「始りの影」
田口フミヲ
 いつの頃からか、あたしは自分の影と会話をするようになっていた。会話と言ってもあたしが一方的に話すだけ。影は頭が良く、都合の悪いことは言わない。そして誰よりも聞き上手だ。
 一人暮らしのあたしは、部屋の電気の他にスタンドを二つ置いている。部屋の蛍光灯も新しい五本のタイプにした。部屋が明るければ明るい程、あたしの影は黒くはっきりと見える。
 今日も部屋に帰ると、ビールを飲みながら影に愚痴っていた。仕事のことや友達のこと、好きな男の子に恋人がいてショックだったこと。一通り言葉にすると不思議と気持ちが落ち着いた。体が軽やかになり、あしたも頑張ろう、と自然に前向きになれた。
 それからお風呂に入り、ぽかぽかの体が冷めない内に布団に入った。枕元には安いワインと読みかけの小説を置いてあり、あたしは飲みながら読書にふけるのが好きで、毎日の日課になっている。今日も当たり前のように本を読むつもりでいたが、ワインを一口飲むと急激な眠さに襲われた。口をあければあくびだ出てきてあたしに、早く寝ようよ、と誘う。あたしはその誘いを断りなんとか本を開いたけど、三行読んだ所で限界だった。あくびで出て来た涙が視界を滲ませ輪郭を奪う。見ているものが何なのか、と言うよりは何を見ているのかわからなくなってきた。
 あたしは負けを認めて電気を消した。
 しばらく色々なことを考えていると、あんなに眠かったのに寝つけない。むしろ頭ははっきりしてきた。おもむろに目を開けると真っ暗だった。当たり前だ、寝る為に暗くしているのだから。
 あ、そうか。そうなんだ。
 思わず声をだして笑ってしまった。急に答えがぽんとわかってしまったのだ、それはもう笑うしかない。
 あたしは影に話すのは影があたしの一部であたしが作ったものだと思っていたから。でも影は光を消すと闇となり人を包み込む、そして人はみんな眠りにつく。
 人は暗い子宮から産まれ、死後は燃やされ墓穴に入る。そう始りが影なんだ。生と死は闇から始り、そしてあたしには眠りが始る。
 あたしは産まれた時から一緒にいる、影に愚痴ることで影を認識して安心していたんだ。それだけのことなんだ。
 あたしは、おやすみ、の代わりに、ありがとう、と呟いた。そして眠りが始った。
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□匿名さんからの批評 (2003/12/10 19:42) フォント
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最後のあたりが先に発想としてあったのかと。無理やりはじめの話を付け足されたのではないでしょうか。前半部、すらすらと読める文章を課開ける方ですので、この発想で、もっと違う話がかけたのではないかと思われて、ちょっと残念か。
□名無しさんからの批評 (2003/12/10 22:35) フォント
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最後の六行がいやに説明的に感じられ、そこに全てが凝縮されているのでしょうが、その割には今ひとつ何が言いたいのか、頭で理解は出来ても、感覚的に伝わりきらなかった。
□名無しさんからの批評 (2003/12/11 00:37) フォント
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 (あくまで自分的にということですが)致命的なことに、ラストの主人公の理解と納得がこちらには全く分かりません。
 影=暗闇=人が生まれて死ぬ場所=安心、という流れなのは分かりますが、「影に愚痴ることで影を認識して安心」のくだりがよく分かりません。
 せっかく人格のように登場した影は、最初に主人公の話を聞く存在として出てくるだけで終わっています。その影と対話して一日の憂さを晴らしているという主人公の、現実的な観点から言えば「ちょっと普通じゃない」行動は、全くなんの突っ込みもそこからの展開もなされないままただ正当化されて終わっています。そしてそこから導き出されたとされる論理も、かなり理解が困難です。
 『あたしは影に話すのは影があたしの一部であたしが作ったものだと思っていたから』という部分がもっと最初の方にあれば、「そうじゃなくて、影は実は安心の元だから(と、この話の最後に気づいた)、自分はそうと気づかずに影に愚痴るようになったんだ。この行為は多重人格的なものではなく、ある意味人としての摂理に則った行為なんだ」という(間違ってたらすいません)、論理の逆転がもっと上手く表現されたんじゃないかと思います。……多分。
 なんにしても、こうした「考え」を伝えようという小説は往々にして難しいものだと思います。
□ともぞうさんからの批評 (2003/12/11 02:24) フォント
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前半部分が非常にいい出来なだけに、後半の弱さが露呈しているように思えます。

文中引用
『あたしは影に話すのは影があたしの一部であたしが作ったものだと思っていたから』

ここは「あたし」が多様されていて、視点がぶれているので非常に読みづらいし、わかりにくいですね。
もっとシンプルにしてもいいのでは?

