「シーソーゲーム」
らら
 ――スクールバッグの底に白のチョークで好きな人のイニシャルを書く。消えるまでに相手がその文字に気づいたら、両想い――
 ウチの中学で、先輩から代々受け継がれてきたおまじないだ。小山の上にある学校まで、麓から百三十三段の階段を上らないといけない(坂道も一応あるけど、遠回りになる)から、こんなおまじないができたのだと思う。
 階段を上りながら少し見上げると、人のカバンの裏がよく見える。誰かのカバンに自分のイニシャルが書かれていたら、普通はその相手を意識するようになるものだ。魔力でもなんでもなく、結構実用的。ウチのクラスでも、これでカップルが三組成立した。
 この勢いにあやかろうと、とうとう私も書いてしまった。YNの二文字は、同じクラスの永島悠太、かわいかっこいい系。仲はいいほう。でも、脈があるかは微妙。
 朝。少し早めに家を出て、ゆっくり歩くと、だいたいいつも後ろから悠太たちが追いついてくる。今日もそうだ。いつものように、悠太の連れの雅人が私に声をかけてくれた。
「おーっす、渡辺」
 彼のおかげで、私は悠太と合流して一緒に学校まで歩ける。週二回ほどの私のシアワセな瞬間だ。でも、今日はそれじゃ困る。
 隣を歩いたら、カバンの底が見えない。
 一緒に歩くのもいいけれど、とりあえず階段の中盤、会話の途中で、私は二人から逃げ出すようにタタッと四段ほど駆け上った。
「なにおまえ。イキナリ何やってんの」
 げらげら笑う雅人はおいといて、私は悠太のほうにカバンの底を向けた。チラッと振り返って、『気づいてビーム』を出してみる。
 目が合って。そのあと。悠太の視線は私のカバンの底あたりで止まる。あ、たぶん今、気づいた――と思った、その瞬間だった。
 悠太はいきなり雅人の腕を引っ張って、二段抜かしで私の脇をすり抜け、私の四段上でようやく立ち止まった。私は呆気にとられた。
「なんだよ、イキナリ」
 陽気な雅人もさすがに怒る。悠太は黙ったまま、雅人のカバンに視線を落とした。なんだろうと思って、私も見た。そして、気づいた。雅人のカバンの裏でかなり薄くなったTWの文字。私のイニシャル、だと思う。
 悠太はたぶん、雅人が私のカバンの底を見ないように、そして私が雅人の気持ちに気づくように、階段を駆け上ったのだ。
 私の頬は、急に熱くなった。
 無理やり見せたって、おまじないは効かないのだ。現に、雅人の気持ちは嬉しいけど、それで私の気持ちが変わるわけじゃない。
 友達思いの悠太がますます好きで、上に立って気持ちを押しつけようとしていた自分が恥ずかしくて、私はそのまま階段を駆け下りたくなった。でも、下りたら何も始まらない。
 悠太を追いかけるように、私も上らなきゃいけないのだ。いつか、もっと自然に悠太の隣を歩ける日が、きっとくる。
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□言い放題さんからの批評 (2005/03/16 22:26) フォント
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多分ものすごく書ける人だと思います。ひとつ欲を言うなら、二人が階段を駆け上がってから私を、どんな顔で見下ろしているか描写がして欲しかったかも。……くどくなってしまうかしらん?
もうちょっとで、印象深い着地ができたような気がしますが……何て言えばいいのか……難しい。
□名無しさんからの批評 (2005/03/17 10:21) フォント
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あ〜、若いっていいなぁって思いながら読んでいました。特に気になるところもなく、若い人を若く書けていて、読みやすかったです。このおまじない、作者の方が考えたんでしょうか?すごい……。
□名無しさんからの批評 (2005/03/17 14:31) フォント
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 可愛らしいですね。
 特に批評とかありません。奇抜なものではないけど、ほのかで優しい文章がいいです。
□名無しさんからの批評 (2005/03/24 12:18) フォント
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若さ溢れる作品で、表現もとてもかわいらしくて。
でも、雅人と悠太が出てきたときに、「きっと三角関係なんだろうな」と思ったら、
本当にそうでちょっと残念でした。
それでも、オチが効いてたので良かったです。
□名は無いさんからの批評 (2005/03/25 04:18) フォント
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いやはや、『階段』からここまでストーリを作る技量は凄いですね。発想力は素晴らしいの一言。では、ひっかかるのはどこか? それは私にとっては物語の締め方でした。
まったくもって作者さんには勝手な話ですが、雅人くんの気持ちが一蹴されてしまったのが残念でならなかったので、もっと渡辺さんに葛藤して欲しかったというのが、結局のところ作品に対する評価のマイナスになっているのではないかと思います。
雅人と悠太の行動が予想できるほどに人間臭くって、渡辺さんは一人、物語の外にいる。そんな印象でした。
□名無しさんからの批評 (2005/03/25 18:56) フォント
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全体をひっくるめて登場人物の若さがとてもよく表現されていて面白いと思いました。
登場人物につっこみたいところはいくつかあるけれど、内容自体はスムーズに読めていいと思います。
□落ち葉拾いさんからの批評 (2005/03/26 11:21) フォント
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小説というのは、テクニックと感性で成り立っているわけで。
テクニックがある一定のラインを超えると、あとはもう感性でしか判断がつかないわけです。

