「依子の場合。」
mie
「でも依子、不倫は良くないよ」
 いきなり正論だ。部署は違えど同期で仲良しの亜希なら、解ってくれると思ったのに。
「大丈夫。私、彼の家庭を壊す気なんてないし。大体、村井さんって家庭の影を全然見せないもの、不倫って感じがしないよ」
 私はわざと明るい口調で言い、笑った。

 村井さんは去年まで大手広告代理店のアートディレクターだった。経理担当の私にはよく解らないけれど、結構すごい人らしい。そんな人がウチの弱小プロダクションに入社したのは不思議だけれど、彼が独立に失敗したと聞きつけて、美大時代の友達であるウチの社長がすかさず丸め込んだという噂だ。
 お腹は出てるけど、確かに仕事の出来そうないい男。と思っていたら、彼のほうから口説いてきてくれたのはラッキーだった。
「依子ちゃん、ホントに可愛いね」
「制作の子もみんな可愛いじゃないですか」
「俺、同業者とは付き合いたくないの」
 休憩時間の喫煙所で堂々とアタックするなんて大胆な人だ。と戸惑っていたら、案の定。
「コラ村井、タカコさんに言いつけるぞ」
 茶々を入れてきたのは社長だった。
「タカコさんって奥さんですか?」
「ん、まあ」
 その時に私は、社長と村井さんが家族ぐるみの付き合いだと聞いた。私が見た彼の家庭の影は、後にも先にもこれだけだ。
 私はすぐに村井さんと関係を持った。

「ま、二人の問題だから口出しはしないけどさ。私は村井さんが来てから、大きい仕事入るようになって、恋する暇もないよぉ」
 亜希は女性雑誌を私に開いて見せた。
「この商品のPR、コンペに出すから明日までにコピー百本考えてこいって」
「ひー。制作部では村井さん、鬼だね」
 私は亜希の手から雑誌を受け取り、何とはなしにページを繰った。たまたま開いた『噂のモト』という特集に目が止まる。
《女性に大人気のポータルサイト[efo]仕掛け人、村井貴子さんを直撃〜!》
 村井タカコ。その女性の名前に、頭よりも早く心臓が大きく反応した。プロフィールを見ると、村井さんの前の会社の企画部所属。歳も村井さんと近いし、雰囲気もよく似ている。この状況で同姓同名を偶然と思えるほど、私もバカじゃない。
 余裕と自信を湛えた笑顔のポートレイトは、働く女性の美しさを証明するかのようで、私はこれが彼の奥さんだと確信した。
「同業者とは付き合わないって……」
 亜希が私の独り言にきょとんとした。
 曖昧だった彼の家庭の影は、影どころか鋭い光だった。同業者なら奥さんで十分だもの。若くてバカな女との火遊びを、彼は呑気に楽しんでいるだけ。影は私のほうだったのだ。
 私は初めて、彼の家庭を壊したいと思った。
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□匿名さんからの批評 (2003/12/10 17:57) フォント
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残念なのは、村井さんに全く魅力を感じないこと。誰が見ても、馬鹿な女だと思う。何のメリットも感じない。奥さんが鋭い光でなくても。どうせなら、普通の奥さんでに完敗してると気付くとか、最後に壊したいと思うより、自分を何とかしたいと思うとか。じゃないと共感は得られないと思う。
□名無しさんからの批評 (2003/12/10 22:27) フォント
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>若くてバカな女との火遊びを、彼は呑気に楽しんでいるだけ。影は私のほうだったのだ。

奥さんの写真を見て、その現実に気付くまで、彼女(依子さん)は自分を光だと思っていたのでしょうか。
またそう勘違いさせる言動や行動を村井さんが取っていたのでしょうか。
不倫関係にあること以外に二人の関係性が見えてこないような。
□匿名批評者さんからの批評 (2003/12/10 23:00) フォント
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村井という男を『人間として魅力的ではないがそれに気付かない若くてバカな女の視点から見た』様子を描いているのであれば、相当な文章力だと思われる。
ただ、そうではなく『仕事に関しては凄い人間』という一部の魅力を書きたいのであれば少々表現不足だと思う。(これは単に量の問題)
□名無しさんからの批評 (2003/12/11 00:15) フォント
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 すげぇーと思いました。以上(特に言いたい言葉が見つからない)。
 最後の一文からインパクトとショックを非常に強く感じました。動揺した。
 やべぇーと思いました。以上。
□セツナビトさんからの批評 (2003/12/11 01:16) フォント
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主人公は自分の方が光(村井の一番の存在?)だと思っていたのですね。しかしどうも文中ではそれを読み取ることが出来ませんでした。何でしょうか、村井は主人公をチヤホヤしまくっていたのでしょうか。加えて主人公の前では奥さんを貶めていてばかりだったとか。そういう描写があって、実は村井は主人公とは比べ物にならないくらい奥さんのことを想っていることが分かる、という流れだったら最後の一文がもっと生きたと思います。上に書いたとおり、直前の光と影云々に引っかかったので、ちょっとインパクトが弱まっているように感じました。

