File1 電波少女
桜が満開の時期、俺は焦る気持ちを抑えながら自転車を漕いでいた。

何故かといえば、今日は、高校の合格発表日。

試験では全力を尽くすこともできたし、後悔なんてもちろんない。

だけど、心には不安が募る。

頭の中では自分の好きな曲を流して、なんとか自分の気持ちを落ち着かせようとする。

しかし、その脳内の音楽を遮る雑音が後ろから聞こえてくる。

多分この音は、多分自転車の音だろうと特に気にすることもなくすごそうと思い、何気ない顔をしていた。

だが、俺の裏腹とは逆に、徐々にその音は大きさを増し、俺の脳内の音楽を侵食していく。

少しばかり機嫌が悪くなり、後ろを振り返ると、自分と同じくらいの年齢の子がすごい形相をして自転車を漕いでいた。

思わず、口から声が漏れ、前を見るのをすっかり忘れていた。

電信棒が目の前に現れる、やばい!当たってしまう!と思ったが、もう遅かった。

俺の体は宙に舞い、自転車は電信棒にぶち当たり、天と地が逆さに見えた。

再び目を開けた時には、先ほどの女の子がこちらをじっと見つめていた。

多分こいつは俺のことを、可笑しく思っているに違いない。

いい笑いものだな、と思ったが、その子は俺の思っているような顔をしていなかった。



「大丈夫ですか!?」

すごく心配そうな顔で、俺の顔に手を触れる。

顔が自然と真っ赤になり、俯き加減になる。

「だ…大丈夫です」

「よかったー! 怪我していなくて……あれだけ勢いよくぶつかったのにかすり傷だけだなんて……まさに奇跡だね!」

「へ?」

俺に微笑みかけ、後ろをくるりと向き、自転車にまたぐ。

「じゃあ! 私急いでいるから!」

ペダルを思いっきり踏み、足早に去っていってしまった。

なんというやつだ、あれだけのことを見ておきながらそういう言葉が出るのか?

しかも、この状況からして普通は救急車とか呼ぶだろ!

