「結晶庭園」
呼鳥
「これ、何ですか」

 とろっとした黄金色の石を手に、サチは店員に向って尋ねた。
 平日の昼下がり、店員はルーペのようなもので石を覗きこんでいたのだが、サチの声でゆっくりと顔をあげた。
「ああ、それなら琥珀だね。虫入りのものだ。何千万年も前の虫とか葉っぱとか、そういうものが樹液に閉じ込められて結晶になったものでね……」
 小太りの店員は得意げに説明を始める。
「……へえ、すごいんですね」
「そりゃあもう、トンボみたいに大きな虫が入ってる琥珀もあるんだよ。高価だけどね」
「じゃ、これ一個ください」
 サチは、延々と店員の講釈を聞く気にはなれないので、取り立てて欲しくはなかったが、その小さな虫入りの琥珀を一つ手に取った。
「1200万年前のものだよ」
 店員はぷっくりとした頬をてかてかと光らせて、丁寧に包んでくれた。

「見て」
 図書館は春の昼下がりの光が溢れている。サチはタケルの前の席に腰掛けた。ちら、と眼鏡越しにタケルはサチとその石を交互に見る。
「何それ。べっ甲あめ?」
「ばっか。琥珀だよ。虫入りの」
「ふん」
 何の感慨もみせず、タケルは論文に戻る。ぱらぱらと、紙の擦れる音が響く。
「あたしたちって、付き合ってどれ位経つんだっけ」
「大学に入った頃からだから4年位か」
 今度は資料から目を離さずに答えるタケルを、サチは頬杖をついて眺めた。
「4年も付き合ってる、のか」
 4年。赤ん坊なら幼稚園に入るくらいの年月、あたしは何回この男とご飯を食べて、セックスして、そうして一緒に眠ったのだろう。
 けれどその度にこの男との間に距離を感じてしまうのは何故なんだろう。
 こんな風に1日の半分を2人で過ごしているのに、まるでこの虫入りの琥珀になったような気持ち。
 知らない同士が出会うっていう事は、個々の結晶が、鉱脈の中から掘り出されてもやっぱり結晶同士が交じり合えないのと同じなんだろうか。この男とも。誰とも。

 サチはぼんやりと窓からこぼれる光を眺めた。琥珀は太陽の光の結晶のように柔らかく輝いている。
 気の遠くなるくらい長い年月を土の中ですごしたこの虫のほうが、自分にはずっと親しい気がしていた。
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□名無しさんからの批評 (2003/11/11 12:51) フォント
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琥珀に閉じこめられた虫と自分との対比という発想は面白かったです。
ただ、全体的に物足りなさを感じました。店員のウザさ加減もタケルの冷たさも、二人の距離感も。どれも中途半端に流されてしまう感じでもったいないです。多少は説明的な部分があっても良いと思います。
□匿名さんからの批評 (2003/11/12 14:30) フォント
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論文に没頭するタケル、琥珀に己の姿を映すサチ。もちろん主人公はサチは訳であるが、2人の対比という形であれば、タケルに関しての描写を加えてほしかった。とまれ青春の1コマという事で、楽しませて頂きました。次回も楽しみにしています。
□水夫さんからの批評 (2003/11/12 17:19) フォント
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ああ、こう展開しましたか。すれちがいつつある恋愛にからめるのはベタな手段ではありますが、好きなのは否めません。
□名無しさんからの批評 (2003/11/12 23:06) フォント
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二人の距離感を、琥珀に閉じ込められている閉塞感を、うまく感じさせてほしかったです。
□名は無いさんからの批評 (2003/11/14 02:33) フォント
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4年かぁ。恋愛は長さじゃないんですかねぇ。やはり結晶化してしまうことは危険なのでしょうね。人間ゲル状が一番ということか…?