それ以降の論理的な説明も、繋がりがよく分からずイマイチです。
□名無しさんからの批評 (2003/12/11 14:50) フォント
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結末部分の処理方法ですね。そこに至るまでの描写には破綻がないだけに結末の分かりにくさ(下6行)が厳しいです。説明的な書き方が逆に全体の雰囲気を壊してしまっているかも。むしろ、この結末部分を削除してしまい、前半からの描写をそのまま生かすというのもありかと思います。
□名無しさんからの批評 (2003/12/11 20:55) フォント
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物語もおちる部分も良いのですが、「人は暗い子宮から産まれ〜」の一文だけが唐突すぎる気がします。印象的なだけにそこで突っかかってしまうという感じでしょうか。
そこは敢えて書かなくても、全体的な部分から読者に感じさせることができるのではないかと思いました。
□郵一郎さんからの批評 (2003/12/12 14:17) フォント
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早く寝ようよ、あたしに語りかけているのが、擬人化された眠気なのか影なのかよく分かりませんでした。
答えを得るきっかけが少し弱いような気もします。もう少し特異なシチュエーションだといいかもしれません。
□名無しさんからの批評 (2003/12/12 23:58) フォント
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影の認識をそのまま話しにした、小説としてはストレートすぎて難し過ぎ、残念ながら伝わりきっていない印象を受けました。

やはり「始り」は「始まり」と書くべきでしょう。
接続に「が」が多いのは気になります。便利ですけれども、曖昧で誤解を招きやすいので極力使用を避けるべきです。そうするだけで読みやすくなります。
□セツナビトさんからの批評 (2003/12/13 00:51) フォント
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「あ、そうか、そうなんだ。」までの部分は、特につかえることなく読むことが出来ました。描写がよく、光景が浮かんできます。気になったのは、仕事をしていることと自分を「あたし」と表記しているところから結構若い社会人を想像したため、「男の子」という表記に少し引っかかったことくらいです。

「あ、そうか。そうなんだ。」以降は、はっきり言って理解できませんでした。「思わず〜」で「なんだなんだ」と掻き立てられて、「あたしは産まれた時から〜」で「ふーん、で?」と思ったら終わったという、なんとも消化不良な印象を受けました。特に「人は暗い子宮から産まれ〜」の一文は、やはりその中でも浮いてしまっています。説明的なのも気にかかりました。前半がよかった分落胆が大きかったです。

最初に書いたとおり、表現や描写はよいと思います。次回作に期待しています。
□名無しさんからの批評 (2003/12/13 03:09) フォント
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結論が突飛で唐突すぎると思った。
時々文章におかしな所が見受けられる。
□名無しさんからの批評 (2003/12/13 15:47) フォント
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私が闇は影ではないと思うせいか、唐突な感じがしてしまった。影と話をしている描写があった方がこの小説に入りやすいと思う。「私が一方的に影に話かけても影は揺れるくらいで・・」とか。
□名無しさんからの批評 (2003/12/13 18:03) フォント
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 3段落までは普通に読めます。
 4段落は説明的で言葉が流れていきません。
 5、6段落はまあいいでしょう。7、8段落で転換がある訳ですが、その転換が何がなんだかわからず抹香臭い説教じみた内容になっていってしまいます。
 深夜に感じた思考の高揚感を説明しようとしたのでしょうか?プロットの組み立てと下書きをきちんとしていれば、このような混乱にはならなかったと思うのですが。
□む。さんからの批評 (2003/12/16 12:53) フォント
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「あ、そうか。そうなんだ。」以降の考え方が最初にあって、それを創作小説として演出するために前の部分を付け加えた、という印象を受けました。影が全ての生の始まりであるが故に、「あたし」は影に語りかけることで安らぎを得ることができる、というのが骨格になっているつもりで読みました。
流れ自体はいいとおもうのですが、文章の中に情報が必要以上にありすぎて、どれが一番重要なのかがわかりにくくなっていると思います。影が全ての始まりであることを強調するのなら、中盤の読書が好きという主人公像はなくてもいいと思いました。ここを削れば、影との語らいや後半の主張部分にもっと文字数を割り当てられますし。
後は、後半部分でいいたいことをきちんと並べてから文章に起こすと、もっとこの小説の根幹が見えてくると思います。

