「ヨロコビノウタ」
佐倉まこと
 お腹の奥から吐き出す想いが声帯を震わせる瞬間、耳で音階を調節し、この口から勢いよく出す。私の身体はひとつの楽器。
 歌手になるのが夢で、私は真剣にその夢を追いかけていた。週一回ずつのダンスとピアノと歌のレッスンは一度も休まず、両親を説得させるために勉学も疎かにしなかった。その傍ら定期的にライブハウスで歌い、デモテープを送ってはオーディションを受けた。
 そして私は一年前、オーディションには落ちたものの、審査員の一人に気に入られ、とうとうプロダクションに所属することになった。単身で東京へ出ることを両親は反対したけれど、それまで勤勉にやってきたことでなんとか説得し、高校を辞めて小さな町を出た。二度と戻らない覚悟があった。
 ただし、所属したプロダクションはとても弱小だった。レッスンやライブのブッキングに力を注いではくれたものの、それだけでは歌手と言える仕事には程遠かった。
 社長から、生活費も足りないだろうし、歌の修行を兼ねてクラブで歌うアルバイトをしたらどうかと言われて六本木に案内されたのは、上京して三ヶ月目のことだ。行ってみるとそれは単なるキャバクラで、私は男たちのために水割りを作りながら、半裸の女が踊る一日二回のショーの中でのみ歌うことを許された。それでも私は歌えれば幸せだった。
 やがて客の一人に気に入られ、何度か同伴を重ねるうちに、知人が経営する店で可愛い子を探してるんだ、と言われて風俗店を紹介された。本番はないし、割の良いアルバイトをして少しでも音楽活動に力を入れたかった私は、それを受け入れた。
 これが今から半年以上前の話。プロダクションの仕事は次第に少なくなり、私の口は、今や奉仕のために存在する。
 
 新規の客に指名されて入室しようとしたとき、店長に呼び止められた。
「このお客さん、耳に障害があって喋れないんだ。困ったら、筆談でなんとかやって」
 そういう人を相手にするのは初めてだった。
 年の頃は二十代前半。どうしてこの店に来たのか、どうして私を指名してくれたのか、聞きたくても聞けないけれど、実際に仕事をするにあたっては別に困りもしない。
 ピアノが得意な饒舌な指と、早口言葉が特技の器用な口でもって、私は商品を提供する。彼がどうして欲しいのか、どうしたら気持ち良いのかを理解するのには、身体の状態や次第に高まる呻き声さえあれば言葉は必要ない。私は上手に彼の気持ちを汲み、ついに彼は大きく声を上げて熱い感情を放出した。
 胸にかかった彼の歓びを拭き取りながら、私はなぜか泣きそうになっていた。
 やはり、人の身体は楽器だ。想いが声帯を震わせ、音になる。メロディーも歌詞もないけれど、それは確かな『歓びの歌』。
 私はたぶん、この仕事を辞めないだろう。
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□名無しさんからの批評 (2004/02/10 21:49) フォント
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文章が説明的すぎると思います。特に前半は、それほど目新しい設定ではないのですから、もっと簡潔にしてもいいのではないでしょうか。それよりも、主人公の感情に重きを置いた方が、良い作品になると思います。
□名無しさんからの批評 (2004/02/11 02:25) フォント
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 きれいに物語が流れていていいと思います。最初と最後のつながりもとてもいいですね。
 前半の2・3段落目がやや冗長に感じました。歌への執着心を表現するにしても、もう少しさらりと書いて良いかと。
 次々に話を進めていく部分では、文章テンポ、リズムに変化をつけたほうが良いかと思います。同リズムの繰り返しは説明っぽく響いてしまうかと。

 後半はとてもテンポがいいですね。ただ、キャバクラ→風俗の変化は少し強引に感じました。前半を削って、ここにまわすのはどうでしょう。
□名無しさんからの批評 (2004/02/11 08:20) フォント
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最初のくだりはとても良かったと思います。それだけではなく、最後まで一気に読ませる展開とリズムの良さには頭が下がります。

ただ、最後3行の意図がつかめませんでした。「風俗」の仕事を辞めないのか、それとも「音楽」の仕事を辞めないのか。要するに、どちらとも取れてしまう(どちらともかもしれませんが)ので、もうちょっと思い切った書き方でも良かったのかもしれません。
□名無しさんからの批評 (2004/02/11 17:20) フォント
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 自分が楽器になることに喜びを感じていたはずなのに、今は他者を楽器にすることに喜びを感じるわけですよね。
  変化の過程が腑に落ちないのは私だけでしょうか。
 どうしてそうなったのか? 自分が楽器になれないことへの悔しさはないのか? ないとしたら何故? 
 こういう疑問を納得させる主人公の内面の変化の過程がほしいなと思います。
 文章そのもので気になった部分が一つ。
「私は上手に彼の気持ちを汲み」
 これ「上手に」は不要ですね。上手と書くなら、どう上手に汲み取ったのかに言及しましょう。
 
□名無しさんからの批評 (2004/02/11 21:32) フォント
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なんだか悲しいお話ですね。タイトルをカタカナにしたのも良かったです。

ただ、所々の形容の仕方が気になった。例えば「ピアノが得意な饒舌な指」で「な」が二回続けられている所など。「ピアノが得意で饒舌な指」でも良かったのでは?

