醜く盛り上がった右目を白い覆う包帯を隠すように、いつも蹲っていた。
母の愛情を失い、城の者達もまるで化け物を見るかのような目付きをしている。
誰も愛してくれない。誰も助けてくれない。
あの頃の己は、周り全てに恐れ、側近である小十朗さえも恐かった。怯えていた。
悲しくて、哀しくて、カナシクテ。
あの頃の俺は、ずっとずっと泣いていた。
そんな弱くて情けなかった幼い俺の前に現れたのは、櫻の精のように可憐な少女だった。
漆黒の長い髪に、桜色の双方の瞳。
ふっくらとした頬に、艶やかな唇。
同盟を結んでいる田村の姫であるその少女は、その可憐な容姿から田村の者達に“めごい姫”という意味の“愛姫”と呼ばれ慕われていた。
幼いながらに可憐で美しいその少女が、醜くて疎まれる俺の許婚だと紹介されて、どうしようもなく恥ずかしかった。
こんなに醜くて、弱くて、誰からも必要とされていない俺が、こんな周りから愛されている姫を娶って良いのだろうかと苦しかった。
だけどそのたびに愛姫、否、は俺の手を両手でそっと包んで、微笑んでくれた。
「 梵天丸さま、ずっとめはお傍におりまする 」
そう言って微笑んだを、愛するのは必然だった。
はずっと俺の傍にいてくれた。
苦しいときも、楽しいときも、哀しいときも、幸せなときも。
俺が元服したときも、初めて戦に出たときも、伊達家の家督争いのときも。
そして、俺の母上がの侍女を使って俺を暗殺しようとし、結果、の侍女達や乳母を死罪としなければならなかったときも。
自身が苦しくて悲しくて、もしかしたら俺を憎んだときもあったのかもしれない。
影で一人、泣いているときがあったのかもしれない。
けど、どんなことが起ころうと、は笑顔で俺の傍に居続けると言ってくれた。
どんなときだって味方でいてくれて、隣で微笑んでくれる。
なによりも愛しい愛しい、俺だけのだ。
武将としてだって文句はない。
今の乱世は女だって戦場に立つ。
しかも下手な男よりも強い。
魔王の妻や、利家の妻だって、武家の出の女ならばその細腕に武器を持ち戦場を駆っては戦に貢献しているのだ。
勿論、俺のも例外ではない。
風の婆娑羅者であるは身の丈ほどもある竜と桜が描かれている鉄扇を片手に、俺の隣で戦場を駆けている。
鉄扇が使えないときは太もも付近に隠し持っている魔王の妻が使っているよりも小ぶりな二丁銃を手に戦う勇ましい女だ。
そんなに対し、不満があるとすればただ一つ。
それはいつになっても俺と祝言をあげてくれないことだ。
「honey.いつになったら俺と祝言をあげてくれるんだ?」
戦が終わり米沢城の一室で、に膝枕をしてもらいながら政宗は口を尖らせながら言った。
そんな政宗に対し、は瞳をパチクリとさせる。
「俺たちだってもう良い歳だぜ?俺が伊達を継いで何年になると思ってる?」
「それはそうですが・・・」
「いい加減、俺の正室に納まれよ。You see?」
そう言っての手を握り、己の唇へと寄せる。
ちゅ、と音を立てて政宗はの指先へと口づけた。
そのまま指先を舐めるように舌を這わす政宗に、は頬を朱色に染める。
「私も政宗様と祝言を挙げたいと思いまする。でも、それはまだ時期ではありません」
「Why?」
「この戦乱の世、めは政宗様のお役になりとうございます。城で政宗様をお待ちするのも、足枷となるのもめは望みませぬ」
先ほどから口付けされては舐められている手とは反対の手をゆっくりとあげ、政宗の額にかかる髪を掻き揚げる。
ゆったりと微笑むに、政宗は眩しそうに左目を細めた。
「戦乱の世においてめは政宗様を御守りする風です。そんなが政宗様の妻となるときは、政宗様が天下人となったときでございまする」
微笑むは、まさに己の宝だ。
出逢ったときから今迄、そしてこれからも。
こんなにも愛しい女に出逢うことができたことに、政宗の胸は歓喜に震える。
愛しい、愛しい、愛してる。
お前だけが“女”だ。
この命ある限り、否、死んでもなお離したくはない。
愛しい姫。
ああ、なんて お前は 。
「だったらついて来い。俺が天下をとるそのときまで、全力で俺の傍でこの乱世を走り抜けろ」
「勿論です」
「HA!I love you.My honey.」
の膝から頭を起こし、政宗はの唇を奪う。
己の欲望のままに口吸いをし、政宗はの華奢な身体を両手で抱きしめる。
力強く抱きしめれば折れてしまいそうな身体を、よりいっそう強い力で掻き抱いた。
「 梵天丸さま 」
微笑んだ、少女。
その少女は、己の愛しい女。
唯一無二の、竜の宝だ。