「彼女の見えない僕」
古森はな
 冬はつとめて。
 昔の人は冬の早朝をいとおしんだらしい。ただ、寒くしびれるだけの、暗い朝のことを。
 たとえ朝日は昇っても、この時期のそれは僕にとって鋭利な刃物だ。冷たく光り、切り裂ために刃を立てて襲ってくる。
 冬至に近い今頃は、下車駅手前のポイントで、ビルの隙間から昇り始めた太陽が射す。電車の揺れと目の眩みで、思わずバランスを崩してしまった。満員電車から降りる人たちに押しのけられながらも、押されるままに吐き出され、何とかホームに降りる。
 無言だが無音ではないこの喧騒は、ラッシュ時の、いつもと同じ光景だった。
 改札を抜け、駅前のターミナルに出ると、高い建物の隙間からと反射による陽光で眩しかった。白すぎて何も見えない。人の黒波だけが目の前を行過ぎていく。そして、僕もその中に紛れ込んでいく。
 流れに乗ってこの先の道を左折すると、勤務先の入居している雑居ビルのある通りなのだが、ここ数日、その道に出るのは非常に気を重くすることになっている。
 今朝もいるのだろうか……と、足取りまで重くなり、胸の奥を闇にする。小さいため息を吐くけれども、誰も気に留めない。僕も足を緩めることなく、人波に合わせていく。波間の人々は、僕を含めて誰しもまったく同じなのだ。
「おはようございます」
 やはりいつもと同じようにいた。明るい笑顔でティッシュを配る女の子だ。
 僕にとって彼女は、今朝の太陽よりも眩しい。そして、突き刺されたように、痛い。
 奥歯をかみ締めて、その痛みに耐えると、わけもなく苦い。でも、ここで立ち止まることも引き返すことも、そして彼女を超えないわけにもいかない。
「いってらっしゃい」
 僕にティッシュを差し出してきた。何とか無理やり笑ってみて、受け取った手を軽く上げる。
 それでも彼女の顔は見ない。いや、見ることなどとてもできない。
 輝き澄んだ笑顔に対応しきれないうえ、明るく朗らかな彼女への後ろ黒い嫉妬が心奥に渦巻く。ちらりと視界に掠めた煌めくそれは、一際輝いていた。こんな僕の心内を、彼女はきっと気づいていない。
 人波は彼女を無視して流れ続けていたけれども、僕には無視できなかった。
 無視しているように見えるけれども、僕と同じくできない人もいるのだろうか。
 彼女から遠ざかるごとに、この思いは薄れていった。ようやく自分を落ち着かせる。そして、再び町の雑踏へ身を投じていった。
 光から遠ざかり、僕の影は薄れていく。
 それから僕は、次の季節を待ち望んだ。
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□小泉純一郎さんからの批評 (2003/12/11 14:35) フォント
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良い言い回しが幾つか見られました。例えば「無言だが無音ではない」、「白すぎて何も見えない」、「そして、突き刺されたように、痛い」等。ただ中核になるアイデアが無いのは残念です。根暗な男がかわいい女の子に思いがあるというだけでは、いくら原稿用紙三枚といえど内容不足でしょう。繰り返すだけの情景や心理描写を削れば詰め込む余地がると思います。

あと無駄な改行があるようです。特にインパクトの有る一行が次に来ないのなら、そのまま改行無しで進んでいいと思います。
□名無しさんからの批評 (2003/12/12 09:55) フォント
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画が思い浮かびそうな表現がとても上手いと思いました。が、その分、心情を上手く書けていないと感じる部分が多々ありました。その格差が激しくて、「あれあれっ?」と戸惑いながら読んでしまいました。主人公の気持ちは何となくわかるのですが、言い足りていないような。もう少し説明しても良いような。
あと、改行が多くて読みにくいのも気になりました。
□匿名さんからの批評 (2003/12/13 01:48) フォント
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明るい彼女への思いが、後ろ黒い嫉妬?というあたりは、実は良く分かりませんでした。
表現を花にしたのは、話には入り込めたからです。
改行について苦言があるようですが、1200字を20字で改行し、一文字のはみ出しも一行20文字に数えるルールをおもうと、大事な改行だったかとおもいました。(投稿後この形になると、全く違った印象をうけますね。いやに改行後の余白が、言葉は悪いですけれど間抜けた感じに見えてしまうのは、著者の予定外だと思います)
□名無しさんからの批評 (2003/12/13 08:54) フォント
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自覚している若い根暗の日常ですね。これも一つの青春でしょうか。暗いけど。
しかしそのネタにした時点でインパクトが必欠する気がします。表現も綺麗で流れに難はないんですが。
□名無しさんからの批評 (2003/12/13 16:48) フォント
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あまりにも何もなさすぎ。読者に何を感じて欲しかったのだろうか。とにかく雑踏の中に消えてく人としか印象がない。
でも、表現はよかった。
□名無しさんからの批評 (2003/12/13 18:08) フォント
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話に何もなさ過ぎです。「だからなに?」という印象しか残らない。
改行の多さも気になりますが、それ以上に句読点の多さが気になりました。それで相当読みにくいです。
□名無しさんからの批評 (2003/12/14 01:19) フォント
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 表現にもちいる言葉それぞれは美しいが、それに具体性がないため描写された物事が読み手に迫ってこない。言葉に飲み込まれて描写を忘れたように思える。
 物語もそれに準じ、言葉は流れていくが何も見えてこない。
□名無しさんからの批評 (2003/12/14 05:15) フォント
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表現だけ花にしたのは将来性がありそうな予感がしたから。直感で。
しかし評は辛口で行きます。ティッシュ配りの女性はこの作品の主役であるはずで、読者としてはその女性の姿の描写等が加われば、判り易くなるかと。古典文からの引用は不要かと。ほかにも不要な部分もあるかと。アー、なんだかいやみっぽい辛口ですがそれは私がティッシュ配りの時に一言「4つ」とかいうオオ莫迦モノだからです。許してください。次回作、期待してます。どこに才能があるか、まだ見えないんで。
□名無しさんからの批評 (2003/12/15 00:58) フォント
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表現方法が良いと思いました。ただ、自然に出てくるような感じではなく、ちとしつこい部分もあるので、長所を上手く活かして、次回の作品に生かしてください。期待しています。

