「光の中で」
恩田あい
 吹奏楽部の練習が終わるのは、いつも八時前だ。私はいつも練習の後、校庭をしばらく眺める。そこには一人遅くまで走る、高木の姿があるからだ。
 高木とは、今年初めて同じクラスになった。それまではただ、陸上部にすごい人がいるってくらいにしか知らなかったけど、なぜだか二度ほど席が隣りになり、いつの間にか仲良くなっていた。高木は長距離専門で、インターハイで賞をもらうほどの実力者だ。「走るって事は、おれにとっちゃ生きるって意味だ」なんて笑いながら言う高木は、走ることが本当に好きでたまらないって顔をしてた。
 私は高木が走る姿を見るのが好きだ。夜の校庭のライトに照らされて走る高木の姿は、いつもよりも格好良く見える。実際には汗まみれだろう高木の顔は、それでも走っている喜びに溢れている。私にとってクラリネットが手放せない物のように、高木にとって走ることは、生きる上で手放せない事なのだろう。

 高木が交通事故にあったのは、インターハイの直前だった。十日間、学校を休んだあと、足に包帯を巻いて登校してきた高木に、私は上手く笑えなかった。幸い大したことはない怪我だけど、以前のように走れるかはわからない。そんなことを聞いた。高木には聞けなかった。「走ること、やめないでしょう?」なんて。
 その日の放課後、音楽室から見える裏庭で、高木がベンチに腰掛けているのが見えた。私はこっそりと部活を抜け出した。私には何もできないだろう。何も言えないと思う。だけど。

「おれさぁ、今まで走れないってことなかったから、結構きついわ」
 下を向いたまま、そう呟いた高木の肩は、少しだけ震えていた。止めないで、なんてそんなこと、私には言う権利もないけれど。それでも。
「高木の走ってる姿、私、好きだよ」
 高木の肩越しに斜めに降りる夕日のせいで、高木の顔が影になる。その頬に何か光った気がしたけど、燃えるように赤い光と、それが作り出す影が眩しくて、良く見えなかった。
「夜ね、練習が終わった後、校庭を見るの。高木がいつも、一人で走ってるの知ってるから。校庭のライトが高木に当たって、高木の影が何本も出来て。走る人を見て、初めて綺麗だなぁって思った。……私は、高木の走ってる姿が、すごく、好きだよ」
 だから、止めないで。走ることを、止めないで。

 私は今日も、練習が終わった音楽室から校庭を見る。そこには今日も、校庭のライトを体一杯浴びながら一人走る、高木の姿がある。
著作権について
 
 
□名無しさんからの批評 (2003/12/11 21:23) フォント
発想
構成
表現
総合
爽やかな青春の風景という感じでとても良いです。
が、爽やか過ぎて淡々としているかなという部分もあります。主人公にと高木くんとの関係、もう少し踏み込んで書いて欲しかった。尊敬の気持ちなのか、片想いなのか。どちらとも言えないというくらいの淡い気持ちなのかもしれませんが、それにしても思い入れが強い感じですし。結局どっちなんだ、という感想が残ってしまいました。
□名無しさんからの批評 (2003/12/12 00:46) フォント
発想
構成
表現
総合
瑞々しい青春の一コマといったお話ですね。個人的には青春ドラマの王道過ぎる、青臭い感が否めませんでした。悪くないんだけど、物足りなく感じてしまうのは私が擦れているせいなのかもしれませんが。
□郵一郎さんからの批評 (2003/12/12 14:48) フォント
発想
構成
表現
総合
ありふれた話を、それでもテーマをちゃんと扱いつつ、読ませることができるのは、すばらしいことだと思います。
ありふれたものほど、気づくと失っているのはなぜだろう。余談ですけど。
□名無しさんからの批評 (2003/12/12 21:44) フォント
発想
構成
表現
総合
完成した文です。ここまでまとまったのは推敲を重ねた跡だからかも。その点は見習いたいし、ここまで構成がしっかりしてる、ある意味、プログラムのような、(いや、プログラムのほうが破綻してる場合が多いか……)ソツの無い良い文章。その先を目指して欲しいです。ドコにソレがあるのかは、私には判りませんが、作者のみの知る、次の次元への表現法。開拓してみてください。
□名無しさんからの批評 (2003/12/13 00:35) フォント
発想
構成
表現
総合
学校モノとしていい雰囲気をかもし出しています。展開はご都合主義っぽいですけれども、それはそれで有りかな? と思わせる薄氷を踏んでいる印象でした。
テーマの影が出てくる段落近辺での文章の順序は、違和感があります。高木の描写が私のセリフと思いの中に埋もれてしまっていて、せっかくの部分の印象が薄くなっています。これでは独りよがりと受け止められかねません。
□匿名さんからの批評 (2003/12/13 01:09) フォント
発想
構成
表現
総合
目に浮かぶよう。高木の交通事故は、ちょっと大げさか。それ以外は、どこにでもありえる(いい意味です)話です。ありふれた題材だからこそ、感情移入できるというのは、大事なことじゃないかと思います。
□名無しさんからの批評 (2003/12/13 04:12) フォント
発想
構成
表現
総合
教育テレビ用の青春ドラマ脚本。のような印象を受けました。
でもこういうあっさりさっぱりした綺麗事の方が、最近多い生臭い話よりいいと思います。
□名無しさんからの批評 (2003/12/13 18:50) フォント
発想
構成
表現
総合
こういうの。飽きてます。なのでごめんなさい。
□セツナビトさんからの批評 (2003/12/14 00:20) フォント
発想
構成
表現
総合
いいですねぇ、青春の一ページといった感じで。私も高校時代にこんな経験がしてみたかったです。はぁ。

