「旅立ちの空」
市原玲司
 祖母の家は、小高い丘の上にある住宅街の一角にひっそりとあった。両親が忙しく、よく祖母の家に行っていた小学2年の私は、太陽が西に傾く頃、祖母に手を引かれながら、その陽を背にして帰った。
 学校で身体測定があった日の夕暮れ、いつもと同じように手を引かれながら坂を下りたが、その足取りは重かった。昼間、背が去年より全く伸びていないことが分かったからだ。
「ばあちゃん、僕、1年生から背が伸びてないんだ。背の順も1番前になっちゃった……」
 私はうつむきながら言った。しかし、祖母は優しく、うんうんとうなずくばかりだ。
 悲しくなって、祖母の顔を見た。祖母の顔は、当時の背の低い私と同じ位置にあった。老齢で腰が曲がっていたためだ。
 うなだれながら東に下っていた坂の途中で、祖母は私の手を握りながら、突然その足を止めた。
「純坊や。背の高さなんか気にするんでないよ。男の子はな、背の高さより志の高さを気にするもんじゃよ」
「こころざし?」
「そうじゃ。志じゃ。純坊は大きくなったら何になりたい?」
 一瞬戸惑ったが、下を向いたまま何とか声にして答えることができた。
「えっとね、スペースシャトルの運転手」
「そうさな。そう思うことが志ってもんさ。ほら、下ばかり見てないで空を見てみな。空には志の大きさが映るから」
 祖母に促されて空を見上げた。そこには、夕陽で伸びた自分と祖母の影をずっと見ていたためにできた真っ白な影法師が、青色の大空に広がる、夕陽の茜色を映した鰯雲の上に重なってそびえ立っていた。
「な。純坊の志はおっきいじゃろ」
「うん。でも、ばあちゃんの方が大きいね。僕よりずっと長く生きているからかなぁ」
私の何気ない言葉を聞いて祖母は私の方を向き、顔の皺を深く刻みながら優しく微笑んだ。

 祖母はそれから他界する10年の間に芝居の脚本を書き、その芝居が有名な劇団で採用された。今になってやっと、祖母は老齢ながら大きな志を持っていたのだ、とあの影法師を思い出すたびに確信できる。
 駅前を歩いていた私は人ごみに疲れ、空を見上げた。そこにはあの時と同じ、斑になった鰯雲が広がっていた。
私は誘われるように雑踏から外れ、裏路地に入った。そして、夕陽に映えた自分の影を数分眺めてから、ビルの隙間から見える空を見上げた。
 宇宙飛行士にはなれず写真家としての道を歩み始めたが、この少しばかり背の伸びた影法師を天国の祖母は見ていてくれているだろうか。私はあの皺だらけの笑顔を思い浮かべながら、自分の影法師を眺めた。
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□名無しさんからの批評 (2003/12/10 22:40) フォント
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ちょっといいお話って感じですね。情緒的で郷愁が伝わってきます。
表現も丁寧で美しかったです。
□名無しさんからの批評 (2003/12/11 18:34) フォント
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素直に楽しめました。いい作品です。ただ、タイトルがちと不満かなぁ。おばあちゃんの会話の文もなかなか好きです。ただ、これだけ行動力のあるおばあちゃん、もうちょっとその人となりを書き込んでも良いかと、でもそうすると、他の描写を削らなければならないのか?ううむ、ジレンマですな。次回作も期待しています。
□名無しさんからの批評 (2003/12/11 21:01) フォント
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引っかかる部分は多少あるのですが、素直に良かったです。とても感触の良い物語。
構成をもう少し詰めて、書きたい情報を取捨選択してみると、かなり完成度が高くなるのではないかと思います。次回に期待。
□名無しさんからの批評 (2003/12/12 00:35) フォント
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よい話だと思います。
身長が伸びていなくて悩んでいる点、スペースシャトルの乗員を運転手などというところで、小学2年生の男の子、さらには、おばあちゃんの独特の言葉遣いなどは多少甘いところがありつつも上手に描けていると思います。

情景に関しても、きちんと描けていると思います。物語序盤の情景などは秀逸です。しかし、物語中盤の
「そこには、夕陽で伸びた自分と〜」
のくだりが、もう少しすっきり書けても良いかな、と思いました。

次回も頑張ってください。
□名無しさんからの批評 (2003/12/12 12:37) フォント
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 他の方達も言われているように、なんとなく文章にもうちょっと改善の余地があるように感じました。
 でもそれ以外は自分としてはすごくいいとおもいました。
□名無しさんからの批評 (2003/12/13 00:02) フォント
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情景描写はかなり書き込まれていましたが、過去の回想なのに現在形で表記されていたりと、ぐちゃぐちゃです。そこは整理して書く必要があります。

