「羽音」
青山
 少年が家の玄関に入ると同時に、居間から怒鳴り声が聞こえた。少年の両親の争う声だった。母親のヒステリックな叫び声と、何かガラスの砕け散る音がした。事は終盤にさしかかっているらしかった。後少しすれば少年の両親どちらかの前に『元』という文字がつけられるだろう。
 少年はそのまま外へ出て、原付きに乗り、商店街を当て所もなく走り回った。古本屋、魚屋を過ぎ、少年が酒屋の前に原付きを止めた頃、すでに日は落ちていた。
 隣の魚屋の店先に陳列されてあるアジだかなんだかに蝿がたかっていた。魚屋の主人は酒屋に入ろうとする少年をちらりと見やってから、蝿を追い払った。少年は見た目には十四、五才といった所だった。
 少年が酒屋に入った時、酒屋には主人はおろか店番さえいなかった。少年は店内を見渡した。さまざまな種類のアルコールのケースが高く積まれ、壁際にはウイスキーや焼酎やらが陳列されていた。店の奥から明かりと人の声が漏れてきた。どうやら酒屋の主人達は奥で夕飯をとっているらしかった。
 少年は足元にあった六本入りのビールケースを手に取り、そのまま店を出た。魚屋の主人がまた少年を見た。今度は目を離さずに少年をじっと観察していた。少年は原付きを発進させた。
 少年は近くの公園のベンチに座り、一本ビールの缶を開けた。一口飲んでから、少年は残りの全てを地面に流して捨てた。それから公園の公衆便所へ歩き、個室に入った。少年は一缶ずつプルタブを起こし、中身を洗いざらい便器にぶちまけた。便器に流れたビールは白い泡を立て、便器の水を黄金色に染めていった。
 その便所はどこにでもあるような公衆便所だった。不衛生で、多くの落書きがあり、嫌な臭いがした。ちかちかと点滅する電球の周りで、一匹の虫が飛んでいた。見たこともない虫だった。その羽音が少年の耳にやけに響いた。
 少年がようやく全てのビールを便器に流し終えた頃、便所のドアを誰かが叩いた。
「誰かいるのかい?」とその声は言った。
 少年は鍵を閉めて黙った。ノックがもう一度鳴ってから、ビール臭いぞ、と先程とは違う声が言った。辺りはざわざわしてきた。何人かの人達が集まってきているらしかった。開けなさい、と誰か数名が怒鳴った。
 しかし少年は便器に座り、黙って虫の羽音だけに耳をすませた。少年は虫が電球に体当たりをする音を聞いた。しかしやがて虫の羽音は聞こえなくなった。少年は電球を見上げた。虫の姿はそこにはもうなく、ただ電球が点滅しているだけだった。一体、虫はどこへ行ってしまったんだろう、と少年は辺りを見回した。
 外にいる人々がさらに強くドアを叩き続けている間も、少年はそれを強く思っていた。
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□名無しさんからの批評 (2003/11/10 16:38) フォント
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 内容は尾崎豊的青春という感じでしょうか。そういうのが好きじゃないので辛い評価になりそうですが、ご容赦ください。
 どうも、物語が完結している気がしません。終わりがハッキリしていないからというのではなく、全体としてもっと長い文から抜き出したように思えます。
 また、表現についてなのですが「その便所はどこにでもあるような公衆便所」というのは表現を逃げているように思います。「どこにでもある」雰囲気を描写として表現してほしく思いました。
 テーマの「虫」の部分ですが、これも「見たこともない虫」とだけ表現されています。どんな特異な虫だったのかをしっかり書いてほしかったです。それがあれば、今のように「虫」を登場させる理由があまりない文章ではなくなったのではないかと思います。
□名無しさんからの批評 (2003/11/11 00:14) フォント
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青春小説ですね。こういうタッチのものは、私は好きです。
ただ、その虫がいったいどんなものなのか、どんな羽音を立てているのかというのがまったく解らず、そこだけすっぽり現実味が薄れているような気がします。
少年の心を癒す存在のようなので、その虫についてもう少し詳しく書いて欲しかったです。
□phさんからの批評 (2003/11/11 17:18) フォント
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独特の雰囲気があっていいと思います。
でもあまりに淡々としていて、映画のシナリオを読んでいるようでした。次々と変わる場面に合わせて、流れ込んでくるような表現があれば、もっとひきつけられたかもしれません。
□匿名さんからの批評 (2003/11/12 09:40) フォント
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総合
反抗期の1コマ。表現的には「原付き」というのがちと気になる「オザキ」云々と言われた方もいますが、1200字の制限がある場合、「原付き」をもっと大きなものにしてもよいかと、ビールも飲ませちゃったらどうだろうか?などと勝手なことを言ってみたりします。1200字の「悪さ」ならもっとドンドン悪いことさせちゃいましょう。主人公に。それとも繊細な主人公なのか、次回作、期待しています。
□水夫さんからの批評 (2003/11/12 16:29) フォント
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総合
「何かガラスの砕け散る音」とか「アジだかなんだか」といった不用意な曖昧表現が気にかかりました。