あと、冒頭も含めて、親友を出す必要はあったのでしょうか? 彼女にまつわるエピソードを削って村井と主人公のエピソードを盛り込んだ方が盛り上がるかと。雑誌だってたまたま自分で読んだことにしてもおかしくないと思います。

全体的に、どこか散漫な印象を受けました。1200に詰めるには設定が多すぎるのかもしれません。もう少し簡略化出来そうな感じです。

文体は滑らかで特に詰まることはありませんでした。設定をうまく詰め込むことが出来れば素晴らしい作品が出来ると思います。次回作に期待しています。がんばってください。
□名無しさんからの批評 (2003/12/11 02:11) フォント
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タイトルが主人公を俯瞰しているので、若くて少しきれいなだけで自分のほうが当然優れていると思っているバカな女への皮肉的作品と読みました。村井さんの経歴がブランドなのでしょうね。昔の林真理子の小説にありそうですが、面白いです。最後の一文も効いてます。
ただ、字数に対して詰め込みすぎではないかと思う部分が多々ありました。もうちょっと突っ込んで書くべきところがありそうな気がします。
□名無しさんからの批評 (2003/12/11 03:39) フォント
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ひー。わたしゃ、カナワナイよ。
困った。この文字数で職場の雰囲気が見えるってのはスゴイなぁと。次回作も期待しています。
□名無しさんからの批評 (2003/12/12 23:55) フォント
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うまく収めてまとまっていました。

影説明としては、弱冠舌足らずです。
□名無しさんからの批評 (2003/12/13 00:52) フォント
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まとまりがあり、人を惹きつけてやまない魅力を文章に感じます。
リズムの良い流れに、あっと思わせる最後は巧拙。
□名無しさんからの批評 (2003/12/13 03:25) フォント
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村井さんに魅力を感じなかったのが辛いところでした。仕事はできるけど軽い男としか見えなくて。まあ、依子が魅力を感じているならそれでいいのでしょうけど。馬鹿な女の視点であえて書いているのでしょうか。だとしたらすごい。

ラストの「私は初めて、彼の家庭を壊したいと思った。」は、主旨はこれなのでしょうが、嫉妬を表す描写があると良かったと思います。
□名無しさんからの批評 (2003/12/13 17:54) フォント
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 ラストもきっちり決まっていてうまいストーリーだと思うのですが、表現に奥行きがなく、読者が思い入れる部分がないように思います。これだとなんかの雑誌の読者の体験談コーナーの投稿みたいです。
□名無しさんからの批評 (2003/12/13 20:20) フォント
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普通に本のなかのある短編小説を読むように、流れるように読めました。文章の書き方とかは、きっとかなり上手なのではないかと思います。
ただ、主人公があまりに短絡的で、物語として魅力を感じられませんでした。そこが残念。
不倫相手の奥様が同業者だった、ただそれに気付いただけで、相手の家庭を壊したいと思うなんて、同姓としても、あまりに主人公はバカすぎる。お腹の出ている村井さんにも、こちらが不倫したくなるような魅力が無いし。
せっかく書く力を既に持ってらっしゃる方だと思うので、今後、魅力ある登場人物の展開をとても楽しみにしています!
□名無しさんからの批評 (2003/12/13 20:21) フォント
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すみません。↑誤字です。
×同姓→○同性、ですね。
失礼しました。
□名無しさんからの批評 (2003/12/15 02:12) フォント
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良いですね。オフィスの雰囲気、同僚の雰囲気がよく出ていて、物語がひきしまっていますね。

ただ、主人公の女性が不倫相手にどう惹かれたかの記述が全然ないので、そこが少し不満でした。不倫という勇気のいる行動に出ているんだから、そこをもっと明るみに書いてもいいのでは。そうすると、最後の1文も生きてくると思います。

