「消しゴムラジコン」
柑橘
 ここ数年、俺は人生における失敗をなかったことにして生きてきた。今も失敗の一つを消すところだ。開けた河岸まで車を走らせ、トランクに積んだプラスチックのケースからラジコンを一機取り出す。数年前に購入した、真っ白な機体のラジコン飛行機だ。

「こいつはな、飛ばすだけで自分と相手との関わりを消してくれるものだ」
 寂れた問屋街の一角で、ちびた煙草を咥えた親父が言った。「相手は人間でも物でも何でもいい。相手を強く思い浮かべてラジコンを飛ばす、これだけだ。簡単なもんだろ」
 その時の俺は、仕事でミスを犯し散々上司に叱られた後だった。ミスの原因となった取引先と俺との関わりをないことに出来たらどうなるだろう、とふと思い付いた俺はそいつを買った。問屋街を後にした足で自宅近くの河岸に向かい、取引先のふてぶてしい親父の顔を思い出しながらラジコンを飛ばした。翌日、会社に行くと俺のしでかしたミスはなかったことになっていた。いや、俺と取引先の関係が最初からないことになっていた。
 これ以降、俺は何かしでかす度にラジコンを飛ばしてきた。

 トランクに視線を落とすと、恨みがましく俺を見つめる女の顔が見える。どす黒い血の塊が髪の毛にくっ付いている。ずっと俺に付きまとっていた女だった。昨晩、「別れるぐらいなら死んでやる」と駐車場で口論になった。死ねるものなら死ねと車を勢いよく発進させた際に、女を轢いた。俺は勢いに任せ何回も女を轢いた。女は死んだ。死体の処分に困った俺は、それをトランクに無理やり押し込んだ。人目がなかったのが幸いだった。
 これから俺は、この女との関わりを消すためにラジコンを飛ばす。俺の人生に落ちる影をこの白い機体が綺麗さっぱり消してくれるのだ。
 俺がラジコンを飛ばし始めると、河岸で遊んでいたガキが白い機体に向かって石を投げ始めた。クソガキが! 石を避けるようにして操縦をするが、すぐにラジコンは墜落した。カッとなった俺はガキの一人を捕まえ、思いっきり首を絞めた。しばらく暴れていたガキは、やがておとなしくなった。抵抗しなくなったガキを放り出し、浅瀬に墜落したラジコンを拾い車に乗り込んだ。白い機体は尾翼が折れ、モーターが回らなかった。早急に直さなければと玩具店をいくつか回ってみたが、すぐには直せないと軽くあしらわれた。
 イライラしながら自宅のあるマンションまで戻ってくると、そこには既にパトカーが待ち構えていた。赤色灯が嘲笑うかのごとく瞬いている。俺は腹立ち紛れに、助手席に鎮座する白い機体を力いっぱいドアに向かって投げつけた。
著作権について
 
 
□名無しさんからの批評 (2003/12/12 10:04) フォント
発想
構成
表現
総合
上手く書けていると思いますし、人生の汚点=影という発想も面白いし、なによりタイトルがとても魅力的でした。…が、何か違和感が。
初めのほうは、そんなラジコン欲しいもんだねというようなほほえましい雰囲気すらあるだけに、急に主人公が凶悪になるのについて行けません。女は、揉み合った末に偶然殺してしまったとして、主人公に罪の意識を持たせるくらいのほうが良かったかもしれません。それを無かったことにしようという気持ちが狂気へと駆り立てる…という感じで。そうしないと、あまりに突然の展開に読者がついて行けないんじゃないかと。私がついて行けてなかっただけかもしれませんが。
□名無しさんからの批評 (2003/12/12 18:05) フォント
発想
構成
表現
総合
最初に思ったのは、なぜラジコンなのか、という点です。何も関係を消すためのアイテムはラジコンでなくても良いはずで、その必然性が感じられませんでした。もっと、アイテムを熟考したほうがよろしいかな、と。

また、「影」というお題に関して、使い方が弱いかな、とも思いました。人生に落ちる影、というくだりがピンとこなかったせいかもしれません。影を落とす、なら分かるんですが、影が落ちるとはあまり言わない気がします。陰るとは言いますが。(以上は勉強不足でしたら申し訳ありません)

