7:夢にまでみた現実


悪いが俺は、って何。

悪いって何。悪いの?何が?
全く眠くもないのに、ベッドに寝転がって布団をかぶる。

しばらくすると、先ほど食堂にいた女友達が顔を覗きにきた。


、その…お疲れ」
「リヴァイってさぁ、ん、リヴァイさん?後輩だけど年上って何て呼べばいいの?」
「あの返事はないよね。正直」


仲間よ、人のベッドまわりで話し出すのはやめてくれ。
しかも人の恋をネタに盛り上がるのはキツイ。

体を起こして、布団から顔を出すと、皆が一斉に顔を覗き込んできた。


「これ以上トドメを刺さないで…」
「よーしよし、。男の事なんて忘れな」


抱きしめてくるのは同期だ。他の兵団より女子が少ないせいか、年が近ければそれでもうグループができてしまう。
彼女は数少ないの訓練兵時代を知る人間。


って貴族の娘さんなんでしょ?男なんて選び放題じゃないの」
「何言ってんの、お嬢様だからこそのゴロツキ君なのよ」
「ちょ…雨の中で子犬でも拾ってるとこ見たの?」


皆が好き勝手言っているが、にはリヴァイの良さがわかっている。
そして、それを言葉で説明するのは難しいだろう。

皆が彼を知れば、きっと他にも好きになる女はいるだろう。
まだ誰も、知らないだけなのだ。


「あーあ、絶対生き残ろ。結果めっちゃ気になるし」
「帰ってきたらフラれる…」
「はいはい、も戻るんだよ。フラれてもいいじゃない、帰れるなら」







前回の、長距離索敵陣形テスト運用は、予想しなかった天候の変化により、一部陣形に被害をもたらした。
長距離移動陣形に比べ、いかに巨人と戦わないかを想定した為、一度陣形が崩れると、避けた巨人に囲まれるリスクがある。

今回は天候に配慮した音響弾を使う事はなく、無事に古城で2日目の夜を迎えていた。

が所属する荷馬車班は、外の陣形に比べて危険が少ない。
その代わりに、夜には物資の補給という仕事がある。

食事に毛布、替えの刃にガス。
それぞれが個人で行う微調整。物資には限りがあり、そして進行する程に、連れ帰った死体の数が増していく。
これでも、全てを回収できたわけではないのだ。
荷馬車に毛布を羽織らせると、横たわる足が見えなくなった。

見上げる星は、空気が澄んでいるのか綺麗だ。よく見える。
きっと明日も晴れるのだろう。

仕事を終えて戻ろうとするの耳に、休む兵の声が届いた。


「リヴァイ、お前はすごい奴だ!本当!!」


大声で聞こえるその主の方を見ると、何人かの兵士にリヴァイが囲まれていた。
皆が笑顔だ。
噂以上の活躍に、勇気づけられたのだろう。


「馬鹿言え。二人、死なせた」


そう言い返す声は、いつもより少し沈んでいる。
無意識に、は自分が羽織らせた荷馬車の毛布を振り返った。あのうちの、誰か。


「…それでも、俺らは助けられたんだ、お前に」
「そうだ。この調査兵団じゃ、助けたり助けられたりは当たり前だけどな、あの数で生き残るなんて…普通無理だ。お前のおかげだ」


リヴァイの評価は、確実に変わってきている。
腕のたつゴロツキから、頼れる仲間に。
そのうち、歩く伝説になってしまいそうだ。


「それで、お前どうするんだ?の事」
「聞いたぜ、告白されたって!すげぇな、貴族の御嬢さんなのに」


不意に自分の名前が出て、慌てるが下手に通路を走り抜けては、かえって目立つ。
平常心を装って、歩調を崩さないよう、進む。


「別に、どうもしない」


一瞬、足を止めて。
すぐには歩き出した。







翌日は晴天が続いた。
奇行種には苦しめられ、平地での戦闘は連携プレイを駆使しても、どこかで必ず犠牲が出る。
進んでも、先の見えない未開の地。

それでも白紙の地図を埋め、次へと繋げる為に進み続け…物資と人員の状況を判断し、ついに帰還命令が出た。


帰りは小雨が降っていた。
かろうじて煙幕が見えるが、いつ巨人が出てもおかしくはない。
遠くの音を聴きながら、けれどそれがどの方角かはわからない。

そしてようやく、足音と共に迫りくる巨人の姿を捉えた。


帰りの物資は、ほとんど残っていない。馬の速度も落ちない。
それでもこの荷には、帰りを待つ家族がいる。

赤い煙弾が空へ向かう。

奇行種ではないが、足が早い。
そしてもう少し進めば、大木が一本側にある。


出ます!!」


大木を通り過ぎると同時に、アンカーを発射させる。馬は主を失っても走り続け、そのままガスを吹かして回転した。
巨人が大木を通り過ぎる、その瞬間。
地面に足をつけたまま、弧を描いての体は巨人の足へと移動した。

既に引き抜かれたブレードが、腱を削ぐ。
飛び散る肉片に目もくれず、すぐには空を飛んだ。
大木に伸びたワイヤーが、倒れる巨人とすれ違う。
顔面から倒れ込むその光景を前に、一瞬迷いが生じる。

今すぐ撤退するべきか、ここで後顧の憂いを絶つか。

削いだ腱が修復するまでおよそ一分。それまでに馬を捕まえ、全速力で戻る…それが隊としては正解。
けれど、稼いだ時間が短く、再び追われる可能性は十分ある。
その時に、周囲の環境はどうなっているのか。

