「舌禍」
黒川鍵司
「日本から季節というものは消えてしまったんだよ」
 彼がそう力説する。
「ボードリヤールが言うシュミラークルだよ。僕らは現実をリアルと感じられなくなったんだ。そして現実は形骸化した残骸でしかない。どこにいても同じような空気を感じて、同じようなものを見て、同じような服を着ている。これのどこが現実なんだろう。結局、作られた環境の中で、作られた感覚を感じるだけなんだよ。そのくせマクルーハンが言う通り、世界中に張り巡らされた様々なネットワークによって地球そのものが自分の中にあるように思ってる」
 的確な引用、知識の幅の広さを感じさせる人名。上りの電車を待つホーム。彼の言葉は白い息とともに、とうとうと続く。
「『マトリックス』の最初の作品がSFファンだけでなく、いろんな人を巻き込んでいったのは、この感覚をうまく取り入れたからだよ。たんなるSFじゃなくて、哲学性みたいなものを含んでるんだよね。もちろんファッションしか見てない奴らもいるけどさ」
 確かにその通り。でも、それは彼の言葉じゃない。どこかで聞いた誰かの言葉を繰り返しているだけ。君の思いや考えはどこに行ってしまったのだろう。気もなく頷きながら、そう考えてしまう。
「この前、貸したギブスンの『ニューロマンサー』のラストを覚えてるかい。あれだけサイバー中毒だったケイスも最後にはモニタを破壊してしまう。『マトリックス』もすべての人を『現実の砂漠』に引き戻す話だ。プロスペロだよ。シェークスピアのテンペスト。安穏とした栄華を味わっているにもかかわらず、最後には『すべて夢だ』と気がついて現実に戻っていくのさ。でも、こんな映画や小説をみても、どういう訳か人々はかわらない。むしろ、その作られた世界に魅了されるばかり。遠い国の災害には同情しても、目の前で死んでいくホームレスからは目を背ける」
 よくできた起承転結。自分に酔いながらも相手への影響を計算している話し振りは、頭の中での練習の賜物かもしれない。
 その時、ちょうど向かいのホームに貨物列車が入ってきた。空気を切り裂くような轟音をたてるブレーキ。鉄のこげるようなにおい。目の前に停車した黒い鉄のかたまり。もちろん彼はそんなことをかまいはしない。まるで与えられた任務を遂行するように。
「僕らのするべきことは過去やネット上やマスコミから与えられた偽造された情報を感じることではなく、いまここにある風景、音、においを感じることなんだよ」
 満足げな彼の姿。そして彼自身への皮肉のようなその言葉が、白い息とともに虚ろに消えていくのを見つめる。向かいの貨物列車の上に積もった雪に間近に迫った冬を感じながら。
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□名無しさんからの批評 (2004/01/11 19:03) フォント
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「白い息」と、最後の貨物列車の雪をのぞけば、どんな季節もいけますよね。たとえば、流れる汗と、貨物の上の埃とかで夏という風に。話としては面白かったし、花にしようかと思ったのですが、「雪」という題でのせる話として敢えてこの評価にしました。
□名無しさんからの批評 (2004/01/11 23:10) フォント
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面白かったには面白かったんですけど・・・うーん。
この話を「小説」として読めませんでした。オチがよくわからなかったです。いや、オチなんて存在しないのかも知れませんが。
「彼」の使っている固有名詞がほとんどわからなかったので、大した批評が出来ません。ごめんなさい。
□名無しさんからの批評 (2004/01/12 13:30) フォント
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ふーん……としかいえません。
固有名詞の羅列ですが、一切わからないので。有名なモノなんでしょうけれども、それでも一切わかりません。
おかげで、話が面白いのかつまらないのかすらわかりませんでした。