あと、「鋭い光」という表現方法だけ違和感を感じました。鋭いと言う簡単な表現だけで良かったのでしょうか。何か比喩表現の方が上手く伝えられてよかったかもしれませんね。
□水夫さんからの批評 (2003/12/16 16:03) フォント
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この作品ならでは、という魅力までは感じられなかったけれど、普通に良く描けていて、気持ちよく読めました。
□名無しさんからの批評 (2003/12/16 21:03) フォント
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 この短い文字数の中で、描ききれることを凝縮した構成力は見事だと思います。
 会話分も盛り込んであり、話に説得力があります。
 ただ、「彼の家庭の影は、影どころか鋭い光だった」「影はわたしのほうだった」という部分に、若干こじつけのようなものがあるように感じられてしまいます。
 構成は上手いと思います。お見事でした。
 
□名無しさんからの批評 (2003/12/17 11:22) フォント
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最後の方でドキッとしてしまう作品ですね。やられた、というのが読後の感想です。

村井さんが、お腹も出てないもっとカッコイイ人として書かれていたら、壊したいという気持ちももっと強く出たんじゃないかなーと思いました。綺麗なものの方が壊し甲斐があるというか。それじゃベタすぎるかな?
□名無しさんからの批評 (2003/12/17 18:12) フォント
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影は私のほうだったのだ、と最後のほうにありますが、主人公はそれについて最初から承知の上、という風に私は読んでいたのでちょっと引っかかりました。
□名無しさんからの批評 (2003/12/19 13:29) フォント
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さらっと読めました。
設定とテーマの関連性が分かりやすくてよいと思いますが、ちょっと物足りない気もします。
1200字では収まりきっていない気もします。

主人公が影に急激な勢いで支配されるという瞬間をもっとキツイ表現で言わないと、家庭を壊すほどの力は湧いてこないのではないかとおもいます。

村井さんはただの中年のおじさんなのか、それともどうしても魅かれてしまうような人なのか、私にはわかりませんでした。
□名無しさんからの批評 (2003/12/19 21:58) フォント
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お腹は出ているけど良い男、ってことは、顔はそんなに悪くないってことなんでしょうか。
村井さんの魅力が今一つ伝わってこなかったのが、少し残念ですね。
文章は読みやすかったです。
□愛さんからの批評 (2003/12/19 23:43) フォント
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素晴らしいなあ、と思います。
隅々までしっかりと書けていて、文句の付け所はありません。
難癖をつけるなら、もう一つ驚きがあるお話だと、オンリーワンになれるのにな、と思いました。
□名無しさんからの批評 (2003/12/22 00:39) フォント
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 正直に言います。最後の4行を読むまでは、文章は上手いけど、ありきたりだし、そんなに面白いとは思いませんでした。最後の4行でうわあと思ってしまった。すごいです。ひっくり返された感じ。
 村井さんのどこを好きになったかをもっと知りたかったと一瞬思ったんだけど、もしかしたら依子は本当はそこまで村井さんを好きじゃなかったのかと感じました。不倫という背徳的なものに憧れていただけというか。それが奥さんの記事を見たときに村井への気持ちが一気に大きくなったのかも、と。実際はどうなのでしょう。
□名無しさんからの批評 (2003/12/22 16:52) フォント
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不倫してる馬鹿な友人に読ませたくなるような作品ですね。とてもありがちな話だけど、うまくまとまっているし、それぞれのシチュエーションもうまく描けてるのではないでしょうか。短編でこれだけ職場などの背景がうまく表現出来るのは大したものだと思います。
家庭を壊したいと思う辺り、主人公の馬鹿っぽさが出ていて良いです。最後に改心されちゃうとつまらない話だったと思うのですが。友達がいない方が、という指摘がありましたが、わたしは友達との馬鹿な会話があってこそ、引き立つ物語のような気がしました。
みなさんも指摘されてますが、確かに村井さんの魅力がもう少し表現されていると良かったかも知れません。仕事の"出来そうな"いい男以外に、例えば笑うと白い歯が光るとか…そういう描写があると、村井のイメージは変わるような気がします。
□名無しさんからの批評 (2004/01/02 05:30) フォント
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陽気目の文章がサクサク進んで最後の重い言葉で落とす構成が効いてます。表現力自体も決して低くはないと思いますが、普通過ぎる気もします。
□匿名さんからの批評 (2004/01/03 21:39) フォント
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読み終わった感想は「ふーん、そうなんだ」って感じでした。私の読解力が足りないだけかもしれませんが・・
長編小説のなかの一場面としてなら良いと思いますが、短編のなかでは物足りない気がしました。
□名は無いさんからの批評 (2004/01/07 20:06) フォント
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発想よりも、物語のつづり方に魅力を感じました。少し深刻な話を軽快な感じで流していくというのは私にはできないやり方ですので。
最後の2段落は説明的過ぎる気がします。もう少し軽快なままでも良かったのではないでしょうか。
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