いや……俺はただ見に来ただけであって……」

朝人に助けるを求めるべく、横目でチラリと見ると、部員らしき女の子と会話をしているではないか。

「おっ……おい!」

「あ!川田君だ!」

朝人よりも早く反応した部員の女の子。いや部員ではない……宮田まどかだった。

何故こいつがここにいるんだよ!っと、まず突っ込みたいところだが今はそんな場合ではない。

入部を断らなければ……。

「川田君も探偵部に興味あるんだね!私みたいにミステリアスな感じのがすきなんだね!」

笑顔いっぱいで話しかけてくる宮田、お前少しは空気読め。

「あぁまぁ……でも朝人はあまりこういうのは好きじゃないだろ?」

「いやーでもいいかも! 探偵部だなんて滅多に存在しない部活じゃん」

駄目だこいつ……早くなんとかしないと……。

そうだよ!朝人には野球というスポーツがあるではないか。

その話を持ち込めば、この場を凌げるはずだ。

「お前は野球部に入る予定なんだろ?だったら探偵部に入れないじゃないか」

「あーそういえばそうだったな!じゃあ入れないや!」

よしこの勢いにのって、俺も適当な口実を並べて入部しないと言ってしまえばいいこと。

このチャンスをものにしなければ!

「知ってる?この学校の部活制度のこと……
 ここは運動部と文化部それぞれ一つずつ入部することが可能なのよ
 つまりこの子は探偵部に入れるってわけよ!」

言ってやったわよ!みたいな雰囲気でこちらの顔色を伺う。

俺の計画は砂で作った城が風で飛ばされるかのように散っていった。

「よし!じゃあ入部決定ってことでいいわよね!?」

「もちろん!」

「あぁ……まぁ」

俺と朝人は彼女と握手をして、それぞれの名前とクラスを伝えた。

「森山君と……川田君ね……あたしの名前は松村理恵 探偵部の部長よ」

「あの……一つ聞いてもいいですか?」

「何?」

「もしかして探偵部って松村先輩一人だけですか?」

「ううん……さっき入部した まどかちゃんと……もう一人副部長の2年生の男子がいるわよ 今日は来てないけど」

その後少し雑談をし、俺らは探偵部を後にした。

ノリで入部してしまったが良かったのであろうか……。

でも……運動部とはサボっても何も言われそうになさそうだし、いい暇つぶしにはなるだろう。

自分の行ったことを肯定にして考え、これでよかったんだ!と思わせる。

「じゃあ!早速明日から探偵部の活動をするから 授業後あそこの部屋で待っててね」

「うぃーっす!」

「はい」

松村先輩と別れ、宮田と朝人と一緒に校門を出た。

自転車に乗りながら夕焼けを見るのは久しぶりだ。

一日お疲れ様 なんて言っているようにも感じるのが不思議だ。

「じゃあ俺はここを曲がるから じゃあな!」

「バイバイー!」

「おう!またな!」

俺は二人と別れて家路に着く。

真っ先に自分の部屋に戻り、制服を脱いで部屋着になる。

ベッドに横になり、一日の出来事を思い出していた。

探偵部……一体これからどうなっていくのだろうか。

そんなことよりも、そもそもなんで探偵部なんてあるのか。

考えれば考えるほど疑問が沸き、機会があれば明日にでも松村先輩に聞こうと俺は思った。


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