「蜜りんご」
とま
「わあ、睦美んちのりんご、美味しいんだよね。っていうか久しぶり、元気?」
「相変わらず。いろいろとね」
 出産したてで実家にいる花摘子の家を帰省ついでに訪れると、彼女は幼馴染との再会より手土産を歓迎したようだった。無理もない、長野で農園を営む父の実家から毎年送られてくるりんごは、それほど美味しいのだ。
「ちょうどいま、寝かしつけたとこ」
 通された居間の隅、ベビーベッドに横たわる小さな生命。見るなり、私は言った。
「わ。ちゃんと人間の形だね」
 当たり前のことだけれど、本当にそう思う。
「そうよお。こんなに小さくても人間だし、オンナなの。ピンクの服を着せると機嫌がいいし、ママよりパパの抱っこが好きみたい。そのうち私の立場があやうくなるかも」
 困ったように笑う花摘子は、けれどとても満たされているように見えた。
「さて。早速りんご頂こうかな」
 台所からいそいそとナイフを出してきた乳児の母親に、私は一応気を遣って言った。
「私、やろうか?」
「いいよ、睦美って皮剥き下手なんだもん」
 私は返す言葉もなく手を引っ込めた。確かに私は不器用だ。昔も、今も。
 手早く綺麗に剥かれたりんごは、カットした断面から蜜が溢れるのが見てとれた。私たちは見る間も惜しいとばかりに、すぐにそれをシャクシャクと囓る。
 囓りながら、花摘子がふとつぶやいた。
「そういえばさ、小学校の家庭科で、各自リンゴ持参して皮剥き実習やったよね」
「え。そんなことあったっけ?」
「あったよ。で、林くんがやたら睦美の剥いたリンゴばっかり食べてた。悔しかったあ」
 林くん。花摘子が当時好きだった男の子だ。
「バカだね、林くん。私が剥いたリンゴなんて実がほとんど残らないのに。それを差し引いても、私のリンゴが甘そうだったのかな」
 私が笑い飛ばすと、花摘子は口を尖らせる。
「違うよ。私のリンゴだって、睦美の家からおすそ分けされたやつだったもん。バカは睦美。林くんは睦美のこと好きだったんだよ」
「――惜しいことしたわね。知ってたんなら、そのときに教えてくれれば良かったのに」
 今さら十五年前の話を言われても、と困りつつ、なんとかクールに私gが切り返すと、花摘子はいたずらっぽく笑った。
「ごめんね、私も最初からオンナだったから」
 ああそうか、と妙に納得する私がいた。
 不意に赤ん坊がぐずり、花摘子が慌ててベビーベッドに駆けよる。「だいじょぶよ」と笑いかける彼女はすっかり母の顔。
 同じ齢にして決まった男もいない私との格差は、きっとあの頃から始まっていた。彼女が結婚した頃は劣等感もあったけれど、今の私は、落ち着いてりんごを囓っていられる。
 剥くのが下手でも、まだ大丈夫。中の蜜が一番甘くなる瞬間を、私は知っている。
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□名無しさんからの批評 (2005/09/16 02:46) フォント
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名前が…懲りすぎてわかりません。睦美は読めますが、花摘子に関しては、珍しい字だったので、人の名前かどうかも当初危うかったです。もしや花の名前?とか思いました。私が馬鹿なだけですが…すみません。そこで躓きました。
こういう短編では、名前も大衆にわかりやすいようにつけて頂いた方がありがたいと思います。
内容については、対照的な二人の様子がよく描かれていると思います。
ただ、一番はじめの地の文もちょっと長くて状況が把握しづらかったのがおしかったです。
□名無しさんからの批評 (2005/09/16 05:51) フォント
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すごい書きなれてる感じがして上手いなぁと思った。この文章で林檎・蜜とかって瑞々しくて題材としてぴったりですね。
花摘子が人の名前に思えないんだけど何か意味があるのかな? 辞書を調べてみたけど意味ないみたいだし……。変に名前に凝らなくてもぐいぐい読ませる文章だと思いました。
昔の恋的なエピソードもとても好きでした。
□名無しさんからの批評 (2005/09/16 21:32) フォント
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男の僕にはわかりませんが、女の友情ってこういうんですかね。結構新鮮に読めました。

