「スキマ」
北岡菜々
「なんで今の人と結婚したのですか?」
 恵の顔を一瞥しただけで、彼女は聞いた。
「――なんで、って。……好きだからです」
 看板もないマンションの一室。一見客は一切観ず、鑑定料も高い彼女は有名な占い師ではない。それでもよく当たると紹介は広まり、毎日尋ねてくる相談者が絶えないという。
 恵に彼女を紹介してくれた友人は、この占い師に鑑定された結果、五年間人生をともにした旦那となんの迷いもなく離婚した。
 恵は旦那との関係には悩んでいない。結婚して三年、今も愛していると言えるし、愛されていると実感する。彼が仕事を続けさせてくれたおかげで、先月には異例の女性課長への昇進も決まり、人生は上々だ。けれど、友人が離婚に至った心理が妙に気になり、「その占い師、紹介して」と頼んでしまった。

 彼女は恵の名前と誕生日を聞くと、シャッフルしたカードを二枚裏返して続けた。
「――やっぱり」
「え? 何がですか」
「あなたと旦那さんは、因果が無いわ」
「どういうことでしょうか?」
 彼女はさらにカードを捲りながら言う。
「相性が良い人は前世から深い絆で結ばれ、相性が悪い人は前世から愛憎の傷を残しているのです。愛と憎しみは似ているため、混同して最も因果の悪い人と結ばれてしまう例は多々あります。が、恵さんと旦那さんは違います。現世で初めて出会い、来世以降はおそらく出会うこともない運命にあるのです」
 黙り込む恵に、さらに彼女は畳みかける。
「あなたは結婚の前と後でほとんど変わっていないですね。同じ仕事を続け、出産もしない。それは、彼とあなたが、お互いの人生に影響を与え合わない相性だからです」
 心当たりはあった。恵は結婚や出産で人生が変わるのを怖れ、自分を自分のままでいさせてくれる人を選んだつもりだ。彼にとっての恵もそういう存在なのかもしれない。恵もまた、彼の生活に口出ししないのだ。
「運命の相手を選べば、あなたの人生は良くも悪くも色鮮やかに変わるでしょう。苦労もありますが、それを厭わないほど愛する人と結ばれるのは喜びです。また、現在の生活を保ちたいのであれば、変わり映えしない毎日をあと五十年続ける覚悟を持ってください。あなたの人生ですから、どちらが良いとは言いませんが……」
 右に大きな幸せが待っているかもしれない濃密な人生、左に未来が解りきったそこそこの人生を乗せた天秤が、心の中で揺れた。
 針は、どっちに振れた?

 紅潮した顔でそのマンションを後にした恵を見送って、占い師はほくそ笑んだ。
 たいして悩みもないくせにわざわざ占いなどに何万も払う人間の幸せを引っ掻き回すのが、彼女の唯一の趣味なのだった。
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□匿名者さんからの批評 (2004/12/16 22:48) フォント
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あまり気分が良いとは言えない終わり方でしたが、まぁそれなりにうまい話だったとは思います。
ですが、最後の所にある『針は、どっちに振れた?』の部分。
ここはちょっとおかしいかなと。個人的な意見ではこれはいらなかったと思います。またはもっと別の表現にするべきだったと。
何故か軽い表現に見えて、彼女の将来を決めている様な重大性を秘めて見えなかった。それが私にはつまらなく感じさせました。
□名無しさんからの批評 (2004/12/18 23:12) フォント
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いちいち説明のセリフが長いですけれども、話はうまいと思いますし、よく書けています。
後味の悪さがまた掌編としていい感じ。コレくらい読後にサクッとインパクト残せるのは結構良作だと思います。
なんとなく血液型占いにも似ているものを感じますね〜、そういうことは誰にでも当てはまりそうな部分はあるっていうのを言っておけば、「あたっている」って被験者は思っちゃいますし。
今度は「いい気分」似なれる読後感のお話を書いてみてください。
□名無しさんからの批評 (2004/12/19 02:08) フォント
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あは、厭な占い師だな〜と思わされました。そう思わせた時点で作者さんの勝ち!ですね。途中まで、かなりまじめに読んでただけに、意表をつかれました。
文章もしっかりとしていて、読みやすかったです。ただ最後の一文はもう少し練っても良かった感じがします、“唯一の趣味”という表現とか。
それにしても、昨今の占いブームを風刺したかのような…私も占いなんかに頼らず、しっかり自分の未来を掴みたいと思いました。
□名無しさんからの批評 (2004/12/20 08:23) フォント
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あは、うまいですね。読ませます。読者を引っ張って最後までいきます。落ちはちょっと弱いかな。それでも今月の作品中では秀逸! 

