「熱いのが好き」
七百七十四
 夕刻、小雪のちらつく街の通り。そこを2人の女性が歩いていた。
「うふふ、あんこう鍋楽しみー」
「……」
 にこにこと笑う女性と表情を変えずに歩く女性はあんこう鍋の店に向かっていた。
「どうしたの小雪? なんか機嫌悪そうだけど」
「……雪絵、本気?」
「何が?」
「雪女のくせに鍋を食べようなんて」
 この二人は雪女だった。小雪と呼ばれた女性は冷たい雰囲気をまとったそれらしい美人だったが、雪絵と呼ばれた方はけたけた笑うどうにもそれらしく見えない人物だった。
「わかんないかなあ。あの熱いものを食べる時の喜びが」
 雪絵はうっとりとした顔で思い出していた。
「舌のとろけるようなビーフシチューとか」
「……実際溶けてたわね」
「ほっぺた落ちそうなラーメンとか」
「……ほっぺの溶けた穴からラーメン落ちてたわね」
「もう、小雪は感動が無いなあ」
「あんたこそ雪女のくせにどうしてそんなに情緒豊かなのよ!」
 小雪は思わず叫んだ後、しまったという顔をした。雪女は冷静でなくてはならない。深呼吸を何回か繰り返して平静さを取り戻す。
 雪がだんだんと強くなる中、二人はあんこう鍋の店に到着した。雪絵はこぼれんばかりの笑顔で、小雪はいつも通りの無表情で店を見た。
「じゃあ待っててね。ぱっぱっと食べてくるから」
 雪絵はそう言うと店の中に入っていった。小雪は店の前の道路で雪絵が出てくるのを待つことにした。雪がまた強くなったが、雪女である小雪にとってはむしろありがたかった。
 三十分もたった頃、店が騒がしくなった。小雪が玄関に近づくと、扉が開いて雪絵が出てきた。どうも左半身が溶けてしまっているようだった。騒がしくなったのはこれが原因だった。
「あんこう鍋……最高」
 半分溶けてしまった顔は確かに笑っていた。
「あんたいつか死ぬわよ」
 小雪はあきれながら雪絵をささえた。
「大丈夫! 世界の熱いものを食べ尽くすまで死なないから」
「せ……!」
 小雪は「世界だとー!」と叫びそうになるのを何とか抑えた。深呼吸をして落ち着きを取り戻し、話題を変えようと雪絵が持っている袋を見た。
「ところでそれは何よ」
「これ? あんこう鍋お持ち帰りセット」
「まだ食うのかよ!」
 白く染まる街に小雪の叫びがこだました。
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□名無しさんからの批評 (2004/01/10 11:34) フォント
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おもしろかった!!
溶けてでも熱いものが食べたいという雪女。その発想、いまの私では絶対思い浮かびません。
そして二人のキャラクターが浮かび上がって、物語に愛着を感じられました。いつもこんな感じなんだろうなあ、この二人は。
□銀色さんからの批評 (2004/01/10 13:14) フォント
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雪女が熱いものを好むという発想がおもしろいと思います。
―というか、会話のテンポとノリが良くて吹き出してしまいました。
贅沢を言うともう一ひねり!
□御月 想華さんからの批評 (2004/01/10 14:19) フォント
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思わず笑いがw
こういうのもアリだなぁ、と改めて実感しました。
キャラクターがちゃんと生きているし、今後の展開も気になりますね。
次はチゲ鍋に挑戦!(何っ!?)
□名は無いさんからの批評 (2004/01/11 18:52) フォント
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世界とは…、なかなか笑わせてもらいました。溶けるのに食うというのは、なかなか覚悟がいる話だと思います。むしろエロスっぽい。

つっこみどころとしては、現在進行の文章なのに「〜た。」という表現が多い事でしょうか。そこは注意するべきと思います。
□名無しさんからの批評 (2004/01/11 22:54) フォント
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 題名はモンローの映画ですかね。いっそ「お熱いのがお好き」とモロに使ってしまってもよかったと思います。
 内容は...アハハ、漫才ですな。面白いです。こういうの好きです。アンコウ鍋屋は神田の伊勢源ですかね。帰りは向かいの竹むらで熱い汁粉でもすすってほしいですな。
 すいません、面白かったんで批評も悪のりしてしまいました。
 まじめに言うと、もう少しブラックさがあれば、短編小説になるとおもいます。今の状態だとお笑い番組のコントなんで。もちろん、その領域に達しただけでも十分すごいことなんですけどね。
□名無しさんからの批評 (2004/01/12 01:58) フォント
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(笑)
という感じでした。(良くも悪くも)
□名無しさんからの批評 (2004/01/12 10:24) フォント
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落語。現代落語。雪女が熱いものが好きというのは聞いたことがあるが、二人の掛け合いだったのが面白かった。あんこう鍋で身半分が解けるのも良いけど、ちげ鍋で、血みどろにみえておおさわぎ・・・なんていかがでしょう。
□名無しさんからの批評 (2004/01/12 13:48) フォント
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雪女であること、そしてそれが熱いものが好きって、設定をうまく活かした楽しい話でした。

