「彼女の笑顔」
ひがさ
「ねえ、虫の知らせって言うじゃない? あれって本当にあるのよね」
 ベッドの中でうつらうつらしていた僕は、彼女の言葉で一気に目を覚ました。彼女はそんな僕に気づかずに、興奮して喋り続ける。
「なんかさ、特殊能力っていうのかしら。わたしには、そういうのがあるみたいなのね。だって、わたしが『消えてしまえ』と思ったら、みんな消えちゃうんだもの。ふふふっ。おかしいわよね」
 僕は彼女の話を聞きながら、自分の心臓音が速くなるのを感じていた。
 彼女の『消えてしまえ』は死んでしまえという意味だという事を僕は知っている。
 彼女がまた、殺したんだ……
 僕と彼女がつきあってそろそろ半年が経つ。大学の後輩で、誰もが惹かれる高嶺の花のような彼女に僕も恋をした。僕は僕にできるあらゆる努力で、彼女を勝ち取ったのだ。彼女の為なら何でもした。彼女に何か問題があったとしても、僕はそれすら庇っていけると信じていた。彼女の笑顔が大好きだったのだ。
 僕は平静を装って彼女に聞いてみた。
「虫の知らせって、何かあったの?」
 彼女は誇らしげに僕の質問に答えた。
「ほら、上の階のうるさい子供がいたじゃない? あの子ね、夕方に車に撥ねられて死んじゃったんだって。わたし昼間に公園で見かけてそのとき思ったの。『消えてしまえばいい』って。うるさいし、生意気だったしさ、清々しちゃった。でも、こういうの虫の知らせっていうのかなあ」
 そうだ、彼女の気に入らないものは皆消えてしまうのだ。彼女の腕を引っかいた猫も、彼女の睡眠を妨げる犬も。そして、あの子供も……
 それでも僕は、そんな彼女の暴走に怯えならも、彼女が愛しくてたまらなかった。僕が彼女を守るんだ、彼女の笑顔を僕が守ってやるんだと。どんな事があっても。例え彼女が人殺しであったとしても。
 そんなある日、彼女が別れ話を持ちかけてきた。
「別れたいの、もう嫌なの」
 僕が一番恐れていた事だった。絶対に別れないと僕は叫んだ。
「君の為に何でもしてるじゃないか。愛してるんだ、こんなにも……」
「それが重たいのよ。分からないの? あんたなんて消えてしまえばいいのよ!」
 彼女の言葉に僕は確信した。僕は殺されてしまうだろう。そう、今までと同じように。
 僕はよろよろと立ち上がって、ベランダに出た。そして、そこから飛び降りた。
「やだ、また消えちゃったわ」
 落ちていく瞬間、彼女の笑顔が見えた。僕が彼女の笑顔を守ったんだ。これでいいんだ。これからは、誰があの笑顔を守るのだろうか。
 彼女の悪意のない笑顔に見守られながら、彼女の為に人まで殺した僕が消えてゆく。
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□名無しさんからの批評 (2003/11/11 13:49) フォント
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面白かったです。彼女を愛するあまりの過ちがブラックに描けていて。もう少しディテールを書いていくと、リアリティが増して良いかもしれません。
ただ、これは「虫の知らせ」ではないので(彼女がそう思いこんでいるにしても、誤用というところが微妙)、テーマに無理矢理こじつけてしまったような印象を受けました。
それと「彼女がまた、殺したんだ……」という一文の矛盾が気になりました。
□水夫さんからの批評 (2003/11/12 17:45) フォント
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虫の知らせ、というのがあまりにも強引。ですが、それを抜きにして内容は面白かったです。
□匿名さんからの批評 (2003/11/12 20:29) フォント
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うーーん、いい感じなんだけど、ラストが気にいらないなぁ。愛情と憎しみは背中あわせ。そこまで尽くした男(なんかそういうのも個人的には嫌いなんですが)は最後にどんでん返しで、復讐の鬼となる。なんてのもいいかな。あと、統計によると飛び降り自殺ってのは女性的な死に方というのが一般的ですので、電車に飛び込ませてもいいし、いっそ心中とかいうオチでもいいかな。そうすればブラックとも増して読者を引き込むことができるかと。。
□名無しさんからの批評 (2003/11/12 23:43) フォント
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 いいと思うんですけどね。なんか登場人物に興味がわかないのですよ。主人公は影が薄くていいと思うんですけど「誰もが惹かれる高嶺の花のような彼女」がどれほど魅力的で悪魔的なのかを感じないんです。
□名は無いさんからの批評 (2003/11/13 20:57) フォント
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ほう、そうきたか。そう思わせられるラストでした。良い発想だと思います。彼女よりも、主人公のほうが狂っていたわけですね。

