「最愛の人」
雨宮しずく
 私に見合いの話が舞い込んできた。乗り気ではなかったが、会社の上司からどうしてもと頼まれて、いつの間にか会うだけ会うという運びになっていた。娘の未来に話すと、「いいんじゃないの?」なんて言う。高校受験を来年に控えている未来にとって今は大切な時期だ。やはり母親は必要なのだろうか。
「お父さんがいつまでも独り身だと私は心配でお嫁に行けないからね」
 そう言って笑う未来は若い頃の妻にそっくりだった。

 当日。少し遅れて私の向かいに座った女性は、こういう機会が必要なのかどうか疑問なほど若く、とても美しい人だった。
「修一さんと呼ばせてもらっていいかしら」
 そう言って控えめに笑う彼女に、私は少し惹かれた。
 私達は外に出て少し歩いた。隣に感じる彼女の柔らかい雰囲気が心地良く、彼女の和やかな笑顔に私もつられる。あわよくば、という気持ちが徐々に芽生え始めていた。
 突然、私の胸ポケットから流れる携帯電話の電子音が私達の会話を遮った。「ちょっと失礼」と言い残し、少し離れた場所で簡単に会話を済ませ戻すぐに戻ると、彼女も携帯電話で誰かと話しているようだった。ところがその会話の内容に自分の耳を疑った。
「相手? まあルックスは悪くないしお金も持ってるし、結婚してもいいかなってレベルなんだけど、子供が邪魔なんだよねえ」
 所詮こんなものかもしれない。私は何を期待していたんだろう。目が合うと、彼女は慌てて電話を切り、とびきりの笑顔を私に向けた。いくら取り繕ってももう無駄なのに、彼女はまだ清純な女を演じようとしているのか。
「急用が入ったので私はこれで失礼します」
 そう言って私は立ち去ろうとすると、彼女は開き直ったように言った。
「いいんですか? きっと後悔するわ。このチャンスを逃すと再婚は難しいですよ」
「大丈夫。私は後悔なんてしません。少なくとも、あなたと結婚するよりはね」
 赤面して腹を立てる彼女に軽く会釈をして、私はその場を後にした。彼女じゃない。私が一番愛しいと思うのはあいつらだけだ。

 家に帰ると未来が夕食を作っていた。未来は、「おかえり」と言って私を見ると、一瞬何か言いたそうな顔をして、結局何も言わずに向き直った。妻の面影を色濃く残す未来の表情。私には未来がいる。空の上からは妻も見守ってくれている。それで充分じゃないか。
「お前は後悔しないように生きているか?」
 突然の私の質問に未来は振り向き、目を伏せた。もしかすると私は未来に重なる妻に向かって、「お前は後悔しないように生きたか」と聞いたのかもしれない。顔を上げ、凛とした表情で頷く未来に、私は妻の答えを見た気がした。
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□匿名さんからの批評 (2003/12/10 18:18) フォント
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書きたいことはわかりますが。
見合い相手が、上司のたっての頼みで断れない人であれば、相手に向かって言ってはならないことを言ってませんかね。
あわよくばという表現などが、私のいやらしさも出しすぎて、
後半の、亡き妻と娘を思う父親と重ならない。お見合いの会話より、娘との関係をしっかり書いたほうがいいのでは?妻との思い出とか。
□名無しさんからの批評 (2003/12/10 22:58) フォント
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>私が一番愛しいと思うのはあいつらだけだ。

おそらく最初からわかっていたはずなのに断り切れず、見合いした時点で、打算的な見合い相手と同等なのでは?
子供が邪魔と言われてムカッと来たのはわかるけれど、中三の子供を持つほどの大人で、打算的と言う意味ではお互い様であり、立場もあるのだから、断るにしてももっと賢いやり方があるのでは?
□匿名批評者さんからの批評 (2003/12/10 23:27) フォント
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話自体はふわっとしたようなちょっといい話という感じだろうか。
文章の方もこれといって変に思うところもなく読める。起承転結の基本的な話の構成の仕方で、わかりやすい。
ただ、それがわかりやす過ぎるので、話として幼稚っぽく見えるという意見もあるかもしれないが、それは少々批評として的外れな気もするので控えておく。
□愛さんからの批評 (2003/12/11 00:24) フォント
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連作お疲れ様です。
影ときて、面影ですか。相変わらずテーマの捕らえ方に一工夫あって面白いです。
作品ですが、いい意味でも悪い意味でも連続テレビ小説のように感じました。
未来ちゃんとお父さんを三ヶ月に渡って見守っているので、もうすっかり愛着もありますし、どんな話でもほのぼのと読めてしまいます。
文の表現力はとてもお上手ですし、話の展開もわかりやすくまとまっていていいです。
たとえ上司の事があっても後悔はしないという意気込みをみせるラストも好感が持てますし。
しかしやはり1200字で魅せる短編小説としては展開が単純すぎる様に思います。

