「失敗に三度目はない」
古森はな
――畜生、なんだったんだあの女は!
 健一は黒いアスファルトを蹴り、悪態を吐いた。たかがナンパの失敗ごときに、この世のすべてを否定するほどのもやもやを感じている。町を見回すとどうにもカップルにばかり目についてしまうので、空を見上げる。空は灰色の厚い雲に覆われていた。
 ……何もかもぶっ壊してやりたい。そんな願望が一瞬駆け抜けた後、健一の中には信じられないくらいの穏やかさと冷たさだけが残った。そのとき、それよりも冷たい何かを頭上に感じ、不意に顔を上げた。
「ちょっと! 受け止めてー!」
 甲高い叫び声と共に真っ白い服を着た女の子がゆっくりと降りてくる。驚く間もなく、女の子は健一の腕に入り首に腕を絡ませて必死にしがみついてきた。
「お、降ろさないで。消えちゃうから」
 しがみつく女の腕は異常に冷たい。
「なんだよ、お前は?」
「あ、申し遅れました。私、雪女の祥花と申します」
 突拍子もないことをさらりと言ってのけた。しかも、コレだけでは終わらない。
「それで、あなたの願いを一つ、叶えます」
 ……はぁ? 健一は怪訝そうな顔で祥花と名乗った雪女を見つめた。雪女といえば、少なくとも健一の知識では人を凍らす化け物だ。そんな雪女が健一を凍らせるわけでもなく、挙句願いまで叶えてくれるなんて……。祥花の話によると、雪の降る条件がそろった周辺に降り立ち、そこの願いを叶えるそうだ。
「何で俺のところに降りてきたんだよ」
「それはね」
 一番冷たかったから、と祥花は答えた。他のところに降りると融けてしまう……らしい。普通、一番冷たいものは石や屍骸で、願いらしい願いを叶えることはほとんどない、とも。
 氷のように透き通る笑顔を健一に向けて、祥花は再び望みを請う。健一の頭にさっきのナンパの失敗がよぎり、この際バケモノでもいいかという軽い気持ちと、さっきより熱いものが心に湧いてきていた。
「とりあえず、一晩君と一緒にいたいかな?」
 祥花は一瞬キョトンとした後、微笑んだ。
「うん、いいよ。よし、じゃあ降ろして」
 アッサリと承諾してくれたので、健一も祥花に負けないくらいの笑顔で返し、祥花を腕から降ろした。そのとたん、祥花は融ける様に姿を消してしまった。
「……なっ! おい、祥花?」
 辺りを見回しても彼女はどこにもいなかった。その代わり、空から冷たいものが落ちてくる。……雪だ。雪と祥花は同じなのかもしれない。けれど、健一にとって祥花は雪とは違っていた。手のひらに雪を受け止め、祥花を思う。願ったことがきちんと祥花に伝わっていたら、その願いで自分は昔話のように凍らされていたのか? それを問うにも、火照った健一の元には二度と祥花はやって来ない。
著作権について
 
 
□ななしーずさんからの批評 (2004/01/11 04:41) フォント
発想
構成
表現
総合
「願いをかなえる雪女」良いと思います。
空から人が降りてくるという、ありえない事が起きてるんだけど、そこに疑問を持つよりも、先が気になり読み進められました。
オチへの期待が大きかった分、雪が降って終りというのは、ちょっと弱いかなと思いました。代替案無くてすいません。
冒頭、ナンパに失敗した健一は、すごく熱い感じがしたんですが、一番冷たいところにくるはずの雪女が、健一のところに降りてくるのに、ちょっと矛盾を感じました。
□名無しさんからの批評 (2004/01/11 18:41) フォント
発想
構成
表現
総合
「そんな願望が一瞬駆け抜けた後、健一の中には信じられないくらいの穏やかさと冷たさだけが残った。」のはなぜですか?
ナンパごときにむかつく男では無く、たとえば、何か理不尽なことで心を閉ざしている男が、降ってきた雪女に心を許したとたんとけたっていうようなお話なら、納得がいくが。浅い男の
冷たい心と熱い心(もしかして夜を想像してというオチ?)では、ちぐはぐな印象を持ってしまった。厳しい目ですみません。発想が面白かったので、そのあとどうなると思った分、辛口になりました。
□名無しさんからの批評 (2004/01/11 20:01) フォント
発想
構成
表現
総合
こんばんわです。主人公の願い事を聞いて、祥花が雪になった発想はなかなかだと思いました。