おどろおどろしいことも、お涙頂戴もなく、これほどおもしろい話が書けるんですね〜。いい教訓になりました。
□名無しさんからの批評 (2004/12/21 22:46) フォント
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個人的に最後が少し納得いかない。何かありきたりで最後以外は良くかけているのに、最後でなぁんだ。とがっかりしてしまった。けど前半部のわかりやすさは良し。また坦々としているけど読者に読ませている。結構面白かったです。
□名無しさんからの批評 (2004/12/24 19:33) フォント
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細かい事抜きにして面白かった。
□辛口侍。さんからの批評 (2004/12/28 13:42) フォント
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ん〜、旦那……。ま、いっか。でも地の文、会話文と使いすぎ。言い方は他にもあるのでいろいろ試してみて、語彙を使いこなした方がいいかとも思う。例えば占い師に、「パートナー」なんて言葉を使わせてみたりして、言葉遣いで人物のイメージを作ったりするのもいいんじゃないのかな。

あと、展開に不思議なところがある。「離婚に至った心理」が気になるなら、普通はその友人に話をきくでしょ? なんで占い師に?

「たいして悩みもしないくせに」と「たいした悩みもないくせに」の合体かな? もう少し推敲をしようよ。最初の方の「紹介は広まり」も同じ。わからないでもないが、「噂は広まり」の変形でしょ。で、すでに紹介されているのなら、「尋ねる」より「訪ねる」かな。

「幸せを引っ掻き回すのが、彼女の唯一の趣味」っていうのも気になった。占い師は、ただ悩ましただけで、まだ幸せを引っ掻き回すようなことをしてないんだから。つまり、これからさらに占い師に引っ掻き回されていくという余韻がほしいかな。でも、もう一度最初っから読んでみて。もしそんな趣味を満たしていたら、よく当たるという占い師の前提が壊れてしまうよ。だから、裏の世界では著名だとか、大物政治家の顧問をしているだとかの設定にし、よく当たるとかはあえて書かない方がよかったかも。お話は面白かったので惜しい。
□名無しさんからの批評 (2005/01/04 20:39) フォント
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血液型占いでも、こういった占い師でも、某女性占い師でも、基本的にcold readingという手段を使っている訳で、、と前置きはおいておいて、うむ、占い師がサギ師であるというのはCold Readingの基本であるなあ〜と
ああ、感想になってしまってごめんなさい。楽しかったですよ。
□名無しさんからの批評 (2005/01/04 21:52) フォント
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最初はどれが誰なのか少し困惑してしまったんですが、上手かったです。淡々と語っていても、読ませる文だと思います。
最後の「針は〜」は少し違和感のある描写だと思いました。
□名無しさんからの批評 (2005/01/06 23:09) フォント
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占いばかり信じて行動する友人がいるので、他人事とは思えない話ですな。
フィクションとして、読者を楽しませるだけの余裕を感じた。良作では?
□名無しさんからの批評 (2005/01/07 21:50) フォント
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「結局その程度だったのでしょう?」と微笑むのが好きな冷淡な占い師が想像できて面白いです。
占われた女性の滑稽さを面白くそして皮肉に描いたのは「うまい!」と想いました
□名無しさんからの批評 (2005/01/10 23:08) フォント
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とても面白かったです。文章も上手ですし、オチも生きてて良かったです。
強いて言えば、せっかくカードを使って占っているのだから、もっともらしいセリフを占い師が交えていた、という情景があっても良かったと思いました。
昔、デパートの占い師に占ってもらったことがありましたが、占いの通りにはしませんでした。
□名無しさんからの批評 (2005/01/12 17:45) フォント
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ああ、いいな、この人の文章は好きだな、と思える初めての経験でした。「占い」というモチーフにも引込まれるし、ちょっと一歩引いたような作者の性格も垣間見れるような…興味深いし、好感が持てます。
単文なので、感性しか分からないのが非常に残念ですが、きっととても面白い小説を書かれている、あるいは、書くことに慣れているという感が持てます。
何気ない日常や、多分この場合、作者が実際体験したことかもしれないけれど、そんなささいなことから生まれる、文章が一番ストレートに伝えてくれるように思います。また読めますでしょうか。別のテーマで。楽しみにしています。本気で。
□名無しさんからの批評 (2005/01/13 00:15) フォント
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 最後まで安心して読める、と言う印象でした。表現も構成も申し分なく、内容についてもこの字数の中でとてもよくまとまっていたと思います。
 他の方もおっしゃっていましたが、占い師の話し方には、その人の個性を出すという点でもう少し工夫があってもよかったのかなと思いましたが、これはこれで淡々とした感じが出ているとも思います。
 欲を言えば、表現の面で、書き手の方のより強い個性の表出を望みたいです。
□AQさんからの批評 (2005/01/14 23:27) フォント
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 安心して読み進められました。
 『針は、どっちに振れた?』はちょっとクサイな〜。といってもこれがないとアクセントが足りない気もしますが。
 もうちょっと占い師に毒を持たせても良い気がします。(某かずこさんとまでは言いませんが)前半の恵についての説明を簡潔にして後半、天秤の揺れ具合への言及を増やしてもいいんじゃなかろうかと思ったりした。
□AQさんからの批評 (2005/01/14 23:29) フォント
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 すいません、追加です。後半の心理の揺れを書き込まないと、タイトルの「スキマ」が活きてこないとも思いました。
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