「金曜の夜、土曜の朝」
山賀雪亜
 僕の部屋には、毎週金曜の夜、影がやって来る。

 マンションの3階。通りに面しているこの部屋のベランダからは、駅からの細い裏道とぶつかる三叉路がよく見える。一晩中、電灯に照らされている街角。
 僕は妻と一緒に暮らしている。小さな部屋でささやかな生活。ケンカだってよくする。何か物足りない気もするけれど、でもきっとこれが幸せなのだと思う。
 ただ、妻は毎週金曜の夜、家に帰って来ない。何てことはない、電車で数駅の実家に帰って、夕食を家族と食べるのだ。仲の良い両親と妹と。そして電車で戻って来るのが億劫になり、そのまま泊まってしまうらしい。妹とビデオを観ていたら途中で寝ちゃってとか、お風呂に入ったら面倒くさくなっちゃってとか、土曜の朝はいつも携帯で前夜のエピソードを話しながら、妻は帰って来る。ただいまと笑って。
 だから金曜の夜、僕の部屋には彼女がやって来る。
 妻が戻って来なかった最初の金曜の夜、僕は昔よく妻と飲みに行ったバーへ一人で出掛けた。そこで彼女に声をかけたのが始まりだった。
 金曜の深夜、ベランダで煙草を吸っていると、電灯に照らされた三叉路から人影が伸びる。それが彼女だ。建物と建物に挟まれた路地の暗闇から、終電に乗ってやって来た彼女が現れる。彼女は僕を見上げ、にっこり笑う。
 彼女を部屋に招き入れるや否や、お互いの服を剥ぎ、僕達はセックスをする。この辺りは、深夜の人通りがほとんど無い。だから僕は、ベランダの戸を開け放したままで彼女を抱く。僕達の息遣いだけが、静かなこの夜を満たして行く。ひんやりとした夜の空気。
 彼女を抱く肩越しに、電灯に照らされた三叉路が見える。彼女はあの向こうの暗く細い路地から影と共にやって来て、始発の電車に乗るためにまたそこへ消えて行くのだ。あと何時間かしたら。
 僕達はほとんど何も言葉を交わさない。唇から零れ落ちるのを押さえられない、「愛してる」をのぞいては。ただ数時間、求め合い抱き合うだけだ。だから本当の所、彼女については何ひとつ知らない。ただ金曜の夜を共にする人。たったそれだけ。
 それでも限りなく大切だと感じるのは何故だろうか。この上なく愛おしいと感じるのは何故なんだろう。土曜の朝になれば、すっかり彼女の事は忘れてしまっているというのに。
 土曜の早朝、彼女が帰った後、僕はまたベランダで煙草を吸う。程なくして、携帯が鳴る。妻からだ。
 ごめん、昔のアルバムを見ていたら話が弾んじゃって。そして妻が三叉路から現れる。影ではなく、朝の光と共に。
 ただいまとにっこり笑って。
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□名無しさんからの批評 (2003/12/11 15:57) フォント
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妻の不在に愛人を呼び、一晩過ごす。発想を面白いと思う反面、外で会うのではなくなぜわざわざ愛人を家に呼ぶ危険を冒す必要があるのか、理解出来なかった。スリルを味わいたいのかホテル代が惜しいのか、家庭を壊したい願望が根っこにあるのか……そこまできちんと書き込まれていたら感情移入も出来たかも。
□名無しさんからの批評 (2003/12/12 09:16) フォント
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主人公はとても妻を愛しているんでしょうね。この金曜の夜にやってくる影は、実は寂しさを紛らすための主人公の妄想というか、一人の夜でも楽しくすごそうとしている努力の象徴的なものかなと思いました。
そうでないとすると、主人公に都合が良すぎて現実味がないですね。結局どちらなのかは読者にゆだねると言うことなのかな…
□名無しさんからの批評 (2003/12/12 22:30) フォント
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うむ、私は結末で「実は妻も実家などに帰っていないで不倫をしていた!」となるのかなあ?と期待して(おい!)ましたが、逢瀬を重ねるのは主人公とその愛人でしたか!(つかセックスだけぇ?)どうもこういう文を読むとミノモンタの顔が……(ごめんなさい)
閑話休題、妻か愛人、そのどちらかの描写を書き込むと文が締まると思います。
あ、金曜の夜の終電後だとホテル空いてないでしょう(おい!)
次回作、楽しみにしています。
□名無しさんからの批評 (2003/12/12 23:29) フォント
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本当に妻は実家に帰っているのか? という含みを持たせつつ……というのはいい感じです。通い彼女みたいなことを妻もしている、という含みを持たせての「影」という意図なら、もう一押し表現力のある一文を加えてほしかったです。
□匿名さんからの批評 (2003/12/13 01:25) フォント
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面白いと思いながら、何か違和感。妻の理由付けは、やましさからとすれば、朝の光はちょっとちがうような。
本当に、朝の光のような妻とすれば、影の女が非現実的なような。二つのアイディアがまざってしまったきがします。
