「聖なる旋律」
雨宮しずく
 夜が、やってくる。
 遠くから聞こえてくる。賑わった街に響く、始まった歌声。

 立ち並ぶ街路樹の下には家なき者を追い払う碑が建てられていて、無情な規律が行き場のない少女を疎外する。
 それでも。
 道行く人々の温かい笑顔が少女の心を優しくさせる。人々は少女のことなど見向きもせずに足早に通り過ぎていくが、少女の時間はゆっくりと流れていく。舞い落ちる粉雪は少女の柔らかい肌に触れ、すぐに溶けて消えてしまう。赤みを帯びた少女の頬は次第に濡れていく。
 目を開ければ広がっている、一面の銀世界。上空で生まれた結晶は落下していく中でいろんなものが付着して雪になり、空から降ってくる。けれど輝きはほんの一瞬。結ばれてから溶けるまでの、ごく短い命。
 見上げると、漆黒の空からは真っ白な雪が次々と舞い落ちてきて、少女の目の前で踊る。立ち上がり、少女は両手を広げて空を仰いだ。

 雪は降り続ける。聖歌は響き続ける。いつまでも。

 見下ろすと、白銀の地面には真っ白な雪が次々と同化されていき、少女の目の前で消える。座り込み、少女は両足を抱えてうずくまった。
 目を閉じれば浮かんでくる、遠い記憶。この世に生まれた少女は成長していく中でいろんな処世術を身に付けて、今日まで生き延びてきた。けれど輝きはほんの一瞬。生まれてから死ぬまでの、ごく短い命。
 少女の凍り付いた寝顔が道行く人々の顔をしかめさせる。人々は少女のことをじろじろ見ながらゆっくりと通り過ぎていくが、少女の時間は止まってしまった。舞い落ちる粉雪は少女の硬くなった肌に触れ、徐々に降り積もる。青白く色を変えた少女の体は次第に埋もれていく。
 それでも。
 立ち並ぶ家の窓際にはいくつもの灯された蝋燭が立てられていて、暖かな光が主の生誕の日を祝福する。

 遠くから聞こえてくる。眠らない街に響く、終わらない歌声。
 朝は、まだこない。
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□名無しさんからの批評 (2004/01/10 16:11) フォント
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驚きました。なんだこの物語は。
<雪は降り続ける。聖歌は…>という文が軸になり、人々と少女・温かさと冷たさという対比が上手く表現されてると思います。
しっとりとした物語であるのとは逆に、作者の方が言葉遊びを楽しんでいるのがよく分かります。
□名無しさんからの批評 (2004/01/11 15:22) フォント
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詩か何かを読んでいるような、歌を聴いているような、確かにタイトルどおり「旋律」が伝わってきます。きれい。
ショートショートとしては完成形のような気がします。

えーっと、ところでこれをはじめて読んだとき、ひどく「マッチ売りの少女」を思い出されました。
既存作品(しかも超がつくほど有名)の影が見えるのが、ちょっとマイナスかな?
□名無しさんからの批評 (2004/01/11 15:27) フォント
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 はじめにコンセプトありきなんでしょうな。「偽書百選」(文春文庫)って本がありまして、その中に「肉世国」って本が取り上げられてまして、それは本そのものが回文になっているというものでありました。こちらは形の回文というか対称(というより対照か?)ですね。書き手は「してやったり」、読み手は「はいはい、がんばった」というとこでしょうね。なので総合に「花」をつけときました。
 ストーリーは「マッチ売りの少女」かな? ストーリーはどうでもいいのかも知れないですな。入り込めなくて、あんまり好きになれませんでした。ごめんなさい。
□名無しさんからの批評 (2004/01/11 18:55) フォント
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「いろんなもの」「いろんな処世術」と使ってありますが、いろんなは作文の時間に使うなと教わった記憶があるくらいあいまいな言葉ですよね。
マッチ売りの少女のイメージですかね、ん〜困った。かわいそうでも美しいでも無いんですよ。マッチ売りの少女を知らずにこれを読んだら、悲しい、美しいと表現するのですが。
□名無しさんからの批評 (2004/01/11 22:07) フォント
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美しい表現には非の打ち所がないのですが、「物語」としては、あまり入り込めませんでした。「暖かさ」と「冷たさ」の対比が少々不十分な気がします。
その辺はこちらの感情によって印象が変わってくると思いますけど。
□名無しさんからの批評 (2004/01/12 02:05) フォント
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小説というより、詩に近い気がしました。言葉はとても綺麗で、抽象的で、幻想的な世界が描かれていて、それはそれでいいかな、と思いました。
ただ、抽象的な言葉が多い文、結末に訴えるものが少ないかな、と感じました。
□名無しさんからの批評 (2004/01/13 21:23) フォント
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頑張って言葉遊びをしましたね。
という印象です。
言葉遊び自体は否定しませんし、それが上手ければ感嘆もするのですが、内容がそのレベルについてきていないように感じられます。
今までの作品を拝見しても、表現力はそれなりにある方だとお見受けします。長所を磨くのは良いことだと思いますが、弱い部分を補強しない限り、同じような批評しか出来ません。
□名無しさんからの批評 (2004/01/13 23:04) フォント
発想
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詩を読んでいるような気分でした。
発想としてみると、何処か既存の作品のイメージを引きずっているような気もします。ですが、全体のまとめ方や、綺麗な表現はとても素敵です。
□名は無いさんからの批評 (2004/01/16 00:10) フォント
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「マッチ売りの少女」を思い出させるような風景が広がっています。あの作品を雪にスポットを当てて詩的にすればこんな感じかと思われます。むろん、このようにきちんと破綻無く表現できるのには力量がある証拠でしょう。
あとは、読ませるストーリーでしょうか。
□名無しさんからの批評 (2004/01/16 07:07) フォント
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ふとマッチ売りの少女を一瞬だけ思い出した。
そのほかにも色々と思はせる作品だった。
□名無しさんからの批評 (2004/01/17 19:13) フォント
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文章や言葉は綺麗で繊細な静寂さが伝わってくるのですが、いまふたつ入り込めません。なんだかとても、もったいないです。
ストーリーが動いていないです。もっと展開してみるといいのではないでしょうか?
□名無しさんからの批評 (2004/01/19 00:43) フォント
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中編や長編なら、ある一場面にこの作品の文章が挿入されるとなかなかいい味が出る時もあるかなと思います。綴られた言葉は美しいですし、凝っていますし、タイトル通りのきれいな雰囲気も伝わってきます。

