「放しなさい!汚らわしい!」
「酷い言い様だな。その男の胸で泣きじゃくっていたくせに」
「私に触らないで!」
「口付けも交わした仲だというのに」
一体、何がどうなったんだ?
次の日、ホームの広間に集まった団員達は一角で騒ぐとクロロの姿に疑問符を浮かべる。
昨日までは何処か物思いに耽っていたをただひたすらクロロが愛でていた。
途中でが発狂したような状態になったが、今はそんな事如何でも良い。
何だアレは。
それがこの場に居た団員達の思考だった。
「こっ、殺す!私の唇は永遠にお兄様の物なのよ!」
「まだそんな事言っているのか。吹っ切ったんじゃなかったのか?」
「五月蝿い!貴方にそんなこと言われる筋合いなどないわ!その無駄口を叩く唇など、永久に閉じていれば良いのよ!」
「唇を閉じていたら、どうやって舌を絡ませるんだ?」
こんな風に。
そう言ってクロロは、逆毛を立てて威嚇していたの腕を掴み、強引に唇を合わせた。
禍々しく揺れていたの殺気が爆発しビリビリとした振動が空気を伝う。
だが、それに構う事なくクロロは貪るような口付けをへと続けた。
ビリビリビリビリと、尋常ではない殺気が蔓延る。
団員達は自分達の敬愛する団長の濃厚なキスシーンにはしゃげば良いのか、冷やかせば良いのか。
それとも脂汗が皮膚から噴出してしまうほどの殺気を発しているを警戒すれば良いのか、恐怖すれば良いのか。
一体、どんなリアクションを取れば良いのかがわからない。
先日の様子からは想像できないほど無茶苦茶な関係になっているとクロロに、どんな反応を示せば良いのか心底困惑していた。
「・・・・・・なにがどうなったんだと思う?」
「あたしに訊かないでくれるかい?わかるわけないだろ」
恐る恐る、といった様子でシャルナークが隣にいたマチへと問う。
だが、マチは冷や汗を流して頬を引き攣らせながらズバッとシャルナークの問いを斬り捨てた。
「団長のラブシーンを冷やかしたいけど、あの女の殺気が真面目に怖ぇよ。よくあんな怖い女とキスできるな」
「それ言てくるといいよフィンクス。言た瞬間、お前きと死ぬね」
「骨は拾ってやるよ。カッカッカ」
「団長とあの女のどっちに殺されるんだろーなー」
「言ってくるわけねーだろ!俺はまだ死ぬ気はねぇ!」
フィンクスがボソリと言った言葉に、フェイタン・ノブナガ・ウボォーギンといった面々が言葉を返す。
だがそれはどれもフィンクスの死を暗示する物。
フィンクスは自分が死ぬ事前提になっている言い草にカッチーンっときたのか、額に青筋を浮かべて反論していた。
「なんていうか・・・コメントに困る状況だな。団長は何がしたいんだ?」
「とりあえず、あの子をからかいたいんじゃないかしら。・・・愛情表現の一つじゃないの?」
フランクリンが頬をポリポリと掻きながら言えば、隣にいたパクノダが適確な言葉を返した。
パクノダの言葉を耳にした他の団員達は「あぁ、そうか」っと納得しだす。
クロロの念によりこの世界に召喚されたは、如何足掻いてもクロロに傷一つ付けることなど出来ない。
だからこそ、クロロはやりたい放題にで遊んでいるのだろう。
どんな反応をするのか。
どんな言葉を返すのか。
全て、クロロの好奇心と興味。
自分の身の安全は保証されているのだからこそ、クロロはを思う存分に愛でているのだろう。
昨日よりも関係が親密になったような、悪化したような微妙な二人の距離は置いといて。
今目の前で繰り広げられているのは、団長の暇つぶしだ。
そう。たとえ、団長があの妖怪少女を押し倒さんばかりに口付けていても。
これが団長のお気に入りを愛でる行為の一つなんだと、団員達は己を無理矢理納得させていた。
恐ろしすぎるの形相や、今や地鳴りを起こしている程の殺気の渦など、自分達は知らないし、見てないし、関係ない。
団員達はまるでカオスのような状態になっているクロロとから、そっと視線を外した。
「どうだ。俺が唇を永久に閉じてしまったら困るだろう?」
「どうしてそういう考えになるの?貴方、脳みそが腐ってるわ」
自分達は関係ない。
団員達は再度自分に言い聞かせる。
団長のご機嫌な声と、の低すぎる声など、知らない。聞いてない。
ギャーギャーと騒ぐ二人の事など、自分達は知らない。
「もういい!いい加減、私を魔界に帰しなさい!」
堪忍袋の緒が切れたかのように、物凄い剣幕で怒る。
の爪がビキビキと音を立てて鋭利な刃物のように伸びている様など、見てない。
膨れ上がる妖気と殺気の所為で大地震かのようにホーム全体がグラグラと揺れているなんて錯覚だ。
闇よりも冷たい殺気を宿らせて団長を見据えている妖怪少女。
そんなを何処かうっとりとした面持ちで見ている団長の姿なんて、幻想だ。幻だ。
「みんな、次の仕事の話でもしよっか」
シャルナークは視線を極力、二人から逸らしながら言う。
団員達は、シャルナーク同様にクロロとの姿を極力視界に入れないようにしながらコクコクと頷いていた。
この数秒後。
の我慢が限界に達する。
その瞬間、幻影旅団の本拠地を中心に、大爆発が起こったかのような音と振動があたりに響き渡った。