「恩返し」
市原玲司
「笹原様は写真撮影のほかに、岐阜県にある朝賀山の緑化運動のリーダーをされているとお聞きしましたが」
 机の向こう側でメモを取っている人間は、今回、私が大賞を受賞したフォトコンテストを主催している雑誌の記者だ。このフォトコンテストは自然写真家への登竜門だと言われているが、初投稿で大賞を取るのは異例の事だと記者は言う。
 記者の右手が、私の口の動きに対応しているかのように細かく動く。私はそれを見ながら1年半前の朝賀山を思い出した。

 その頃の朝賀山は、心無いハイカーの無作法に加え、悪徳業者の不法投棄で荒みきっていた。そのため、朝賀山を流れる清流も徐々にその姿を汚していった。
 そんな時に私はこの山を訪れた。確かに、登山道を一歩踏み越えた向こう側には、自然の緑や茶色には似付かない、赤や青の空き缶やゴミが捨てられ、山の景観を損ねていた。
 夜。
 私は山の冷やりとした空気を食べたくなって、ランタンを持ち、山の中腹近くの川べりに張ったテントを抜け出した。辺りは静まりかえっており、ただ、水が河岸にぶつかる音だけが聞こえていた。
 少し歩いた後、上流からエンジン音が聞こえ、微かな灯りが見えた。それと共に、私は息を小さく吐いた。こんな時間に動く車と言えば、不法投棄をしにくる車しかないからだ。
 遠いヘッドライトの灯りを見送った後、視界の端側に優しく、弱い光を感じた。よく目を凝らしてやると、それは川縁の石に止まっているゲンジボタルだった。
 しばらく、それに目を奪われていたが、私はあることに気が付いた。どうやら、一定のリズムでホタルは発光しているようなのだ。
 私はそれを数えながら追った。最初に短く三度、次に長く三度、そして最後にまた短く三度。
 山を降りた私は、インターネットでサイトを立ち上げ、朝賀山の緑化運動を始めた。最初は良識あるハイカーが中心の小さな運動だったが、県の公報に紹介されてからは全県民を上げての大運動となった。そのおかげで、半年前には山の警備の強化と不法投棄に関する条例の制定が行われた。

 それから三ヵ月後、私はその時のホタルの写真でフォトコンテストの大賞を取った。それを私は、虫の知らせではなく虫の恩返しだと、そう思わずにはいられなかった。
「笹原様。これからもたくさんの写真をお撮りになると思いますが、どういった写真を撮っていこうとお考えですか」
 私は、大賞を撮った写真を見ながら答えた。
「自然に優しい写真を撮ろうと思います」
 写真の中のホタルは、相も変わらぬ優しい光を放っていた。
著作権について
 
 
□名無しさんからの批評 (2003/11/10 14:38) フォント
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良く書けているとは思うのですが、それ以上の感想が出てきません。物語や、表現に奥行きというか、読み手をこの作品に参加させる余地というか、そういったものがなくて、単に読むだけで終わってしまう感じでした。
□名無しさんからの批評 (2003/11/11 00:09) フォント
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感触は悪くはなかったのですが、物足りなさと唐突さを感じてしまいました。
物語としてはとても良いと思うので、もっと詳細を細かく書いて、中編くらいの分量で書いたら、とても面白くなる作品ではないかと思いました。
□名無しさんからの批評 (2003/11/11 00:45) フォント
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ホタルがモールス信号を送るというのは面白いです。

文章の印象として、「空気を食べたくなって」など、少し変わった表現を使われているせいか、読んでいて違和感がありました。
あるいは、不法投棄が警備の強化や条例の制定をしてもすぐに解決するわけではないと考えてしまうせいかもしれませんが。

他の方も書いてることですが、文字制限のせいで中身が大雑把になっているのが残念です。
□名無しさんからの批評 (2003/11/11 06:41) フォント
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 お話は好きなのですが、唐突な感が否めません。ホタルの信号を見てから、サイトを立ち上げて条例が出来るまで、そんなにすぐに進んでしまうかな?全体的に、リアリティが感じられませんでした。
 1200字に全てを埋め込むことは難しいです。省くということも大事な作業だと思います。短編にしてしまうには惜しい、良いお話だと思うので、残念です。
□phさんからの批評 (2003/11/11 14:21) フォント
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美しい情景ですね。
しかし美しい自然の情景を描くだけでは物語でなくエッセイや日記になってしまいます。
一人称なのですから、もっと主人公を中心において、彼の感じた感動を読者に伝えて欲しかったです。
□匿名さんからの批評 (2003/11/12 09:32) フォント
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自然を題材にするのは個人的に好きです。蛍がSOSを発するっていう発想も、気に入りました。「朝賀」というのは季語かなにかで、実際の山の名前ではないかと思ったのですが、その辺にも伏線があるのかとちと考えつつ… まず、難しいのは自然描写。コレですね。たとえば「水か川岸にぶつかる音」これをどこまで簡潔に読者に伝えるか? この辺が今後のポイントとなるかと存じます。1200字の制限には私も悩んでいる途中でもあり、他の方もプロットの組み立て等については言及されているかと存じます。今後の活躍を期待しています。
□名無しさんからの批評 (2003/11/12 11:26) フォント
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硬い文章がこの写真家の性格を象徴しているようでよかったです。
蛍が静かに環境汚染を訴えるという発想も良かったです。
私だけかも知れませんが、冒頭の「笹原様は…」の「様」が気になりました。
□匿名批評者さんからの批評 (2003/11/12 12:34) フォント
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おそらく後半になってからの記述が慌しい感じがして奥行きというものが出せなかったのだと思う。
結論を急いだせいで読み手が「あれ?」という感じを持ったのでしょう。
しかし、こういう話の進め方は面白い。
□水夫さんからの批評 (2003/11/12 16:23) フォント
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え、これで終わり? というのが読んだときの感想。この内容では、時系列を変えた構成も良くないです。
□名無しさんからの批評 (2003/11/13 18:00) フォント
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僕はSOSのモールス信号を知らなかったので、蛍が発光するくだりは最初理解できませんでした。知らない人にも分かるような記述を入れて欲しかったです。
しかし綺麗で、いい話ですね。
□名は無いさんからの批評 (2003/11/15 03:17) フォント
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綺麗なお話しで、ゆったりとしたものを感じさせてもらいました。