二つの話を、面白くかけそうに思います。次回作に期待。
□名無しさんからの批評 (2003/12/13 05:02) フォント
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濡れ場はあっても見せ場がない。
いつか絶対に壊れる関係を完結させる事無く放り出したのは不満。
読者の想像に任せるためにしては影が生々しすぎる。
□名無しさんからの批評 (2003/12/14 00:21) フォント
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 まず主人公の年齢などが不鮮明な気がします。冒頭で「僕」と言っているのでかなり若いのかと思って読み進めていくと、かなり年齢が言っているように思えます。
 全体として理由が見えない部分が多いです。まず「何故、愛人が影なのか」を読者に納得させる部分がありません。また、人通りがないから問いって窓を開けてセックスしている意味は何でしょう?もちろん、何でもかんでも説明しろという意味ではありません。しかし、その意味を隠すのなら、それを隠す理由が必要でしょう。自分でも理由がわからないなら隠したのではなく、ごまかしたですね。
 それにしても毎週来て男性の性欲だけ満たさせて帰っていく都合のいい女ってなんか嫌だな。
□名無しさんからの批評 (2003/12/14 17:44) フォント
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そういう作風なんだとは思いますが、あらすじを読んでいるような説明的淡白さを感じた。彼女の存在が不可解。「愛してる」の言葉が浮いている。
□水夫さんからの批評 (2003/12/16 16:58) フォント
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落ちもなくドラマもない。文章で読ませるには力不足。もうすこし、こう。
□水夫さんからの批評 (2003/12/16 16:58) フォント
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落ちもなくドラマもない。文章で読ませるには力不足。もうすこし、こう。
□名は無いさんからの批評 (2003/12/17 03:25) フォント
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面白かったです。欲を言うなら、もう少し表現を絞って全体を軽くできれば、もっと私好みになるのですが、ちとそれは贅沢ですね。
□む。さんからの批評 (2003/12/18 13:00) フォント
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妻が毎週金曜日には実家に帰る、という状況が理解できません。幸せな家庭なのに何で? というか、夫はそれでいいと思っているのか? というか。
実は、妻は実家に帰っているのではなく、影=妻 なのかなぁとも考えてみましたが、その場合、妻は敢えて二役を演じているのか、妻の中に二人いるのかが謎ですが。
それとも影は、実家に帰ると嘘をついて出かけてしまう妻がいない寂しさを紛らわすための、旦那の想像の産物なのでしょうか。
不自然な妻の行動の理由、影の女は結局何なのか、どちらかがもう少し描かれているとよかったと思います。
淡々とした情景描写と雰囲気は、個人的には好きです。
□セツナビトさんからの批評 (2003/12/18 17:14) フォント
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な、なんだかやたらと主人公の男はイイ思いをしてますね。しかしマンションの3階に住んでいて窓開けっ放しでセックスして、近所の方々にはバレないんでしょうか? 毎週毎週実家に帰っているのであれば、「奥さんは金曜日にはいない」って周知の事実になっていそうですが。いくらなんでも奔放すぎるかと。

あと奥さんが毎週金曜日に実家に帰るということに対して説明が少ないような。結構特殊な習慣のような気がしますが。一緒に帰るならともかく(これだと話の本筋から外れてしまいますが)。そしてそのやり取りがお互い妙によそよそしくて、なんとなーく夫婦仲がうまくいっていないような印象を受けました。それが顕在化する一歩手前みたいな。

文章自体は特に引っかかりも無く読めました。淡々とした描写が、適度な軽さを持たせていていいと思います。次回作に期待しています。がんばってください。
□愛さんからの批評 (2003/12/20 00:30) フォント
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おもしろい設定で、先が読みたいなと思わされました。
が、先に何も無かった感じ。。。
全体的に情景描写に留まってしまって、話として何をいいたいのかが伝わってこなかったです。
夫の奔放な振る舞いが描きたかったのか、妻の不可解な行動の裏を読ませたいのか、影の女の悲しさを感じさせたいのか、良く解らないまま終わってしまった気がします。
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