というわけで、
こちらの作品、テクニックについては申し分ないです。(言葉の選び方、構成のバランス、誤字・脱字の有無、等々)

だからあとは感性の話になってくるわけです。
要するに、好きか、嫌いか、の話です。

そうなると、
こういった舞台や登場人物が学生ということで、やはり同世代の支持が集めやすくなるわけです。
同世代の人たちはきっと面白いというでしょう。

これからも作品を書くときは、「誰に」支持されるようなものにするか。何を書きたいのかを、今回の作品のように大切にしていってください。
□名無しさんからの批評 (2005/03/26 16:05) フォント
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うまいな。今月一番うまかった、という印象です。
設定にしろ、文章にしろ、まとめ方にしろ。
話の青臭さもいい感じです。

……いいな、若いって。
□名無しさんからの批評 (2005/03/27 22:06) フォント
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すごいなぁ・・・。とただただ関心知るのみ。綺麗でやわらかい文章で、なおかつよけいな比喩や誇張もなく、実に読みやすい。
自分にはこの小説に大して批判できるところはありません。おもしろかったです。
□名無しさんからの批評 (2005/03/28 09:50) フォント
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なんだかありきたりな気もする。
わざわざ一回合流させなくても、先に女の子を登らせておくほうもあるだろう、等の突込みを入れたくなる構成が、ちょっと残念。
最後の締めくくり方も少しだけ違和感を感じる。
考えすぎないで、ゆっくり書いていけば凄く書ける人だと思うので、頑張って欲しい。
□名無しさんからの批評 (2005/03/29 14:52) フォント
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他の方が仰る通り、文章テクニックという点は申し分ないと思います。非常に読みやすかったです。

テーマにおいても、「階段」を扱う人が多かった中、最も自然に生かせていると思いました。

それでも、違和感を感じる部分もありました。

クラスの中で三人も成功例がある有名な方法で、雅人自身も利用している方法にも関わらず、主人公が階段を駆け上がった時に雅人はそれに気づかないでしょうか。文字はチョークで書いてあるとの事なので、そこそこの大きさを持っていると思うのですが。

情景をもう少し鮮明にイメージしてみる事で、少々ぎこちないラストの場面も変わってくると思います。
□辛口侍Rさんからの批評 (2005/04/02 19:43) フォント
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勇敢な恋の歌?(笑)

アクのないキャラたちの行動にライトノベルな趣を感じたけど、そう捉えていいのかな? となると、あまり踏み込んだツッコミは意味がないけど……。自分が男であるせいか、そんな階段があったら、カバンの下よりスカートの下の方が気になる(苦笑)。

「魔力でもなんでもなく」の説明が個人的にすごく納得のいくものだったので、「無理やり見せたって〜」に続く文章は、「ん?」だった。「私」の気持ちがわからないというのではなく、そういった展開にしているところが。あの説明に関連づけ、うまく打ち消すような書き方にすればよかったかも。そしたら繋がりができ、生きてくる文章となる、と思う。また、結も厳密に理解しようとしたら、よくわからない。なにか適当に付け足したよう。
□名無しさんからの批評 (2005/04/12 14:30) フォント
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わー。花満開だー。

ライトノベル感満載ですね。分かりやすくて一般うけすう。
設定が独創的でよかった。構成も悪くないけれども、オチが読めてしまう。
オチが読める作品はあまり面白くない。
とにかく独創的な発想がよかった。
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