職業選択に説明も脈絡もみえてこないので、せっかくの特殊職業の写真家が埋もれています。それを活かせるだけの仕込みは十分にあったので、余計にそう思ってしまいました。
□はるさんからの批評 (2003/12/13 02:48) フォント
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表現自体は美しいと思いますが、文のリズムが悪いように感じます。描写をだらだらと読点で続けてしまうのは賛成できません。
□名無しさんからの批評 (2003/12/13 03:23) フォント
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祖母の口調が芝居臭くて引きました。
影法師の事が引っかかる…
□セツナビトさんからの批評 (2003/12/13 10:19) フォント
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所々で一文がやや長いのが気にかかりました。描写が必要以上に連なっているからだと思います。描写を少し簡略化するか、句点を間に挟んで文を分割した方が読みやすいです。

主人公の一人称ですが、これは「僕」で統一しても構わないのではないでしょうか。意図は分かるのですが少々混乱しました。

次におばあちゃんの口調。やはり芝居の台詞くさいです。ちょっと違和感を感じました。

おばあちゃんが亡くなるまでの10年間に芝居の脚本を書いたという話は、前半で全く触れられていないので唐突に感じました。それと主人公が写真家になった話も。写真家ってやっぱり特殊な職業だと思います。そこに至るまでの描写が無いので、これまた唐突。サラリーマン……だったら話の趣旨が変わってしまいますね。例えば宇宙関連の研究者とか(これまた特殊ですが関連はあるかと)、そういうものの方がすんなり行くように思えます。

最後に、細かいことですが「昼間、背が去年より全く伸びていないことが分かったからだ。」は、「去年より」より「去年から」または「去年と比べて」の方がよいかと思います。

全体にほのぼのとした雰囲気がうまくにじんでいると思います。次回作に期待しています。がんばってください。
□名無しさんからの批評 (2003/12/13 16:01) フォント
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ばあちゃんの話口調が昔話に出てくるおじいさん、おばあさんみたいで違和感を覚えた。年寄り感を出したかったら方言とかで工夫した方が良いのでは?
□名無しさんからの批評 (2003/12/13 18:29) フォント
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 上から読んできて影がマイナス(もしくは中立)のイメージ担っているものが多くて、ここに来てやっと暖かみのある影にふれた気がします。表現は丁寧で好感が持てますし、時系列の整理も良くされていて良かったです。
 もう一点何かスパイスみたいなものがあれば全部「実」にしたいところでした。
□む。さんからの批評 (2003/12/15 13:11) フォント
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既に他の方が指摘されている点ばかりになりますが。
祖母の語り口調は、私も違和感を感じました。人であるということをわかりやすく表現するのには使える口調ですけどね、ちょっと安直かと。
それから、祖母が突然芝居の脚本を書いたというくだりが出てくること。直後に理由が書いてありますが、慌てて付け加えた説明文のように見えてしまいます。それ以前で、祖母は脚本家になるのが夢だったというエピソードがちらりとでもあると、このくだりが生きてくるのに、と少々残念です。
自分が写真家という職業を已む無く(?)選択している現実にも疑問が湧きますが、志を大きく持て、そして諦めるな、という全体の流れと、祖母との思い出を励みに生きる主人公の姿には好感が持てました。
細かい表現に気をつけると、もっといい作品になると思います。次作に期待しています。
□水夫さんからの批評 (2003/12/16 16:17) フォント
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お話は素朴で好みです。

丁寧な文体なのだから、小学2年、学校、よりは小学2年生、小学校のほうが良いかと。

東に下っていた……ここで「東に」はちょっとくどいかも。

この構成なら「駅前を〜」の前は改行がほしい。

「今になってやっと〜」の一文は「祖母は老齢にして大きな志を持っていたのだ」くらいに。
□名無しさんからの批評 (2003/12/16 21:18) フォント
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 なんだか、いい話すぎて、それだけで終わっちゃうような。
 物語に何を求めているかによって、それぞれの受け止め方は変わるのでしょうけれども、
少なくとも私はこの物語から何も受け止めることはできませんでした。
□名無しさんからの批評 (2003/12/17 11:42) フォント
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おばあちゃんの言葉が、おじいちゃんぽくないですか?なんとなく違和感がありましたが・・・。

