「なきむし」
あてなるもの
 小さいときから泣き虫だった。一番大泣きしたのは、確か結婚式の前の晩。小さい時から、泣いた後に撫でてくれるお母さんの手の感触が、大好きだった。泣き虫の私はそれで安心した。お母さんの手がそばに無くなるのがたまらなく不安で「大丈夫よ。」って言いながら撫でられた私は大泣きした。
 夫とは、職場結婚だった。入社したばかりで、失敗を繰り返す私に先輩女子社員はなにかと嫌味を言った。「そんなの、ま、いっかで済ましとけよ。無視、無視。」いつもそういって、慰めてくれたのが夫だ。ある日、しつこい嫌味を言われた私は、非常階段の踊り場で泣いた。「大丈夫?」と、彼は私の頭を撫でた。その夜、飲みに誘われた私は家に帰らなかった。そして私は彼と結婚した。
 夫は不器用な私が可愛いと言った。私だっていつまでも不器用なままで通るわけじゃ無いこと位分かってはいたけれど。朝ちゃんと起こせよ。掃除下手だな。この味、薄くないか?言われるたびに、私はちょっと泣いた。
 学生時代からの友達は、独身、既婚、OLにフリーターと、環境が複雑になり、会話がかみ合わなくなった。いつの間にかみんなで集まることは無くなった。その代わり、いつでも家にいるのが当たり前のような私の所へみんなは別々に訪ねてきた。夫は嫌がった。時間があっても、家事もちゃんと出来ないんだから、時間が無いからと断ればいいじゃないかといった。けれど、学生時代、ずっと友達を頼りにして来た私は、みんなの話を聞いてあげたかった。夫はもう私を怒らなくなった。私は、いつしか泣かなくなった。
 友達の話を、いつも頷いて聞いていた。自分と置き換えると、いつも理解してあげられた。不倫と言われても、人をまっすぐ愛する切なさ。夫の浮気に気付いたときの湧き上がる憎しみ。子を持ったばかりに無くなった時間とお金。バギーの赤ちゃんを見るときのうらやましさ。分からなかったのは、「嫌になった。」の一言で離婚してしまった友達の気持ちだけだった。
 ある晩珍しく、夕御飯を食べに行こうと友達が誘ってくれた。夫に言うと「ふ〜ん、行けば。」気の無い返事だった。私は久しぶりの夜の街がうれしくて、時計を見た時には既に十一時を回っていた。慌てて帰った私を夫は待っていた。遅くなってごめんねという私を「何考えてんだ。」と怒鳴りつけ、夫は久しぶりにねちねちとなじった。最後に夫が言った。「ま、いっか。」
 ポロリと涙が出てきた。最後に泣いたのはいつだったろう。ま、いっか。は、どうでもいっか。あの日、夫に頭を撫でられなければ。ふふふ。ははは。あっはっは。「私はどうでも良くはないのよ。」私は泣いた。笑いながら泣いた。夫は不気味なものを見る目でこっちを見てる。「嫌になったの。」そう言った友達に、明日の朝一番に電話しよう。そう決めて、にっこり笑って夫を見つめ返した。
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□名無しさんからの批評 (2003/11/10 22:24) フォント
発想
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こ、怖ぇぇぇぇぇ! 勘弁して欲しいですマジで(笑)。

簡潔に「だった」「だった」と進むので、そしてその度に「こうした」「こう思った」と心情を明確に挟んでいくので、語り手の心の流れを迷わずに追う事ができました。そのために、最後のインパクトも最後に至るまでの過程もはっきり伝わってきました。
簡潔文体もこの作品に合っているようですし、とてもいいと思います。

構成も上手ですね。伏線を使って論理的に物語を組み上げることに成功していると思います。

ただ難点をあげると、冒頭の語りが、少し分かりづらいかもしれないなと。僕はですが、最初の部分を読んだ時には「これは小さい時の回想で進む話なんだな」と勘違いしました。というのも、『小さいときから泣き虫だった。』と来て『一番大泣きしたのは、確か結婚式の前の晩。小さい時から〜〜〜泣き虫の私はそれで安心した。』と来たので、てっきりこれはその小さい時のエピソードなのだと、この結婚式というのはその小さい時に行った親戚か何かのなのだろうと思ってしまって。
回想シーンに「小さい時」のことと「結婚する時のこと」の両方の叙述がなされているので、少し混乱しました。
他がきっちりと整理されて書かれているので、ここももっと整理して書けばより良かったんじゃないかと思います。こんな勘違いをしたのは僕だけかもしれませんが……(すいません)。

総じて、無理なくまとまっていて、とてもよい作品だと思います。
評価が「花」なのは、文体が簡潔で内容もある意味普通で突飛なところが無い分、ちょっと全体的に味気ないかなと思ったからで。ラストは個人的に衝撃度大ですが(笑)。
以上です。このまま成熟することを望みます!
□名無しさんからの批評 (2003/11/11 14:46) フォント
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張りつめた糸の切れる瞬間、という感じでしょうか。淡々と語られるエピソードがどんな結末を迎えるのだろうと思ったら、こう来たか。
リアリティに欠ける部分があると感じましたが、女性の一人称なのでこのくらいのほうが逆に面白いのかもしれませんね。
□名は無いさんからの批評 (2003/11/12 05:18) フォント
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ラスト、妻が壊れてしまい、どう行動したのかがとても気になります。「ま、いっか」で何でもしてしまいそうですね。こりゃ怖い。そんな合わない男と結婚までするなよ。って思いました。

