「羽」
くらり
 学校に行かなくなっていったいどのくらい経つのだろう。もうだめかも知れない。明日の事を考えると、眠たくって、なんだか、こう、起きてられないんだ。病気だと思うよ。先生もそう言ってた。鬱じゃないですか、って。医者でもないくせにさ。ふざけてるよ。
 ベランダのサボテンが羨ましい。時々の水だけで生きている。たまには水でも注そうか、それとも息の根を止めてあげようかと窓を開けたその時、喧騒な声が耳を突いた。
「閉めろーっ。早く! 早く、しめろーおっ」
「えっ?」理由もわからぬまま月海は慌ててサッシを閉めた。と同時に、小石のような何かが部屋に飛び込んできた。
「オマエ、鈍いヤツだな。ふっ。危なかったぜ」と蟷螂が破けた左羽に「あーあ」という素振をし、ふんぞり返って話を始めた。
 なんでも、蟷螂はジーザスという名前を持つ雄で、好きでもない雌に食べられそうになって逃げ込んできたらしい。
「わわっ、それって、情けなくない?」月海は飽きれて言った。
「オマエにはわからねーよ。オレ様には時間が無いんだ。時間は限られてるんだぞ」と、今度は窓を開けろと指図する。
「どこ行くの?」
「彼女のとこさ」蟷螂はすでに部屋から飛び出していた。
 夢? だよね? だとしたら、嫌味な夢だ。もう私、このまま落ちていくのかも知れない。

 叶わぬ夢の中に少女がひとり立っていた。
 叶わぬ夢の中では、桜がいつも満開で、散っても散っても花を咲かせた。
 叶わぬ夢の中では、何かそそられるものがあるらしく、蝶たちは、「行かなければ……行かなければ……」と狂ったように集まった。
 そこで始まるカーニバル。蝶たちは自慢の羽がボロボロになるまで踊り狂った。
 夢の中に少女がひとり。
 ボロボロになった羽の舞うのを、じっと見ていた。片手にひとつ、羽を握って。

 何か重大な夢を見たような気がして、現の中で目が覚めた。なんだったけな、思い出しそうなんだけど。
 時計を見るともうすぐ3時。下校時間になる前に、ジュースでも買っとくか。私はこうやって、引き篭もりになるのかもしれないね。
 夏の終わりの風が、汗ばんだ肌に心地よい。
 あ、花びら。
 風に乗って、花びらが舞う。目は何気にそれを追った。視線は薄汚れた蝶の羽で静止する。そして、木の根元に死んだ蟷螂の羽が風でパサリ。
 ジーザス? ま、まさか……ね。

 月海はふと呟いていた。
 行かなきゃ。時間は限られてるんだ。
 手に持ったコンビニの袋が揺れた。
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□名無しさんからの批評 (2003/11/10 15:21) フォント
発想
構成
表現
総合
『行かなきゃ。時間は限られてるんだ。』
この言葉がおそらくこの作品のテーマなんだろうと思います。夢の中(白昼夢?妄想?)で擬人化された蟷螂から、どうにもならない自分に暗示的な言葉を送られ、それと蝶の夢(白昼夢?妄想?)とが合いまって、主人公が少し自分を見つめなおす(? それとも夢という形で自分の心を客観的に感じる? ただどちらにしても、この不安定そうな心情がこの作品の表現のテーマなんだろうとは思いました)という話だと受け取りました。

しかし、なんにしても、作品中で人称がこうも変わるのはどうかと思います。多分意図的にでしょうが(前半だけでなく後半でも人称の変換があるところを見ると)、前半は1行空白を空けるなどして明確な区切りをつけているわけでもなくて唐突だし、またなんらかの表現的効果が生まれているわけでもない(あるのかもしれませんが、僕は気づきませんでした)ので、こうも人称を変えられると読んでいて不安定で、つながりが悪い印象があります。