というわけで、わけがわからない。
□名無しさんからの批評 (2004/01/13 01:48) フォント
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自分の言葉で語らない人の話、というのは面白い。でもちょっと彼の内容が小難しすぎます。親近感が沸きにくいです。(たしかに、小難しいことばかり言う人というのもいますが、主人公が納得の意を表しているのだから、感情移入するためにも読者にも納得できるものがいいのでは)
直感的には雪との比喩を試みたのかな、と思いますが、文章中からは読み取りにくいです。
彼の内容の無い言葉の羅列を繰り返すより、主人公のこと(男女すらわからないし)や、周りのことを織り込んで欲しかったなあと思います。
□名無しさんからの批評 (2004/01/13 17:55) フォント
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えと、難しかったです。どのくらい難しかったかというと、IBMがBSE問題解決のプロトコルを吉野家に提供したくらい(おい)難しい。おそらくマトリックスってのが映画だということくらいは私知ってるんですが、観たこともないので、謎の世界に突入。

で、主人公以外に登場人物はいないんですよね。聞き役がいないようなので、独り事という事で。時々そういうヒトなら駅にいるので。
ちがうのか?ううむ。ごめんなさい。
□名無しさんからの批評 (2004/01/13 21:10) フォント
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あはは、いますよねこういう人。
と思いながら読んだものの、それだけで終わってしまった感じが否めないのが残念。雪も別に必要なさそうなので残念です。
個人的には、手法としては割と好きなタイプです。が、おそらく受け入れない読者のほうが多いのではないかと思ってしまいました。
□名無しさんからの批評 (2004/01/13 21:13) フォント
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ごめんなさい、上の批評を書いたものですが補足をば。
物語中で雄弁に語っている人の話の内容が殆どの読者にとって意味不明なのは、意図したものだと思ってのことです。主人公と同じような辟易を読者に与えるというのが手法の一つだと思ったのですが、違ったらごめんなさい。
□名は無いさんからの批評 (2004/01/16 00:26) フォント
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語る「彼」のセリフは現実を嘆いているのでしょうか。とても面白い考え方だと思いました。

批評ですがその「彼」の話を、批判的に聞いている者の存在が、結局物語を一人語りのようなものとしているように感じます。
無常観を題材に扱っているのならそれでも良いとは思いますが、今そこにある冬を感じているということは、少なからず語り手と聞き手は同調している気がします。つまりはこの物語の登場人物が1人しか居ないことになってしまうのです。
「季節というものは消えてしまった」と言いながら「いまここにある風景、音、においを感じること」が大切と説く「彼」と、それを批判的に聞きながら、はっきりと目の前にある冬を感じている「誰か」をもっとはっきりとわける事が必要だったのではないかなと思いました。
□名無しさんからの批評 (2004/01/17 21:07) フォント
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こんばんわ。他作品よりテーマ「雪」の存在が希薄ですが、管理人様が掲示板にて、テーマは書くきっかけ程度でOKとの旨をおっしゃてましたので恐らくかまいません。しかし先の批評にあるように、この作品の描写は時期状況等で書きかえができると思います。この一品にしか出せない文章というものを求めます。

彼の話はけっこう面白かったです(なので総合は花)。知らない名詞がよく出てきて半ば調べたりしました。もしつまらない話だったら、そんな手間をする気なんて起きませんでした。では何が足りなかったと言いますと、前述の他に朝昼夕が分からない事、主人公や聞き手の齢や外見が掴めない事、主人公と聞き手の関係はEtc色々不明な点が多い面です。読者の想像力に任せようと、意図的にこのような漠然とする作品にしたとしても、これは少し過度ではないでしょうか。

でも、いい雰囲気の作品でありがとうございました。
□nobodyさんからの批評 (2004/01/20 12:54) フォント
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前半の入りはとてもよかったです。最初の2行で「おお?」と引き寄せられました。でもそのまま、最後はフェードアウトしてしまったような印象です。