ティッシュ配りの女性の露出もこれくらいでいいのでしょう。絶妙な出し方というか、細やかなさりげなさというか。

ただ、最後の2文はいらない気がします。影という課題に縛られたのでしょうか。もうちょっと考えれば、もっと効果的にこの単語を出せる気がしますし、それに最後の1文はあまり意味が分かりません。と、いいますか、〆の言葉になってないと感じました。
□水夫さんからの批評 (2003/12/16 17:34) フォント
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あれこれ見られるレトリック。それを完膚無きまでに無視して発生する嫉妬心。中途半端。

ティッシュ配りの彼女と彼氏らしき人物の会合を見たんじゃないか、といった想像をさせることが著者の目的なのかなあ。それとも彼女が明るいだけで許せないってこと?

よく分からないな。
□名は無いさんからの批評 (2003/12/17 02:47) フォント
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アコムのCMを思い出してしまいました。一瞬恋の話かなとも思いましたが、純粋に光に当てられた影の心情なのかな。
粗捜ししているみたいで申し訳ないのですが、八段落目の最後「――その道に出るのは非常に気を重くすることになっている。」という表現が何だか浮いて感じられました。ここだけ何だか預言者みたいな語りになっている気がして。
□セツナビトさんからの批評 (2003/12/21 10:38) フォント
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やっぱり朝の光景といったらこれでしょうね。時たまオバチャンとかが混ざってますけど……特に冬は、私は風邪が鼻に来るほうなのでよくもらってます。いえで箱ティッシュがなくなったときにも役に立ちますしね。

……関係ない話ばかりですね。そろそろ本題に入ります。

前半の情景描写が素晴らしく、また面白い言い回しがいくつもありました。特に「無言だが無音ではない」にはやられました。ただ遠回りだったりくどい描写や言い回しの方がそれより多かったです。特に後半。もう少し描写を簡略化した方が読者にも伝わりやすいのではないでしょうか。

あと、やっぱり盛り上がりに欠けています。はっきり言って印象にあまり残りません。描写が多いから1200埋まった、という感じもします。やはり描写を削減して、彼女とのやり取りなどの事件を入れたほうがいいと思います。

描写する力は高いと思います。筆を押さえ気味に書いていけば、もっと面白い言い回しが生まれるのではないかと期待しています。これからもがんばってください。
□む。さんからの批評 (2003/12/22 12:35) フォント
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駅前でティッシュ配ってる人、私は苦手です。ティッシュをもらうタイミングを計るのが難しい。

閑話休題。
表現が冗長すぎじゃないかと思いつつ、でも雰囲気作りには一役買っていますね。
漠然とした羨望と嫉妬、他人に対する悪意を理由もなく抱けるのか。ティッシュを配る女性が、主人公のコンプレックスを強く意識させるのか。いろいろ考えた結果、主人公は根暗で他人を羨み、妬むだけの甲斐性なし、という結論にたどり着きました。すみません、よくわかりませんでした。
ラスト二文はない方がいいと思いました。上手く落ちてませんし。
□名無しさんからの批評 (2003/12/23 19:02) フォント
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一文一文が丁寧に書かれている印象で、表現も光っているなと思いましたが、皆さんが書かれているように内容が薄く、ふーんで終わってしまい、もったいないなぁと。
□愛さんからの批評 (2003/12/27 02:48) フォント
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 情景の描写がとてもしっかりとしていて、いいなあと思いました。
 ティッシュ配りの女の子、という題材もいいなあと思います。
 男の感情がもうひとつしっかりとしたメッセージを伝えてくれると、読後感がかわってくるかなあと思います。ふーん、で終わってしまっては勿体無いです。
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