また、冒頭の文章は「1人称の語り口調で、弾けてて面白いな」と思ったんですが、てっきり文体から主人公は男なんだと考えていました。これは僕だけがそう思ったのかもしれないですが、ただどちらにせよ、冒頭における語り手の性格『〜医者でもないくせにさ。ふざけてるよ。』と、後の独白『私はこうやって、引き篭もりになるのかもしれないね。』などから受け取れる性格とにギャップを感じました。急におとなしくなったというか、弱気になったというか。なまじ冒頭に「勢い」があるだけに、その勢いがその場だけで終わってしまっているので、主人公の性格づけがちぐはぐになってしまっている気がします。

文章においては、蟷螂が話すというのは別に全く構わないのですが、そういった非日常的キャラクターが登場していきなり
『〜危なかったぜ」と蟷螂が破けた左羽に「あーあ」という素振をし、ふんぞり返って話を始めた。』
と、読者が息をつく間もなく物語に溶け込んでくるのには、いくらなんでも唐突すぎます。そうすることで非日常感を強調させたかったのかもしれませんが、ここはせめて文を2つに分けるなりして、間を置いて欲しかったです。

ラストを
『手に持ったコンビニの袋が揺れた。』
の1行で締めるのは、余韻があっていいと思いました。
ただやっぱり、この余韻と作品全体の関係も、ちぐはぐでつながっていないように思えました。というか、一つ一つのシーンがどれも作り出されている雰囲気がバラバラで、一つの物語としての統一感が薄い気がします。結果、物語が読者にとって非常に消化しにくいものになってしまっている感じです。

発想は独特でいいと思います。ですからあとはもう少し文章に安定感が欲しいと思いました。
評価も厳しめにつけました。でも僕なんかの意見にヘコまずに(笑)、次も頑張ってもらいたいです。
□名無しさんからの批評 (2003/11/10 21:35) フォント
発想
構成
表現
総合
 カマキリの名前がジーザスってのはどうなんでしょうね。当然、キリストを思い浮かべると思うのですけど、うまく象徴になってない気がします。
 他の部分も文章が、文章になる前の未消化なままに記述されているような気がしました。
□名無しさんからの批評 (2003/11/11 14:54) フォント
発想
構成
表現
総合
雰囲気は良いし、書きたいことも解るのですが、やはり人称が変わることと、文章に妙なつっかかりがあって、良さを活かしきれていないように思います。
もうすこし構成を練ってみてください。たぶん、発想はとても面白いと思いますので。
□名は無いさんからの批評 (2003/11/12 05:04) フォント
発想
構成
表現
総合
月海は何となく、軽快な少女だったというイメージを持ちました。年齢が低めで、絶望を知らない、そういったところに好感を持ちました。(ロリコンじゃないですよ、念のため)
そして、カマキリのジーザス、蝶たちともにきちんとしたキャラクターとして著者の愛を感じることができたので、素晴らしいと思います。俺には真似できない。

さて、読んでて感じた事なのですが、カマキリのメスは交尾をしないとオスを食べないんじゃないかなと少し疑問をもったのが一つひっかかりました。ジーザスは浮気したのでしょうか。
また、夢の中の少女が消化不良の存在として残されているのが気になります。結局何者だったのでしょう。月海本人だったのでしょうか。
□水夫さんからの批評 (2003/11/12 18:37) フォント
発想
構成
表現
総合
一本の作品、というには散漫な印象。漂う空気はきらいじゃありません。
□匿名さんからの批評 (2003/11/13 06:00) フォント
発想
構成
表現
総合
ううむ。きっとまとめようとしましたな。このプロットで行くなら、もっと、もっと、壊れた、デタラメな、そういう方向で書くと(たぶんそういう素養をお持ちかと想像)すごく良くなると思います。折角でてきた少女、これなんとか壊しちゃいましょう(おい)次回、マジ期待しています。万人に受ける方向ではないほうに才能の香りが感じられます。
□名無しさんからの批評 (2003/11/15 17:29) フォント
発想
構成
表現
総合
すいません、ついていけませんでした。
なにか壊れた感じだけつたわりますが、どうですかね?

