「適齢期」
ポメラニアン
 恋人の家で、恋人の母親を交えてお茶を飲みつつ、恋人の育った過程を見ていた。
「ねえ、美穂さんはどんな子供だったの?」
 アルバムを閉じて、お母さんが言う。恋人が太っていた幼少期や坊主頭だった中学時代を笑った直後だけに、言い逃れし難い。
「い、いや。いたって平凡ですよ」
「今度、写真を持ってらっしゃいよ」
 はっきり断わりたいが、私の心は揺れる。結婚を考える恋人だから、お母さんとも上手くやりたい。言葉に詰まっていると、急に思い出したように恋人が言った。
「そうだ、手帳に昔のプリクラ貼ってたろ」
 その話はマズイ。思わず私は嘘をつく。
「あ……あれは友達しか写ってなくて」
「嘘だ。一枚だけ私が写ってまーす、どれでしょう? ってクイズやってたじゃん」
 お母さんの前で、出会いの合コンの話なんかしないで欲しいのだけれど。
「俺さ、あの時は当てられなかったけど、今なら解る自信あるよ」
「あら、お母さんもそのクイズ参加するわ」
 こういうところ、恋人は母親似らしい。
「じゃあ……見てみます?」
 私は渋々バッグから手帳を取り出し、恋人と出会って不要になった『合コンネタ用・厳選三十枚のプリクラページ』を開く。
 大丈夫、どうせ誰も当てたことはない。「正解はこれって言ったらどうする?」と自分で自分を指さしてみても、全員に「あり得ない」と拒絶反応を示されたくらいだ。

 高校時代、友達に誘われて行った日焼けサロンにハマって以来、私はバイト代の殆どを日サロと化粧品につぎ込んだ。一度やってしまうと普通では物足りなくなり、日焼けもメイクもエスカレートする一方だった。
 結果できあがったプリクラの中の笑顔は、いわゆるヤマンバギャルそのものだ。
 高校を卒業して五年、今度は収入の大半を美白に費やした。やっと手に入れた現在の白い肌から、過去の姿は想像もつかないだろう。
 絶対誰にも解らない。そう思っていたのに。

「あ、解った。これ?」
 恋人はすぐに正解を指さした。驚いたけれど、さすが恋人だという気もした。
「ほんと、鼻の形と口もとが似てるわ。可愛いわね。こういうの、流行ってたのよね」
 続くお母さんの意外な反応に、私はきょとんとした。皆に拒絶され、本人すら痛いと思うガングロの私を、そこまですんなり受け止められてしまうと、かえって困惑する。
「どう? どう? 当たり?」
 無邪気に訊いてくる恋人。その顔を見て思う。私は恋人の、この寛容さが好きだ。彼のこの性格がお母さん譲りだとしたら、とり繕わなくてもお母さんと上手くやれそうだ。
 踏み出す一歩。私は正解を告げながら、その先にある結婚の像を、確かに見た気がした。
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