「風の歌」
hidesuke
 昼間の暑さとは打って変わって涼やかな風が吹く。縁側に座り、瓶子から酒を酌み、庭を眺めている。庭…と言っても囲いなどはない。目の前に広がる全て、地平の果てまで続いているこの荒れ野原が彼の庭だ。草木は青々と茂り、夏の名残を残しているがその中にも小さな秋が芽生えはじめている。鈴虫の声。ふと目をやると、空になった瓶子の淵で赤蜻蛉が羽を休めている。
 東の空を見上げると、つい数年前まで自分がいた、煌びやかな宮廷の夜を思い出す。
 元明天皇が即位し、慣れ親しんだ藤原京から平城京へと遷都が行われた。自分が仕えた持統天皇は上皇となり、今は東国行幸の最中である。
 そして自分は筑紫の荒れ野を望み、一人酒をあおっている。
 何故宮廷をでたのか?
 旅先でよく聞かれる問いだ。
 自分でも良く分らない。
 しかし後悔はしていない。
 してはいないが、時折都を思い出すときがある。懐かしくも思う。
 そう、丁度このような月の夜には、都の、どこそこの、やんごとなき姫君のことを思い出したりする……

 闇。
 月と星、そして蝋燭の光だけが照らす闇。
 そんな中、私は姫君を見ていた。
 一宮廷歌人である自分が、やんごとなき姫君を思うなど……許されぬ恋、それゆえに燃え盛る思い。悶々と、ただ悶々と垣間見ている間に一人の男が夜這ひに訪れた。
 暗闇故、顔は分らない。しかし、ちらりと見えた牛車から身分の高さを伺える。
 悪いのは血筋か、官位か。
 歌の才能などは肝心なときに役に立たないものだ……
 その夜はそう、思った。
 そして今夜、姫君は月を見上げ待っている。
 私ではない。あの男を……
 月は傾きはじめ、あと数刻もすれば夜が明ける。
 そのとき姫君ははらりと涙を流した。
 月の光を受け止めた大きな雫……
 雫がキラリと光った瞬間、歌が聞えた。

 あしびきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝む。

 綺麗な月夜はついこの歌を口ずさむ。
 こんな夜は、こんな歌を枕に眠るとしよう。
 私の名は柿本人麻呂。
 歌を愛し、歌に死ぬ男。
著作権について
 
 
□さよさんからの批評 (2003/10/10 00:40) フォント
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構成
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総合
闇。という改行のし方がとても好きです。
漢字とかなのバランスが、雰囲気にとてもよく合っているとも、思いました。
最後の行はなくてもいいのかな。これまでさらさらと流れていた文章なので、気負いみたいのが見えたのはちょっともったいない、ような気がします。
□名無しさんからの批評 (2003/10/10 00:59) フォント
発想
構成
表現
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批評します。よろしくお願いします(ペコリ)。
えーと、まず最初のところですが、「彼」と出てくるのでてっきり三人称の話なのかと思ったら、あとが一人称だったので、ちょっと「アレッ?」と思いました。
そして、最後に「こんな夜は」とあるのに、最初の文章から受ける印象はなんとなく「夕方、またはまだ明るい時間帯」なので、それもどうかなと思いました。夜なら暗いと思うのですが、それにしては随分と風景の描写が正確だなと。「目の前に広がる〜」とか。
また、「なぜ〜」は何も「旅先」で訊かれる質問でなくてもよかったのでは。ちょっと不自然というか、この場面(隠居生活?)の印象とは合わない気がしました。もしかしたら主人公の史実的事情からそうされたのかもしれませんが。
それと、「そんな中、私は姫君を見ていた〜」以下のところ、回想シーンなのか回想を元にした詩的空想シーンなのか、いまいち分かり辛かったです。多分「そんな中」「その夜は」「そのとき姫君は」といった表現によって、その場面の絵的な情景描写をしようとしたんではないかと思うのですが(勝手な推測)、あまりうまくいっていない気がします。それに「その夜はそう、思った」という文章からは「だが今夜は〜」といった文章が予想されるのですが、そうではなかったので「?」という感じです。

ただ、全体としてはいい雰囲気でいい話だなと思います。
□名無しさんからの批評 (2003/10/10 02:56) フォント
発想
構成
表現
総合
基本的に一人称なのに、冒頭部の『彼の庭』は違和感を感じました。
『旅先』で間借りした「他人の庭」=『彼の庭』という意味の表現のつもりだとしても
その『彼』については記載がないので、読者はそうは解釈できないと思います。
意図的にでなく、うっかりそこだけ三人称で書いたなら、今後は人称を合わせるべき。
             
『雫がキラリと光った瞬間、歌が聞えた』と『綺麗な月夜はついこの歌を口ずさむ』は、
同じ『あしびきの〜』の歌を指していると思われるが、姫君が詠んだのかと受け取れなくもない。
『私の名は柿本人麻呂』は『あしびきの〜』を口にしただけではわからない読者もいるだろうと、
あえて加えた、もしくはこれがオチであっただろうがストレートに出しすぎかと思います。
たとえば第三者から「柿本人麻呂様では?」といった言葉をかけさせ、それに応じるシーンが入るなど、
表現の工夫があれば上手いとオチになったと思わせるだけに残念。
(これは字数制限のせいなのかなというフォローを入れたくなる気もしますが)

