「引き立てる」
咲田
 アキは、アネモネのような女だった。
 美人ではないけれど華がある。昔から、男の子の人気も高かった。男心を惹きつけるコツを心得ているのだ。反面、友達はころころと入れ替わった。気性の激しい彼女に合わせられる人は、そう多くはない。学生の頃から付き合いを続けているのは、今ではもう、わたしくらいだと思う。

 アキに対して、わたしはつまらない女である。どこにでもいる平凡な女だ。アキのように、体のラインを強調した服も着ないし、自分から男の人に声をかけたりもしない。
「アキと一緒にいると、あなた、彼女の引き立て役になっちゃうんじゃない?」
そんな心配をする人もいるけれど、放っておいて欲しい。わたしは、彼女のそばにいたいのだ。

 アキは、彼氏が出来ると必ずわたしに報告してくれる。今度の男は真治と言うそうだ。父親の経営する、中堅の製薬会社で働く29歳。バツイチ。子供なし。
「シン君たらね、もう、わたしにめろめろなのよ。うふふ」
「ケンちゃんのことは、もういいの?」
 電話の向こうで、アキが少しだけ息を飲むのがわかった。ケンちゃんというのはアキの元彼で、三ヶ月ほど前に別れを告げられたのだ。理由は、“好きな子が出来たから”だった。アキは、二重まぶたの大きな瞳に涙をためて、その経緯を事細かに聞かせてくれた。どんなにケンちゃんを愛していたか。もう、こんなふうには人を愛せない、云々。
 アキの恋愛のパターンはいつも同じだ。告白される。付き合う。相手に好きな子ができる。そして、おしまい。
「ケンちゃんのこと、ふっきれてよかったね。やっと次の恋に向かう気になれたんだね」
ぜひ一度彼氏に会ってほしいというので、待ち合わせの時間と場所を決めて電話を切った。

 電話を切って振り返る。
「アキに新しい彼氏が出来たんだって」
男の右手が、すうっとうなじに伸びてくる。
「おれは、おまえみたいな、地味でも癒される女の方がいいよ」
そう言うとケンちゃんは、ふわりとわたしを抱きよせた。降りていくケンちゃんの腕に身を任せながら、わたしは真治という新しい男に思いをはせる。バツイチっていうのが気に食わないけど、社長の息子なら付き合ってみて損はないだろう。
 今度もまた、アキはちゃんとわたしを引き立ててくれるだろうか?


 光は、影を引き立てる。
 アキがいてくれないと、わたしは困るのだ。
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□匿名さんからの批評 (2003/12/11 20:56) フォント
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一度目さらりと読んで面白かったけど、なぜかひっかかり、よみなおしました。
アキのほうが、振られるというのが大事な伏線だというのはわかるのだけど、男心をつかむのがうまいアキに、一途に愛されてなぜふるのか?アキがもっといやな女に書かれていて、私の地味な優しさとか、けなげさが
かかれてあれば、最後の落ちがきいてくるのでは?
アキは振られるから次々男をゲットするのはあたりまえだとおもうのですが。同じ割合で私も男をかえてるってことですよね。私も、同じタイミングで、男を振っていかなくてはいけない・・・無理があるような。
ん〜、落ちが面白いだけに、残念。次回作に期待。
□名無しさんからの批評 (2003/12/12 09:45) フォント
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地味に見せかけてあざとい女、ですね。
でも、自分で「わたしはつまらない女」と言いきるような主人公には、何の魅力も感じません。癒し系という印象もなかったので、「地味でも癒される女の方がいい」というセリフも唐突に感じました。いくら気性の激しい美人に疲れたからといって、男は何の魅力もない女には乗り換えません(世の中に女がその二人しかいないなら別ですが)。
主人公も恋愛をしたいというよりは、結局アキの男を横取りするのが楽しいだけの性格悪女だと思いますし、それならひとつでも良いから男が乗り換えてしまう魅力(料理がすごく上手いとか、おっぱいだけは大きいとか)を設定してあげたら、すんなり入り込めるのではないかと思います。
□名無しさんからの批評 (2003/12/12 22:01) フォント
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うーん。
アキに関してはきちんと描写されていてイメージがすんなり浮かんでくるものの、主人公のキャラクターがアキに対して弱く、「地味でつまらない女」と自分で言い切る割りに、自信家でもある様子。
その自信がどこから来るのか、「光は影を引き立てる」という一文だけでは伝わって来なかった。
□名無しさんからの批評 (2003/12/13 01:06) フォント
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話としてうまく影を引き立てているのはいい感じです。でも、ラストの二行はいらないです。作中内でコレはもう十分に伝わっていることですから。
それくらい話(文章)のうまさがあると思います。
ありきたりの発想を完成度高めにうまくまとめきっている感じでした。
□名無しさんからの批評 (2003/12/13 09:05) フォント
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結論が一番納得出来た。
中身のない女アキとそれを知っていて利用する性悪女。場面転換もシュールでよかです。
□郵一郎さんからの批評 (2003/12/13 23:34) フォント
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自分を卑下して評価するところや、「そして、おしまい」などの機械的な表現から、彼女の冷めた性格、そして物的な感覚でアキを利用していることがうかがえて面白いと思いました。