□名無しさんからの批評 (2003/11/15 21:31) フォント
発想
構成
表現
総合
 これだと少し散ってしまっている。
 蝶のエピソードを入れるよりは、一つに絞って、ジーザスが幸せに食べられる姿でも書いた方がよかったかもしれない。
 もしくは主人公自身の描写を増やすか。
 雰囲気は好きです。
□名無しさんからの批評 (2003/11/16 17:03) フォント
発想
構成
表現
総合
イメージが分散しちゃってるのかな、と思います。
書きたいことは伝わってきますが、書きたいことが多すぎるんじゃないでしょうか。
引きこもりになった自分と夢と蟷螂のジーザスと、1200字でまとめるにはちょっと欲張りすぎてる気がします。
でも言葉の選び方なんかはとっても好きです。
次回、楽しみにしてます。
□phさんからの批評 (2003/11/16 20:01) フォント
発想
構成
表現
総合
物語の要素がいっぱい出てくるのですが、どれも中途半端になってしまっていて、全体としてのまとまりが見えませんでした。
伝えようとしている雰囲気は好きです。
□名無しさんからの批評 (2003/11/17 00:47) フォント
発想
構成
表現
総合
カマキリの名前がなぜジーザスか?という疑問を持たせた時点でいいと思います。抽象的作風は全てを解くことに重点を置かれ勝ちですが、それ以上に構成が大事だと思います。
この場合、途中の(「叶わぬ〜」の部分)幻想的なところと前段の部分がもう少し上手くつなげられるとエルヘンチックな感じになるかもしれません。
□匿名さんからの批評 (2003/11/18 12:47) フォント
発想
構成
表現
総合
半引き篭もりの主人公の内面の焦りを、ジーザスという突拍子もない、刹那的な生を謳歌する蟷螂が抉り出しているのかなー、と。具体的に訴えかけるメッセージを発信している小説は嫌いではないです。
3つのパートに分かれると思うのですが、2番目の蝶が舞う夢が良くわかりません。前後を繋いでいるのかしら、とも思いましたが上手く繋がっていない気がしました。抽象的過ぎるからですかね。具体的な描写で置き換えた方が、読者にはわかりやすいと思いました。
□名無しさんからの批評 (2003/11/19 02:26) フォント
発想
構成
表現
総合
 最初、一人称の話しかと思ったら、途中で三人称に変わって、「さっきのはなんだったんだ?」という感覚になってしまいました。
 1回読んだだけでは解かりづらく、2〜3回読み直してようやく自分なりの解釈に辿り着きました。が、それにも自信が持てないのは、やっぱり作者の方の伝えたかったことが上手く私の中に入ってこなかったということなのでしょうか。すいません。何を書いてるのか解からなくなってきましたが、そんな印象の話でした。

 独特な作品だと思うので、読者を選ぶかもしれませんが、そういうのを狙ってみるのもまたアリかもしれません。
□名無しさんからの批評 (2003/11/30 17:53) フォント
発想
構成
表現
総合
「行かなきゃ。時間は限られてるんだ。」この台詞はとても良いですね。
ただ、全てのエピソードが中途半端かと想います。ジーザスをメインにするなら、もっとジーザスと主人公の対話を読んでみたかった。夢の意味は分かりにくいし、ジーザスらしき蟷螂の死体との関係も全然ピンと来ないのです。
ジーザスという蟷螂や、台詞は惹かれるものがあるだけに、消化不良の読後感がつらい。
□名無しさんからの批評 (2003/12/01 01:12) フォント
発想
構成
表現
総合
何と言うか、散文の詩のような独特の世界ですね。雰囲気はとてもよいと思います。
夢の中の情景が映像化したら綺麗だろうなとも思いました。

ただ、やはり一人称と三人称が混ざって読みづらいように思いました。
せめて行間を空けるとかしていただけると嬉しい。
個人的には一人称で進めた方が良いのではないかと思います。

作者の解釈を聞いてみたい気になった作品でした。
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