「釣り」
トビィ・マクドナルド
「蛍へ、あまりに暑いので川釣りに行ってきます。一週間くらいで戻ります。冷蔵庫にアイスクリームを買っておいたので、食べて下さい。でも一つだけ残しておいてください」
真夏、松本にある彼女のアパートに私はそう書き置きを残し、岩魚(いわな)釣りに行く事にした。
ここニ、三ヶ月のニ人のギクシャクした関係を忘れるためにも、自分の時間を取り戻すにも釣りに行くのは良い事だと思った。
私は上高地から二日かけ、谷間の滝壷にたどり着いた。気温十七度。高度二千三百メートル。
そこを沢山のカゲロウがゆっくりと飛び廻っている。私はそれを素手でつかまえる。去年と同じ、ウスバカゲロウだ。透明な羽、透明な胴体。たった一日の命を運命づけられた姿。私は半年かけて彼女のアパートで結んだ疑似餌を手にし、また彼女のことを思い出す。
指の体温で羽が湿ったカゲロウははよろよろと飛び去っていった。私はオレンジ色の釣り糸の先にカゲロウの疑似餌を結び、青く透明な淵に釣り糸を垂れた。
この淵では魚は目に見える。水があまりにも透明なのだ。美しい淵。しかし、透明であるという事は水の中に一切の栄養分が含まれていないという事だ。ここに住んでいる岩魚の食料といえば、夏に飛んでくる昆虫くらいいなはずだ。岩魚は獲物を待っていた。
何度もキャスティングするが、魚信はない。
岩魚の姿も見えない。八時間、およそ四百回竿を振ったが、釣れる気配すらなかった。
翌日、私はスキットルに入れたズブロッカを飲みながら、さらに上流の滝に登る。昨日の失敗から、今日はカゲロウの疑似餌ではなく、ニンフを使ってみる。水生昆虫の疑似餌だ。数回キャストした後、魚信があった。私は一気にそれを針に掛ける。竿が一瞬にして撓り、ラインからは水滴がほとばしる。大きな魚。だが一瞬糸が緩んだかと思ったら、彼女は大きな音を立て、魚は水面から飛び跳ね、あっさりと逃げていった。
一度釣り針に掛かった魚はここでは数週間は姿を表さない。それほど沈黙が続く淵なのだ。もう一日、上の淵に上がろうかと思ったが、私は松本に残した蛍の事がふと気になり、下山することにした。
上高地の小屋で、塩焼きの岩魚を二匹買い、私は彼女のアパートに向かった。
 そこには彼女の置手紙があった。
「アイスクリームありがとう。釣りは楽しかった? 私も出かけます。どこに行くのかはヒミツです 蛍」
彼女はそれ以来帰って来なかった。私は残っていたアイスクリームを独りで食べた。
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□名無しさんからの批評 (2003/11/11 13:27) フォント
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落ち着いた大人の恋愛物語ですね。感傷的でないのが良いと思います。
ウスバカゲロウが彼女の象徴なのかな、と思ったのですが、最終的なオチは「逃した魚は大きい」というところになりそうだと読みました。となると、カゲロウのくだりが少し唐突すぎる気がします。
魚を取り逃す→カゲロウが去ってゆく→彼女のことが気になって帰ると彼女も消えていた、という流れのほうが面白いかもしれません。
□匿名さんからの批評 (2003/11/12 15:23) フォント
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出だしと結末のサンドイッチ?
長々と書いてある釣りの場面も具沢山のハンバーガ状態で興冷めです。
最初にプロットをキチンと立てないとこうなるのかなあ。1200字もあるのだから、省くところはまだ沢山あると思います。その分、結末と書き出しを丁寧に。
□水夫さんからの批評 (2003/11/12 17:35) フォント
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釣りの描写がとても魅力的。なので、彼女云々はばっさりとカットしても良いと思います。

でもやっぱり釣り部分はいいなあ。
□水夫さんからの批評 (2003/11/12 17:37) フォント
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一つ書き忘れ。ニと二の混在はタイトル通り「釣り」ですか?
□名無しさんからの批評 (2003/11/12 23:30) フォント
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 カゲロウ、魚、彼女が「=」で結ばれるのであろうことはなんとなく理解できるのですが、それでこのラストは何なのだろうとひとしきり考えました。
 でも、どういうわけか、その後の彼女の姿も、主人公の姿も浮かんでこず、この文章以上の発展がなかったことは不思議です。
 文章になった瞬間以前、以降の物語を感じさせてくれるものが好きなので、総合は「葉」となってしまいました。
□名無しさんからの批評 (2003/11/13 16:45) フォント
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彼女も彼と同じ思いで出て行ったのかな。
字下げがないのは意図的かな?と思ったのですが、最後だけ字下げがしてあります。
□名は無いさんからの批評 (2003/11/13 22:57) フォント
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釣りの描写は私も釣りをしたくなるような程で、表現力に引き込まれました。読んでいて雰囲気が良かったです。
ただ、読んでて私が感じた違和感はおそらく構成が問題ではないのでしょうか。
□名無しさんからの批評 (2003/11/14 00:10) フォント
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 批評する以前の問題なのですが。