彼女を利用しつつも、彼女無しでは己を誇示できない依存の関係を、影を使って例えるのは素直にすごいと思いました。
□名無しさんからの批評 (2003/12/14 05:26) フォント
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うーーむ。男は消耗品だから、このくらいでサバサバしていいのかなあ。恋のお話だとしてもなぁ、消耗品である男の中古だとなあ。環境問題的にはリサイクルってのもいいのか。愛のお話にはならないかと。まぁ、所詮人生なんてそんなもんか?
あ、感想かいちゃった。ゴメンナサイ
うむ、時間差三角関係の恋?ごめんなさい、ごめんなさい。
□水夫さんからの批評 (2003/12/16 17:42) フォント
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清く正しくショートショート。良くできてます。
□名は無いさんからの批評 (2003/12/17 02:35) フォント
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ズルイ女ですね主人公さん。しかし、そんなとっかえひっかえ大変だろうなぁ、などと勝手に思うのでした。もてない人間のひがみです。

話は読んでいる途中でオチが想像できてしまったので、話の流れに一工夫入れるとよいと思います。最後の段落を削って、主人公とアキの関係を深く掘り下げても良いかなぁ。
□名無しさんからの批評 (2003/12/21 05:34) フォント
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女は食虫植物だ。と改めて思わせられる作品でした。と、個人的な感想は置いておいて、大事な批評のほうを……

この批評文の様に、いきなり「〜〜だ」と持ってくる場合と、この作品のように「〜〜だった」では受ける感じが違います。ただ、この作品のようなオチがある場合はどうでしょう……。伏線と感じるかどうかは読者次第でしょう。私は伏線関係なしに「だ」で言い切った方がインパクトがあって、惹きつけられる文になるので、こちらをお勧めします。

あと、ストーリで言わせてもらうと、アキの失恋に主人公がどんなに親身になって慰めてあげたか、また、悩みを聞いてあげたかが書いてあれば、もっと性悪な部分が覗けて良いです。実際、こういう女こそ親切で、リアル感が増します。

最後に、非常に上手いです。次回作、期待しております。
□名無しさんからの批評 (2003/12/22 18:50) フォント
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怖い話だけど、読み心地が良かったです。文章に無理がないというか、とても読みやすかったです。話自体に新しさはないけれど、どっちも「いるいる」と思わせる女だと思うので、その辺のリアリティが女の怖さや不気味さを、より一層引き立てていました。
次回も楽しみにしています。
□セツナビトさんからの批評 (2003/12/22 23:40) フォント
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いやー、怖いですね。いやはや恐ろしい。でも実在するんでしょう、こういったタイプの女性は。

まず自分のことをつまらないと言う人間はたいていそうは思っていないものですよね。のちに出てくる主人公の行動への伏線なのかな、と思いましたが、少し違和感を感じました。

どうもオチの部分にあっさり入りすぎて、インパクトが弱いように感じました。電話を切るときにニヤリと笑わせてみたり、なにか主人公の黒い面を垣間見せた方がよかったような気がします。

しかし、主人公とアキの関係がうまく出来ていると思いました。華がある女と地味な女、中身の無い女と癒される(中身があるということでしょうか)女。「今度もまた〜」のくだりがよく効いています。個人的には最後の2行を無くして、空白の行のあとにこのくだりを持ってきたほうがよかったと思いました。

短編として綺麗にまとまっています。文章力が非常に高い方ですね。次回作も期待しています。この調子でがんばってください。
□名無しさんからの批評 (2003/12/27 09:04) フォント
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 登場人物のイメージが浮かんできません。二人の女性の内面的な部分だけでなく、外見的な対比もきっちり感じさせてほしく思います。
 蛇足ですけどストーリーで気になったことが。結局、「わたし」の彼はアキのお下がりばかりということなんですよね。アキにたいして嫉妬があって奪っている? それともアキに飽きた男につまみ食いされてるだけ?
 そこをハッキリさせるべきかと。
□愛さんからの批評 (2003/12/28 13:26) フォント
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光と影の逆転、という話の筋は楽しめました。でもやはり光と影の対称性が薄いかなと感じました。
もう少し、それぞれにドキッとする描写があるといいかな、と思います。
いつもお下がりで満足している女って、とっても不気味でいいですね。
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