基本的に少年の感覚で書かれていますが、一瞬視点が魚屋の主人になりますね。「三人称多視点」と呼ばれる書き方ですが、違和感を感じました。よっぽど上手くやらないとすんなりと読ませるのは難しいです。

表現は目に付きますが、雰囲気はありますね。
□名無しさんからの批評 (2003/11/14 13:39) フォント
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何を言わんとしているのかがつかめませんでした。
「尾崎的」と評者の一人の方は言っていますが、尾崎的と言うにはあまりにも現実との乖離が激しいと思います。私の場合の話ですが、酒を飲むことに関しては親はあまりうるさく言いませんでしたが、煙草を吸うことに関してはとにかく怒られました。殴られたこともあります。万引きもビールを万引きするのはどうかと…親に対するあてつけ、現状への不満からの万引きだともっと違うものを万引きする傾向があります。例えばゲームソフト。漫画。化粧品(ワックスなどの整髪料を含む)などです。案外どうでもいいもの、金を出せばすぐに買えるものを万引きする傾向があります。
ビールを公衆便所に流したところで「ビール臭い」などと言われることはまずありえないと思います。それよりもあの強烈なアンモニア臭が鼻につくはずです。「ビール臭いぞ」といって扉を叩く人はまずいないと思います。「煙草臭いぞ」と割れてゲームセンターの店員に捕まえられたことはありましたが(笑
もっとリアリティを追求してください。まずはそこからです。
文章力に関して、全て過去形で淡々とかかれていますが勢いが無く退屈でした。少年の感情変化を追わないと物語に深みは出ないと思います。
□名は無いさんからの批評 (2003/11/15 03:09) フォント
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小さい頃から一貫して大人から酒を勧められつづけていた私としては、どうにも共感できない部分がありました。シンナーとかでも良かったと思います。そんでもって幻覚の中を虫が飛び回り、口に詰まって窒息死とか。
……全然違う話ですね、すいません。
□名無しさんからの批評 (2003/11/15 16:13) フォント
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情景が浮かびました。
でも「見たこともない虫」ってどんな虫かなーと思いました。
□名無しさんからの批評 (2003/11/15 17:04) フォント
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思春期の危うい感情は伝わってくるのですが
そんな感情になるのかな?
という感じもしました、特にトイレに入ってからとかは・・・
□松本さんからの批評 (2003/11/16 12:26) フォント
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虫はどこに行ってしまったんでしょうか。少年は虫になにかを感じていたんでしょうか。それとも、虫がどこに行ったかなんて、本当はどうでもよかったのでしょうか。
少年が、感じていたもの、それは他人である私たちには推し量るしかありませんが、少年が何を感じ、そしてこの後どう生きていくのか、非常に興味がわきました。
□名無しさんからの批評 (2003/11/17 02:10) フォント
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両親の夫婦喧嘩にいたたまれなくなって、やり場のない苛立ちを万引き、ビールを便器に流すという行為にぶつけたところは良いと思います。
羽音を苛立ちに重ねるという着眼点も面白いですね。

ただ、周りに人が集まってきていることに対して、十四、十五の少年であればもっと焦るのではないかと思いました。
それに無関心な様子の少年に違和感を感じます。

『アジだかなんだかに』は『なんだかに』にぜず、ストレートにアジで良いのでは?小説の表現として適さないように感じました。

『魚屋の店先』にいながら『魚屋の主人』、『酒屋に入った時、酒屋には』『どうやら酒屋の主人達』など、表現がくどい印象です。
少年が魚屋の店頭にいたり、酒屋の店内にいることは文章からわかっているのですから。
具体例は挙げませんが、便器や便所に対する描写にも同じことが言えると思いました。