表現で気になったのは「好きな男の子に恋人がいて」ですね。「好きな人」とか「好きな男性」という表現のほうが自然かな、と思いました。
□水夫さんからの批評 (2003/12/16 16:09) フォント
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・「枕元には〜」この文カット。」今日もいつものようにワインを飲みながら〜」で充分。
・あくびだ出てきて……誤字。
・輪郭を奪う……過剰な装飾表現。
・始り/始った……「ま」脱字。趣味の範疇とは言いにくい。

これだけ直したところで、内容が空虚で、著者の中だけでしか筋が通っていないの致命的。
□名無しさんからの批評 (2003/12/16 21:12) フォント
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 影を擬人化するというテーマはいいと思います。表現もシンプルに落ち着いていて、読みにくい部分はなかったと思います。
 ただ、影を擬人化するのなら、もう少しやり方があったような。結局のところ、普通に納得して終わってしまうところが少し残念。
 擬人化はSFに繋がってしまう部分もあるので、好みも別れるでしょうけれども、試みとしては良いと思いました。
□名無しさんからの批評 (2003/12/17 11:34) フォント
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うーん。この発想はアリだと思うんです。何か勿体無いような。
最後の部分、何も今になって突然気づかなくてもと思ってしまうんですよね。
影(闇)の中に包まれて、ゆっくり気づいていくような展開のほうが、前半の流れと合っていて良いのかな、と思いました。
□名無しさんからの批評 (2003/12/19 22:12) フォント
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言いたいことはわかるのですが、ちょっと自己満足しすぎかな、と思います。
伝えたいことがあっても、伝わらないのでは勿体ないですから。
良い表現も見られるので、次回頑張ってください。
□愛さんからの批評 (2003/12/19 23:49) フォント
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最後の部分の着想はとても素敵です。
ただ前半が結末の伝えたいイメージから離れてしまっていて、全体的なまとまりが失われています。
自分が伝えたいイメージをもう少し明確にして、それがちゃんと伝わる小説になっているかどうか、推敲されることを望みます。
□名無しさんからの批評 (2003/12/22 17:20) フォント
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影の擬人化は絶対にあると思っていたので楽しみでした。
最初の「会話と言ってもあたしが一方的に話すだけ。影は頭が良く、都合の悪いことは言わない。」にすでに違和感を感じてしまいました。(一方的に話してるなら、相手は何も言わないってことだと思うので、都合の悪いことを言うわけがない、という理屈。理屈っぽいですかね?)
で、最後の言いたいことはよくわかるのですが、何故「それはもう笑うしかない」んでしょうか?そこで笑ってしまう主人公にも違和感を感じてしまいました。(これは好みの問題でしょうけど。)
他の方が指摘されてる誤字や送り仮名に気を付ければ、表現自体は悪くないと思うのですが、全体的に中途半端な感じが否めませんでした。
□名無しさんからの批評 (2003/12/31 12:23) フォント
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あんなに眠かったのに、寝床に就いた途端に「いろいろ考え出す」のがよく分かりませんでした。
ちょっとついていけないかもしれません。
影と話す、という発想はよいと思うのですが、そこからの広がりを感じることが出来ませんでした。1200字では収まりきれていない気もします。
頑張ってください。
□名無しさんからの批評 (2004/01/02 05:38) フォント
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実際に照明を部屋に幾つも置くと影は見えなくなります。一つだけ強い光を部屋にポツンと置かないと。作文能力は悪くありません。書く前に一度作中の情景を実際に作ってみて観察するとリアリティーが増します。
□名は無いさんからの批評 (2004/01/07 19:58) フォント
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後半の部分に書かれているような考え方は、私としては大変好みなのですが、1200文字の文章量では少しくどく感じられるかもしれません。また、物語の中核がこの部分に来てしまっているので、主人公が一人で部屋でぶつぶつ言っている根暗っぽい人としかイメージが無いので、全体として印象が悪いように思います。
再度、私は好みの作品です。影から始まるという発想は好きです。
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