最後に写真家になってしまいますが、祖母の志に少しでも関わるような職業だったら、嬉しかったなー。
□ななし。さんからの批評 (2003/12/18 19:00) フォント
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情景描写が一文に詰め込みすぎな感じがします。
特に2〜3行目は何回か読まないとスッと入ってきませんでした。

おばあちゃんと一緒にいた情景(雲)がキレイに描かれているので、空の写真を撮る写真家だったらもっとほのぼの度があがったかな?と思いました。
好きな作品です。
□名無しさんからの批評 (2003/12/19 22:15) フォント
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ほのぼので良いですね。
読みやすいし、言葉の選びも上手いと思います。
最後の方、「ん?」と思ってしまうところもありますが、そこをカバーできるだけの力はあると思います。
□愛さんからの批評 (2003/12/19 23:57) フォント
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いい話としてまとまっていて、すらすらと読めましたが、道徳の時間に聞く話のような物足りなさを感じます。
そして小道具がやや不自然に感じました。(芝居の脚本、写真家など)
お婆ちゃんの喋り口はやはり典型的に感じましたが、雰囲気とは合ってるかな、と思いました。
□名無しさんからの批評 (2003/12/21 23:50) フォント
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 国語の教科書に載っていた『影送り』の話を思い出しました。心が洗われるような作品でした。こういうほのぼのとした作品は、読んでいて心が温かくなります。
 読後感が良かったのであまりケチを付けたくないのですが、数字が全角になっていたり半角になっていたりするので(小学2年、他界する10年の間に、など)、それは統一させた方がいいと思います。

 これは、前作『恩返し』の写真家・笹原さんでしょうか。
□名無しさんからの批評 (2003/12/22 17:34) フォント
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ほのぼのとあったかく、いい話ですね。情景が目に浮かんできました。
指摘したいことは他の方から充分にしてあると感じたので…、どうでもいいけど気になったのは、下から7行目の「私は」の前は1マス開け忘れかな?と。
前作もとても好きな作品でした、次回も楽しみにしています。
□名無しさんからの批評 (2004/01/01 18:54) フォント
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ほのぼのとしていて、いいですね。私自身がこういうものを書けないので、羨ましく思います。
気になるのは鰯雲。鰯雲はたしか秋の名物であると記憶していますが、身体測定をやる時期は春が一般的だと思うので、ちょっと疑問に思いました。
構成はよいと思います。とても読みやすい。表現はわかりやすいので良いのですが、個性が感じられませんでした。
でも残念なのは、最後はおきまり通り、主人公に宇宙飛行士の訓練でもやっていてほしかったです。まあ好みかもしれませんが…。

お疲れ様でした。
□名無しさんからの批評 (2004/01/01 19:02) フォント
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ほのぼの感は良いと思います。
でも鰯雲は秋のものです。身体測定があるのは一般的には春だと思うので、違和感を感じました。
表現は完成されている感じはするのですが、個性がないというか、印象に残る文章ではないと思います。
ほのぼのしている分、そうなりやすいのかもしれないですが。
残念なのは、主人公が最後に宇宙飛行士の訓練をしてなかったこと。ベタなものが好きなもので、写真家になったということを知って、ちょっとがっかりでした。まあ、好みなんですが…。

お疲れ様です。
□上2つを書いたものです。さんからの批評 (2004/01/01 19:04) フォント
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すみません、重複して書き込んでしまいました。
送信できてなかったと思い込んでしまって…申し訳ありません。
□名無しさんからの批評 (2004/01/02 05:48) フォント
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うーん、「〜じゃ」って言う老人に僕は会った事がないので、リアリティーに欠けるとかんじました。SFやファンタジー系ならいいんでしょうが、今回のストリーはそうでは無いので個人的にかなりひっかかってしまいました。まあ万人に受ける作風は無いので、それ程問題は無いのかも知れません。
□匿名さんからの批評 (2004/01/03 21:50) フォント
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自然に始まって、自然に終わる感じがすごく良いと思いました。
文の雰囲気とかも綺麗で、私はすごく好きです。
ただ、祖母についての描写とかを増やしてみたら更に良くなるかも、と思いました。
□名は無いさんからの批評 (2004/01/07 19:49) フォント
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総合
丁寧な表現と、整った構成で穏やかな印象を与えてくれる作品だと思います。影の扱われ方も破綻しておらず良いと思います。
最後の主人公の裏路地に入る行動がすこし突飛な気がします。ビルの影のせいで夕日が見えないんじゃないかなぁ。などと気にしてしまいました。
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