彼が力説していることが、作者の言いたかったことだと思いましたが、それだけだとインパクトがないんですよね。普段思っていることを、とりあえず小説という器に詰め込んでみました、みたいな。
もしくは、こういう知識を良くわからないままひけらかす人を揶揄した文章なのかなぁ、とも思いましたが、あまり皮肉さ感じないので違うかなぁ、と。うーむ……
□名無しさんからの批評 (2004/01/25 02:02) フォント
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自分の言葉で喋らない人に対する皮肉、という話だと思いました。
それで、私の読み方があっていた場合の話なんですが、最後がちょっとしぼんでいるような気がします。
ラストできっつい皮肉を炸裂させたりするともっと面白いのでは。
□名無しさんからの批評 (2004/01/27 10:30) フォント
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スピードと押しの強い作品だと思います。
私の知らない話もこの作品中で想像をかきたてるくらいには説明できていて、全体の雰囲気もいいです。
□名無しさんからの批評 (2004/02/01 00:14) フォント
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「彼」の、白い息と共に出てくる空疎な言葉=雪=いずれ消える空虚なもの……
 というのがこの小説の主な作りで、「彼」の言っていること自体を読者が理解できなくてもよいということなのかな、と私は読めました。
 つまらなくは無い……と思いますが、他の人の批評・感想を見る限り、どうやらわかりにくいという指摘は免れ難いのかもしれません。
 また、ネタにしては文章が長すぎるようにも思えるので、その分をカットし、読者の理解を助ける文章を繋げるのがいいのかもしれません。
 以上です。失礼します。
□名無しさんからの批評 (2004/02/03 02:26) フォント
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 空疎な「彼」の言葉を「冬」の寒さにからめて批判的に表現された作品だと思いますが、小説としての面白みは欠けているように感じました。
 「彼の言葉じゃない」筈のうんちくが、最も読ませる部分となっています。これでは、結局“嫌味なうんちく垂れ”だけがしたかったのかな? ということになってしまいます。そのうんちくに対する批判の仕方が、「白い息」や「雪」だけでは弱過ぎますし。

 原因としては、「彼の言葉」を真面目に書き過ぎているからだろうと思います。小説ならばもっと小説的な“変形”が必要だろうとも思います(例えば、もっとカリカチュアライズするとか、もっと意味不明な程に難解にするとか……)。
□名無しさんからの批評 (2004/02/07 00:23) フォント
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小説を書いてください。あなたの持論は結構です。

物語というのは起承転結、もしくはそのいくつかの組み合わせでできています。この話?にはそれがない。ただの独白で終わっている。みなさん、登場人物の言葉に騙されていますが、本質を見ると、内容が無い。
もっと、プロットを練ってください。
□セツナビトさんからの批評 (2004/02/09 20:54) フォント
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テーマ「雪」との関連はよく分かりませんでした。って私が言うべき台詞ではないのですが(本当だ)。どの季節でもOKですよね、描写を変えれば。

で、難しい言葉の羅列ですが。深く考えるべきじゃないものとして読みました。最後の「僕らのするべきことは〜」という『彼』の言葉に引っ掛けてあるのだと。うまく皮肉につながっていると思いました。確かに、要約してしまえば大したことじゃないはずのことを誰も知らないような人名や物事を引き合いに出して語るような人が言う台詞じゃないですよね。綺麗に落とされました。

起承転結は感じませんでしたが、これはこれで面白かったです。ただもっと長い小説の一部をそのまま引用しただけ、という印象は否めませんが。あとは、時折挿まれる描写がややぎこちなく思えました。

好き嫌いはっきり分かれるタイプの手法だと思います。私としてはなかなか好きな方なのですが……。次回に期待、ということで。
□名無しさんからの批評 (2004/02/10 09:42) フォント
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長編のなかの一部分としてなら面白いと思いましたが、この1200字という舞台では特長や個性が生きていないなあと思います。
雪の使い方もここで使う意味やインパクトがいまひとつ足りない気がしました。
「彼」が何故こうまで語るのか、それが見えないので話に入りきれず、読み手が最後まで物語の外側で眺めているしかない状態になっていたと思います。読み手を引き入れる扉をうまくつくってあげるとこういう話がもっと生きると思いました。
また、他者の言葉を借りた人間を主人公に置いているため、この短い文章では書き手の個性も見えてきません。よって文章力については判断しかねてしまいました。
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