「幻影」
U-1
夏の、とてもとても暑い日のことだった、ぼくは庭に出て遊んでいた。手に持った飛行機を飛ばして走り回っていたとき、お姉ちゃんが家の中からやってきた。僕はおねえちゃんが一緒に遊んでくれるのだと思い、とても喜んだ。
「下を見て御覧なさい。」
微笑みながらおねえちゃんは言った。下を見ると、硬い道路にぼくの影が濃く映っていた。
「その影をじっと見ていなさい。私がいいよって言うまで目を動かしたらだめだからね。」
ぼくはおねえちゃんの言うとおり、瞬きもせず、じっと自分の影を見ていた。おねえちゃんは嘘をついたことなんてなかったから。

どれくらい経っただろうか。
「もういいわよ。お空を見上げてみて。」
おねえちゃんの嬉しそうな声を聞いて、ぼくはゆっくりと見上げた。真っ青で、雲ひとつない、どこまでも続いている夏の空に、ぼくが浮かんでいた。さっきまで道路の上に映っていたぼくの影はそのまま大空へと飛び立った。目を動かすと、それに置いていかれないように、「ぼく」は必死になって空を飛び回っているようだった。ぼくは少しずつ薄くなっていく「ぼく」を飽きることなく見続けていた。面白くって、うれしくって。
「ぼく」が消えた後、今度は両手を広げた影をじっと見た。見上げると本当に飛んでいるように見えた。両の手という名の翼を広げ、夏の風を受けて、ぼくはいつまでも空を舞っていた。いつまでもいつまでも、ぼくは夏の空とひとつになっていた


はずだった。幼き日の僕は飛べ、た。軽やかに、美しく、自由に飛び回っていた。なのに、なのにどうして僕は今、無様に地面で這いつくばっているのか。さまざまな重圧に押しつぶされ、逃げることも立ち向かうことも出来ずに、多くの犠牲とともにただ赤い血と、茶色い涙と、黒い心を流して。もう飛ぶことは出来ない。
・・・簡単に「無理」と言えるようになった日、自分を見限った日、かりそめの絶望に打ちひしがれた日、そして夢を忘れた日。それらの積み重ねが今の僕となっているのだろう。後悔の念だけがぼくの心を苛んでいた。

むかしは、あんなにも、かるかったからだが、どうして、いまは、こんなにも。
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□名無しさんからの批評 (2003/12/11 00:53) フォント
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前半、回想部分はとても良かったのですが、「はずだった」以降が残念。
夢多き少年時代から大人になる時、誰でもある種の壁とそれに対する諦めというのは経験することで、当たり前のことを当たり前の言葉で書いてしまっているために、前半のエピソードが活かせていないのではないかと思います。
もう一捻りでぐっと良くなると思います。次回期待します。
□名は無いさんからの批評 (2003/12/11 02:24) フォント
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影遊び、私もやりました。お化けみたいですよねあれって。

小説というよりは詩のように感じました。欠点としてあげるなら、世界が構成されきれていないという気がします。最後の二つの段落は場面が想像しきれませんでした。
□名無しさんからの批評 (2003/12/12 20:57) フォント
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情景や感情の表現がいいと思います。印象に残るのももちろんですが、わかりやすく、読みやすいと思いました。
ただ、後半部分がただの「オチ」で終わっている気がしました。主人公の感情描写だけでなく、何かエピソードのようなものを交えた方が良かったと思います。
□郵一郎さんからの批評 (2003/12/12 21:58) フォント
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突然トーンが落ちる後半が説明不足だと思います。多くの犠牲、赤い血から伝わる狂気が放り出されたままという印象を抱きました。
□名無しさんからの批評 (2003/12/13 00:47) フォント
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影送りで空に映った影で空を飛んでいるという表現は印象的でした。
それと対極にある後半は、具体的な事例が無かったせいか、重さを伝えるにはパンチ不足です。

改行後の字下げ、「・・・」は「……」。
□む。さんからの批評 (2003/12/15 12:45) フォント
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前半がよかった分、後半が惜しいなぁという感じです。前半と後半の落差が上手く利用できていないと思います。
前半部分は、幼い子供の無邪気さが前面に押し出されており、子供の視点から見た世界がよく伝わってきました。
後半部分から、この物語の主人公はすでに成人しており、何らかの事情で人生のどん底を這いずっているような印象を受けました。そのような境遇の主人公が、昔を思い出して現状の荒み具合に嘆いているのだろうか、と思いつつ。後半をぼかした心情の吐露に終始したのは意図的だと思いますが、抽象的過ぎてインパクトがありませんでした。
(「おねえちゃん」と何かあったのだろうか、と深読みしてみましたが、しっくりくるストーリーが補完できませんでした)
□名無しさんからの批評 (2003/12/16 02:59) フォント
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なかなか効果的な回想だと思いました。しかし、それと比べるはずの現状がどうなのか今一ハッキリしなかったのが残念。
□水夫さんからの批評 (2003/12/16 18:14) フォント
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後半が弱い。
前半を受けきるエピソードを作るのは難しいとは思うけど、何とか。
□名無しさんからの批評 (2003/12/17 08:13) フォント
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図的であるはずの『ぼく』と『僕』の使い分け、また、ひらがなだけの最後の文とか、そのヘンが理解できず、 困ってしまいました。どうしよう?最後の文はなくても完結してるかにも思え。
□名無しさんからの批評 (2003/12/17 08:15) フォント
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↑【訂正】 (誤)図的→(正)意図的
□名無しさんからの批評 (2003/12/18 14:05) フォント
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『簡単に「無理」と言えるようになった日〜』の説明が軽い。
字下げしてないので読みにくい。
□名無しさんからの批評 (2003/12/19 22:33) フォント
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最初の回想が効果的だった分、現在の部分がどこか物足りないかな、と思います。
書く力はあるように感じるので、どこかもう少し努力すれば、もっと良くなると思います。
最後の一文は良いですね。
好きです。
□名無しさんからの批評 (2003/12/21 04:26) フォント
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わざとらしい、しっくりこない表現が多々あったのですが、前半の描写に関しては及第点だと思います。影法師の浮かぶ姿を見る「ぼく」の幼心がしっかりと捉えられてると思います。

ですが、後半が唐突すぎると思うのです。同じ影法師の作品がありましたが、それよりも展開が唐突な気がして、少し読者が遅れ気味になってしまいます。

最後の1文は好みによるのでしょうが、私はいらないと思います。確かに、地の文では締りに欠ける気がしますが、それでも、故意に平仮名表記にして終わらすのも感心できません。それよりも、しっかりとした終わり方をするストーリ、プロットを立てた方が有効な気がします。
□セツナビトさんからの批評 (2004/01/10 01:36) フォント
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「影送り」ですか。懐かしいですね、国語の授業で習ったあとしばらく影送りで遊ぶのが流行った記憶があります。確かに飛んでいるように見えますね。その辺りの表現は見事だと思いました。

ただ、やはり「はずだった」以降でその感動が飛んでいってしまうのが残念です。純真な子供時代と汚れた大人という対比も、ちょっとありきたりな感じがします。心理描写だけじゃなくて、ベランダかどこかで空を見上げていたらあの日影送りをしたことを思い出した、あの頃は……と持っていったほうがまだよかったように思えます。前半がよかっただけに、残念です。

文章はうまいと思います(ただ字下げはしましょう)。最後の一文、私は好きです。もうちょっと工夫があったらもっといいお話になったと思います。次回に期待!
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