便器にビールを流す行為は元々無言でしていたと読んだのですが、『少年は鍵を閉めて黙った』からは突然黙った印象を受けます。「息を潜めた」くらいにした方が良いような気がしました。

『見たこともない虫』は、それだけでは読者は想像ができないので、その虫の描写も必要かと思います。

全体的に文末が一ヶ所を抜かしてすべて「た」で締めくくられているので文章が単調です。
表現と併せて工夫することをお勧めします。
□セツナビトさんからの批評 (2003/11/18 19:51) フォント
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少年の葛藤と逃避のお話でしょうか。情景が浮かんできました。

まず気になったのは、最初の段落の「事は終盤にさしかかっているらしかった。」です。ここで終盤に差し掛かっていると書かれているのは、両親の喧嘩でしょうか。それとも両親の婚姻関係でしょうか。私は喧嘩の方だと読みましたが、そのあとの「あと少しすれば〜」のくだりから婚姻関係のほうにも読めました。このくだりを使うのであれば、「いつものことだった」とか「最近回数を増してきた」などの方が、すんなり後のくだりに流れると思います。

次に、「アジだかなんだか」。他の方も指摘されていますが、やはり違和感があります。陳列されているのなら札か何かでアジと書かれているでしょうから、ストレートに「アジだ」でいいと思います。もし札がないのなら、少年にはアジなのかどうか分からないと思いますから「魚だ」で。あと、それに続く少年の見た目はいらないと思います。

次に、ビールを持っていくシーン。見知らぬ少年が持っていくのを見ても魚屋の主人が止めようとしないのがおかしいと思いました。下町の商店街を想像しましたが、隣の店の商品が無断で持っていかれるのを黙って見過ごすでしょうか? それが都心部で見ていたのが単なる通りすがりならまだ分かりますが、ちょっと冷淡すぎます。あとで公衆便所に人が来ることから、魚屋の主人が通報したものだと思いましたが、それにしてもです。

最後に、公園と公衆便所について。少年がビールを一口飲んであとは全て捨てるという行動が唐突に思えました。他の方も書かれていますが、やっぱり盗んだからには仲間に振舞うとか、他の使い道の方が共感できると思います。1200字じゃ難しいかもしれませんが。あと、「見たこともない虫」は蛾でいいんじゃないでしょうか。何か別なものを想像してしまい、物語の流れを悪くしています。

すみません、調子に乗っていろいろ書いてしまいました。最初に書いたとおり、雰囲気はすごく伝わってきます。これからもがんばってください。
□匿名さんからの批評 (2003/11/21 12:55) フォント
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はっきりとしないもやもやとした印象の小説でした。思春期のもやもやさ加減が文章からも伝わってきた、という感じですか。個人的には好きです。
描写があいまいなせいか、具体的な情景がなかなか想像できません。一昔前の下町のような雰囲気を創造したのですが、何か少し違うかも……
「見たこともない虫だった。」という一文はなくてもいいと思いました。公衆便所の電球に集まってくるような身近な虫なのに、見たこともないってのはちょっと不自然な気がします。

次回を楽しみにしています。
□匿名さんからの批評 (2003/11/21 12:57) フォント
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↑の匿名です。漢字変換ミスりました。
×:雰囲気を創造した
○:雰囲気を想像した

大変失礼致しました。
□名無しさんからの批評 (2003/11/21 19:05) フォント
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「〜た。」が多いのは少々読み辛かった。
この独特の昏い雰囲気は好きです。
□ちっこさんからの批評 (2003/11/23 16:25) フォント
発想
構成
表現
総合
読んでいて少年の青春という感じがして素敵だと思いました。
反抗期の一ページみたいな感じがとても伝わってきました。

しかし虫とゆう題材なのに虫の存在がすこし薄いのがすこしひっかかりました、最後まで少年の青春物語で終わったような気がします。特になにも変わらないとゆう感じで。
表現で使う単語ももう少し考えてみたほうがいいと思います。

けど話の続きがあるならとても気になる作品でした

□名無しさんからの批評 (2003/11/25 13:43) フォント
発想
構成
表現
総合
表現についてもう少し推敲された方がよかったと思います。音読してみて文末表現が重なっていないかチェックするとか。
ストーリーは情景が思い浮かびました。その分虫だけがあいまいで印象に残りました。
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