夫が主人公に対し興味を失っていくように読めたのですが、一転久しぶりとはいえ怒ったりして、その後「ま、いっか」で済ませたりと、夫に対してちぐはぐな印象を受けました。それが狙いだったのならばすみません。私には解かりませんでした。
何かが足りず、何か花がある、そんな文章だと感じました。私の批評力外です。すみません。
□水夫さんからの批評 (2003/11/12 18:35) フォント
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夫が怒らなくなるのが唐突なのがちょっと気になりました。しかし収束、ひいては全体ではお見事。
□匿名さんからの批評 (2003/11/14 13:34) フォント
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うむ。どうしよう。批評するまえに出来の良さに感心してしまいました。学ぶべきところ多し。こまった。コマッタ!次回も楽しみにしています。嗚呼、批評になってなくてゴメンナサイ。
□名無しさんからの批評 (2003/11/14 19:53) フォント
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 良くできてると思いますが、ピンと来ません。きっと、これはきっと私の読解力の問題なんでしょうけど、ラストにいたるまでの説得力がいまいちだとおもっちゃうのです。
 発想としては「虫」をそれなりに生かしていると思いますし、盛り上げ方も悪くないので構成もいいと思います。表現を「葉」にしたのは短いセンテンスばかりで、それが狙いだとしても、逃げだと思えたからです。
□名無しさんからの批評 (2003/11/15 00:35) フォント
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最後の、「ま、いっか。は、どうでもいっか。」という表現は、何度読んでも上手いなあと思ってしまいます。身勝手な夫が、妻への関心が薄れていく経緯。自分には「虫」というテーマでこの発想は絶対できないので、すごいなあと思ってしまいました。

ただ、夫の関心が薄れていく途中、妻の側の夫への愛情はどうなのか、という部分が薄いと思います。次回はどんな発想をしてくれるのか楽しみです。
□名無しさんからの批評 (2003/11/15 15:32) フォント
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冒頭部分の「一番大泣きしたのは〜」は必要だったかなあと思います。
淡々とした話の進め方は、いいなあと思いました。
□名無しさんからの批評 (2003/11/15 17:35) フォント
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こわいなあ・・・他人事とはおもえないですねえ
夫の無関心になにか説明かあればしっくりきましたが、あまりに急な変化でちょっと?

しかし、怖い・・・
□名無しさんからの批評 (2003/11/16 17:12) フォント
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恐いとは思いましたが、ごめんなさい、私にはそれしかわかりませんでした。
でも書き方はとても書き慣れている感じで、言葉の選び方も上手だと思います。
□phさんからの批評 (2003/11/16 19:55) フォント
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上手いですね。
箇条書きの文を羅列したような感じですが、それが淡々としていて味になっているのだと思いました。
最後に泣き虫の自分を取り戻した私に、とても感情移入できました。こっちが泣きそうです。
□名無しさんからの批評 (2003/11/17 00:53) フォント
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単純に面白かったです。
文章の中で特に気になった部分も見当たりませんでした。
□匿名さんからの批評 (2003/11/18 12:30) フォント
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すみません、私にはよくわかりませんでした。何故私が泣かなくなったのか、「ふ〜ん、行けば。」と気のない返事をした夫が何故あそこまで怒ったのか。怖いとも思えませんでした。私のこういう話をリアルに想像できるだけの経験がないからですかね。
文章のつづり方やストーリー構成は素晴らしいのでしょうが…
□名無しさんからの批評 (2003/11/24 14:37) フォント
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 まず、会話文中の読点は必要ないので「省略した方がいいと思います。あと「〜」という記号は小説では使わない記号なので「ー」の方がいいです。会話文は、地の文に入れるのでなければ改行が必要だと思うのですが、ほとんど全ての会話文が独立した状態で地の文に混ざっているのが気になりました。

 ただお話としてはとても面白かったです。夫を見限った妻の心境がよくわかる話だなと。
□名無しさんからの批評 (2003/12/01 01:10) フォント
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お母さんのように頭を撫でて安心させてくれ、口やかましくもある存在を夫に求めていた妻の目覚め。
お話としてはとても面白く、最高でした。明日の朝になったら夫も『ま、いっか』では済まない事態になりそうな雰囲気で終わらせた、後味を引く怖さも良かったです。

細かくてすみませんが、表現で気になった点をいくつか。
会話文の締めくくりには句点は必要ありません。

最終段落の前は特に『た』『だ』で終わるところが多いので、単調な気がしました。

一文が短かったり、句読点もやや多いでしょうか。これは皆さん好評価をされているので、私の主観だと思って頂いてもかまいませんが、小学生の日記っぽく感じてしまいました。妻の精神的な幼さを表していると言えなくもないですが、好みの問題かもしれません。

『って言いながら』は「と言いながら」、『見てる』はここだけが「い」抜き言葉なので「見ている」の方が良いように思います。

『うらやましさ』『うれしくて』など、漢字にして欲しいところが何箇所か。

『いう』と『言う』はできれば統一して欲しい。

細かい突っ込みを入れましたが、次回作品が非常に楽しみです。
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