難をいえば
出産・実家にいる花摘子さん
帰省している睦美さん
睦美さんの父方の実家は長野で農園を営んでいる

この関係が把握しづらかったです。おそらく睦美さん・花摘子さんは現在どこで生活しているのか、睦さんの父は実家から離れているのか、そういったことがはっきりと掛かれていないからだと思います。
□名無しさんからの批評 (2005/09/17 01:30) フォント
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 花嫡子って、名前だったんですね。
 私はあまり好きな作品ではありませんが、現実味と新鮮さがあり、本当にあった話のようでした。上手く纏まった作品だと思います。
 ラストで、『私』が林檎を齧る描写があると良いかな、と思いました。
 ――林檎の酸味のある甘い蜜だけが、なぜか妙に印象にのこっています。
□名無しさんからの批評 (2005/09/23 17:03) フォント
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個人的に文章の量に比較して、台詞が多すぎるのでは、とおもいました。
好みの問題なのかと思いますが。

それとラストの部分で、なぜ劣等感がなくなったのかも理解できないです。
母になって女らしさをなくした友人を見て、優越感に浸っているのでしょうか?
そうだとすると主人公の性格の悪さに共感できません。
(思い込みだったらごめんなさい)
□匿名者さんからの批評 (2005/09/25 12:04) フォント
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何というか、読み辛かった。
最初睦美の方ではなく花摘子の方が主人公かと思ってしまいました。
この辺は私の読解力不足かも知れませんが。
全体的には、引っかかる所はなかった。と、言うか全く引っかからずにすっと流れていって、後で、あれ? っていう感じかな。
淡泊って訳でもないんだけど、話の盛り上がり部分もあまり盛り上がりきれずにするっと終ってしまった感じ。
オチも何となく、唐突かな〜と思わずにはいられなかった。
□名無しさんからの批評 (2005/09/25 19:17) フォント
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誤字だけもったいない。
花摘子が読めない。
みなまでいうなという感じになるが、器用にかつ上手にまとまってい過ぎて面白みがない。
□匿名さんからの批評 (2005/10/01 16:18) フォント
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言葉の使い方がスムーズに使われていないせいか、読みにくかったです。話自体は普通というか、も少しひねりがほしかった。がんばってください。
□名無しさんからの批評 (2005/10/04 15:48) フォント
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最後一文の静かで重い雰囲気が良かった。
全体的にはまだまだ推敲の余地がある感じがしましまた。
□名無しさんからの批評 (2005/10/10 16:13) フォント
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微妙な年齢の女性特有の、微妙な揺らぎが描けていて私にはとても共感できました。読む人を選ぶとは思いますが。
推敲不足なところがある気がします。書く力はおありのようなので、丁寧に書くことを心がけて下さい。
□名無しさんからの批評 (2005/10/11 13:56) フォント
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彼女達の年齢は30前と言ったところですね。主人公の言う一番密が甘くなる瞬間というのは、年齢によるものでしょうか。確かに年齢とは言っていませんが、どうにも負け惜しみに聞こえてしまいます。
二人のやりとりは面白いですが、まだ推敲の余地はあったと思います。誤字も含めてです。
□名無しさんからの批評 (2005/10/12 23:27) フォント
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「私g」見た瞬間にちょっと読む気が削がれるので、気をつけて欲しいですね。
文章もキレイだし、発想もウマい。構成も無理がない。だけどなんとなく、オチきっていない印象。睦美がなぜ落ち着いてリンゴを齧っていられるのか。そこがメインじゃないのか?長編の序章ともとれるけれど。
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