俺は思った。あいつは電波だ。 電波少女に違いない。

一度大きく深呼吸をして、服の汚れを手で落とし、立ち上がると、自分のズボンからひらりと何かが落ちた。

なんだろうと思い、拾い上げてみると、それは同じ高校試験の受験票だった。

「777……まさに電波的数字だ」

その受験番号の下には持ち主の名前が書かれていた。

「宮田まどか……さっきの子が落としたのか?」

けど俺には関係ないし、そいつも自分の受験番号ぐらいは覚えているだろうと思ったが、

念のため自分のバッグにしまっておいた。

あの電波少女なら、もしかしたら忘れているかもしれないと。

自転車を引きながらやっとのことで学校に着くと、生徒の歓喜の声が至るところで見受けられた。

それを聞いて一気に不安になるが、でももう結果は変わらない。

逸る気持ちを抑えながら、俺は合否発表の場所に向かう。

合否発表の場所には入り口よりも尚たくさんの人がおり、声のトーンも様々だ。

喜びに浸る人、悲しんでいる人、携帯で写している人、それらを掻き分け自分の受験番号を探す。

「390……390……あっ! あった!」

もう気分は最高潮、すぐさま親にメール打ち、自分も彼らと同様に喜びに浸る。

でもまだ信じられないのか何度も何度も自分の数字を見直し、それが間違いでないことを確認した。

そう、俺は晴れて、冨良野(ふらの)高等学校に見事合格したのだ。

とりあえずこの学校はどうなっているのか、あたりを見渡すと、一人の女の子に目が行った。

別に変態なことを考えているわけではないのだが、周りとは少し違う雰囲気をかもし出している。

じっくり見ると、その子はバッグを一所懸命漁っており、どうやら何かを探しているようにも思える。

ふと頭の中で、あの受験票を思い出す。

「まさかな……」

とは思ったものの、性格上めんどうなことは御免だ。

その上今は合格したことを直接親に言いたいし、こんな奴に構っている暇はない。

俺は背を向けて、正門に向かおうとした時、後ろから鳴く声が聞こえた。

どうせ不合格で泣いているだろう、泣くなら他の場所で泣けよ。

公共の場で泣かれちゃ周りが困るだけだろ。

「なんつー困った奴なんだ」

ボソリと呟いた言葉がその子にも聞こえたのかどうかは分からないが、泣き声が一層高まった。

周りの人達も気に始めその子をじっと見つめている。

俺も段々気になり始めその子の近くまで寄っていき姿を確認することにした。

別になぐさめようとか、そんな意図はない。

ただ傍観者としてこの後どうなっていくのかを見届けたかっただけだ。

「うぅ……」

女の子はバッグをひっくり返して中身全てをその場にばらまき散らからす。

手鏡、タオル、筆記用具、電子辞書、その他たくさんの物が出てくる出てくる。

そして俺の足元にシャープペンシルが転がってきたではないか。

まぁここはシカトするのも酷なので、とりあえずその子に手渡しをする。

そこでやっと顔が見えた。

「あ……君は」

「あー! さっきの人だ! さっきの人!」

“さっきの人”それは俺と接触した子だった。

「もしかしてこれ探しているとか?」

俺はバッグから少し曲がった受験票を取り出し、彼女に渡した。

「あれ? なんであなたが私の受験票を!? どうして?」

「いやさっき君が落としていったから……」

「あーそうなの……ありがとー!」

ニコリと笑い、受験票を受け取るとばら撒いた物を素早く掻き集めバッグに押し込む。

「じゃ……私今から合否発表みてくるね!」

駆け足で合否発表の場所に向かった。普通ならここで帰るのだが、なんだか彼女の合否が気になる。

ストーカー行為かもしれないが、彼女の後についていくことにした。

「777……うーん……あった!」

俺がつくころには彼女はこれでもないくらい喜んでいる様子で、周りの人も巻き込んでいる様子だった。

すると彼女はうれしさのあまり走り出し俺と正面衝突をした。

俺は仰向けに倒れこみその子が、俺の胸元で疼いていた。

「うー……いたたたた」

彼女はゆっくりと起き上がり、スカートを叩き汚れを落とす。

「ご、ごめんなさい!」

「いや……いいよ別に」

無愛想に俺はそっけなく言い、立ち去ろうとするとその子に肩を掴まれた。

「あのさ……ちょっと付き合ってくれない?」

その衝撃的な言葉に俺の心拍数が一気に上昇、なんだこの女は……。

こういう方法で男を落としていく奴なのか?

だが顔はかわいい方だし、でも電波的な感じが気になるといえば気になる。

いや、そんなことを考えている場合ではない。返事をしなくては。

「い…いいよ」

「ほんとに!? ありがとー!」

軽い返事に俺は少し違和感。何せ彼女は俺の手を引っ張って、体育館裏にある大きな桜の木を前に俺を導いたからだ。

まさか桜の木を下でキス、キスですか!?