引き戻されたワイヤーが、手元に戻る。


天秤が揺れる。
今ここで、自分一人の命を懸けるか、後で仲間を巻き込むか。

ならば、やるべき事はひとつだ。


巨人の背中にアンカーを刺した。
すぐに木から飛び降りると、ワイヤーがうなじまで導く。

あとは、肉を削ぐだけ。


次の瞬間、突如真横へ引っ張られた。


「なっ…!?」


腱を切られて、立てない巨人が、腕の力で仰向けになり、上半身だけを起き上がらせる。
背中の向きが変わっても、ワイヤーの動きは変わらない。
巨人に引き寄せられる。


「く…そおおお…!!!」


咄嗟に、地面への接触を減らそうと、ブレードを下へ突き刺す。
ガリガリと地面と摩擦し、あっけなく折れると、遅れての体が転がった。

全身に痛みが走る。
すぐに顔を上げ、立ち上がろうとした瞬間、目の前の景色には悟った。

大木は、巨人の背後だ。
ここからでは、届かない。

平地に、馬の姿もない。
刃を交換する暇さえも。


「ああ、そっか…」


ここなのだ。
何度も想像し続けた、己の最期。

立ち上がる事もできない。何もかも無駄なのだ。
抵抗も、悲鳴も、罵倒も、巨人相手には意味がない。


「はは…」


僅かに出る、笑い声。
そのまま、頬に涙がこぼれる。
は、笑っていた。


「やっと…おかあさん…」


巨人の腕が伸びる。
その手がを捉える事はなく、手前で崩れ落ちた。


!!生きてるか!!」


荷馬車班の仲間の声だ。倒れた巨人の背に乗って、ワイヤーが彼に戻っていく。
あの大木の後ろから、援護に来てくれたのだ。

はこうして今回も生き延びた。







体をあちこち打ち付けたものの、骨に異常はない。
一番目立つのは、頬の擦り傷くらいだろう。
それでも縫うほどではない。

その傷がかさぶたになる頃、はようやくリヴァイと会う事になった。


「怪我はもういいのか」


不機嫌そうだな、というのが第一印象だ。
事後処理に追われていたのはリヴァイも同じで、時間が取れなかったのはお互い様だろう。
その分こちらも生殺しで辛かったのだが、ようやく今日、とどめを刺されるらしい。


「この様子じゃ、痕は残らなそうだ」


人の頬を見ながら、リヴァイが呟く。
少し、機嫌が直ったようだが、にはその意味がわからない。


「さて、戻ってから返事をしろ、という話だったな」


いつもの書庫奥の物置部屋。
ひとつしかない椅子にが腰かけ、ベッドにはリヴァイが座っている。

自分の両手を掴んだまま、はリヴァイをまっすぐに見つめた。


「悪いが俺は、付き合うつもりはない」


予想していた通りの結果に、涙も笑いもでない。
それでも、笑わなければ。


「俺とお前じゃ、違い過ぎる」


笑おうとした表情筋が、一瞬で止まった。
言葉の意味がわからず、は微かに首を傾げる。


「わかるだろう、。生まれも、暮らしも、お前が考える以上に俺は汚れている」
「…昔の事は知らないけど、あなたが綺麗に生きようとしている事はわかる」


それは、潔癖なだけではない。
日常から、その生き方まで、綺麗過ぎるのだ。
これ以上、汚れないようにしているのか、元々の彼の性分なのか。


「お前なら、もっと他にまともな奴がいるだろう」


背も高めの奴でな、と付け足したのは、もしかして彼なりのジョークなのだろうか。
生きた心地がしなかったこの数日間の答えにしては、あまりにも。


「…それだけ、なの?」
「あ?」
「振るなら、私自身を理由にしてよ」


が立ち上がる。
ベッドに腰掛けるリヴァイを見下ろす形となって。


「身分なんて今更だし、私はリヴァイの性格も、背の低いところも、口が悪いところだって…本当は真面目な所も全部わかってて、それでも好きなのに!そんなくだらない理由じゃないでしょ、本当は…」


素直に一言・・・好意を抱けない、で充分なのに。
自身に悪い所はない、と言われる方が辛い。
なんて男だ。
傷つけないようにしているのがわかる、この仕打ち。


「当然、もう1つある」


は、人差し指を出した。
その理由の方が、彼の本音なのだろう。


「俺もお前も、相手を幸せにできない」


そのまま椅子に座り込む。
それは、指摘されるまでもない、わかりきった事だ。


「片方か、あるいは両方共…いつ死ぬかわからないこの状況で、俺達は何の誓いも立てられないだろう」
「…うん」


ああ、やっぱり。
この人は真面目なんだなぁ、と胸の奥で呟く。


「ありがとう、リヴァイ」


とどめを刺してくれて。
女の幸せを追いかける資格なんて、無い事は初めから知っていた。
それでも、夢を見たのだ。

好きな人に、恋をする自分を。


「私の気持ちは、何とかする。っていうか、何とでもなる。リヴァイも、あまり気にしないで、このまま…これまで通りでいい?」
「お前がそう言うなら」


きっと、彼は誰よりも早く討伐数を追い抜き、いずれ出世していくだろう。
そうなると、この部屋もいらなくなる。

それまでは。

ここで一人になりたい時間と、二人で過ごせる時間さえあれば。
それだけで、もう。


- continue -

2015-03-21

やっぱり両片思いが好物でした。おいしいです。
前回のあとがきだけ読むとそのままくっつきそうだなって今気づいた。
まぁ最終的にくっつくと序盤でわかってるってこれ前回も言ったなって…
うちのリヴァイは守る的な発言はしませんこれからも。
それ抜きで甘さを目指す…ハードルを自ら上げてしまいました。


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