「そんな頃もあったね、って」
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 日曜の午後、遅めの昼食をとろうとファミレスに入ったときのことだ。
 窓際の席に案内されると、間もなく一人のウェイトレスが水の入ったグラスと大仰な何冊かのメニューを持って現れた。
 席の脇に立ち、「いらっしゃいませ」と一礼。トレイの上のグラスを手にとり、テーブルの隅に妙に丁寧な動作で置いて、さらにメニューもきっちり揃えた状態でテーブルに置き、深々と礼をしながら、彼女は言う。
「ご注文がお決まりになりましたら、そちらのボタンを押、お押し下さい」
「いや、もう決まってる。この和風ハンバーグを、Bセットで」
「あ、はい。和風ハンバーグの、Bセットですね。えっ……と、お飲みものは……?」
「あ、何が選べるんだっけ?」
「あ、えっと……」
 彼女が慌てたように目を泳がせたので、俺はメニューも見ず当てずっぽうに頼んだ。
「じゃあ、アイスティーで」
「はい、アイスティーですね。それではご注文を繰り返します――」
 その様子を見て、この子は新入りなんだなと俺は思った。見たところ高校生くらいだし、初めてのアルバイトなのかもしれない。
 店は中途半端な時間の割に混んでおり、彼女は俺の背後の席や斜め前の席の人間に呼ばれ、いちいち深々と頭を下げながら、丁寧に接客をしていた。マニュアル通りにやっているつもりだろうが、却ってたどたどしい。
 今やすっかり初々しさの無い俺も、十年くらい前はあんな感じだったのだろう。好感は持てるが、危なっかしい。昔の俺も、周りから見ればそんな風だったのだろうか。他人事ながら心配で目が離せないくらいだ。

 しばらくして、彼女は左手にジュウジュウと唸る鉄板を、右手にはご飯の載った皿を持ち、俺のテーブルに近づいてきた。鉄板は小刻みに震え、ふらふら揺れていた。彼女の左腕は、鉄板の重さに慣れていないのだろう。歩く動作と相まって鉄板はますます揺れ、ついにひっくり返りそうな角度にまで傾いた。
「あっ」
 思わず声が出た。……いや、思わず腰を浮かせはしたが、俺は声など出していない。聞こえたのは女の声だった。
 声のした方に目をやると、隣のテーブルに一人で座っている女と目が合った。同年代の女だった。女は少し気まずそうに頬を赤らめながら、俺に何故か会釈した。俺も会釈した。
 鉄板は、ひっくり返らなかった。すんでのところで彼女の腕力が勝ったらしい。何事もなかったように彼女は、「お待たせいたしました」と言ってそれを俺のテーブルに置いた。
 何となく、むず痒さとくすぐったさに包まれながら、俺は鉄板の上でジュウジュウ言っているハンバーグを食った。たいして旨くはないが、悪くもない、と思った。
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□緑の五本指さんからの批評 (2004/07/16 11:25) フォント
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「新」が新人にかかっているのか新しい出会いにかかっているのか。
□名無しさんからの批評 (2004/07/16 11:46) フォント
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新人ってことですよね。正直言って特になんてことない話だけど、割と好き。読みやすさという方向での文章力を感じました。思わず「あっ」て声を上げた女性との微妙な雰囲気も、ささやかながらいい味だしてると思います。(以下アラ探し)『マニュアル通りにやっているつもりだろうが、却ってたどたどしい。』この一文に少し違和感を感じた。『却って』がおかしい気がする。あと主人公がウェイトレス『好感を持った』ってとこに違和感。たどたどしくマニュアル通りに動く人に好感持つかなあと。そのへんを昔の自分と重ね合わせて、好感を持つにいたった思考の流れなんてものがあると良いなと思いました。
□名無しさんからの批評 (2004/07/16 22:07) フォント
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うまく書けてる。すごいなぁ。なんでもない話ではあるけれど。
□匿名者さんからの批評 (2004/07/16 22:56) フォント
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話の盛り上がりに欠けるとは思うけど巧く纏まってはいる。けど、やっぱり何か一つ盛り上がりが欲しい。
見ていてスッと読んで終わるさっぱりさは良いかも知れないが、これでは何も残らない。さっぱりの中にも印象的なくどさが在っても良いと思った作品でした。      以上。
□名無しさんからの批評 (2004/07/17 16:26) フォント
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面白かった。淡々とした話なのに読ませる。巧い。

◆発想
 テーマ性が希薄。「新入り」つながりだけでは弱い。語り手から見ているせいもあるが、この話は「新」よりも「今と昔」な雰囲気。新入りから見た話にすれば、よりテーマがクローズアップできたような気がする(あくまでも個人的に)。

◆構成
 言うことなし。

◆表現
 言うことなし。

◆総合
 巧い。が、やはりテーマの弱さが気になった。これは無い物ねだりか。
□名無しさんからの批評 (2004/07/17 17:10) フォント
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「却ってたどたどしい。」の「かえって」はひらがなの方がよかったのではなかろうか? 実際、ここでちょっと詰まりました。
他がすらすら読めていただけに、少々気になってしまいました。

コレくらいの分量にはぴったりの題材と展開、そしてオチです。
抑えるべきところは抑えられていて、ソツなくまとまっているという良作でした。
□辛口侍。さんからの批評 (2004/07/19 00:38) フォント
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性急感っていうのかな。何かに急いでいる様子の主人公の、ファミレスでの一時の出来事のように感じました。意識して書いているのなら、すごい。けど、最初に日曜の午後ってあるし……。後の方は落ち着いてきてしまっている感も。

テクニックとして、本筋のストーリーの流れとは別の、感情的な流れや他の状況の進行、その背景、読者に感じさせる期待感、不安感、があるとぐっとよくなる。そういうことができる人かな、と思いました。期待大。

“「お待たせいたしました」”って書くじゃな〜い。でも、わたくし、あなたに出会うために二十年以上も待ってましたからっ、残念っ。一度はいってみたい甘いセリフ斬りィ〜。
□鰻さんからの批評 (2004/07/20 18:07) フォント
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少ない字数に丁度収まりきっているところが小気味いい。書き出しの緻密すぎる描写がちょっと引っかかりましたが、スムーズに読める文体が物語りの世界に引き込んでくれる。情景描写も特に凝ったところなどないのに、じつに思い浮かべることができた。なぜか。
掌編として完成度高いんじゃないでしょうか。
□名無しさんからの批評 (2004/07/21 15:35) フォント
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うまいなあ、と。
ただ、読後感が薄いのが残念。もう一捻りほしい。
□名無しさんからの批評 (2004/07/21 17:31) フォント
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前半に改行が少し多いような気がします。あと少しだけ口調が気にかかります。
でも良くまとまってて巧い話だと思いました。
□名無しさんからの批評 (2004/07/22 20:57) フォント
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小さくまとまっていて、読みやすかったです。
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