意図的だと思うのですが、文中で主人公が「彼女がまた、殺したんだ……」という風になっていましたが、そこが最後まで読むとあれは思い込みなのか?となるので、その辺の表現を曖昧にできたら面白いだろうなと思いました。
□名無しさんからの批評 (2003/11/13 23:08) フォント
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それは「虫の知らせ」じゃないでしょ。それとも意図的に間違っているのでしょうか。彼女の為に人まで殺した僕だから、彼女が「虫の知らせ」と言えばそうなるのかな。だとしたら、こじつけっぽくないでしょうか?
□名無しさんからの批評 (2003/11/16 13:28) フォント
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虫の知らせ、と言うのは何の根拠もないのに、物事が起こりそうな感じがすることであって、思ったことが本当になることではありません。最初は本編中の女性が、そう例えて言っているのか、と思いましたが、読んでいくうちに筆者の勘違いだと思えるようになってきました。もし、例えて言っているのならば、それを一文但し書きしておく必要があると思います。

誰もが惹かれる高嶺の花、とありますが、一般的に好まれている女性だったら、どこが好まれているのかを書かないと、読者にはその「高嶺の花」の実感が湧かないと思います。もっと、文章割いてでも書いておくと、彼女の狂気と対称的になって印象に残る話になったのになぁ、と思いました。

ただ、ラストの主人公自身も狂っていた、という流れは良かったです。本文後半の最初、「それでも〜」が効果的で充分納得させる構成でした。
□phさんからの批評 (2003/11/16 19:20) フォント
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いいと思います。ラストもすとんと落ちた感じがしました。
虫の知らせって、胸騒ぎとかそういう感じだと思うのですが、この文だとちょっとニュアンスが違うな、と言うのが気になりました。
あと彼女も彼もどうも現実味が薄くて、お話に入り込むことが出来なかったのが残念でした。
□匿名さんからの批評 (2003/11/16 22:55) フォント
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「虫の知らせ」にこじつけ、何でも自分に都合よく物事が運ぶと思ってる彼女が小憎らしくていいです。いい意味で彼女にはイライラしました。
でも「僕」の存在が中途半端で気持ち悪いです。なんとしても彼女を守りたくて孤軍奮闘してると思しき「僕」が、ふられたからって何も簡単に投身自殺しなくても……
こういう男なんだと思うことも出来ますが、主人公には我侭な彼女に重たいと思わせるほどの何かがあるはずなので、そこも加味したオチを望みます。
□名無しさんからの批評 (2003/11/17 10:46) フォント
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主人公も壊れてるのには気付きませんでした。
彼女も壊れているのであればもう少し狂気じみたエッセンスを加えても良いのかなとおもいました。

□名無しさんからの批評 (2003/11/19 22:43) フォント
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彼女がどんな心惹かれる女性なのかという説明があれば、もうちょっと納得できたと思います。
「高嶺の花」だけじゃ、主人公をここまで狂わせる魅力が伝わってこないので。
でも実は主人公が壊れていたっていう落ちは全然見えなくて、驚きました。
□名無しさんからの批評 (2003/11/30 05:37) フォント
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「虫の知らせ」という発想は良いですが、普通は悪い知らせの時に使うような気が。単に彼女の勘違いと取るべきでしょうか?

僕は彼女が手を下していたと思っていたはずなのに、ラストでは『彼女の為に人まで殺した僕』になってしまっているのが気になりました。
彼女が殺人までしていると知って(もしくは思い込んで)途中から僕が代わりに殺人をするようになったのであれば心の葛藤が希薄な気もします。
それともここで言う『人』とは、彼女の笑顔を守った僕自身だけのことだとしたら、私に読解力がないのかもしれませんが。

お話自体は面白かったです。
□名無しさんからの批評 (2003/11/30 12:43) フォント
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 虫の知らせというのはやはり強引な気がします。というか、虫の知らせの意味が違うと思います。

 彼女が殺したと思ってた子供は、実は主人公が殺したのだと伝えるのであれば、最後まで主人公はそれを気付かないように終わればいいのでは? 例えば『子供を突き飛ばした時の感触がまだ残っている』とか曖昧に表現しておいて、それでも主人公は自分が手を下したことは覚えていないとか。自分が殺したと自覚している時点で、「彼女が殺したんだ」という一文に矛盾が生じます。
 それとも直前に思い出したのでしょうか。それなら、バラバラだった主人公の記憶が繋がっていくような一文がないと矛盾は残ったままかと。

 物語の流れ的なものはいいと思います。これからも頑張ってください。
□匿名さんからの批評 (2003/12/04 13:34) フォント
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話としては、落ちが面白かった。しかし、虫の知らせの意味が違いますね。虫の知らせとくるから、ラストをこう読まなかったので、以外でおもしろかったと言うのが本音です。お話としてはありますね。彼女の望むことをしてあげることにのみ喜びを感じる男。彼女も彼も、語らなくても、どんな人か見えてくるので説明は要らないのですが、一番知りたいことが書いてない。なぜ、彼女がこの男と付き合う気になったのか。(私の好みじゃないと言うことでなくても)気が知れない。

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