雷禅が残した城の一室で、はなぜか体調が優れなくソファに座り込んでいた。
気分はだるいし、情緒不安定になるし、要は最悪な状態だ。
身体を鍛えようとも思えないし、幽助を苛めて遊ぼうとも思えない。
風邪とか病気ではない。
ただ、気分が優れなくてムカムカとするのだ。しかも異様に眠い。
グッタリとした様子で、はソファの上にズルズルと横になる。
その瞬間、吐き気がして「う・・・」と低く呻った。
青白い肌が、よりいっそう白くなる。
原因不明の症状には手も足も出せずにいたとき、コンコンとドアがノックされた。
「、入るよ」
そう言って入ってきたのは、雷禅の喧嘩仲間だった孤光と棗だ。
二人の手には魔界の果実の詰め合わせ。
幽助から「人間界では病気のヤツに果物を持って見舞いに行く」と聞いたことがあったので、二人は人間界風のお見舞いをしてみたのだった。
「どうだい調子は」
「まだ元気にならないの?」
ソファの上でうつ伏せになっているの傍に二人は歩いてきて、の顔を覗き込む。
そして二人はギョッとした。
青白い肌が異様なほど白くなっており、あのが涙目で呻っているのだ。
よほど苦しいのだろうと二人は察し、ソファの前で膝を付いてへと問う。
「アンタどうしたんだい。病気じゃないんだろ?」
「どんな症状なのか言ってみて」
「気持ち悪くて、熱っぽくて、情緒不安定になって、凄く眠いのに吐き気がくるから寝れない・・・」
孤光と棗の心配そうな声を聞き、は掠れている声で返事をする。
その最中にも吐き気がしたのか「う゛」と口元を押さえていた。
それに対し、孤光と棗はパチパチと目を瞬いて互いの顔を見合っている。
「まさか」とは思いながらも、孤光は恐る恐るへと訊いてみた。
「、アンタ・・・その・・・・避妊はちゃんとしてたかい?」
「ヒニンってなに?」
「「・・・・・・」」
の返答に、孤光と棗は顔を両手で覆った。
無性に泣きたいとはこのことだろう。
というか、こんな事態になってしまって死んだ雷禅に顔向けできない。
もし雷禅が生きていたら、あの男は破壊神となってしまっただろう。
天変地異を起こすほど、怒り狂っただろう。
否、雷禅だけじゃない。
もしも自分たちの予想が合っていれば、コレは魔界を揺るがす大事件だ。
躯を筆頭に蔵馬、幽助、鈴木、九浄、煙鬼、黄泉といった魔界最強軍団が暴れだすに違いない。
確実に起こるであろう騒動に孤光と棗は溜息を吐きながら、呻り続けているの頭をサスサスと優しく撫でた。
「まぁ、なっちゃったもんは仕方ないか。、一度 魔医師に診てもらうよ」
「どうして・・・?」
「きっとアンタの腹の中に、新しい命があるからさ」
そう言って孤光は、の頬を撫でる。
困ったように笑っていた孤光だったが、しだいにギラリと目を光らせた。
横の棗もギランと両目を光らせている。
「今度、あの人間の男を魔界に連れておいで。血祭りに上げてやるよ」
「名づけて“クロロ・ルシルフル狩り”ね」
ふ、ふふふふふ。
そう言って指をボキボキと鳴らしだした孤光と棗は、の目から見ても恐かった。
ますます青ざめた表情をする。
そんなに気づいた二人は恐ろしい形相を止め、いつもどおりの顔になった。
「とりあえず、アンタは医師に診てもらうんだ」
「私たちも付いていくから」
「・・・・・・はい」
物凄い剣幕で言われ、は頷く他無い。
コクコクと頷きながらも気分が悪く口元を押さえるを引き摺るようにして、二人は部屋から出て行った。
その数時間後、城からは幽助の叫び声が響き渡る。
「でえええぇぇええぇええ!?姉さんが妊娠んんんんんんん!」
ドッシェー!と一昔前のような動作をして驚く幽助の横で、恐ろしい形相で微笑む蔵馬。
眩暈を起こして倒れる躯と、その身体を支えている飛影。
頬を引き攣らせて言葉を無くしている煙鬼、九浄、才蔵といった雷禅の喧嘩仲間達。
そんな中、騒動の中心にしたは唖然とした面持ちで己の腹に手を置いている。
平らで、膨らみなんて無い己の腹部。
けれどその中には新しい命が息づいているのだと告げられ、衝撃を受けた。
実感が無いとしか言えない。
そんなことを思いながら、はポツリと呟いた。
「お兄様に似ている子供が生まれてきてくれるかしら」
いや、それは無いだろう。
父親は雷禅(親父)じゃないし。
その場にいた面々の声が、のボケ発言に突っ込んだ。
後日、何も知らずにに逢いに魔界へとやって来たクロロを待ち構えていたのは魔界最強軍団の怒りの鉄槌だったことは言うまでもない。
(!本当に俺の子供がいるのか!?)
(えぇ、そうみたい)
(男の子か女の子か。俺とどっちに似てるんだろうな)
(私はお兄様に似ていて欲しいわ)
(・・・いや、お前の兄に似てる子供だったら俺の子供じゃないだろ)