欲を言うなら、前半で事の顛末総てをさらけてしまって、後半にドキドキ感がないまま、そのまま終わってしまったところです。
雪女であることか、熱いものを食べるとどうなるか、そしてもう一歩何か書くべき事柄(オチ)を後半に一つ用意しておいてもらいたかったです。
□名無しさんからの批評 (2004/01/13 21:04) フォント
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面白かったです。こういう作品もあると、なぜだかホッとします。あまり考えなくて良い、というと言葉が悪いかもしれませんが、とにかくテンポで読ませるというのはさりげないようですがテクニックが必要ですしね。
また次回も期待します!
□名無しさんからの批評 (2004/01/16 07:35) フォント
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う〜ん。ギャグマンガチックぅ〜。
話が漫画的ですね。このままネームを切って作品に仕上げられれば良い物ができあがると思います。
□名無しさんからの批評 (2004/01/20 01:06) フォント
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ややっ、どう突っ込めばいいのだろう(笑)。

このテキストはユーモア要素が強く仕上がってますよね。こういうエンタメ系のお話はおもしろかったか否かで全てが決まってしまうといっても過言ではないので、批評がやりにくいです。

中長編だとうっとうしくなるかもしれません。だからこそ1200字の枠を活かした、短編ならではの作品だと思いました。
□nobodyさんからの批評 (2004/01/20 12:51) フォント
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キャラクターの作り方が上手いですね。自分の欲望の赴くままに生きる雪絵と、雪女本来の姿を貫くことに重きを置く小雪と。対照的なキャラクターが、コミカルな世界観を上手く演出してますね。
この世界における雪女の一般的な認知度が、ちょっと気になりました。左半身が溶けてしまったのにもかかわらず、「店が騒がしくなった。」という控えめな表現が、ギャグ漫画っぽいなぁ、と。

これはこれでいいのかもしれません。
□名無しAさんからの批評 (2004/01/23 22:28) フォント
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特に最後が面白かったです。
□名無しさんからの批評 (2004/02/08 18:49) フォント
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素晴らしい出来だと思いました。作品の発想も完成度も、文章力も問題ないと思います。この状態をいかに毎回コンスタントに続けられるか、が作者の課題ではないでしょうか。

ただ、一点だけ。
完成されているとは思いますし、それがラストをさらに可笑しくさせているのだとはおもうのですが、最後の
「まだ食うのかよ!」
という突っ込み。これは意識しているのかしていないのかはわかりませんが、既存のとあるお笑い芸人さんを髣髴とさせますよね。この一言がおかしみを増しているのもあるのですが、せっかく立っていたキャラを他の力を借りてしまったのだったとしたらもったいないなと思いました。このキャラ自体の特性で最後に突っ込みをさせても十分面白かったと思うので……
でも効果的に使っているし、ものすごく気になるということではないのですが、一応ほんのわずかだけひっかかったので書いてみました。
□セツナビトさんからの批評 (2004/02/09 23:38) フォント
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面白かったです。熱い物好きな雪女というネタからして面白い。雪女二人のキャラがしっかり立っていて、やり取りがちゃんと生きています。安心して読めました。

アラ探しになってしまいそうですが、気になった点を。冒頭の「小雪ちらつく〜」とラストの「白く染まる〜」以外の雪が降っている描写は無くてもいいのではないでしょうか。テーマのために入れてらっしゃるのかもしれませんが、雪女で十分テーマは満たしていると思います。雪が降っている描写で微妙にテンポが悪くなっているような気がしました。

あと、「あんこう鍋……最高」はもう少し元気よく言っているように思うのですが。うっとりとした感じにするなら「あんこう鍋、最高……」の方がいいと思います。

本当にアラ探しになってしまいましたが、このままでも十分に面白いです。この調子でがんばってください。期待しています。
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