物語の着眼点が面白いし、他にも季節感を感じる良い表現も随所にあり、今後の活躍が楽しみです。
特に『こんな夜は、こんな歌を枕に眠るとしよう』は印象に残る良い表現だと思いました。

□ともろさんからの批評 (2003/10/10 06:59) フォント
発想
構成
表現
総合
掲載順に読んでいったので、この作品を読んだときはとてもわくわくしました。

「発想」:
枕というテーマで、柿本人麻呂をもってくるところで既に良いセンスだと思いました。叙情的な文の運びも洗練されたものを感じましたが、押しの一手とでも言うんでしょうか、読者を引き付ける力が多少不足しているといった感じです。

「構成」:
↑の方々が言ってらっしゃるように、凡ミス(ときに致命的)が見られるようです。客観的に推敲するようにしてはどうでしょうか。

「表現」:
けっこう好きでした。無駄がないとは言い切れませんが、雰囲気作りにはかなり長けていると思いました。

「総合」:
個人的な日本史趣味もありまして、「花」とさせていただきました。次回作が楽しみです。
□名無しさんからの批評 (2003/10/10 12:18) フォント
発想
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総合
短い展開で中世の世界に引き込まれました。

細かいところですが、
『東の空を見上げると、〜思い出す。』
の一文、少しつっかえてしまいました。夜明けを見て、その情景に自然と思い出される、という表現でしょうが、何を見てどう思い出されたのかが読みきらないと理解できないかもしれません。

後半の姫君の気持ちを和歌で匂わしているところ、とても素敵です。
□名無しさんからの批評 (2003/10/10 19:37) フォント
発想
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総合
モノローグなのに説明的過ぎる気がしました。都の名前をいちいち出すより単に遷都した、天皇の名前を出すよりも「帝」としたほうがスムースな気がします。
また前半に「藤原京」「平城京」「持統天皇」などの名詞が出てしまうせいで人麻呂の歌が出た瞬間の驚きが薄れてしまっている気がします。
でも、十分に面白かったです。
□セツナビトさんからの批評 (2003/10/10 19:52) フォント
発想
構成
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総合
いいですね〜。こういう雰囲気すごく好きです。優雅で、どこか凛としていて……ああ、好きです〜。
と、騒ぐのはこれくらいにして。
『闇。』以降は、人麻呂の回想だと私は読み取りました。情景が浮かんできて、人麻呂に共感しました。ああ〜、せつない。
『歌が聞こえた』というくだりは、姫君が詠んだものが聞こえてきたという意味と、人麻呂の脳内にぱっと浮かんだという意味、どっちにも取れますね。短歌の知識があまりないもので……(すみません)。
あと、主人公が人麻呂であることを明かす部分については、他の方と同意見です。また、前半が少し説明的なのも。むしろ誰かを明かさない、という手もあったかも……いや、へなちょこが言うことですから聞き流してくださいっ。

いろいろ書きましたが、それがあまり気にならないくらい引き込まれました。これからもがんばってください。
□名無しさんからの批評 (2003/10/10 20:23) フォント
発想
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総合
これだけの字数でここまでの事を描写できているというのはすごいと思います。しかし、なんだかこう、すっとからだに文章が落ちてきてくれない、というか、一応流れはあるのですが、ひとつひとつの事柄が飛び石みたいにあるように感じてしまいます。

私の読解力が不足しているのか、時間の流れ方がよくわからない、というか、どうしてもこう、すんなりとは読めない感じです。それがとてももったいない。。。

全体的には好きです。だからこそ、なんだか勿体無いって思っちゃいました。
□名無しさんからの批評 (2003/10/10 21:13) フォント
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総合
冒頭の文章で、夕暮れをイメージしていました。
その後「月の夜」だと書いてあり、正直違和感を感じました。
短い文章の中で、とても良い雰囲気が出ていると思います。
もう少し推敲に時間をかけてみてはいかがでしょうか。
□トビィさんからの批評 (2003/10/10 23:02) フォント
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総合
人麻呂さまぁ!キャーー!えー、少女コミックの絵が浮かびまする。うんうん。そんな風が吹いた感じ?って言ったら失礼かなあ。マンガ化して頂いてもいいかも!(いい意味で)
□名無しさんからの批評 (2003/10/11 15:45) フォント
発想
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総合
「彼の庭」だけ三人称なのが気になります。
あと
「その夜はそう、思った。」
のところに違和感があります。
そう思ったのはその夜だけなのか?今はそんなことは無いが、という風に読めます。
それが意図するところでしたらすみません。