とまあ前置きはおいておいて。他の方が書かれているように、ありきたり感が否めません。まさに青春ドラマの筋書きのような。そのために綺麗にまとまっている、といった感じです。もう少しひねった設定でも、著者の方の文章力ならうまくまとめることが出来ると思いました。

文章は本当に綺麗にまとまっていると思います。しかし、どうも高木のことがあまり印象に残りません。重要な主人公と高木の対話のシーンが、主人公の語りと心中の描写で終始しているからだと思います。主人公の言葉を聞いた高木の表情の変化とか(はっとしたり、胸キュンな表情が出ていると思います)をもっと描写した方がよかったのでは。

あと、細かいことですが、「幸い大したことはない怪我だったけど」の方がいいと思います。

文章力はかなり高いと思います。今度はこういった無難な作品ではなく少し冒険したものを読んでみたいです。期待しています。これからもがんばってください。
□水夫さんからの批評 (2003/12/16 16:42) フォント
発想
構成
表現
総合
最後のとってつけたハッピーエンドがいまひとつしっくり来ませんでした。とりあえず映像ではなく活字で表現する理由のないお話ですね。文章はこなれています。
□名無しさんからの批評 (2003/12/16 21:47) フォント
発想
構成
表現
総合
 いくつもあるであろう、同種の話と別離するためには、何らかしらのアクションがあってしかるべきだと思います。
 そうしたものを生み出せるかどうかによって、今後が変わってくると。
 物語は常に新しくあるべきだと私は思います。ありきたりではない、何かを描いてほしいと願います。
□ななし。さんからの批評 (2003/12/19 15:53) フォント
発想
構成
表現
総合
なめらかなストーリーの流れで読みやすかったです。
構成もちゃんと考えられていると思いますし。

ただ、高木は事故によって「走れない」ことに苛立ちや焦燥を感じてはいるけれど、選手生命を絶たなければいけないほどのことかどうか?が伝わってきませんでした。
細かいことかもしれませんが、個人的には「やめないで」は平仮名のほうがサラッと読めます。
(「止める」だと、どうしても「とめる」が同時に浮かんでしまうのは私だけでしょうか?)
□愛さんからの批評 (2003/12/20 00:15) フォント
発想
構成
表現
総合
甘酸っぱいかんじがとても上手に描き出されていていいです。
ただ残念ながら、主人公の感情の動きも、起こっているイベントも、最後の結末も、ありふれているもので、新たな感動を生み起こす力が感じられません。
何か一つ、新しいものを組み込めると良いな、と思います。
□名無しさんからの批評 (2003/12/22 17:56) フォント
発想
構成
表現
総合
 よく書けていると思いました。作品をいくつも読むうち、「よく書けているからって良い作品なわけじゃないんだなぁ」などとどうでもいい真実に気付いたのですが、うーん、なんだか優等生的な作品という感じでした。よく書けてるんだけど、心に残る描写があまりないというか…。
 とても読ませる力のある文章だと思うので、それこそもったいないと思うのです。もう少し「創作」してみてはいかがでしょう。次回も期待していますので。
□名無しさんからの批評 (2003/12/22 21:50) フォント
発想
構成
表現
総合
他の方々の批評を読ませて頂いてから書いてます。やっぱり優等生っぽい印象はあります。

でも、なぜか最後まできっちり読んで、ちょっと胸が苦しくなる。やっぱり正統派は必要なんだと思います。

ひとつ気になったのが、インターハイ直前に事故って大会に出ちゃったのは凄いけど大丈夫なのかと。なんとか大会には間に合った、みたいな一行が欲しかったなと思いました。
□名無しさんからの批評 (2004/01/06 20:51) フォント
発想
構成
表現
総合
雰囲気は伝わってくるし、アオハルな感じは好きなんです。
でも少女のような書き方が気になります。
女子高生が書いているみたいなんです。主人公が女子高生だから、それでもいいとは思うんですが、少し幼稚な気がしてしまいました。それを狙っているのだら本当に申し訳ありません。

でも結局主人公と高木君の関係に進展はあったのかが分かりませんでした。また、彼女が勇気を出すきっかけになったのが怪我だけだったのなら悲しいです。
お疲れ様でした
□名は無いさんからの批評 (2004/01/07 19:08) フォント
発想
構成
表現
総合
影と光のコントラストを使って、良い表現をされていると思います。鮮やかさが伝わってくるようで、色のある作品でした。
お話もきちんとまとまっていて、読んで引っかかりが無く読む事ができました。
←目次へ
2style.net