テンション上昇、心臓はバクバクになったが俺の期待を彼女は見事に裏切った。

「この桜の木を一緒に見てくれる人がいてよかった!」

「へ?」

「だって一人で見るの恥ずかしいじゃない」

恥ずかしい?桜を見るのが? 全く意味が分からない。いや分かろうとしようしているのがもう駄目かもしれない。

しかもそれって俺じゃなくてもよかったってことじゃないか。

期待をして損をした。一気にテンションが下がった。

「ずっとね……見たかったの 学校の外からじゃ塀が邪魔して上の方だけしか見えなかったから」

「そう……見れてよかったね」

声のトーンが自然と低くなりため息をついた俺。

力も抜けてくる。

「そういえば名前聞いてなかったよね!私は……」

「宮田まどか でしょ?」

「なんで知っているの!? もしかして超能力者?」

「いやいや…受験票に書いてあったんだよ えーと俺の名前は川田俊助」

「川田君ね よろしく!」

宮田は手を差し出し俺に握手を求めた。

俺は恥ずかしながらも軽く握手をした。

「クラス一緒になれるといいね」

「あぁ……」

宮田は桜の花びらを拾い集めては、風に乗せるようにばらまいたりと、まるで花坂爺さんのようだった。

この電波的な子と同じクラスになるとしたら絶対にめんどうなことになりそうだ。

絶対なりませんようにと俺は強く祈った。



───次の日───

冨良野の制服に着替え、俺は家を後にした。

中学までは学ランだったため、この高校の制服のブレザーは何だが変な感じがする。

おまけにネクタイまであり、今日は親に教わってつけたというのは秘密だ。

「なーんか……ネクタイって違和感感じるな」

何度もネクタイを見て、考え込む。

すると後ろからうるさい音をたてながら、背中を強く叩いた奴がいた。

「朝人……お前受かってたのか!?」

「なんだよ その言い方 これでも一生懸命勉強したんだぜ!?」

森山朝人 俺の分析によると性格は優柔不断で気分屋

中学の時からの友達で部活も一緒にやっていた。

こいつには野球の才能があったが、俺にはなかった。

だから朝人は一年生の時からエースをやっていたし、監督からも熱い指導もあった。

ただ同期や先輩からは少しばかりか嫌悪されていたのは言うまでもない。

だが……あれだけ馬鹿だったのによくこの学校に受かったものだ。

俺はそういうところを尊敬してしまう。

けど、やはり朝人はひとつ抜けている。

ネクタイが言葉では表せないほどの形状になっていたからだ。

「お前……ネクタイの締め方違っているぞ」

「マジか!いやぁなんかさネクタイするの始めてでもう何が何やら」

「でもさ……この高校ってネクタイとかリボンとかって自由だよな」

「あーそういえばそうだったかな……めんどうなら外しちゃえば?」

この一言に朝人は強く頷き、その場でネクタイを外してはバッグの中に乱雑にしまった。

「お前も外しちゃえば?めんどうだろ?」

「めんどうだが……ネクタイは一度してみたかったしな」

ある意味ネクタイというのは憧れだった。見るとなんだが凛々しく見えるし、頭もよく見える。

こういうスタイルは個人的に嫌いではない。むしろ好きだ。

朝人と”ネクタイ”の話で盛り上がりながら学校に着いた俺達。

早速掲示板に張り出されたクラス発表を見る。

「えーと俺は……A組か」

「お!俺もA組じゃん!」

朝人は万歳をして俺の肩を左右に揺らす。

「そうだな 一年間よろしくな」

「おう!」

俺と朝人は中学校も三年間一緒だったし、これで四年間同じクラスだ。

なんだか微笑ましいのは確かだ。

俺らは3階の一年A組のクラスに入ると、結構にぎやかな雰囲気。

中には緊張してて座っている子もいたが大抵は席の前後の人とおしゃべりをしていて新たな友達を作り始めている。

俺も朝人も席につくと、ちょうど担任の先生が現れた。

「おし!このクラスを担当する橋本だ よろしく頼むぞ!
 で……早速だが席替えをしようと思うのだがいいかな?」

クラス一同困惑気味、こんなのは初めてだ。入学初日に席替えを提案する教師だなんて……。

「フフフ……やはり色々な人と友達になってほしいからな! もう席替えの配置はすんだ
 自分の席を確認したら素早く動け!動け!」

黒板にでかでかと張られた席替え表。

生徒達は席を立ち自分達の出席番号と同じところに席を移動しはじめる。

俺も席を確認し移動すると、すばらしい場所だった。

窓側の一番後ろ、こんな絶好の場所はないだろう。

「えっと……朝人は」

ひょいっと顔を横に向けると朝人が前方の方で手を振っていた。

あいつ……一番最悪な席を引いたものだ。 まぁあいつはいい薬だろう。

中学校の時は寝てばっかりだったからな……。

おっとそんなことよりも、隣は一体誰だろうか。

俺は横を向くと、唖然とした。

信じたくなかった。顔が自然と引きつった。

「あ!川田君じゃない!同じクラスだったんだね!」

「あぁ……まぁな」

宮田まどか またの名を「電波少女」

こいつと一年間同じクラスさらには席が隣だなんて……俺の高校生活これからどうなってしまうのだろうか。

何もなくこの一年が終わってほしいと願うばかりだった。

2style.net