ところでこの作品では、少女が死ぬまでのワンシーンを1200字近くに及んで書かれていますよね。そう考えますと、作品の大部分を占めている抽象的な文はちと長くてくどい気がします。そして微妙なツッコミを。「上空で生まれた結晶は〜空から降ってくる」の"空から〜"は"地上へ降る"等にしないと"白い白線"みたくなります。
□nobodyさんからの批評 (2004/01/20 12:53) フォント
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マッチ売りの少女ですか?

表現は詩的で素敵だと思います。輝いているけど派手派手しさはあまり感じない、上品な文章です。
でも、この小説が訴えたいことが伝わってきません。マッチ売りの少女ならそれでもいいのですが、その中にも作者の思いが込められているといいのになぁ、と思いました。

上下対称……確かに対称/対照ですねぇ、内容も形も。
□名無しさんからの批評 (2004/01/24 01:35) フォント
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美しいBGMが聞こえてきそうな文章です。
ただ、すでに存在する物語をそのままストレートに連想させてしまう内容はもったいないです。
もうちょっとだけ離れてくれていたらよかったと思います。
□名無しさんからの批評 (2004/01/30 15:44) フォント
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みなさま、マッチ売りの少女のオマージュだとおっしゃってますが、私はそうは捉えませんでした。

体言止めを効果的に使い、うまく雰囲気を出していると思います。やはり、表現方法に関しては、投稿歴を見ても秀でていると思います。
ただ、苦言を呈すると、物語に深みがないので、「面白み」という点には欠けてしまっています。特に、オチとかそういうのではなく、ただ、少女が街に流れ着いて死んでしまう、という話で終わっているので、何かもう1つスパイスが欲しい所です。
□名無しさんからの批評 (2004/01/30 15:47) フォント
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↑訂正があります。

× オチとかそういうのではなく、
○ オチとかそういうのを求めているわけではなく

申し訳ありませんでした。
□セツナビトさんからの批評 (2004/02/09 21:04) フォント
発想
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描写がとても美しいです。少女の世界の静けさと、賑わった街の喧騒、そして聖歌がうまく折り重なっています。光景が目に浮かぶようです。

しかし、やはりマッチ売りの少女が頭をちらちらと……。それと物語がほとんど動いていないのが気になりました。今回は描写に全力を注いだのでしょうか。だとしたらその試みはうまくいっていると思いますが、やはり評価は下がってしまいます。

次回は物語を読ませてください。著者の方の力なら、きっといいお話が出来ると思います。期待しています。
□名無しさんからの批評 (2004/02/10 09:45) フォント
発想
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総合
文章力や表現力、ムード作りなど、この字数制限のなかでこれだけのことができるのはすばらしいと思いました。
映画のワンシーンのような、映像的な部分が強く、文章とするとちょっと弱さを感じてしまいましたが、素敵な物語だったと思います。

なんとなくマッチ売りの少女を彷彿とさせる気がしたのですが、そう言う意味で読者の中にも想像をしやすい舞台を作り上げていると思いました。
イメージにやや頼りがちな文章になってしまったような気がするので、もうすこし物語性の強いもので呼んでみたいです。
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