でもとても雰囲気作りが上手いと思います。もっとhidesukeさんの作品を読みたくなりました。



□名無しさんからの批評 (2003/10/11 19:34) フォント
発想
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総合
とても雰囲気のある良い作品でした。
ただ、最後二行はなくてもいいかな、と思いました。柿本人麻呂という名前が思い出せない人だとしても、さすがに「あしびきの〜」という歌くらいは聞いたことがあるだろうし、実在の人物だということが解ればそれでこの作品の雰囲気としてはOKという気がするので。
□名無しさんからの批評 (2003/10/11 21:23) フォント
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狙いはおもしろいと思った。
どうせなら、古語のアクの強さを出してくれた方が自分の好み。テーマが薄まって個性がほとんどない作品になった気がする。
□匿名さんからの批評 (2003/10/11 21:45) フォント
発想
構成
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総合
時代背景、短歌を取り入れるなど発想の豊かさが伺えました。
ただところどころ文章がおかしいところがあるので、客観的に推敲することが必要だと思いました。
□名無しさんからの批評 (2003/10/12 14:59) フォント
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総合
歴史物がもともと好きでないのと、歴史的な人物の恋物語みたいなのが苦手なこともあって批評のとっかかりをつかめずにいるのですが...
良くも悪くも同人誌的に見えてしまいます。それなりに雰囲気はあるけれどこれといって惹かれる所がなく深みにかけるという意味で。でも、こういう作品の需要は十分にあると思うのでこういう世界観をより研ぎすませていくというのも一つの方向性としてはありだと思います。
□若葉さんからの批評 (2003/10/12 21:55) フォント
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 人称や時間帯の描写、説明的すぎるという意見は他でも出てますが、私も同感です。

 それ以外だと、三点リーダの使い方がいまいち効果的ではないように思います。『あの男を……』以外は普通に句点でいいと思うんですけどね。
 それと、細かいことを言うようですが、『こんな夜は、こんな歌を枕に眠るとしよう。』という一文がせっかく印象的なのに、「こんな」が重なっているのが残念です。例えば『今宵はこんな歌を』とか、『こんな夜は、この歌を』の方が良いのではないでしょうか。

 厳しい批評をしたかもしれませんが、作品自体は雰囲気が出ていてとてもいいと思います。これからも頑張ってください。
□水夫さんからの批評 (2003/10/14 11:35) フォント
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総合
「あしびきの〜」をかなわぬ恋の歌に転用することもどうかと思います。また、モノローグが力不足。引用した歌と張り合えていません。

「縁側」「地平の果てまで」など、時代考証上にからむ不満もあります。
□名無しさんからの批評 (2003/10/14 20:12) フォント
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総合
雰囲気のあるお話で、取り込まれてしまいました。
難しい評価は置いといて、なんだか好きです。
□名無しさんからの批評 (2003/10/16 01:28) フォント
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総合
歌を枕にするという発想はおもしろかったです。
ただ歴史小説の性なのか、説明部分が多くなるせいで肝心の物語の部分が希薄になってしまった感じを受けます。
例えばこれを柿本人麻呂という広く知れ渡っている人間ではなく、オリジナルのような人物の方が先入観なく読ませることができるのではないでしょうか。
□名無しさんからの批評 (2003/10/16 15:08) フォント
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時間の移り変わりが判り辛かったです。「その夜は」のあとに「そして今夜」がきてさらに「そのとき姫君ははらりと涙を流した」に繋がるので、どこまでが過去でどこからが現在なのかが曖昧に感じました。あと説明的過ぎる部分もあります。
好みの話ではないので評価はすこし辛いかもしれません。
□名無しさんからの批評 (2003/10/19 00:23) フォント
発想
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総合
こんにちは。
「枕」の題名で、まさかこういうものが生まれるとは・・・。発想がスゴイ。もちろん満点。
構成は・・・、どこか引っかかります。例えば「彼の庭だ。」の部分。「あれ?三人称なの?一人称なの?」と思いました。この彼は柿本人麻呂ですかね?
表現は好きです。やはり時代が中世であるこの文章にふさわしい綺麗な言葉。最後の「歌を愛し、歌に死ぬ男。」がもう頭から離れません。
この来月も是非書いて欲しいです。
□名無しさんからの批評 (2003/10/22 01:00) フォント
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構成
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総合
雰囲気は好みですが、最後の行は余計だと思いました。
また、テーマが枕かと言うと違う気がします。
□匿名さんからの批評 (2003/10/23 13:14) フォント
発想
構成
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総合
前半部分の説明くさい文章や最後の結びは、これまでの評者の方に反して自分は好きです。具体的な描写があると、よりリアルなビジョンが広がりますし、最後のすこしそっけない結びも自分はいいなぁ、と思いました。「彼の庭(あのにわ?かのにわでしょうか?)」という表現も洒落てていいな、と思います。
テーマの扱い方も面白いですね。

気になったのは、3点リーダの使い方でしょうか。↑の方でも指摘されている方がいらっしゃいますが、「あの男を……」以外の3点リーダはテンポを悪くしているように感じました。

いかんせん、自分はあまり歴史小説が好きではありませんので、評価自体は辛くなってしまっていると思います。そこは、こういう読者もいるという解釈でお願いします。
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