続きが読みたい気持ちもありますが、短編に挑戦してもらいたいな、という気持ちもあります。
□名無しさんからの批評 (2003/12/11 01:19) フォント
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初めの作品から読んできましたが、連作だという前提をもってしても主人公に全くリアリティを感じないのが残念です。精神的に幼いというわけではありませんが、言ってることもやってることも大人の男性と思えない部分が多々あります。見合い相手もそうなんですが、キャラが立ってないのが原因かなと。たぶん未来ちゃんが主人公だったほうが面白かったと思います。
いずれにせよ、批評をする際にどうしても前の物語を思い出してしまうので、ここで連作はあまり読みたくないのが正直なところです。
□名は無いさんからの批評 (2003/12/11 01:45) フォント
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間抜けな女性ですねぇ。企みがあるなら慎重にやらないと…

連載ということで、同じ舞台で違うお題をひねり出すのは大変なことと思います。今までスポットの当たらなかったお父さんの違う一面が見れたわけですが、短編として考えるなら女性に対しての捨て台詞はもっと辛辣なものでも良かったかなぁと思います。そうした方が全体が引き締まるんじゃないかと。

それにしてもお父さん、惚れやすいのですねぇ。その気になるのが早くて面白かったです。
□ともぞうさんからの批評 (2003/12/11 02:00) フォント
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妻と娘、その面影……ですか。
そのテーマを「お見合い」という題材を用いて調理しているわけですが、主人公がお見合い相手の本音を聞いてから以下の部分が意外とアッサリしすぎのような気がします。
勿論、上司からの無理矢理の頼みであって、本人は乗り気でなかったから納得できますが、やはりそれでも、アッサリしすぎで、もう少し重くてもよかったんじゃないかと思う。
ただ未来とのやり取りは微笑ましかったですね。
□名無しさんからの批評 (2003/12/11 18:08) フォント
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他の方も書いてらっしゃるのですが、やはり、上司からの見合いの話ですので、断り方がまずいんじゃないか、と。
文章自体はこなれていて上手なのですが、なぜか所々違和感を感じるのは私だけなのでしょうか。一番それを感じたのは、最後の段落の未来が目を伏せるシーンです。普通の親娘でしたら、突然そんなことを言われたら一笑に付すところではないでしょうか?どんなに静かな性格の娘でも、どんなに仲の良い親娘でも。

他の方で「リアリティに欠ける感じがする」と言っているのは、こういった細かい点ではないのでしょうか?

ただ、前にも言いましたが、文章はとても上手いと思うのです。話の運び方も悪いとは思いません。そういった細かいリアルさを描く、というのが今後、著者の方が伸びていくためのステップかな、と思いました。
□名無しさんからの批評 (2003/12/13 01:03) フォント
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書き慣れすぎている印象で、読みやすいは読みやすいです。「」で改行がないのはやはり見苦しいです。

書き慣れすぎ、という印象を払拭するために、別ジャンルの話を読んでみたいです。
□名無しさんからの批評 (2003/12/13 15:37) フォント
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「私が一番愛しいと思うのはあいつらだけだ」の「あいつら」という言い方が、この人(優しいお父さん)の性格にはあわない気がするし、お見合い相手の女性も油断しすぎ(そんな話を聞こえるかもしれない場所でする事に)だと思う。なんだか納得がいかない。