後半すこし慌しさを感じてしまったので、その辺が課題だと思います。
□名無しさんからの批評 (2003/11/15 16:56) フォント
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淡々とうつむき加減で報告を聞いてるような感じjがしました。
話自体は良い感じでいいです。
□松本さんからの批評 (2003/11/16 12:11) フォント
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笹原さんが、蛍のSOSを聞き取れるような優しい心の持ち主で、良かったと思います。このような方が撮る写真は、さぞかし綺麗で優しいものなのでしょうね。
モールス信号の知識のない私でしたら、見逃してしまいそうな、優しさでした。
□名無しさんからの批評 (2003/11/17 01:26) フォント
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『空気を食べたくなって』はあえて「空気を吸いたくなった」というありきたりの表現を避けたのかもしれませんが、しっくりしない気がします。
また、記者のインタビューで「様」を付けるのかと、違和感を感じました。

緑化運動のきっかけになるほど目を奪われた蛍の美しさに対する感動や、不法投棄に対する怒りをあらわにする描写が欲しかったです。
私もモールス信号を知らなかったので蛍の「SOS」がわかりませんでした。そのためサイトの立ち上げが唐突に感じてしまいました。

それから時系列がおかしいのが気になりました。細かい突っ込みですみませんが、『半年前には〜条例の制定が行われ』の後で一行行間があって『それから三ヵ月後、私はその時のホタルの写真でフォトコンテストの大賞を取った』とあります。
三ヵ月後の前の『それから』は『半年前には〜』にかかってくるのが自然ですが、そうすると以下1〜3のように矛盾が生じます。指示語も多いので更に混乱してしまいます。

1、『1年半前の朝賀山』に思いを馳せるフォトコンテストの会場(1年半前→仮に2002.5)
2、現在から見た『半年前』の条例制定(半年前→仮に2003.5)
3、2の『それから三ヵ月後』のフォトコンテスト(2の3ヶ月後、仮に2003.8)

表現についての批評に終始しましたが、「現実→過去→現実」という構成は悪くないと思います。

□名無しさんからの批評 (2003/11/19 13:55) フォント
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インパクトが薄くて残念です。
文章を読んでも不法投棄の山しか頭に浮かんでこないんです。
蛍の美しさや感動があまりにも際立たない。
残念です。
□名無しさんからの批評 (2003/11/19 23:42) フォント
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 美しい話ですね。まだ荒削りのようですが、作者の方は素敵な感性の持ち主だと思います。

 気が付いた点をいくつか。『笹原様は…』という現在から始まって回想シーンがあって、再び『笹原様。これから…』で現在に戻るのだから、『それから三ヵ月後…』の前で行間を空けるよりは、そこを詰めて『笹原様。これから…』の前で行間を空ける方が、現在→回想→現在という構成がくっきりすると思います。
 それと、文末が『〜だった』『〜だ』と、同じような表現が繰り返されるため、若干単調に感じます。淡々と説明口調で流れていくので、もう少し文末に工夫があればいいと思いました。

 粗を探そうと思えばまだ出てくるのかもしれませんが、個人的にこういう話は素直な気持ちで読みたいので、変に深読みするのはやめることにします。素直に、いい話だと思いました。
□名無しさんからの批評 (2003/11/21 18:31) フォント
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途中で出てきた不法投棄車はどうなったんでしょう。
モールス信号を知ってて気付けなかったのは不覚
□匿名さんからの批評 (2003/11/25 12:42) フォント
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ホタルの光がモールス信号になっていたのですね、他の方の批評を見るまで微塵も気がつきませんでした。
ホタルがモールス信号を送るという発想は面白いです。ですが、この話の場合、主人公がホタルからのSOSを受け取るという最大の山場が、読み手がモールス信号のSOSを知っていることを前提に書かれているのが失敗だと思います。モールス信号を知らない人でも、ホタルの光を見た主人公が何かしらのサインに気がついた、という具体的な描写がないと、主人公がサイトを立ち上げた理由がさっぱりわかりません。
後は、主人公の写真家への情熱が過去のシーンで触れられていると、「恩返し」というタイトルがもっと生きてくると思いました。
□名無しさんからの批評 (2003/11/25 13:36) フォント
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「虫の知らせではなく虫の恩返しだと」の部分が要らないかなと思いました。
□名無しさんからの批評 (2003/11/26 21:20) フォント
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総合
So What?
としか言えません。
他の方の批評を読んで、モールス信号について気づかせていただいたのですが、そうでもしないと分からないというのが残念。
削るべきところを削らず、削らざるべきところを削ってしまったという感じがします。
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