「クソガキが!」は良かったです。主人公の気持ちが素直に出ている、良い部分だと思います。ただ、全体的に言葉足らずな感じがしてしょうがありません。
□名無しさんからの批評 (2003/12/13 00:56) フォント
発想
構成
表現
総合
発想はいいです。でも、ラジコンである必然性がいまいち見つかりませんでした。しかも操縦の難しい飛行機とは……。
タイトルにわざわざ「消しゴム」と入れるのは説明しすぎだと思います。消すのに「消しゴム」というモノをわざわざいうには、本文中での説明不足とも捉えてしまいます。
□名無しさんからの批評 (2003/12/13 08:30) フォント
発想
構成
表現
総合
辛い現実から逃れられる便利な道具がある、それがエスカレートして猟奇的な展開へ。
こういうダークな話、好きです。
□名無しさんからの批評 (2003/12/14 01:11) フォント
発想
構成
表現
総合
 前半は説明的すぎて文章に美しさがない。そのために後半の文章の流れ方、スピード感とあいだで違和感が生まれ、別々の話を無理に次いだように思えてしまう。もう少し徐々に盛り上げるか、緩急をつけるかした方がよい。
□名無しさんからの批評 (2003/12/14 05:03) フォント
発想
構成
表現
総合
実際のラジコン飛行機は飛ばせるようになるまで、かなり時間がかかるんですよねぇ。(評者は元ラジコンマニアらしい)幾らお金を捨てたか(とほほ)
まぁ、私の与太は置いておいて、この作品はタイトルが先か、プロットが先か?というのが気になります。「消しゴムラジコン」というタイトルを某「どこでもドアぁ」とかにだぶらせて読み進めて、オチのあたりには某「せえるすまん」が浮かんでしまったので、ちとそのヘンが気になるかなあ。でも、それはタイトルだけをもう一ひねりするだけで、解決する問題で、全体的にはよく書けてると思います。「ダーーー!!」
ゴメンナサイ。
なんだか、暴言みたいですが、要はタイトルだけで損してるかなあと。
次回作、期待してます。
□水夫さんからの批評 (2003/12/16 17:28) フォント
発想
構成
表現
総合
変形の独裁スイッチ(ドラえもん)ですか。うーん、露骨な本歌取りをするならもっと面白くないといけません。
□名は無いさんからの批評 (2003/12/17 02:55) フォント
発想
構成
表現
総合
ただ落ちていく人生ですね。ラジコンに頼りすぎたが故の短絡思考人間の末路ですか。

アイディア勝負のお話なのでこういったことを言うのは的外れなのかもしれませんが、キャラクターが書ききれていないように感じました。女にしても、ガキにしても、どうにもマネキンのようです。私の想像力がかけているせいかもしれませんが。
□名無しさんからの批評 (2003/12/19 03:07) フォント
発想
構成
表現
総合
ブラックドラえもんという言葉が浮かびました。
便利な道具のせいで心のどこかが麻痺していく主人公がいい感じかと。

ただ、最後のほうにある「ドアに向かって」ってどこのドアなのかちょっと分かりませんでした。
自分の車のドアなのか、パトカーのドアなのか、それとも自宅のドアなのか。
□セツナビトさんからの批評 (2003/12/21 09:19) フォント
発想
構成
表現
総合
取引先との関係がなくなるって、「俺」だけじゃなくて会社全体でないと違和感がありますよね。人との関わりって、そんなに簡単に切れるもんじゃないですよね? 必ずどっかに矛盾とか違和感が生まれて混乱しそう。
と最初に思いました。そういうことを考えて読む話ではないのでしょうが。アイディアはいいと思います。ただしそれに描写が追いついていないように感じました。上のような印象を受けたからでしょうか。

次に、主人公はともかく轢かれた女や子供がまるでモノのように感じました。他の方が書かれているように、マネキンのように。どうせならトランクは閉まったままで「この中には〜」としたり、子供は走ってどこかに逃げてしまった方がまだよかったように思います。

あとは、「親父」を二人の人物に使っていること、期待を投げつけたドアはどのドアだったのか、といったところが引っかかりました。場面が変わるときの状況の描写が足りないことと、全体的に文が硬いのも気になります。その辺りが改善されれば、もっといい作品が出来ると思います。がんばってください。
□愛さんからの批評 (2003/12/27 02:43) フォント
発想
構成
表現
総合
 アイデアと前半の展開はとても素晴らしいなと思いました。
 その分もあって、中盤の展開から最後の段落が、ちょっと雑に見えてしまいました。
 クソガキのところは面白かったですが。
←目次へ
2style.net