 『枕』総評スレ拝見しました。公開前に「失敗しました」では読む楽しみも半減します。読む前も、「ああ、これから失敗してる作品を読むんだ」という意識で読むことになりますし、実際そうでした。
 たとえ他の人が絶賛しても、自分が失敗だと思えばこの作品は「失敗作」です。自分の書いた作品に責任を持ってください。私は前回のあなたの作品がとても気に入っていたのに、とても残念です。

 厳しいかもしれませんが、読者は作品を読むのを楽しみにしているのです。がっかりさせないでください。
 次回は本物が読みたいので、頑張ってください。
□phさんからの批評 (2003/11/16 18:55) フォント
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冒頭の手紙に「そんな身勝手な」と思ったら、ラストで彼女が出て行ったので、しめしめと思ってしまいました。面白かったです。

やはり釣りとカゲロウと彼女の存在が、ばらばらと感じられてしまいました。それぞれの要素はとてもいいのですが、全体として物語をなしているかと言うと難しいと思いました。
□名無しさんからの批評 (2003/11/16 21:04) フォント
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 きっと釣りの好きな方なのでしょうね。構成や表現はまだまだでも、それが伝わってくる文章なので好感の持てます。

 主人公の彼女である蛍とは、前作「贈り物」の蛍ちゃんでしょうか。いずれにしても、釣った魚に餌をやらなければこんな風に逃げられてしまうのでしょうね。気をつけなくては。
□名無しさんからの批評 (2003/11/17 10:24) フォント
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ん〜なんでしょう、彼女の気持ちがさっぱり理解できません。
何故にそういう行動にでたのか伝わってこないです。
主人公にも読み手にもわからない彼女の感情は如何なものかと・・・
つりの描写はよかったです。
□匿名さんからの批評 (2003/11/17 22:56) フォント
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自分は釣りをしないので、釣りの描写がどれぐらいリアルなのかわかりませんが、山奥のひっそりとした沢を思い描くことができました。
釣りの描写がよいだけに、彼女との別れ話が置いてきぼりになってしまっています。というか、何でこういうエピソードを入れたかなぁ…という感じです。字数合わせ?
でも彼女の置手紙は好きです。彼女もしたたかですね。
□セツナビトさんからの批評 (2003/11/18 20:44) フォント
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彼女はこのときを待っていたんでしょうか。最後に取り残された主人公の姿が浮かんできます。

えと、物語の大半を占めている釣りの描写ですが、私が釣りに詳しくないせいか、単語の意味が分からず流し読みする部分がいくつかありました。また、釣りに詳しい人にしか判らない感じがして、置いてけぼりを食らったように思いました。ただ、一旦は針にかかった魚が逃げていく描写はよかったと思います。

釣りの描写に終始していて、肝心(だと思います)の彼女と主人公の関係ややり取りが取ってつけたように感じました。これならいっそ話の筋を釣り一本に絞った方がいいかと。

取ってつけたようにと書きましたが、二人のやり取りは面白かったです。二つの場面のバランスの問題でしょう。表現は、単語の意味が分からず流し読みした部分以外は特に引っかかりませんでした。いいお話だと思います。これからもがんばってください。
□名無しさんからの批評 (2003/11/22 21:48) フォント
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最初と最後の彼と彼女のやりとりは、とても良いと思います。
私は全く釣りに興味がなく、もちろん知識も無いので、あまり入り込めませんでした。ごめんなさい。
『私は半年かけて彼女のアパートで結んだ疑似餌を手にし、また彼女のことを思い出す。』
ここの部分を入れたくて、最初と最後のエピソードをいれたのでしょうか?
でも、これだけ丁寧な釣りの描写なら、彼女とのエピソードは無くても、全く問題なかったと思います。
□名無しさんからの批評 (2003/11/28 04:35) フォント
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何がいいたいのかわかりませんでした。
フライフィッシングなんでしょう?その割には釣りの描写が淡白すぎる気がします。ぴこぴこぴこぴこ動かして何ぼのフライフィッシング。もっと魅力的な描写があるとおもうのになぁ…
□名無しさんからの批評 (2003/11/30 04:08) フォント
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書き置きを残しただけで一週間もぶらりと出かける私と、出かけていって帰ってこない彼女。
『私』がギクシャクしていると思っている以上に溝は深かったのですね。

『そこを沢山のカゲロウが〜運命づけられた姿。』と『指の体温で羽が〜飛び去っていった。』の間の文は、その間に入れなくても良いように思いました。
カゲロウと彼女(あるいは彼女との関係か)を対比させるのに間に彼女に云々と入れたのかもしれませんが、あまり効果は感じませんでした。

細かい突っ込みをお許しください。
彼女のアパートなのに、彼女が帰ってこないのはちょっと変では。『私』のアパートにしておけば良かっのになあ、と思いました。

彼女と逃した魚の対比は面白い。私は釣りはやりませんが釣りの描写は魅力的でした。
□匿名さんからの批評 (2003/12/04 13:12) フォント
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つりが素人のわたくしには、つり描写はわかりやすかったのですが。かげろうと、逃した魚の二つはいらないだろうとおもいます。一つで十分。説明も要らない。つり描写に徹して欲しかった。で、帰ってみたら、いないと。彼女が行った理由は、分かります。淡々とアイスクリームを食べながら、いつ帰って栗かなと、楽しかった釣りを思い出すような馬鹿な男をもっと表現してあれば、彼女の立場からすると、溜飲が下がる。読者は勝手に、つりの逃した描写と重ね合わせるでしょう。
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