ですがまとまったソツのない文章です。静かなお話で、悪くはありませんが、驚きや感動がありません。
単にお題をクリアした宿題を読んだような気もします。
連載はそれでいいとは思うのですが、冒険がないのでは?と思います。
同じ背景と人物で、このままソツのない話が展開するのでしょうか?
同じシチュエーションだと、この後も同じような批評が続くだけではないでしょうか?
それと連載であれば、山場があると思います。そう考えると、今はそのプロローグになるのでしょうか?
□名無しさんからの批評 (2003/12/13 19:03) フォント
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 文章を書くのはうまい方だと思います。でも、なぜかストーリーにも登場人物も心に残りません。なんというか前回も書きましたがマネキンの演劇を見るようです。クエイ兄弟やシュバンクマイエルのような猥雑さやトゲや退廃的な美しさやゴスな魅力を秘めた人形ではなくて、のっぺりとしたマネキン。マネキンに劇をさせて見る人を喜ばせるには「マイキー」みたいにブラックな笑いをこめたりして、演じるマネキンとストーリーの落差を感じさせるしかないんじゃないかと。マネキンが演じるできすぎた話に僕は魅力を感じません。もちろん、がんばって連作されてらっしゃると思います。しかし、そこ「向上」を感じないのは僕だけではないでしょう。そろそろ他のことを始められても良いのではないかと思います。
□名無しさんからの批評 (2003/12/16 04:21) フォント
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この読後感の前に余計な説明はいらない、と思える作品でした。
一度は傾きかけた性悪女を一太刀にする台詞も爽快で、主人公の人間的危うさと誠実さを際だたせていると思います。
ただ見合い中なら携帯電話の電源くらい切るんじゃないかな、と。相手の電話もえらく都合がいいような気がしますが、字数制限内で事件を起こすなら効果的だと思います。
□水夫さんからの批評 (2003/12/16 18:31) フォント
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連作短編として普通に読めるんだけど、そこまで。見合いのシーンはわざと安っぽい会話にしているんですよね。
□名無しさんからの批評 (2003/12/17 22:32) フォント
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『ななし評者』の私は上から順に読んでいてすこし飽きているらしい。
 物語が「動く」携帯電話のシーンですが、会話表現がやっぱり気になります。つか、見合いに携帯の電源入れちゃダメだろうって突っ込みはなしでしょうか。小説の中の子道具としての電話は使い方が難しいってこともあるかも。
□名無しさんからの批評 (2003/12/19 21:42) フォント
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うーん、良くも悪くも朝の連ドラのようだと思ってしまいました。

どこかちぐはぐなとこも多いのですが、それは表現力でカバー出来てる気がします。
これだけの表現力を持っているのですから、今度は連作ではない話が読んでみたいと思います。
□名無しさんからの批評 (2003/12/22 15:28) フォント
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 文章は悪くないのに、登場人物や物語の流れや表現に、少しもリアリティが感じられません。三作読み続けたのに、未来ちゃんにも、主人公にもちっとも愛着が湧かないのです。
 どなたかも指摘されてましたが、おとなの男性と思い込んで文章を読んでいるのに(それも無理があるのですが…)、突如「あいつら」という表現が入ってきたりするのは物凄く違和感を感じます。無理してる感じが伝わって来ちゃうというか…意図的なのかも知れませんが、わたしは窮屈に感じました。
 背伸びせず、筆者らしい作品を書いた方がよっぽど読者の胸に迫る作品が出来るのでは?と思います。
□匿名さんからの批評 (2004/01/06 13:05) フォント
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連ドラの事件の山場のような。
見合いの場面の描写が漫画チックだなぁ、と思いました。「私」は、上司の顔立てと娘のことを思いやって見合いに望んでいるわけですよね。と思っていたのですが、自分の感性で見合い相手を品定めしていたり、相手の子供が邪魔という発言に腹を立てて見合いをぶち壊したり、なかなかやんちゃなお父さんでした。
父親の今まで見えてこなかった一面、という捉え方もあるのでしょうが、これまでの、仕事一辺倒で亡き妻を偲ぶ父親の姿と違いすぎて、違和感が拭えません。
もっと見合いのシーンが毒々しいと、父親の新たな一面の発掘に役立ったかもしれません。

ところで、私は見合いの経験がないからわからないのですが、見合い中に携帯電話に出るというのは有りなのでしょうか。
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