ところで冒頭の「あの女」と健一には、いったいどんなやり取りがあったのでしょう。彼がこの世の全てを否定するほどのもやもやを感じるきっかけになった「あの女」の存在が気になります。それとも今までナンパをフラれ続けてきてとうとう彼女でプッツン、ということでしょうか。何にせよ、彼がそこまで感情を奮え立たせたのですから、その理由というのをほんの一文でも触れて欲しかったです。
□名無しさんからの批評 (2004/01/11 21:28) フォント
発想
構成
表現
総合
 大人のための童話って感じでいいですね。一緒に一晩が、一晩の雪になってしまうのもいい感じです。
 僕が馬鹿なんだと思いますが「祥花」の正しい読みがわかりません。「しょうか」でいいのでしょうか? 他の読み方がありそうな気もするのですが。
 その祥花が落ちてきた時点で、人間で言うといくつぐらいの女性なのかがさっぱりわからず、ナンパ再開でやっと主人公に釣り合う年齢なのだとわかりました。最初、「女の子」と言いう言葉に6〜10歳くらいの子を思い浮かべていたので違和感を感じてしまいました。落ちてきた時点でわからせるようにしてほしいと思います。「ウィングマン」でしたっけ? あんな感じで落ちてくる女が出てくるマンガばっかり読んでいれば、そんなことは感じないのかもしれませんが。
□名無しさんからの批評 (2004/01/13 02:27) フォント
発想
構成
表現
総合
雪女の斬新なアイデアは素敵です。
ただ、健一が一番冷たい場所だった、というはやはり無理が多いかと。あまり冷たい人に見えません。
雪女は石や死骸の願いも聞けるのでしょうか。不思議ですね。
□名無しさんからの批評 (2004/01/13 20:50) フォント
発想
構成
表現
総合
素直に楽しめる作品でした。
ひとつ気になった点は、祥花が溶けてしまったのは健一が笑顔になったからなのか、腕から降ろされたからなのか、という部分がハッキリしないところでした。前者のほうが面白いのですが、これではどっちともとれてしまうような。惜しい。
□ナナシさんからの批評 (2004/01/14 15:50) フォント
発想
構成
表現
総合
楽しかったです。それだけで十分なのかな。序のナンパのシーンを外して、イキナリ『祥花さん』が天から降ってくる形にしたいかなぁ。次回作に期待という事で。
□名無しさんからの批評 (2004/01/14 15:51) フォント
発想
構成
表現
総合
楽しかったです。それだけで十分なのかな。序のナンパのシーンを外して、イキナリ『祥花さん』が天から降ってくる形にしたいかなぁ。次回作に期待という事で。
□名無しさんからの批評 (2004/01/15 12:12) フォント
発想
構成
表現
総合
「あ、申し遅れました。・・」あたりが強引すぎる感じがした。
「一番冷たかったから」が良かったです。
雪女の名前にもう一工夫あればと思った。
□名無しさんからの批評 (2004/01/15 23:38) フォント
発想
構成
表現
総合
願いを叶える雪女はいいけどイマイチオチが判りにくかった。
□名は無いさんからの批評 (2004/01/16 01:15) フォント
発想
構成
表現
総合
えぇ〜、ここで終るんですか? 煮え切らないです。もっとラブを。二度とやってこないと結論づけてしまっては夢も希望も無いと思います。

「……」が多いのは地の文に健一の思考文がはめ込まれているからですが、それだけではなく地の文は未来予測などもしているので、三人称なのに一人称的で統一性が無く、軽く感じてしまいます。それを狙ったのであれば成功していると思います。ですが、軽くする必要があったのかは疑問です。
□nobodyさんからの批評 (2004/01/20 12:57) フォント
発想
構成
表現
総合
「主人公が一番冷たかった」というのがかなりこじつけっぽい感じがしますが、願いをかなえてくれる雪女というアイデアはいいなぁ、と思います。

うーん……ここまで感情の波のある主人公が、雪女に「一番冷たかった」と言わせるほど冷たくなるとはやっぱり思えないです。主人公像を一工夫すると、もっといい話になると思いました。
□名無しさんからの批評 (2004/01/23 11:55) フォント
発想
構成
表現
総合
『健一の中には信じられないくらいの穏やかさと冷たさだけが残った』というのがいきなりで、どうしてそうなったのかがわかりません。「ん?」と思ってしまい、読むのが一旦ここで足止めされてしまいました。すんなりと物語に入れませんでした。もったいないと思います。

文頭に三つも――や……がきているのも、私としては読むテンポが崩れると思います。特に『……何もかもぶっ壊してやりたい』という部分。そのあとに『そんな願望が一瞬駆け抜けた』と書かれていますが、強い願望の言葉の前の『……』は
、何を思って沈黙、というか口をつぐんでいるのかがいまひとつピンとこないのですが。
□名無しさんからの批評 (2004/02/08 14:06) フォント
発想
構成
表現
総合
発想やオチなどは個性的で、今後が楽しみだが、文章力と構成にやや不満が残る。
すでに書かれていることだが、物語前半が主人公の視点で進んでいるにも関わらず、後半は神視点(俯瞰視点)で、主人公から離れてしまっている。これがこの物語を不自然にさせている第一の要因だと思われる。
発想が楽しいものであっただけに残念。より文章力を磨いて、読者をひきつけるものになるよう次回に望みたい。
□セツナビトさんからの批評 (2004/02/09 19:24) フォント
発想
構成
表現
総合
勢いで読ませていただきました。雪女が願いをかなえるという発想は面白かったのですが、それを生かしきれていない印象を受けました。

「何もかもぶっ壊したい」という思考がめぐり、それが駆け抜けたあとに冷ややかな感情しか残らない状態になるには、ナンパはちょっと弱いと思います(「大したことではない」ということの表現でしょうか)。それこそ何か詐欺にあったりとか、恐喝されたなどの出来事の方がぴったり来るのでは。

祥花が降りてくる場面でも、「他にももっと冷たい人いるんじゃ?」と思ってしまいました。ちょっと理由付けが弱いのではないでしょうか。

最後に祥花が雪になる場面も、オチとしては弱いかと。主人公を抱きしめて、そのまま凍死させてしまうとか(話の雰囲気が変わってしまいますが)、もう少しパンチの強い終わり方だと綺麗に締まると思います。あとは、字数が足らなかったのでしょうか、文章がかなり急ぎ足になってしまっています。前半に字数を割きすぎたからだと思います。

文章ですが、やや「……」を多用しすぎているように思います。あと、ちょっと言い回しが甘いかな。マンガをそのまま文章化したような感じが否めません。そして、他の方も指摘されていますが、場面の転換無く途中で視点が変わってしまっています。注意してください。

発想は面白かったです。それを十分生かせるようにがんばってください。期待しています。
←目次へ
2style.net