「僕らは自由を」
ニチヨウ
「なあに、それ?」
 彼女が覗き込んだので、僕はさっき曾祖父から託されたばかりの宝物を光に翳しながら、どこか誇らしい気持ちで答えた。
「定期乗車券だよ」

 曾祖父は平成時代の生まれで、今や殆ど寝たきりだけど、僕が部屋に遊びに行けばよく昔の話をしてくれるし、今日みたいに宝物をくれることもある。僕は彼が大好きだ。
「このカードで何ができるの?」
「一定の期間鉄道を利用する運賃を前払いした証書らしい。これがあると、職場や学校と家の間を何度でも往復できるんだって」
 僕は曾祖父に聞いた通り説明した。
「『鉄道』は、昔の交通手段のひとつ……。『学校』は、昔の教育機関のことね」
「うん、そうだ」
「でも変なの。いくら昔の交通手段とはいえ、運賃くらい自動精算できなかったの?」
「まだ人間にチップを埋め込む前の時代さ」
 彼女が疑問を抱くのも仕方ない。公害問題で自動車が廃止されて四十年、労働者問題で鉄道が廃止されたのが二十年前だという。僕が生まれた頃には、無人運転のエコタクシーを呼べば目的地へ運んでくれるシステムが完成していた。今や、身体に内蔵されたチップが移動距離を計算し、政府に情報を送信する。計上された運賃は、税金として父の給与から差し引かれるようになっているのだ。
「昔の人って不自由だったのね」
 彼女はカードを指で弾き、笑った。だけど僕はそう思わない。曾祖父は昔のことを話すとき、いつも眩しいものを見るような目で、昔は良かった、自由だったと言うのだ。
「私たちは自由よ。あらゆる生活費や買い物が、チップで自動払い出来るもの。何も持たずに、どこへだって行けるのよ」
「でも全て監視されてるよ。エコタクだって、チップから僕が十五歳未満だと読み取ると、制限区域には連れて行ってくれないじゃないか。これが自由と言える?」
「昔はもっと不自由よ。この『定期乗車券』なんて、決められたレールを走る交通機関を、決められた区間だけ、決められた期間内にしか利用できないのでしょう? それに比べて現在のシステムはとても優秀で……」
 また彼女のお説教が始まった。
 政府配給のコミュニケーション教材『お友達ロボ(十二〜十四歳用)』である彼女は、正しい異性交遊を学ばせるほか、反政府思想の芽を監視する役割も兼ねている。顔は可愛いのに、すぐ僕を洗脳しようとするから嫌いだ。

 曾祖父は亡くなった曾祖母と通勤電車で出会ったと教えてくれたっけ。ドアトゥドアのエコタクじゃ、そんな出会いもあり得ない。
 僕だって、初恋を自分で見つけるくらいの自由がほしいのになあ。軽く溜息を吐きながら、僕は彼女の電源をシャットダウンした。
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□名無しさんからの批評 (2006/06/16 00:02) フォント
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最初は彼女の説明的な台詞が気になりましたが最後まで読んで納得できました。
うまいオチです。
多少主人公の台詞も説明的な表現になっている気がしました。
違和感があった表現としては
・今や殆ど寝たきりだけど
→「今は」のほうが後の「今や、身体に〜」も活きるのでは?
・電源をシャットダウン
→シャットダウンは対象がシステムでは?
・「自由」「洗脳」という言葉が浮いてる
→主人公の年齢、社会環境から乖離している?
発想、構成が素晴らしいと思いました。
□匿名者さんからの批評 (2006/06/16 01:16) フォント
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ん〜惜しいですね。どうせなら、三枚の話じゃなくてもっと中〜長編で見てみたい材料ですね。
話の流れもちょっと微妙な部分はありながらもそつなく纏まってたように思いますし。
これも良作だと思います。
次回作にも期待。
□名無しさんからの批評 (2006/06/17 13:34) フォント
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うまいなと思いました。
定期券なんていうありふれたネタをよくまぁここまで昇華させたものです。まいりました。
世界観が完成しているのでもっとこの話を読んでいきたいですね。
次回作期待してます。
□名無しさんからの批評 (2006/06/20 18:00) フォント
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いやー、これは面白い。たまたま未来世界の作品が続きましたが。定期券という小物まで一緒ですが、どちらも読み応えありました。
特に友達ロボットが驚かされました。出し方がうまい。内容も一貫していてとてもいい。タイトルもあっているけれども、内容がここまでテクニカルなら、タイトルにももっとエスプリが利いていたらすごかった。未来の世界の話なのに、どうしてか懐かしい。とても素敵な、楽しい気分にしてくれました。内容的には、どちらかというと恐ろしい管理時代の物語でしたが。もっとこの作者の作品が読みたい、そう思いました。
□無名さんからの批評 (2006/07/01 00:13) フォント
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ドラえもんにありましたね、お友達ロボット(笑)。本当にドラえもん時代っぽい気がしますねぇ。ただ、気になったのが、『お友達ロボ(十二〜十四歳用)』とわざわざ()で説明までしている十二〜十四歳ですかね。「僕」の年齢の具体化のためでしょうが、十二〜十四歳を一つでまかなうというのにはやや疑問が。第二次成長期ですから、細かい割り振りがあるほうがリアリティーがあるような気がしました。
セリフ説明が多いですかね。ただ、作中の僕と同じに説得されている雰囲気が読者も味わえるので、そこは良し悪し両面あります。
同じ小道具、同じ時代と並んでしまったのは不運ですが、それを感じさせない面白さがありました。
□tokumeiさんからの批評 (2006/07/02 21:09) フォント
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良い点:「反政府思想の芽を監視する役割も兼ねている」+「すぐ僕を洗脳しようとするから嫌いだ。」
 主人公がそう気づいた時点でこのロボットのそういった機能は役に立たないような気がしました。
「僕だって、初恋を自分で見つけるくらいの自由がほしいのになあ」など、未来に対する不安的要素が組み込まれ、何が不便で便利なのか、過剰な便利さは幸せか、幸せってなんだろう的なメッセージ性が良かったと思います。

改善点:何かしっくりこない感じがしました。うまく言い表せませんが、たぶん表現によるものだと思います。
□名無しさんからの批評 (2006/07/07 23:22) フォント
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面白かったです。
□名無しさんからの批評 (2006/07/08 21:17) フォント
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昔話を語り合うのに若者を参加させた辺り、作者のセンスを感じる。彼女は教育を目的として作られたロボットであるから、プログラムとして昔の世界も知っているような気がするのだが。
□名無しさんからの批評 (2006/07/10 23:57) フォント
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よかったです。面白かった。
発想がすごいなあと思った。
□名無しさんからの批評 (2006/07/14 11:36) フォント
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おもしろかった。文章も綺麗にまとまっているし読みやすくわかりやすい。恐ろしい管理社会だが、ありえそうな未来の描き方がうまい。初恋もまだの年齢から考えて、「曽祖父」という言葉は「ひいおじいちゃん」でもよかったのではと思ったが、まぁ粗探し以外のなにものでもないか。
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