彼女は歌う事が好きだったのに、「口」を使えれば、それでよかったのか?と、戸惑ってしまった。「口」にこだわりすぎかなー、無理あるなー、と。
□名無しさんからの批評 (2004/02/11 21:49) フォント
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人の身体を楽器になぞらえるという発想は、すごく良いと思いました。引き込まれました。
でも中盤の、単にあらすじをだだーっと語るだけのような部分は、字数の問題があるにしても、もう少し改善の余地があるような気がします。
でもかなり好きな部類なので、次回も期待してます。
□名無しさんからの批評 (2004/02/11 23:59) フォント
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前半が説明になってると思う。
もっとすっきりまとめて、その分を後半へ。今の仕事へ転落?していく過程をもっと丁寧に心の動きを書き込めば、最後の一文が生きると思う。
□名無しさんからの批評 (2004/02/12 00:30) フォント
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 前半部分に主人公の人物背景をこれだけの行を割いて書くということは、短編もしくは掌編小説には致命的なミスのように感じてならない。
 話は上手くまとまっているものの前半と後半のバランスの悪さは読みにくさを誘う。
□名無しさんからの批評 (2004/02/12 06:57) フォント
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単に「割りの良いアルバイト」だったはずの風俗に、主人公が魅力、あるいは何かもっと本質的なものを見いだしていく過程が全く描ききれていません。

風俗にたどり着くまでの過程は省いて、風俗で働き始めてからのことを中心的に書けば、よりまとまりのある強い文章になったと思います。

またそうすることで、今の段階では不明瞭なままの、耳に障害のある客を登場させる意図も、より明確になるかと思われます。
□名無しさんからの批評 (2004/02/12 15:00) フォント
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 私にはこんな夢があって、こんなことしたけど、途中こんなことがあって、いま、こんなことしてます。こんな感じ?
 文章自体は上手だと思います。前半説明が多い気もしますが、上記のような感じで書いているのならば、まあ必要かもねと。ただし、そうでないなら、やっぱり説明は極力省いて、主人公の心理描写を増やすべきだと思います。
 最初の1段落と、最後の2段落を強調したいなら、構成をもうちょっと変えたほうがよかったかもしれません。
□名無しさんからの批評 (2004/02/13 00:21) フォント
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あー、どんな仕事でも結局コウだよなぁ〜、風俗ってのは小説での設定だからちとわかり易過ぎますけど、、、子供の頃の夢どおりの仕事にたどり着いてるかと言えば、そういう人が少ないわけで。と、感想を述べておいて。文章の書き方は私にはかないません。それを置いておいて、この作品の場合は「風俗業」の内容についてもうちょっと、リアリティを加えても良かったかと。前半の部分の説明風はそれでいいのですが、そこをもっと濃くして、後半の描写を丁寧に描くともっといい感じになるかと。文章が書き慣れてるのはご本人は承知されている事かと存じますので、ここを打破するには「花びら回転サービス」を(意味不明。とまれ、次回作に期待しております。 
□名無しさんからの批評 (2004/02/14 22:08) フォント
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企画倒れて締まった感じです。せっかくの設定を活かしきれず、そしてせっかくの展開を活かしきれないままに終わってしまいました。
前半にあれだけ過程、半生への書き込みがあるのに、後半それをほとんど未消化のまま終わってしまった感触です。
短い中でおさまる効果的な設定を汲む必要があるかと。
□名無しさんからの批評 (2004/02/18 17:33) フォント
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とても丁寧に書かれている前半ですが、ここまで詳細に書かなくても良かったかな、という気はします。
現在の「私」に辿り着くまでの出来事ではなく、「私」の気持ちの移り変わりをもう少し詳しく書けば、後半ももう少し生きてきたんじゃないでしょうか。
後半、風俗で働きはじめて歌手になる夢を諦めるには、ちょっと説得力不足かと。
最後の言葉は風俗の仕事をやめない、という意味でしょうが、それまでの強い夢への想いは、たったそれだけだったの? と思ってしまいました。
前半の歌手への強い気持ちを考えると、最後「やっぱり歌が歌いたい」という気持ちに持っていった方が、自然じゃないでしょうか。
ここら辺は好みの問題もあるでしょうけど。
□名無しさんからの批評 (2004/02/23 17:18) フォント
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何故そこまで風俗にのめりこんだのかが理解できないのと、「ピアノが得意な饒舌な指」の形容が気になりましたが、他は素晴らしいと思います。面白かったです。
□和子さんからの批評 (2004/03/01 22:52) フォント
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短編という決められた字数の中でここまでかけるのはすごいと想います。
表現したいこともわかるし。
読んでいて「次が読みたい」と想った自分に気付きました。
これからも頑張ってください^^
□名無しさんからの批評 (2004/03/04 23:48) フォント
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 発想もいいし、伝えたいこともよくわかるのですが、なんだか好きになれません。本人が自分の口で語っているはずなのに、淡々としすぎているためなのか、気持が全然伝わってこないように感じます。使ってる題材はドラマチックなものばかりですが、それを活かしきれているとも思えませんでした。
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