文章としては表現、構成、発想、どれも一定以上に読ませてくれます。人生経験不足なため4年間付き合ったカップルの心情というのに感情移入しきれませんでしたが、そういったうぶな私でも引き込んでくれるような何かが欲しかったです。1200文字でそれは贅沢ですが。
□名無しさんからの批評 (2003/11/15 00:24) フォント
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サチの次のアクションまで書いて欲しかったなと思います。
私としては、うだうだするのではなくて、サチに次の行動まで起こして欲しかった。それでも絡めとられたように、このまま恋人とずるずる続けることを選ぶのか、それとも琥珀をぶち破って、外の世界へ出て行くのか。

知らないもの同士の出会いと結晶の関係付けはちょっと無理やりのように思えてしまいました。
□phさんからの批評 (2003/11/16 18:01) フォント
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人生経験が足りないのか、どうも感情移入できませんでした。四年も付き合うとそう思うのかな、という感想です。
時間が止まっている琥珀の存在感と、サチの閉塞感の対比はいいと思うのですが、いま一つ繋がっていない気がしてしまいました。
□匿名さんからの批評 (2003/11/16 23:22) フォント
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結晶云々が、思いついて、書きたかったのかなぁという文章に感じました。彼女と彼の話は、分かるのだけど、結晶云々にこじつけた感じ。結晶庭園の題が重すぎかな。琥珀を通して感じた、彼女の彼への気持ちをもっとシンプルに使ったほうが素直に読めたと思います。
□名無しさんからの批評 (2003/11/17 09:34) フォント
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よかったんです。よかったんですが、何かものたりないんですよね。
それをうまく書かないといけないのですが・・・
こういう状態もリアルで解ってるんで感情移入はできるんですけどね。
此処の説明がバラついて、うまく繋がってないのかもしれません。
□名無しさんからの批評 (2003/11/17 10:50) フォント
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どうにも・・・話が繋がらないというか、広がらないというか。色んな意味で修行が必要だと思います。
□匿名さんからの批評 (2003/11/21 12:47) フォント
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琥珀って結構お手軽な値段で買えるのですね、気になって調べてしまいました。
サチはタケルに対して、付き合い始めたときからなんとなく溝を感じていたのでしょうか。最初から妙な距離を保ってるカップルって、なんとなく不自然な気がします。4年間の時間の中で、なんとなく距離を感じるようになった、という流れならなんとなくわかりますが。
前半の店員の描写よりも、サチとタケルの関係がもう少し綴られているとよかったです。そうしたら、より共感できたかもしれません。
□名無しさんからの批評 (2003/11/27 10:55) フォント
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琥珀を見て「何それ。べっ甲あめ?」はベタながらウケた。
結論がちょっと苦しい気がする。
□void *さんからの批評 (2003/11/28 04:18) フォント
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いいたいことは解る。
わかりますよ。
でも、ちょっと表現が悪い。自分と琥珀の中の虫を対比するのもちょっと強引な気がします。もっと適切な対比物があると思うのですが…まぁ、虫というお題に沿うように書いた結果だとおもいます。失敗だとおもいます…
色々な表現を模索しているのだと思うのですが、読みにくくて残念でした。
もっと、空気のようにす〜〜っと入ってくる表現を目指してほしいです。
□名無しさんからの批評 (2003/11/30 02:02) フォント
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琥珀の描写にジュラシックパークを思い出しました。と、個人的感傷はさておき。

まずは文章的なお話。『これ、何ですか』の後は一行空けなくても良いような気がしました。
『知らない同士〜同じなんだろうか。』は、表現がやや固いような気がします。
『4年。赤ん坊なら〜誰とも。』はサチの考えたこととして一人称になっているのもありだと思いますが、
最後に『自分には〜』とまた一人称になってしまったので、ちょっと読みづらい印象を受けました。
全体を一人称で進めて良かったのではないかと思いました。

オタクっぽい店員や無関心な彼氏の人物描写、情景描写など、表現の仕方は好みでした。

それから内容的なお話。
ただ、取り立てて欲しくもなかったはずの琥珀を買ってから、虫に親近感を感じる流れが唐突な気がしました。
興味を持ったけれど、暑苦しい店員の説明は聞くのが嫌だったという設定にしてしまえば違和感を感じなかったと思うので、そこが残念。

個人的には楽しく読ませて頂きました。次回作品が楽しみです。
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